相談内容
相談者:80代前半 女性
相談内容:のど〜鼻の奥に痰がたまっている感じがして息苦しいのでなんとかして欲しい
1年以上前から、鼻の奥からのどにかけて痰が絡まっている感じがして息苦しい状態が続いています。
耳鼻科では、内視鏡を入れても鼻には特に何もないと言われ、副鼻腔炎との診断を受けました。
しかし、病院の薬を服用しても一向に改善しないので、漢方薬を頼ってきました。
痰は出そうと思えば出てきて、無色透明でサラサラしています。
痰のせいで高音が出しにくくなり、カラオケもあまり歌えずに困っています。
鼻水はたまに出るくらいで、出る時は透明でサラサラしたものが出ます。
胃腸は弱い方で、昔から食は細いです。
どちらかといえば冷え症で、年中靴下を履いています。
処方選択①痰をなくす漢方薬を用いる
このような相談は近年増えており、おそらく上咽頭炎の類ではないかと思います。
上咽頭炎と一口にいっても、個々人によって状態が異なるため、症状や体質をつぶさに確認して適切な漢方薬を選択する必要があります。
上咽頭炎となると、どうしても炎症をとることを考えてしまいますが、この方の痰や鼻水はサラサラであり、炎症の度合いはかなり弱いと考えられます。
また、小柄な体格で胃腸も弱く冷え症であることから、温めることによって水分の代謝を改善するのが適切と考えて漢方薬をお渡ししました。
病態)寒飲阻肺
処方1)苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)
苓甘姜味辛夏仁湯を服用し始めてから、痰が少しずつ減ってくるのを実感していただきました。
1ヶ月ほど服用したところ、痰はなくなってきましたが、新たな問題が浮上してきました。
それは、「痰が上あごにへばりつく」ということを度々患者さんがおっしゃるようになりました。
声は前より出しやすくなったようですが、痰のへばりつきのせいで、今度は別の不快症状が起きてしまったのです。
処方選択②痰のへばりつきをとる漢方薬
さて、せっかく痰を減らすことができたのに、今度は別の問題が生じてしまいました。
なぜ、このような事態になってしまったのかを考えて、対処することにしました。
1.苓甘姜味辛夏仁湯を多用しすぎた
一つ目としては、苓甘姜味辛夏仁湯を使い続けていたことです。
苓甘姜味辛夏仁湯は乾かす生薬ばかりを配合したものなので、この漢方薬を服用したことで痰だけでなく、口内の水も乾かされてしまった可能性があります。
2.高齢による水分量の低下
二つ目には、年齢的な水分量の低下によるものです。
年齢を重ねることで、体の水分量は減少していきます。
そのため、10代、20代の頃と比べてもともとある体の水の量が減少し、そのためちょっとしたことで水分を消失しやすくなります。
3.真夏による脱水
三つ目は、ちょうど季節は真夏(8月)であり、脱水とまではいかないにしても体の水分が失われてしまう可能性が高い時期ともいえます。
4.上咽頭炎による炎症での水分枯渇
これは推測の域を出ないのですが、仮に上咽頭炎であったのであれば少なからず炎症はあったはずです。
炎症は水を乾かしてしまうため、そのせいで上咽頭の粘膜が損傷していた可能性があります。
漢方薬選定の再考
以上のことから、水分の脱出が強くなったことで口腔内や鼻〜咽頭にかけての乾燥が強くなり、痰が濃縮されてへばりついてしまったものと思われます。
そこで、口、鼻、のどなどを潤し、粘膜の修復をする漢方薬を用いることにしました。
病態)肺胃陰虚
処方2)麦門冬湯(バクモンドウトウ)
麦門冬湯を服用し始めてから、上あごの痰のへばりつきが薄らいでゆき、のどが通るようになりました。
麦門冬湯で潤しても、新たに痰が生じることはなく良好の状態が続いたので、3ヶ月ほど服用して服用を終えました。
まとめ
今回は2段階での漢方薬治療になりました。
面白いことに、使った漢方薬である「苓甘姜味辛夏仁湯」と「麦門冬湯」は正反対といってもよい処方といえます。
一方は痰を乾かす漢方薬で、もう一方は潤いを与える漢方薬です。
今回のように一度ですべての状態に対処できない場合もあり、その場合は漢方薬を切り替えるタイミングを適切に判断する必要があると学んだ症例でした。
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