頭痛の漢方薬治療

頭痛の現状

多くの日本人は慢性的な頭痛をかかえており、その数は約4,000万人にものぼるといわれています。しかし、約840万人いる片頭痛患者の70%は医療機関を受診したことがなく、約50%は市販薬のみを服用しているようです。これより、日々頭痛に苦しんでいても鎮痛剤などでなんとかやり過ごしている人が多いことがわかります。しかし、頻繁に鎮痛剤を服用しているとかえって頭痛が悪化することもあります。また、病院で脳検査をして異常がない場合は、そのまま見過ごされてしまうケースもあります。そのため、頭痛は日常にありふれているがゆえに軽視されがちな病気だともいえます。

参考:頭痛の診療ガイドライン2021

頭痛の分類

頭痛には、頭痛そのものが病気となっている一次性頭痛と他の病気によって頭痛が引き起こされる二次生頭痛とがあります。二次生頭痛は頭痛を引き起こしている頭痛を改善すれば消失するため、ここでは一次生頭痛について解説します。代表的な一次性頭痛には片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛があります。

片頭痛
20〜40歳代の女性に多く、片側または両側にズキンズキンと脈打つように痛みがくる頭痛です。偏頭痛が強いと吐き気や嘔吐、音や光などの感覚が過敏になったりします。緊張型頭痛と違い、身体を動かしたりお風呂などで身体を温めると悪化する傾向にあるため、寝込んでしまうこともあります。ホルモンバランスの変化や気圧や気候、光、食べ物(チーズ・ワイン・チョコレートなど)、ストレスの変化などで発症します。
片頭痛の前兆として、目がチカチカしたり見えにくくなったりする閃輝暗点(センキアンテン)やだるさ、倦怠感などが起こることもあれば、前兆がなく生じることもあります。

緊張型頭痛
もっとも多い頭痛のタイプで、5人に1人以上の割合で発症しています。一般的には両側に圧迫感や締め付け感があり、偏頭痛と比べると軽〜中等度で、数十分〜数日感持続する頭痛です。現在の社会システムでは起きやすく、肩こりや首のこりで血流が悪くなったことで起きます。また、精神的なストレスで身体が緊張してしまうことで生じます。片頭痛と違い日常的な活動によって悪化することはなく、むしろ身体を動かしたりお風呂に入ると軽減することもあり、嘔吐はともないません。

群発頭痛
20〜40歳代の男性に多く、その数は女性の3〜7倍とも言われています。目の奥から前頭部、側頭部にかけてじっとしていられない程の激しい痛みが数週間〜数ヶ月の間毎日のように起きます。夜間〜睡眠中に起きやすく、アルコールが発症の原因ともなったりします。しかし、群発期を過ぎると痛みが起こらず、普段通りの日常生活を送れます。1年に1〜2回ほどの頻度で発症します。
参考:じっとしていられないほどの激しい頭痛!「群発頭痛」への理解を深めよう

このように、一口に頭痛と言っても特徴や対処法が異なっています。西洋医学の治療では、鎮痛剤や片頭痛薬などの治療薬だけでなく、最近では頭痛発作を予防する薬も出てきました。また、頭痛の診療ガイドラインでも漢方薬が推奨されており、効果を発揮しているケースも出ています。
しかし、病院に通わずに市販薬だけで対処しようとすると過剰に鎮痛剤を服用してしまい、反って頭痛が悪化してしまう「薬物乱用頭痛」が生じてしまう恐れがあります。

薬物乱用頭痛
1ヶ月内に10〜15日以上、これを3ヶ月を超えて服用すると薬物乱用頭痛が起きやすくなります。薬を多く服用することで、ちょっとした痛みにも過剰反応してしまい、痛みが出やすくなります。その結果、鎮痛剤を飲む回数が増えてしまい、負のループにおちいってしまいます。また、市販の鎮痛剤には無水カフェインが含まれているものが多く、即効性はあるのですが長年連用していると依存性も出てくることもあります。

日常生活に支障が出るほどの痛みであれば、病院で治療を受けようと考えますが、市販の鎮痛剤でやり過ごせてしまうとどんどん服用量が増えて、薬物乱用頭痛になってしまうかもしれません。そうならないためにも、日頃から頭痛日記をつけて、頭痛の状態を把握しておくと良いでしょう。

頭痛の漢方薬治療

頭痛の考え方

漢方では、気血の流れが阻害されると痛みが発生するといわれています。それが冷えによるものだったり、身体の緊張、水分代謝の異常など、人それぞれ要因が異なってきます。そのため、鎮痛剤のようにどのような人にも効果的な漢方薬はなく、しっかりと病態を見極めて処方することで、はじめて効果を発揮します。
そこで、実際の漢方相談に多い、気象病型、ホルモンバランス変動型、緊張型、虚弱型の4つに分類してご紹介します。

1 気象病型

当薬局では、一番多い頭痛のタイプになります。天気が悪くなる直前から頭痛がし始めます。天気が悪くなると湿度が上がり、気圧が下がります。この湿度と気圧の変化によって、身体の水分代謝が悪くなり(漢方では「水毒」と呼びます)、その結果気血の流れに影響を及ぼします。この水毒を改善することが気象病型には大切になります。

気象病型はこちらのページに詳しくまとめておりますので、合わせてご覧ください。

2 ホルモンバランス変動型

女性では生理周期によって、頭痛が生じることがあります。特に排卵前後や生理前後に起きやすくなります。これは、ホルモンバランスが変わることによって、気血の流れが変わってしまい発症します。この場合はもちろん頭痛の改善を目指しますが、合わせてホルモンバランスを整えることが本来の治療になります。そのため、頭痛以外のPMS症状や生理周期の乱れ、生理痛なども同時に改善されます。

3 緊張型

主に緊張型頭痛で起こりやすいタイプです。仕事や学業など、日常的にストレスがかかることで、身体が緊張して締め付けられるような痛みが生じます。大きなストレスを感じていなくても、パソコンや勉強など同じ姿勢を長時間続けることでも起きます。肩こりや首こりとも連動していることが多く、休むより身体を動かす方が改善されやすいです。漢方薬でも緊張を緩和して、阻害されていた気血を促すことで痛みの軽減を図ります。同時に自律神経も整えることができるので、ストレスによる精神的な緊張やイライラ、落ち込みなども改善へと導くことができます。

4 虚弱型

もともと身体が弱かったり、過労によりいちじるしく体力が低下した方の頭痛になります。このタイプの頭痛は、緊張型頭痛や片頭痛のように強い痛みではなく、弱くて鈍い痛みがジワジワと続きます。疲れやすく常にエネルギー不足のため、気血を流す力が弱く頭部に十分な栄養が届かずに起きます。このタイプには、胃腸に力をつけて、十分な栄養を取り込めるような処方を用いることで、頭痛のみならず体力改善や疲労の回復を促すことができます。

あなたはどのタイプ?

以上、頭痛のタイプ分類をご紹介しました。このように、頭痛の治療は単に痛みを止めるだけでなく、個々人の体質に合わせて分類するため体質的に起きやすい他の症状も同時に改善することができます。ここにあげた4つのタイプ以外で生じる頭痛もあるため、頭痛でお悩みの方は一度専門の医療機関にご相談ください。

よく用いる漢方薬

呉茱萸湯(ゴシュユトウ)

この処方はもともと頭痛や吐き気に用いる処方であったことから、おそらく病院で用いる片頭痛の漢方薬の中ではもっとも多い処方です。この処方を用いる際には以下のような特徴的な症状があるので、使いやすいのでしょう。ただし、呉茱萸は独特の苦味があり、合ってない方では飲みづらく感じるでしょう。
・発作性にくる激しい頭痛(片頭痛)
・発作のはげしい時は、嘔吐がくる
・発作は疲れた時、食べたとき、婦人では月経の前によく起こる
・発作時は項部の筋肉が収縮
・肩〜首にかけてひどく凝る
・頭痛の発作時は頭痛と同じ側の肩がこる
・発作時は自覚的に胃がつまった感じがする
・嘔吐は強い発作の時に起こるが、いつもくるわけではない
・発作時は足がひどく冷える
・顔面がのぼせたたり、頭部に熱感が出ることも
・頭痛は左右のこめかみを中心にして痛む
参考:症候による漢方治療の実際(大塚敬節)

半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)

雨天時の頭痛やめまいに用いられます。胃腸虚弱により、取り込んだ水分を適切に処理できず、身体に水をためこんでしまった状態が適応となります。天候不良になると、湿度が上がるためため余計に身体に水が蓄積してしまいます。その結果、気血の流れが阻害されて、頭痛やめまいが生じます。胃腸が弱いため、普段から食が細かったりお腹を壊しやすかったりします。

五苓散(ゴレイサン)

気象病の頭痛によく用いられます。雨の日に頭が痛くなりやすく、めまいや吐き気が生じる時にも効果的です。五苓散に含まれる猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、朮(ジュツ)が水毒と呼ばれる水分代謝障害を改善して、桂皮(シナモン)が気血をめぐらせることで、気象病の頭痛やめまいを改善へと導きます。

苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)

五苓散と同様に気象病の頭痛に用いられます。もともとは、立ちくらみやふらつきなどのめまいに用いられていましたが、頭部への症状に効果的であることから、頭痛にも応用されています。五苓散と処方の中身が似ていますが、苓桂朮甘湯には甘草が含まれています。そのため、苓桂朮甘湯には桂枝甘草湯の方位が加わるため、五苓散との使い分けが重要になります。

桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)

胃腸の冷えに用いる人参湯と、頭部の症状を引き下げる桂枝甘草湯を合わせた処方になります。もともと胃腸虚弱や胃腸の冷えがある方が、気象病や疲れなどから生じる頭痛に効果的です。そのため、頭痛だけでなく胃腸の弱りも改善させるため、五苓散のような対症療法的ではなく、どちらかというと体質改善としての効果も期待できます。

釣藤散(チョウトウサン)

中高年の高血圧を伴う頭痛によく用いられ、早朝に頭痛が生じやすい方に効果的です。陰陽のバランスがくずれて身体の弱りが生じた結果、頭に熱がこもり脳血流に障害が起きて頭痛やめまいが生じます。頭部の熱感や目の赤みなども併発することもあります。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

水毒と血流障害を併発している時に用います。月経中や月経前後は血が不足しがちです。そのため、もともと血が少ない人だどさらに血が不足してしまい、頭部の血流が悪くなってしまいます。さらに水毒があるため、血流障害を助長します。その結果、貧血症状や頭痛などが生じてしまいます。この処方は余分な水を流して水毒を改善し、不足した血を補うことで血流障害を改善します。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)

手足末端の冷え症に用いる処方ですが、頭痛にも応用されます。血を増やすして血流を促す作用があるため、月経前後での頭痛に用いられます。血が不足すると、熱も運ばれなくなり、容易に冷えやすくなってしまいます。そのため、血流障害が起きて頭痛が起きてしまいます。月経前後以外でも、冷房の効いた部屋で身体が冷えて頭痛がするときにも効果的です。

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)

瘀血(オケツ)と呼ばれる、一種の血流障害に用いる処方です。主に子宮に血流障害が起きており、生理不順がこの処方を用いるポイントになります。同時に首のこりや肩こり、あざなどの瘀血症状が見られます。冷えのぼせにも用いられ、頭部に熱感をともなった頭痛が生じます。

桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

桂枝茯苓丸と同様に瘀血(オケツ)に用いる処方です。桂枝茯苓丸より作用が激しく、頭部の熱感と頭痛、肩こりなどが生じます。同時に胃腸のつまりが認められ、便秘傾向です。胃腸が弱い虚弱体質の方に用いると、反って体調を崩してしまう恐れがあるので、注意が必要です。

抑肝散(ヨクカンサン)

もともとは小児の精神疾患のための処方でしたが、現在は年齢問わず精神疾患や認知症などにも応用されています。処方の名の通り、「肝を抑える」という意味を持つ処方です。漢方でいう肝(カン)とは、自律神経やホルモンバランスのことを指しており、たかぶった肝、つまり交感神経が異常に興奮した状態を抑制することで、気持ちの安定をはかる意味を込めて作られています。そのため、緊張感をともない怒気と同時に起こる頭痛に応用することができます。

加味逍遥散(カミショウヨウサン)

抑肝散と同様に肝に働く処方です。ホルモンバランスや自律神経を整える作用があるため、生理不順や精神症状をともなっている頭痛に用いられます。熱を鎮める作用もあるため、更年期障害のホットフラッシュやのぼせなども同時に改善が見込まれます。

小建中湯(ショウケンチュウトウ)

主に虚弱体質の方や小児の頭痛に用います。もともとのエネルギー不足で、十分な気血を送り届けることができないため、少し疲れただけで頭痛が生じます。一般的に片頭痛のような激しい頭痛ではなく、どんよりと重だるい弱い痛みが続きます。この処方で、身体の不足分を補うことで、全身のバランスを整えます。

川芎茶調散(センキュウチャチョウサン)

風邪や鼻炎、副鼻腔炎などの症状にともなって生じる頭痛に用います。川芎(センキュウ)や細辛(サイシン)、白芷(ビャクシ)などの血流を促したり冷えを改善する作用のある生薬を含んでいるため、痛みに効果的に働きます。

清上蠲痛湯(セイジョウケンツウトウ)

突発的に生じる頭痛に鎮痛剤と同様の目的で使用することができます。痛みを根本的に改善するというよりは、痛みを取り除くことを主としています。14種類もの生薬が含まれており、幅広い頭痛に効果的に作用するため、頭痛の病態がはっきりしない時にも用いることができます。ただし身体を補う作用は少ないので、虚によって生じる頭痛には他の処方を足すか、処方を変える必要があります。

おわりに

慢性的な頭痛は、生活の質を大きく下げてしまいます。頭痛の改善には、生活習慣の改善も必要です。しかし、頭痛の原因は多岐にわたるため、ご自身がどのような時に頭痛が出るかを知る必要があります。そのためにまず、頭痛日記をつけて自分を知ることが大切です。頭痛の原因がわかると、場合によっては原因を避けたり事前に予定を調整することもできます。また、漢方薬局や病院に行く際にも参考になります。
漢方薬は頭痛の原因を分類して、個々人の体質に合わせて処方を決めます。今まで鎮痛剤でやり過ごしていた人や痛みに耐えていた人は是非一度ご相談ください。

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