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過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は原因不明の大腸の病気

過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)とは、腸に炎症や障害がないのに便秘や下痢、腹痛などを起こす病気のことをいいます。およそ10%の人がこの病気を発症しているといわれ、男性より女性の方が多い傾向にあります。なぜ発症するのかは原因不明で、ストレスや不安になった時など精神的なことが引き金となって生じるため、心身症の一つといわれています。
*過敏性腸症候群は英語表記でirritable bowel syndromeの頭文字をとって、「IBS」と記されていることもあります。

参考:日本消化器学会ガイドライン 過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群は4タイプに分類される

IBSは便通の状態から、「下痢型」・「便秘型」・「混合型」・「分類不能型」に分けられます。

<下痢型>
電車や授業中、会議中などの密室空間で途中で抜け出すことができない状況になると、突如として腹痛や下痢におそわれるのが下痢型です。自分でもいつ便意が来るのかわからず、出かけるのが怖くなり引きこもりがちになる方もいます。この不安がさらに腸の動きを乱して、症状が出やすくなります。便の状態は軟便〜水様便で、がまんが難しいこともあります。患者様の中には、通勤中に通る駅構内のトイレの位置をすべて把握している方もいます。
<便秘型>
便を出そうとしても出ず、出たとしても兎糞状(コロコロとしてうさぎのような小さな塊の便)の便しか出ません。慢性的な便秘で、ストレスがかかると便秘が悪化します。
<混合型>
便秘と下痢を繰り返します。下痢型と便秘型の便が同じような頻度で起こります。下痢が続いたと思ったら便秘になって、変動するのが特徴です。
<分類不能型>
軟便や硬めの便を出すことがありますが、おおむね正常に近い形の便が出ます。お腹の張りや腸がゴロゴロなったり、臭いオナラが頻繁に出てしまう「ガス型」という症状もあります。

一般には男性は「下痢型」、女性は「便秘型」になりやすいです。IBSが他の腸の病気と違い、検査をしても異常が見当たりません。また、ストレスや不安などによって、症状が悪化するのが特徴です。

過敏性腸症候群はなぜ起きるのか?

食べたものは胃で消化されて、腸に入りさらに消化されて吸収されます。また、腸は蠕動運動(ぜんどううんどう)により、収縮したり緩んだりする動作を繰り返すことで、不要となった食べ物のカス(便の元)を肛門の方に運びます。
この腸の動きをコントロールしているのが脳です。脳と腸は密接に関連していて、脳からの指令が腸に伝わります。そのため、脳でストレスを感じるとすぐに腸に伝わります。その結果、ストレスにより腸の蠕動運動のリズムが乱れてしまいます。蠕動運動が早くなれば、水分を吸収する間もなく下痢になります。反対に腸の動きが鈍くなれば、いつまでたっても便が運ばれずに腸内に残り便秘となります。
過敏性腸症候群の方はそうでない人と比べて、このストレス反応が一段と過敏であり、ちょっとしたストレスでも腸の蠕動運動が影響を受けてしまいます。

漢方で考える過敏性腸症候群の原因とは?

粉薬を服用

今まで説明してきたことを踏まえると、IBSは腸の働きとストレスの影響が大きく関わっていることがわかります。漢方では胃腸の働きは「胃気(イキ)」ストレスについては「疏泄(ソセツ)」が関わっているので、この両面から治療法を考えていかないといけません。

胃気は胃腸の強さ

漢方では、胃腸も含めて胃と考えるため、胃気とは胃の消化能力だけでなく腸の消化吸収能力も含みます。そのため、胃気が強ければ、胃腸の消化吸収能力が高く、胃気が弱ければ胃腸の消化吸収能力が低いと同義です。胃気は個々人によって違いますが、当然ながら胃気が強い人の方が腸の病気になりにくいです。
IBSはストレスなどの刺激によって起こりますが、胃気が強ければ、ストレス変動に耐えうることができますが、胃気が弱いと簡単にストレスの影響を受けてしまいます。
そのため、一つには漢方では問診や脈・舌の状態から胃気の強さを検討する必要があります。

疏泄(ソセツ)は自律神経

疏泄(ソセツ)は、漢方独特の考えになります。漢方では、ホルモンとか自律神経という言葉は出てきません。代わりに疏泄という概念がホルモンや自律神経を表しています。

疏泄(ソセツ)とは
「のびのびと広がる」という意味で、疏泄が順調に働くことで血流を改善したり、自律神経やホルモンバランスを整えてくれます。
・月経に関連
・精神状態を安定にする
・胃腸の動き(リズム)を整える
など、人の生理活動をコントロールしてくれる大切な働き

疏泄はのびのびしている状態を好むので、ストレスやホルモンバランスの影響を受けやすいです。ストレスによって疏泄が乱れることをストレスによって疏泄が乱れることを「疏泄失調(ソセツシッチョウ)」と呼びます。IBSになりやすい人は、疏泄失調により胃腸の動きが乱れている状態です。普段から神経質な人やストレスがかかりやすい環境にいる人は、この疏泄失調が原因となっている可能性があります。

漢方薬治療では胃気と疏泄を整える

以上より、胃気と疏泄の両面を整えていくことが、IBSの治療にとって大切であるとおわかりいただけたかと思います。実際の臨床では、どちらか一方にだけ問題があるのか、それとも両方にアプローチする必要があるのかを見極めることが大切です。西洋薬のコロネルやイリボーなどでIBSが緩和されない方は、漢方薬治療も検討に入れてもらえると、改善の可能性が広がります。

過敏性腸症候群に用いる漢方薬

代表的な漢方処方

四逆散(シギャクサン)

主に便秘型に用います。疏泄を整えることで、蠕動運動を促して便を排泄へと導きます。この処方に含まれる枳実(キジツ)が、腸の動きを活発にして食べたものを下に導く作用があるので、下痢型に用いる時には作用が緩和な枳殻(キコク)を用いるなどして、調整するのが望ましいです。

柴胡疎肝散(サイコソカサン)

この処方は四逆散の加味方(生薬を追加した処方)で、使い方は四逆散と同じです。香附子(コウブシ)や青皮(セイヒ)などの疏泄を整えて腸の動きを活発にする作用の生薬が配合されているので、お腹の張りやオナラなどの症状(ガス型)が強く出ている場合に用います。

痛瀉要方(ツウシャヨウホウ)

処方の名の通り、痛み(腹痛)と瀉(下痢)に用いる処方です。疏泄失調により、腸が異常収縮して強い腹痛が生じたり、蠕動運動が早くなり水分が吸収できずに下痢になっている時に効果的です。腸の緊張を緩めて蠕動運動を整えると同時に、腸内の水分の吸収を促すため、腹痛と下痢の両方を緩和します。腹痛が強い場合は、芍薬甘草湯を併用することで、効果を高めることができます。

桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)・桂枝加大黄湯(ケイシカダイオウトウ)

『傷寒論・太陰病』に「腹満し、時に痛む者」に対して、桂枝加芍薬湯を用いると記載されています。これよりお腹の張りや痛みがあり、太陰病(タイインビョウ)と呼ばれる一種の身体の弱りを改善する処方です。桂枝加大黄湯は桂枝加芍薬湯に大黄(ダイオウ)を加えたもので、便秘がちな時に用います。

大建中湯(ダイケンチュウトウ)

お腹の冷えに過敏に反応して、腹痛が起きている方に用います。お腹の張りや腹痛に効果があることでよく用いられる処方ですが、山椒(サンショウ)や乾姜(カンキョウ)といったお腹を強力に温める生薬を含んでいるため、冷えの有無を確認してから用いる必要があります。

人参湯(ニンジントウ)

お腹の冷えに用います。腹痛の程度はさほど強くないですが、胃腸が冷えて消化吸収能力が落ちて軟便傾向のタイプに効果的です。

真武湯(シンブトウ)

新陳代謝が落ちてしまい、全身の虚脱感をともなうIBSに用います。便は水様便で早朝に生じやすい傾向にあります。また、この処方が適応となる方には排便後に脱力感が出やすく、新陳代謝が落ちているため冷えも生じます。

半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

食べると腸がゴロゴロなって、下痢しやすいタイプに用います。不摂生な食事をしており、お酒や油物を好んで食べるため、腸への刺激が強く出てしまいます。漢方薬を服用すると同時に食事の改善も必要です。

過敏性腸症候群の養生法

新鮮な野菜と果物

IBSの漢方治療では、漢方薬を用いるだけでなく養生も大切になってきます。特にIBSの場合は、漢方薬だけで治療するだけでは改善が難しく、同時に生活習慣も変えていくことが必要です。つまり、漢方薬治療と同様に胃気を損なわないようにすること、疏泄を乱さない生活習慣を心がけることです。ここからは具体的に、食事面とストレス面の改善方法についてお伝えします。

食事の改善

IBSの方は、腸が過敏に反応しやすいので食事の影響を受けやすいです。これからご紹介していきますが、一気に変えようとするとストレスになってしまうので、できることから少しずつ取り組んでいってください。

積極的にとって欲しい食べ物
発酵食品(ヨーグルト、納豆など)、食物繊維(特に便秘型)

発酵食品はプロバイオティクスといって、腸内細菌の栄養になります。腸内環境が整うことで、消化吸収や腸の動きが整ってきます。しかし、残念ながらどの発酵食品を取れば、腸内環境が整ってくるかは個人差が大きいです。特にヨーグルトのような乳製品は、合わない人には反って腸内環境を乱してしまうこともあります。そのため、1ヶ月ほど続けても改善が見られない場合や悪化する場合は別の発酵食品や食物繊維に変えてみてください。調子が良ければ、そのまま続けていくと徐々に改善される可能性があります。

控えて欲しい食べ物
アルコール、冷たい飲食、刺激の強い食べ物(香辛料が強い、辛い)、コーヒー、油物

控えて欲しいの食べ物は、基本的には刺激が強いものと消化に時間がかかるものになります。そのため、刺激物はなるべく控えることをお勧めします。

以上、ざっくりとですが、積極的にとってほしい食べ物と控えて欲しい食べ物についてご紹介しました。ですが、れ以上に大切なことがあります。

それは、「食べ方」です。

同じ食事をしても、スマホを見ながら5分で早食いして食べるのと、ゆっくり時間をかけて味わった食事とでは胃腸にかかる負担や消化吸収に大きな差が出てきます。早食いしてしまうと、疏泄(自律神経)が乱れてしまい胃腸機能は低下してしまいます。その結果、消化不良を起こして下痢やガスが発生しやすくなります。
ですので、ゆっくりと一口一口味わって食べることを意識してください。できれば、食事中はスマホを触ったり、テレビを見たりとながらでの食事をやめて、食事に集中してマインドフルに食べてください。そうすれば、胃腸への刺激が緩和されるだけでなく満腹感も出るため、食べ過ぎを防ぐことができます。

食事を変えることがなかなか難しい方は、まずは食べ方だけでも意識を向けてください。

ストレス対策をする

IBSの方は、正ストレスの影響を受けやすい傾向があるため、いかにストレスを受けないようにするか、またはたまりすぎないように上手くコントロールすることが大切です。ここでは、ストレス対策に効果的な方法をいくつかご紹介します。

運動をする
運動をするとストレスが軽減され血流も改善されるため、疏泄が整います
十分な睡眠
睡眠不足は疏泄を乱す大きな要因になります。
ストレス対策リストを作っておく
自分にとって、何をしたら気持ちが落ち着くのかを知っておくことが大切です。数が多ければ多いほど、安心感が増します。リストを作っていつでも眺められるようにしておき、ストレスを感じたらリストを取り出して、できるものを取り組んでみましょう。

何に対してストレスを感じるかは人によって違いますし、適切なストレス解消法も異なってきます。そのため、自分にとって何が心地よいことなのかを知っておくことが必要です。一度、ご自身と向き合って好きなものを探す時間をとってみてください。実際にその行動を取らなくても、リストをもっていること自体が安心感につながります。そのうえで無理をせず、睡眠時間の確保と運動を取り入れていきましょう。
ストレスがたまっている時は、別に楽しいと感じているわけではないものに無駄に時間を使ってしまっている場合が多いです。例えば、特段見たいと思っているわけではないSNSやテレビ、動画をダラダラとみてしまい、時間を使ってしまいます。その罪悪感がストレスとなったり、夜更かしをして睡眠時間を削ってしまった経験は誰しもあるかと思います。

そうならないように、ストレス対策のリストを作ると同時にスケジュール管理も大切になります。しかし、スケジュールを立てる際にどうしても仕事や学校などの予定を優先してしまいがちです。そうならないためにも、一番最初に睡眠時間のスケジュールを確保しましょう。その後、大事なものから優先して、他の予定を埋めていくつもりでスケジュールを組んでください。そうすれば、睡眠時間を犠牲にすることなく予定を立てることができます。ぜひ実践してみてください。

おわりに

ストレス社会のせいなのか、それとも腸内環境が悪くなってきてしまったことが原因なのか定かではありませんが、現在IBSは増えている病気の一つです。一度なってしまうと生活に支障が出てきてしまい、それが不安となってさらに悪化してしまうサイクルに入ってしまいます。ですが、ここで述べたような対策法を知っているだけでも安心感につながります。

漢方薬は西洋薬とは違った考えのもと、IBSを改善へと導きます。当薬局では、病院で治療をしても改善されない患者様が多くいらっしゃいます。漢方薬の治療は、お一人お一人に合わせて処方を組み立てていきます。特に精神的な問題が症状に関連しているIBSとも、漢方薬は相性が良いと感じています。IBSでお困りの方は是非一度、三鷹の漢方薬局 Basic Spaceにご相談ください。

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