気象病の漢方薬治療

気象病とは

雨や台風など、気候が変動すると体調が悪くなるものを気象病といいます。天候が変わると気圧や湿度が変わり、耳の中にある内耳のセンサーが過敏になります。その結果、自律神経が乱れて症状が出るとされています。

気象病が認知されていない頃は、気合が足りないとか、気が緩んでいるとかの精神論で片付けられてきましたが、現在では、気象病外来や天気痛外来もできるほど、認知されるようになってきました。

ロート製薬株式会社と株式会社ウェザーニューズが調べた「天気痛調査2020」では、約6割の方に天気痛の自覚、女性は役8割が天気痛もちという結果が得られました。天気痛の半数以上が我慢できないほどの痛みで、5人に1人は学校や仕事なども行えないほどつらいものとなっています。
*天気痛とは気圧や天気の変化で生じる、頭痛や関節痛、肩こりや腰痛などの痛みのこと

近年は大型台風やゲリラ豪雨など、異常気象が頻発しているので、今後も気象病に苦しむ割合は増えていくのではないかと思われます。

気象病の症状

気象病の症状は人によってさまざまですが、気圧の変動の時にだけ症状が出るものともともとあった病気が気象病によって悪化するケースとがあります。

気象病の主な症状
□頭痛
□めまい
□立ちくらみ
□むくみ
□喘息
□肩こり
□腰痛
□倦怠感(だるさ)
□関節痛
□耳鳴り、耳のつまる感じ
□吐き気
□ゆううつ感・不安感
など・・・

多岐にわたっています。女性の場合は、ホルモンバランスの影響で同じような症状が出ることもあるので、両方が重なると症状が強く出てしまうこともあります。このような症状に対して、西洋医学では乗り物酔いやめまい薬、吐き気止めのような対症療法のお薬しかなく、病院でも五苓散(ゴレイサン)などの漢方薬が処方されることもあります。

気象病の漢方治療

漢方で考える気象病とは?

漢方と気象病は相性が良い

西洋医学では個を重視し、ヒト単位さらに内臓のどの部分がどうなっているのかと細かく分解して病気を特定していきます。それに対して漢方では、人間は自然界の一部であるという意味の「天人合一(テンジンゴウイツ)」という具合に、物事を考えていきます。つまり、人間は自然界という大きなシステムの一部に過ぎず、全ては同じ法則に従って動いているということです。
そのため、自然界で起こったことが原因で人体に害を及ぼす気象病のような病気は、漢方と相性が良いといえます。

気象病の原因は?

漢方では天人合一で考えるため、気象病では何が起こっているのかが分かれば、それがそのまま人体にも適応できます。気象病の多くの方は天気が悪くなった時、もしくは天気が悪くなる時に調子をくずします。天気が悪くなると、気圧が下がり(低気圧)、湿度が上がります。ここがポイントです。これが人体にも影響を与えます。気圧の変動、湿度の上昇をそれぞれ分けてみていきましょう。

気圧の低下は気血のめぐりを悪くする

気圧の低下といわれても、具体的にピンとこないかもしれません。そこで、山に登った時のことをイメージしてください。お菓子を持って山頂付近まで行くと、パンパンに膨張していませんか。気圧が低いと外からの圧力が減るため、お菓子の袋の中の圧力が勝って外に張り出してきます。これが、気圧が下がると人体にも起こります。
天気が悪くなると、外からの圧がなくなり人体を流れる気血も張りを失って流れが悪くなります。ちょうど、ホースに力を入れて勢いよく水を押し出していたのをやめた感じだと思ってください。その結果、必要なエネルギーや栄養が全身に運ばれなくなります。

これが一つ目の原因になります。

湿度の上昇で身体に水がたまる

湿気が高くなれば、空気中に含まれる水分も多くなります。そのため、呼吸をするたびに湿気を帯びた空気をたくさん吸入することになります。特に梅雨の時期は、湿気だではなく、気温も高くなるのでより多くの水分をとってしまうことになります。そうすると、多くの水分が身体にたまってしまいます。さらに湿はネバっとしてベタベタしているので、容易に身体から取り除けません。

これより、湿の重だるさと粘着性の特質により気象病が発生すると考えられます。

気象病の治療法

以上のことから治療としては、気血の流れを促すこと、余分な湿をどかすことが大切になってきます。それに加えて、起こっている症状が頭痛なのか、めまいなのか、関節痛なのか、、、そして、個々人の体質はどうなのかを総合することで処方が決まってきます。

気血を促すものに、桂皮(ケイヒ)、香附子(コウブシ)、川芎(センキュウ)などの生薬があります。
湿を除くものに、朮(ジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、防已(ボウイ)、黄耆(オウギ)などがあります。

代表的な漢方薬

気象病はさまざまな症状を表すため、処方は多岐にわたります。ここでは、主に頭痛・めまい・関節痛・だるさ(倦怠感)の処方についてご紹介しております。頭痛の特化した漢方薬治療については、こちらをご参考ください。

半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)

胃腸機能を高めて、湿を取り除きます。頭痛だけでなく、気血の流れをかき乱して生じる回転性のめまいにも効果的だとされています。もともと胃腸が弱く、天候によってさらに悪くなってしまう人の第一選択となります。身体の水分を除くと同時に、耳周りの興奮を鎮めて、耳周りの血流を促します。

六君子湯(リックンシトウ)

胃腸の消化機能が弱い方に用います。天候が悪くなると、食欲がなくなったり疲れやすくなる方に効果的です。胃腸機能を向上して、気血を作り出して、湿を除く力をサポートしてくれます。

五苓散(ゴレイサン)

気象病の頭痛の第一選択に用いられています。病院や市販薬でも、この処方が押し出されているため耳にしたことがある方は多いかもしれません。猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、朮(ジュツ)で湿を除いて、桂皮(ケイヒ)で気血を促します。しかし、全タイプに効果的であるわけではないので、適応かどうかを見極めた上で処方をする必要があります。

苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)

気象病の頭痛や立ちくらみ、フワフワとしためまいに用います。茯苓(ブクリョウ)、朮(ジュツ)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)が含まれており、五苓散と中身は似ています。しかし、この微妙な中身の違いが使い方に差を生み出します。

真武湯(シンブトウ)

新陳代謝の低下と冷えをともなう気象病に用います。身体が弱っているため、気力がとぼしく天気が悪いとだるくて寝込みがちになったりします。この処方は代謝を促し、気血のめぐりを改善することで湿を除きます。

沢瀉湯(タクシャトウ)

沢瀉(タクシャ)と朮(ジュツ)の2味からなるシンプルな処方。漢方薬は薬味が少ない方が鋭く効果を発揮します。湿を除くことに特化しており、その結果として気血をめぐらす働きがあります。用い方に工夫が必要で、エキス剤(粉薬)では効果が出ずに、煎じ薬で効果を発揮することもあります。

茯苓沢瀉湯(ブクリョウタクシャトウ)

もともとは嘔吐に用いる処方でしたが、苓桂朮甘湯や茯苓甘草湯、沢瀉湯を含んだ処方であり、気象病の頭痛やめまい、嘔吐にも応用が可能です。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

もともとは婦人薬として、生理や妊娠などの血に関わる諸々の症状に用いられていますが、湿を除く作用もあることから、気象病にも応用ができる。生理不順やむくみ、重だるさ、めまい、頭痛など幅広い症状に効果を発揮します。

防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)

汗かきの水太りタイプと表現されるように、体表に水分をためこんだために不調をきたしている方に用います。気象病では、重だるさや関節痛、むくみなどに応用できます。

黄耆桂枝五物湯(オウギケイシゴモツトウ)

血痺(ケッピ)と呼ばれる、身体に虚損があり天候の悪化で生じる痺れや知覚麻痺に用います。

桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)

気象病による身体の痛みや痺れに用います。過労や病気により筋肉が落ちて衰えてきてしまうと、血流が悪くなってしまいます。この処方は桂枝湯に附子と朮を加えたもので、血流を促して、肌肉に力をつけることで痛みや痺れの改善を行います。

疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)

名前の通り、経絡を通して血流を改善する作用があるため、関節痛や痺れに用います。また、外からの湿を追い払い、体内の水も抜く作用があるため、気象病にも応用されています。とりわけ、下半身の痛みや痺れに効果的です。

香芎湯(コウキュウトウ)

香附子(コウブシ)、川芎(センキュウ)、桂皮(ケイヒ)の気血を整える生薬を含んでいるため、気圧による頭痛に効果的です。しかし、湿に対する処方を含んでいないため、朮(ジュツ)や茯苓(ブクリョウ)などを適宜追加するか、湿の影響が少ない頭痛に用います。

養生で気血水を整える

気象病の治療は漢方薬だけでなく、生活面での養生も非常に大切になってきます。気血の流れを一定に保つこと、水のバランスを整えて湿を追い出していくことを目指します。ここでは、漢方の視点で気血を整えて身体の負担を軽減する生活習慣をご紹介します。

①日記をつける

人の記憶というのは非常にあいまいです。振り返ってみると、なんとなく天気が悪いと調子が悪いなと思っていても、実は月経前でホルモンバランスが影響していたことが原因なこともあります。同じ頭痛の症状があっても、気象病の頭痛とホルモンバランスによる頭痛とでは治療が異なることもあります。
実際に医療機関で治療をしてもらう際にも、記録があると大変参考になります。ノートやメモ帳だと手元にないと記入ができませんが、現在はアプリで簡単に記録をつけることができます。(おすすめアプリ:頭痛ーる
また、記録をつけていると自分でもいつ調子が悪くなるのかを予測しやすくなります。そのため、予定の調整が事前にできるため人間関係や仕事のトラブルを未然に回避することもできます。

②睡眠のリズムを整える

頭痛持ちの方は、生活リズムが少し変わるだけでも頭痛が起きやすくなります。ちょっとした変化に敏感で、すぐに自律神経が乱れてしまいます。仕事や学校がある日と休日とで起床時間や就寝時間が変わってしまうと、体内時計が乱れてしまいます。その結果、気血のめぐりも悪くなってしまい頭痛が生じます。とりわけ起床時間は固定して、体調に合わせて早めに就寝するように心掛けてください。

③運動習慣を身につける

気血はスムーズに流れることを良しとします。この流れを阻害するのは、ストレスと運動不足です。ストレスがかかると視野が狭くなり、一つの物事に意識が集中してしまうように、気も特定の部位に集まって停滞してしまいます。同じように運動不足だと、気血がめぐらずに滞ってしまいます。

運動習慣を身につけると、いつでも気血をスムーズに流すことができるようになります。また、筋力がついてくると、血流を促す力も上がるため、気象病の予防にもなり得ます。同時にストレスの解消にもなるので、どんな運動でも構いませんので、ぜひ取り組んでください。

ただし、頭痛やめまいなどの気象病の症状が出ているときは、悪化する恐れがあるので運動は控えて、ゆっくり休んでください。

④食事を気を付ける

人の体は60%が水分でできており、その水分は飲食によってまかなわれています。その水分も、きちんと生命活動をするために使われていれば問題ないのですが、湿のような身体にとって悪影響となる水になってしまうと、気象病を誘発することになります。そのため、湿を増やしてしま食べ物は多くとらないように気を付けてください。

・水分の取り過ぎ
・油物
・甘いもの
・冷たいもの(アイスクリーム、サラダ、刺身など)
・アルコール
(カフェイン???)

水分はたくさん摂った方が良いという説もありますが、漢方の視点では許容量を超えた水分は胃腸で処理することができず、湿になってしまうと考えます。そのため一律的に1日の量を設定することはできず、個々人の最適量を検討する必要があります。冷たいものや甘いものも胃腸に負担がかかるため、あまり多くは取らない方が良いでしょう。
カフェインについては、頭痛時には血管を収縮させる働きにより痛みを緩和させてくれます。そのため、使い用によっては効果を得られますが、毎日たくさん摂ってしまうと、効果が得られにくくなったり、反対にカフェインの効果が切れた時に反動で症状が悪化することもあります。また、市販の鎮痛剤にも含まれて多いので、コーヒーや紅茶などと一緒にとってしまうと、過量服用になってしまうので、扱いには注意が必要です。

おわりに

気象病はまだ歴史が浅いため、西洋医学では対処法が限られています。しかし、漢方では古代から自然と人間の関わりを結びつけて考えてきたため、さまざまな治療法が編み出されてきました。近年では、異常気象も多発しているため、ますます気象病に苦しむ人が増えてくると予想されます。そのため、早めに日常生活の改善をしつつ、治療を始めることで、症状がひどくなるのを抑えることができます。

当薬局でも気象病の相談を承っております。気象病の頭痛やめまい、だるさなどで日常生活に支障をきたしている方や病院での治療で改善が見られなかった方は是非一度ご相談ください。

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また、遠方のため来局できない方や体調が悪くて来られない方、忙しくて出かけられない方でも安心してご利用いただけるように、ご自宅でのオンラインカウンセリングも行なっております。どうぞお気軽にご利用ください。

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