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漢方薬解説

【漢方薬解説】安中散(アンチュウサン)

安中散(アンチュウサン)という漢方薬は馴染みのない方も多いかと思いますが、実は有名な「漢方胃腸薬」に含まれいたりします。

ですので、安中散は胃腸薬として用いられていることがわかってしまうわけですが、「安中散」という名称からも胃腸薬を表していることがわかります。

漢方薬の名称は漢字ばかりでわかりづらいと思われがちですが、そんなことはなくむしろ漢方薬の特徴を的確に表現しています。

まずは、安中散の命名の意味について考えてみましょう。

漢方薬の名称は適当につけらているわけではなく、一定の規則があります。

詳しくは以下のコラムをご参照ください。

コラム「漢方薬の読み方と名前の意味」

安中散の命名

安中散の名称について、詳しくは以下の書籍が参考になります。

とは家の中(宀)に女性がいる状態を表しており、女性を家の中で落ち着かせた様が原義である。ここより“静かに落ち着く、おだやか、安定する”などの意味となった。とは中焦脾胃のことである。すなわち安中散とは、んじる散剤であり、脾胃()をおだやかに安定させる効能がある方剤という所の命名であろう。

『実践 方剤学Ⅰ 図でわかる漢方処方 / 源草社』三浦於莵

これより、安中散は胃の不調を改善し安定させる作用があることがわかります。

ですので、漢方薬のことがわかならなくても、名称から推察でき場合もあることを覚えておくと良いでしょう。

ただ、安中散にはそれ以外の使い方もできますので、詳しくは出典を紐解いてみてみましょう。

出典から読み解く安中散

安中散が作られたのは、中国の宋の時代(11〜13世紀頃)になります。

以下に安中散の出典の条文を転記します。

「遠年日近、脾疼反胃、口に酸水を吐し、寒邪の気内に留滞し、停積消えず、胸膈脹満し、腹脇に攻刺し、悪心嘔逆し、面黄み肌痩せ、四肢倦怠するを治す。又婦人の血気刺痛、小腹より腰に連なり、攻疰重痛を治す。並びに能く之を治す。

延胡索(去皮) 良姜(炒) 乾姜(炮) 茴香(炒) 肉桂 牡蛎 甘草

右細末となし、毎服二銭、熟酒もて調下す。婦人は淡醋湯にて調服す。もし酒を飲まざる者、塩湯を用いて点下す。並びに時に拘らず。」

『太平恵民和剤局方・巻之三・治一切気附脾胃 積聚』

条文のままを載せただけですと、かなりわかりにくいので、大事なポイントだけを解説していきます。

まずは、「寒邪の気内に留滞」というところです。

これは、冷たい空気や冷飲食をとることで、胃腸が冷えている状態のことを指します。

また、先ほどご紹介したように、「胃痛・嘔吐・お腹の張り」などの胃の不調についての記載もあります。

さらにそれだけではなく、婦人の腹〜腰にかけての痛み、いわば「月経痛」のようなものにも適応があることがわかります。

出典よりわかることをまとめてみると、以下のようになります。

安中散の使用目標
・胃腸が冷えている
・胃痛、嘔吐、お腹の張りなどの胃の不調がある
・身体が弱り、疲労倦怠感がある
・女性の月経痛にも応用可能

安中散の配合生薬

安中散は出典の『太平恵民和剤局方』に記載されている配合生薬と、現在の配合生薬は少し変わっています。

安中散の配合生薬
【出典】延胡索・良姜・乾姜・茴香・肉桂・牡蛎・甘草
【現在】延胡索・良姜・縮砂・茴香・肉桂・牡蛎・甘草
乾姜(カンキョウ)と縮砂(シュクシャ)が入れ替わっていますが、これは浅田宗伯(アサダソウハク)氏が変更したといわれています。
細かい生薬の解説はさておき、配合されている7種の生薬のうち、牡蛎(ボレイ)と甘草(カンゾウ)を除いて、温性(温める性質)のものになっています。
良姜(リョウキョウ)、縮砂(シュクシャ)、茴香(ウイキョウ)、肉桂(ニッケイ)はどれも胃を温めながら、血流を改善する作用があります。
牡蛎は、気持ちを落ち着かせる鎮静作用と胃酸過多を抑制する働きを兼ね備えています。
延胡索(エンゴサク)は強い鎮痛作用があり、全身の痛みに有効です。
そのため、胃痛だけでなく月経痛や腹痛などにも応用されることがあります。

安中散の臨床の実際

安中散は胃薬としてだけでなく、女性の腹痛・月経痛にも応用することができます。

ですが、圧倒的に使う機会が多いのが、「冷えによる胃痛」や嘔吐などの胃の不調によるところかと思います。

胃の不調に応用

私が安中散を一番よく使う症状としては、「胃痛」です。

冷たいのものを食べたり飲んだりし過ぎてしまった後、胃がキリキリしたりギューっと痛むような時に用います。

この場合は市販の漢方胃腸薬のように頓服的に用いるだけで、十分に効果があります。

胃痛以外にも冷飲食をとって、吐き気がしたり胃酸が逆流してくるような胃食道逆流症などにも応用することができます。

また、みぞおちが張って苦しい、みぞおちの膨満感がある場合にも、冷えがあることを確認できれば使うことがあります。

注意しなければならないのが、胃痛にせよ吐き気にせよ、「胃が冷えている(胃寒)」ことを確認してから使う必要があります。

同じ胃痛や吐き気でも、胃に熱を持っている「胃熱」によるものもあり、この場合は胃の熱を鎮める漢方薬を使わなければなりません。

安中散には温める働きがあるものの、胃の機能を向上させる働きはあまりありません。

そのため、胃の不調が改善されたら服用を中止するか、胃の働きを高める「人参湯(ニンジントウ)」や「六君子湯(リックンシトウ)」などに変更することが多いです。

婦人科への応用

婦人科への応用は安中散の効能効果には記載がありませんので、実際には使いづらいのですが、出典から類推することができます。

冬の季節で寒い中外にいた、あるいは冷房がガンガン当たるところに長時間いたなどの理由で月経痛が強く出てしまった、このような「冷えによる月経痛」にも応用することができます。

しかし、冷えによる月経痛には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)などの他の漢方薬でも代用することができるので、安中散でなくとも良い場合もあります。

ただ、他の漢方薬だと胃に障ってしまい服用できない方もいらっしゃいます。

このように胃が弱っていたり、もともと胃腸が弱い方の月経痛の場合、胃にもやさしい安中散を用いる機会があります。

まとめ

安中散はその名の通り、「中(胃)を安定させる薬」であることが、少しでもわかっていただければ幸いです。

現代はいつでも美味しいものが食べられ、冷たいものもたくさん手に入りますので、胃に負担をかけてしまうことが多いです。

それゆえ、安中散のような胃薬は季節問わず重宝する漢方薬です。

頓服的に用いても効果を発揮しますので、ぜひ常備薬として持っておくと良いでしょう。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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