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「ご相談の多い症状」として記載していますが、現時点では当薬局での帯状疱疹後神経痛のご相談は決して多いわけではありません。

ですが、ここ最近ちらほらとご相談を受けることもありましたので、自分の頭を整理するためにまとめてみました。

帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛(PHN)とは

水痘ウイルスに一度感染すると、症状が治った後もこのウイルスが神経節に潜伏したままになります。

加齢や疲労、ストレス、病気や手術などで免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスが活性化して発症するといわれています。

感染者の免疫力が低下した時に、水痘ウイルスの勢いが増して、身体の片側の感覚神経領域に沿って、帯状に多数の痛みを伴う紅斑と水疱を生じます。

水疱性の皮疹は数週間で消えますが、治癒後も神経痛を残すことがあり、これを帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼びます。

帯状疱疹後神経痛はときに難治性となり、痛みは数ヶ月〜時には数年にわたり、苦痛を強いられることも珍しくはありません。

そのため、近年では帯状疱疹ワクチンも出てきており、帯状疱疹への予防への意識が高まっています。

厚生労働省・帯状疱疹ワクチンについて

帯状疱疹ワクチンの接種によって、帯状疱疹の発症および重症化を防ぐことができるとされています。

しかし、それでも100%防げるわけではないので、もし発症した場合には速やかに治療をすることが大切です。

帯状疱疹の痛みや炎症の状態は急性期、亜急性期、慢性期へと移るにつれて変化していきます。

そのため、東洋医学では状況に応じて各ステージの状態を見極めながら適切に対処していくことが大切です。

帯状疱疹の漢方薬治療

帯状疱疹の初期の治療は、抗ウイルス剤が最も効果的です。

さらに漢方薬を併用することで、水疱や痛みを速やかに緩和させることができます。

早めに対処することで、その後の神経痛への移行を食い止めることが大切です。

冒頭でも述べたように、帯状疱疹後神経痛ともなると、痛みが年単位で続くこともあります。

ですので、早めに抗ウイルス剤と共に漢方薬を併用することをオススメします。

初期の場合は、ほとんどが水疱を伴う激しい痛みのある皮膚炎です。

東洋医学的に解釈すれば、「熱証+水毒」を組み合わせた病態といえます。

帯状疱疹は皮膚表面の炎症(熱証)だけでなく、ウイルスが潜伏している神経節にまで影響を及ぼしているため、単に皮膚表面の炎症を除くだけでは改善へといたりません。

患部の皮膚の状態を観察しながら、熱証と水毒のバランス、そして帯状疱疹の及ぼす範囲を見極めて、それに応じた漢方薬を選択することが大切です。

抗ウイルス薬と漢方薬をうまく併用できれば、比較的速やかに熱や水疱が消えて、見かけ上の皮膚は正常に回復してきます。

帯状疱疹後神経痛(PHN)の漢方薬治療

帯状疱疹を早期に対処できれば、そのまま痛みを残さずにすむ場合もありますが、炎症によって傷ついた神経が回復せずに帯状疱疹後神経痛へと移行してくる場合があります。

帯状疱疹後神経痛となった場合、痛みは大きく2種類に分けられます。

1)自発痛
・何もしていない時に感じる痛み
・灼熱痛:皮膚がヒリヒリと焼けるように痛む
・電撃痛:電気が走ったような、ズキズキ・ピリピリと刺すような鋭い痛み
・持続的な鈍痛:締めつけられるような重い痛みが一定時間継続
2)誘発痛 ・特定の刺激で引き起こされる痛み
・アロディニア(異痛症): 服が触れる、綿棒でなでられる、風が当たる、といった日常のわずか微小な刺激でも生じる強い痛み
・痛覚過敏: 軽く触れただけでも、通常より何倍もの強い痛みとして感じてしまう状態です。

この時期になってくると、初期の熱証と水毒の病態が軽減していき、組織や神経が損傷したり、身体の疲弊によるエネルギー不足で寒証になったりと病態が移行していきます。

そのため、帯状疱疹後神経痛では炎症を抑えるよりも組織の修復と身体を温めて、エネルギーを回復させる作用のある漢方薬を用いることが多いです

同時に免疫力が落ちていることも多いので、免疫力の底上げにも配慮した方剤を適宜併用していく必要があります。

帯状疱疹 / 帯状疱疹後神経痛に用いる代表的な漢方薬

越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)

皮膚表面から神経にまで炎症がおよぶ、初期の帯状疱疹に汎用されます。

清熱作用のある石膏を含むので、炎症性の浮腫に適応し、水疱が真っ赤で、疼痛も激しい場合に用います。

炎症や水疱の度合いが大きい場合は、適宜他の漢方薬を併用します。

五苓散(ゴレイサン)

水分代謝を改善する、利水剤(リスイザイ)の代表的な漢方薬です。

大塚敬節氏は帯状疱疹にはこの処方を用いて、帯状疱疹を治療していたと言われています。

水疱ができ始めの初期の帯状疱疹に用いますが、五苓散は炎症を抑える力が弱いため、痛みや赤みが強い場合はこの方剤だけでは効果が不十分なことが多いです。

その場合は、炎症作用のある茵蔯蒿(インチンコウ)を加えた茵蔯五苓散(インチンゴレイサン)を用いたり、清熱作用のある漢方薬を併用することもあります。

薛氏竜胆瀉肝湯(セッシリュウタンシャカントウ)

炎症が強い亜急性期で、膿胞や糜爛(ビラン)、結瘕(ケッカ)、水疱内出血が見られる場合に用います。

竜胆瀉肝湯が適応となるのは、東洋医学的には「湿熱」とよばれる病態で、炎症が強く(熱)、水疱もたくさんある(湿)もので、特に下半身に発症するものになります。

炎症が慢性化した場合には、温清飲(ウンセイイン)を配合している一貫堂竜胆瀉肝湯(イッカンドウリュウタンシャカントウ)を用います。

柴苓湯(サイレイトウ)

小柴胡湯に五苓散を加えた漢方薬です。

発症後1週間以上経って、炎症が体表面から内部に進行した少陽病期に適応となります。

柴苓湯には免疫調節作用があり、過剰な免疫反応を抑制する働きもあります。

麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)

老人や虚弱者によく用いる漢方薬の一つです。

配合されている麻黄(マオウ)・附子(ブシ)・細辛(サイシン)とも散寒止痛(冷えを追い出して痛みを止める)作用があります。

これらの生薬が協力して、温め、痛みを止めるので、帯状疱疹後神経痛には汎用されます。

大塚敬節氏は立効散が瞬時に歯痛に効くことから、細辛には局所麻酔作用があると考えており、冷えによる痛みや神経痛には有効と考えられます。

しかし、帯状疱疹の初期の炎症(熱証)が強い時に用いると反って増悪してしまうことがあるので、病態を見極めて用いる必要があります。

桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)

桂枝湯に朮と附子を加えたもので、寒邪と湿邪に侵された者に対する基本処方です。

水疱による損傷と冷えを改善し、さらには身体全体が弱っているものを持ち上げる作用もあります。

麻黄剤のような胃に負担がかかるものが服用できない、胃腸が弱い方でも服用できる利点があります。

八味地黄丸(ハチミジオウガン)

老人の帯状疱疹後神経痛に用いることがあります。

帯状疱疹後神経痛の経過が長く、数年経た者にも奏功することがあります。

補中益気湯(ホチュウエッキトウ)

帯状疱疹は体力が低下したり、免疫力が低下した時に発症することが多く、特に老人ではこの傾向が強くみられます。

黄耆(オウギ)、人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、甘草(カンゾウ)などの補気薬が消化吸収機能を高めて体力や免疫力を改善することで、帯状疱疹後神経痛の改善に寄与します。

補中益気湯単独では効果がない場合は、附子を合わせて使用することもあります。

安中散(アンチュウサン)

元来は、冷えによる胃部や腹部の痛みに対する方剤です。

桂皮(ケイヒ)、茴香(ウイキョウ)、良姜(リョウキョウ)には温中散寒(お腹を温めて冷えを追い出す)作用があり、温めて痛みをとる方剤です。

そのため帯状疱疹後神経痛にも応用することがあり、お腹の不調を改善するとともに神経痛を緩和することもあります。

胃腸にも優しいので、胃腸が弱い方も服用できます。

独活寄生丸(ドッカツキセイガン) / 大防風湯(ダイボウフウトウ)

帯状疱疹後神経痛の病位が深く、神経障害の影響が大きい場合に用います。

痛みや知覚麻痺などの症状が重い時にはこれらの漢方薬を用いることもあります。

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

帯状疱疹の急性期〜亜急性期の炎症が強い時に用います。

黄連解毒湯は清熱燥湿(セイネツソウシツ)作用により、炎症を抑えて、余分な水を乾かす作用があります。

水毒よりも熱証を抑える作用が強いため、皮膚表面だけでなく神経にも広く炎症が生じて、痛みが強い場合に用います。

温清飲(ウンセイイン)

温清飲は黄連解毒湯と四物湯(シモツトウ)を組み合わせた漢方薬です。

炎症を抑える黄連解毒湯と炎症によって損傷された組織や神経を修復する四物湯により、急性期から亜急性期にかけて、やや時間経過した病態に適合する場合があります。

赤みの強い炎症ではなく、皮膚は黒みがちで乾燥している傾向があります。

柴胡疎肝湯(サイコソカントウ)

柴胡疎肝湯は浅田宗伯の『勿語薬室方函口訣』には「左胸脇痛を治す」とあり、帯状疱疹後神経痛が胸脇部に位置する時に用いることが多いです。

柴胡剤は胸脇部の鬱滞を取り除き、円滑に流れをよくすることから、帯状疱疹による痛みも流れをよくすることで取り除くことができます。

加味逍遙散(カミショウヨウサン)/ 逍遥散(ショウヨウサン)

加味逍遙散は逍遥散(ショウヨウサン)に清熱作用のある牡丹皮(ボタンピ)と山梔子(サンシシ)を加えた方剤です。

逍遥散は、女性の虚労(キョロウ)、つまり身体が疲弊して形態的にも損傷を受けている状態の時に用います。

帯状疱疹は免疫力の低下により、身体の弱りをきっかけに発症することが多いので、逍遥散や加味逍遙散のように身体の弱りを立て直し、なおかつ炎症を抑えてくれる漢方薬が適応となる場合もあります。

炎症の度合いによって、逍遥散と加味逍遙散を使い分けていきます。

通導散(ツウドウサン)

一貫堂医学の瘀血証(オケツショウ)体質と呼ばれる、いわば血行不良をもっているものに用います。

帯状疱疹による神経痛は血行障害による瘀血の病態が絡んでいることもあります。

帯状疱疹後神経痛が長期におよび、温めてもびくともしないような神経痛や体質として瘀血証をもっているものに用いて効果を発揮することがあります。

まとめ

帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛は、初期の対応が特に重要ですが、神経痛が慢性化した場合でも東洋医学ではステージに合わせた漢方薬が用意されています。

そのため、病態を適切に見極めることで、長年の帯状疱疹後神経痛が緩和することもあります。

お悩みの方はぜひ一度、漢方専門の医療機関にご相談ください。