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漢方について

東洋医学(漢方)は術か学か

東洋医学は「学問」であるか「術」であるかというお話です。

学問として体型づけられている西洋医学との比較をもとに東洋医学をみていこうと思います。

東洋医学の学問化・科学化の変遷

西洋医学は画像診断や血液検査などの客観的指標をもとに、病気の正体を突き止め体に悪さをするものを排除して、病気を治そうという考え方です。

そのため、治療には再現性があり一定のプロセスを試みれば誰でも同じ結論に辿り着く、非常に明快な医学体系です。

対して古来の東洋医学の理論は幼稚であり、五感を使って診断を下していました。

そのため、治療者の力量によって見立てが異なることも少なくはなく、治療成績が大きく変わるという特性がありました。

しかし、中国では国を挙げて医学として体系化させて、見事学問として統一された「中医学」を完成させました。

中医学は「陰陽」「五行」などの古代の東洋思想を用いて、西洋医学とは違うプロセスで、病気を捉える試みがなされました。

これにより、今までバラバラであった東洋医学の考えが統一され、西洋医学のように再現性のある治療ができるようになり、学問として誰でも同じように学ぶことができるようになりました。

近年では、漢方薬も西洋医学の手法で有効性が科学的に証明されたものが出てきており、漢方にもエビデンスの導入が進んでいます。

日本も中国と同様にエビデンスに基づいた漢方であったり、中医学の考えが浸透して、広く活用されています。

このようにして、東洋医学も科学的になることで学問としての位置付けがハッキリとなされるようになってきました。

東洋医学が「学問化」することはAIとの親和性も高く、多くのデータやエビデンスを積み重ねていけば、西洋医学と同等に漢方薬も活用することがさらに進んでいくと思われます。

東洋医学の術は不要か

東洋医学の学問化は、漢方薬を知らない医療者でも学びやすく、さらに共通の認識がもてるメリットがあります。

そうなると、古来行われてきた五感を用いた診療、いわば術によるところの東洋医学は不要となるのでしょうか。

東洋医学はもともとは「個人医学」、つまり個々人そのものに着目して体質を把握して治療を試みる医学でありました。

個々人を見るということと、データ化やエビデンスで統計をとる医学とは相容れません。

同じ症状や病気であっても、個々によって診断結果が変わり治療方針が異なるのでは、統計化は困難を極めます。

かつての漢方家で「医は術なり」と唱えた人がいます。

大塚敬節(オオツカケイセツ)氏は書籍の中で、漢方は次のように述べています。

『大塚敬節著作集 第一巻 論説・随想篇1』医学に現れたる日本P14-15
「日本の医学は「勘」の医学だといわれる。この国の名医達は、病証を勘で直観する。この勘の診断では、単に一瞥(イチベツ)が与えられるだけに過ぎないことがある。それほど単純で簡易である。しかしこの一瞥は肉眼で見るのではなく、心眼で見るのである。そこに測り知れぬ深さがある。」

患者さんをパッと見ただけで、病態がわかり最適な漢方薬を決めることができるというのが、「勘」のなす技で、これは他人に伝授することが出来ず、自分で会得するしかないというのです。

同様なことは、亀井南冥(カメイナンメイ)が「医は意なり意という者を会得せよ手にも取れず書にもかかれず」という歌を残しています。

また、和田東郭(ワダトウカク)は、医術というものは、口に伝え筆にすることは出来ないからという理由で、書籍として残しませんでした。

弟子たちが、和田東郭の口伝を書き留め書籍化されたものが現在に伝わっています。

『蕉窓雑話』和田東郭
「古人の病を診するや色を望むに眼をもってせず、声を聴くに耳をもってせず、それただ耳目をもってせず、故によく病応を大表に察するなり」
「古人の病を診するや、彼を観るに彼をもってせず、乃ち彼をもって我となす。それ既に彼我の分なし。是を以って能く病の情に通ず。」

このように、直観的に治療を施したり、書物にかき残せないようなものを医療というのは何事だと思うかもしれません。

それでは、学問のように発展することができません。

それよりは、東洋医学を科学化して学問としての体裁を整える方が多くの命を救うことになるでしょう。

しかし、それでも統計からもれた人やどうにもならない人が一定数出てくることは必然です。

そのような時、術をもたなくなった漢方家だらけになってしまっては、本当の意味での東洋医学が潰えることになるかもしれません。

漢方薬局にいらっしゃる方は、多くは現代医療(西洋医学と西洋化した東洋医学)からすり抜けてしまった方が多いと感じます。

それであるならば、術を磨くことの意義は大きいと感じます。

もちろん、学としての東洋医学は必要ですが、現代では「学」が重要視されすぎている気がします。

術を磨くのは、「コスパ」や「タイパ」とは真逆で、地味で果てしない道のりです。

それでも、最後にものを言うのは「術」になってくるのだと思います。

まだまだその領域には辿り着けませんが、これからも地道に歩み続けていきたいと思います。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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