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症例紹介

二日酔いの漢方薬について改めて考えてみる

先日、あるお客様から

「二日酔いに黄連解毒湯(おうれんげどくとう)と五苓散(ごれいさん)

という漢方薬を飲むと良いって聞いたのですが、頂けますか」

とご連絡を頂きました。

実際に二日酔いの時に服用したところ、

スッと胸〜胃のあたりが抜ける感覚があり、

あくびも治ったようです。

なるほど。実際に漢方薬を服用した方の感想は

とても参考になります。

改めて二日酔いに多用される、

黄連解毒湯と五苓散について考えてみようと

思います。


黄連解毒湯は中医学的にいうところの

清熱解毒作用があります。

簡単にいうと、体の中の余分な熱を冷まして、

炎症を抑える働きがあるというもの。

一方の五苓散は利水作用があるとされています。

これは、体の中にたまった余分な水を

尿として排出するという考えです。

お酒を飲むと体はポカポカと温かくなり、

飲んだ分だけ水分が体にたまってしまいます。

したがって、

黄連解毒湯や五苓散はアルコールの熱を冷まして、

体にたまった水分を除去するというメカニズムです。


とまあ、これが教科書的な説明になるわけですが、、、

これでは面白くもなんともないので、

自分なりにさらに一歩考察してみようかと思います。

まず黄連解毒湯ですが、

飲んだことがある方はご存知かと思いますが、

とてつもなく苦いです。

私なんかは苦いのは苦手ですが(シャレではなく)、

この苦味が好きという方もいます。

中医学では苦味のあるものは熱を冷ますと

教えていますが、

実際に服用してみたところで、

体が冷える感覚はありません。

かき氷を食べれば体が冷える

冷たいジュースを飲めば体は冷えるのは、

実感できますが、

黄連解毒湯ではそれは感じられません。

これは後付けで付けられた理論です。

以前のブログでも、

「体を温める食べ物と体を冷やす食べ物はどうやって見極めるの?」

を書きましたが、

漢方薬も体が温まったり、冷えていると実感できるものは

ほとんどありません。

なので、黄連解毒湯が体の熱を冷ますという考えには

非常に違和感を覚えるのです。

そして、五苓散の利水という言葉にも

違和感を覚えます。

確かに五苓散を服用すると、

小便の量が増える方もいますが、

必ずしも全員ではありません。

実際に五苓散を服用しても

小便の回数が変わらないケースも

多々あります。

そうなると、黄連解毒湯と五苓散は効いていないのではないか?

と疑問をもつかもしれません。

しかし、冒頭でも述べましたが、

黄連解毒湯や五苓散で効果を実感されている方はいます。

そうすると考えられるのは、

各々が別の作用で効果を発揮しているのではないかということです。

ここからは推察になりますが、

黄連解毒湯の黄連は

『傷寒論集成』(山田正珍)の中で「心気鬱結」に

用いると述べています。

これは詰まっているものを開通するような意味かと思います。

アルコールをガンガン飲んで、食事をすれば、

当然胃腸にものがどっしり溜まっています。

黄連解毒湯はこの溜まって胃腸に痞えた状態を

流してくれることで、胸がスッと開ける。

この解釈の方がシックリきます。

五苓散は水分代謝の偏在を解消すると考えた方が

納得がいきます。お酒を飲み過ぎると、

頭が痛くなったり、下痢になったりしますが

これは水分が過剰に頭や腸に流れ込んでしまったものだと

漢方では考えます。

一方で、お酒を飲むと喉がカラカラになります。

これは血液中の水(漢方では胃の水)が不足して、

脱水状態となっていることを意味します。

一方では水が過剰に溢れ、

かたや他方では水が不足した状態。

これがお酒を飲むと生じています。

この水分バランスの不均衡を改善するのが

五苓散というわけです。

その結果として、水分が余分にあれば、

小便として排出されますが、

ちょうど均衡が保たれれば、

小便として排出されることはありません。


教科書の理論をいくら学んだところで、

実際の臨床結果が教えてくれることの方が

遥かに意義のあることかと常々思います。

今回のは全くの詭弁かもしれませんが、

今後も臨床第一に物事を考えていきたいと

思います。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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