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熱中症の漢方薬治療と養生

毎年のように夏の気温が上昇しているように感じますが、気象庁によりますと日本の夏(6〜8月)の平均気温は実際に上昇しており、長期的には100年あたり1.38℃の割合で上昇しているようです。

気温の上昇に伴い、熱中症による被害も増大しており、総務省によると調査を開始した平成20年以降、2025年5〜9月に救急搬送された人数が過去最多の100,510人にのぼることが明らかとなっています。

そのため、熱中症対策に取り組んでいくことはご自身の命を守るだけでなく医療従事者の負担の軽減にもつながります。

熱中症とは

「熱中症」は、高温な環境下で発汗による体温調節等がうまく働かなくなり、体内に熱がこもることによって様々な症状がみられる状態を指します。
屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、場合によっては死亡することもあります。
参照:厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」

熱中症の初期症状としては、「めまい、ふらつき、こむら返り、筋肉痛、大量の汗、立ちくらみ、疲労感、生あくび」などが見られます。

症状が重い場合は、「激しい頭痛、吐き気、嘔吐、強い倦怠感、高体温、痙攣、失神」などが生じます。

ご自身で少しでもおかしいと感じたり、周りの人でそのような状況の方を見つけた場合は、速やかに涼しい場所に避難して、体を冷やして、水分補給をしっかりと行ってください。


さて、東洋医学では熱中症のことを「中暑(チュウショ)」といいます。

中暑については、「漢方用語大辞典」の解説を参考とさせていただきます。

『漢方用語大辞典』中暑 P853

病名
①夏期の炎天下、暑邪(ショジャ)に感じて発する急性病証。中暍(チュウエツ)ともいう。症状として、突然昏倒し、身熱煩躁し、気喘して話すことができず、牙関緊(ガカンキン)あるいは口が開き歯がかわき、大汗あるいは無汗、脈虚数、あるいは昏迷して醒めず、四肢抽搐(チュウチク)する。治療は涼しいところに移し、清暑・解熱・開竅の剤を投与し、さらに鍼灸・刮痧(カッサ)などの法を併用する。」

中暑は突然倒れたり、身体が痙攣したりする症状が生じることから、熱中症の中でも重症に該当するものといえます。

中暑は、「夏期の炎天下、暑邪に感じて発する病証」ということで、暑邪(ショジャ)が原因といえます。

暑は夏季特有の暑さと湿気を伴った気候のことですが、これが著しくなり人体に影響を及ぼすようなことが起こると、暑邪となり身体に様々な影響を及ぼします。

暑邪の特徴
1.熱性が強い

・異常な熱により、高熱、意識障害をもたらす
(症状)顔がのぼせる、顔が赤い、熱感が強い
2.汗として気、水を損傷する
・過剰な熱を放散するために大量の汗をかく
・汗による脱水と熱による水の損傷が起きる
・汗は水だけでなく、気(エネルギー)も奪っていく
(症状)のどの強い渇き、小便の色が濃い、倦怠感
3.湿邪(シツジャ)を伴いやすい
・夏季は湿気も多く、湿邪の影響も受ける
・湿邪は水であるので、重だるさやベタつきによる血流停滞を引き起こす
(症状)身体や頭が重だるい、食欲低下、吐き気、関節の痛みや重だるさ

暑邪の特徴もまさに熱中症そのものの症状と言えるため、東洋医学では暑邪を改善する治療を行うことで症状を改善します。

熱中症になりやすい人

熱中症に罹りやすい人は、一般的に乳幼児や高齢者、筋力が少ない人、肥満の人などです。

熱中症になりやすい人
乳幼児
・体温調節が未発達であるため、熱がこもりやすい
高齢者
・温度変化に鈍感
・体内の水分が少ない
筋力が少ない方
・水分を保持する筋肉が少ないため、体内の水分量が不足しがち
肥満の人
・皮下脂肪により、熱が放散されずこもってしまう
これ以外にも、普段は丈夫なのに過労や睡眠不足が続いているような方も発症しやすくなります。
こういった熱中症になりやすい人は、東洋医学的に解釈すると「暑邪の影響を受けやすい人」ということができます。
そこで、先に述べた「暑邪の特徴」を見てみると、暑邪は「気・水を奪って、湿邪を伴う」ということです。
ということは、逆にいえばもともと「気・水が体内に乏しい人、もしくは湿邪を身体に溜め込んでいる人」は中暑(熱中症)になりやすいということがわかります。
中暑(熱中症)になりやすい人
気の不足(気虚:キキョ)の人
・身体が疲れやすい
・食が細い
・体力がない など
水が不足(陰虚:インキョウ)している人
・痩せている
・肌や髪などが乾燥している
・筋肉が少ない
・のぼせたり、ほてりやすい など
湿邪をためこんでいる人
・むくみやすい
・皮下脂肪が多い
・身体が重だるい など
上記に挙げた体質を持っている方は、子供や高齢者、肥満している人、筋肉が少ない人にまさに対応しており、このような人は熱中症には十分に注意しないといけません。

熱中症の漢方薬治療

熱中症は、暑邪による影響であり、「熱」と「熱による脱水」が主な症状になります。

ここでは、熱中症になったその時や熱中症の予防としてよく使われる漢方薬をご紹介します。

白虎湯(ビャッコトウ)・白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)

白虎湯は陽明病、気分熱盛に該当して「大熱・大渇・大汗・脈洪大」の4大症状が目標とされます。

これは、「体表面の熱感・のどの異常な渇き・多汗・脈が力強い」というもので、熱中症にまさになっている状態を現しています。

ただし、汗に関してはほとんどでない方もいて、そのせいで熱がこもってしまう方もいらっしゃいます。

白虎湯に人参を加えたものが白虎加人参湯になります。

人参は体液と気力を向上(気・水を補う)させるため、一種の栄養補給の役割をしています。

そのため、実際の熱中症では白虎湯よりも白虎加人参湯の方が使い勝手が良いです。

顔が真っ赤で熱がこもって、汗がダラダラしている時は白虎加人参湯をお水や経口補水液で服用してください。

屋外でスポーツや仕事をなされる方は、水に溶かした白虎加人参湯をちょびちょび水分補給していただくと体の熱を冷ましてくれます。

白虎加人参湯について詳しくは、下記のコラムをご参照ください。

コラム「梅雨〜夏場に用いる漢方薬(3)白虎加人参湯」

生脈散(ショウミャクサン)

生脈散は熱を取り除く作用はないので、熱中症まっただなかの時に使うものではありません

これは、気と水を補う作用のあるものだけで構成されていますので、熱中症の予防や熱中症が治った後の体力回復に用いるのが適当かと思います。

こちらも予防として経口補水液や水に溶かした生脈散を水分補給としてとっておくことで、気と水を補えて熱中症の予防になります。

生脈散について詳しくは下記のコラムをご参照ください。

コラム「梅雨〜夏の漢方薬(2)生脈散【夏バテ対策】」

五苓散(ゴレイサン)

五苓散といえば、利尿剤として水を抜く漢方薬として認識されている方もいるかもしれません。

しかし、本質は水分の吸収障害や偏在を是正する働きにあります。

五苓散は熱を冷ます生薬配合はあまりないので、白虎加人参湯のように熱感はあまり強くありません。

むしろ本質は水分バランスの改善、熱中症においては胃腸からの水分の吸収が阻害されて、結果として血液中の水分が脱水状態にある時に用います。

脱水状態にあるため、のどが渇いて仕方がないのに、いくら水を飲んでも胃腸での吸収障害が起きているため、体に吸収されず、のどの渇きは取れません。

また、脱水状態にあるので、小便も出ずに頭痛やめまい、吐き気を伴うことがあります。

五苓散は胃腸での水分の吸収障害を改善することで、水分が吸収され口の渇きもなくなり、諸々の症状も消失します。

ただし、五苓散は予防的な効果はないので、いくら事前に服用していてもあまり効果はありません

頭がふらついたり、頭痛がしてのどが異常に乾いて、いくら飲んでも渇きが取れない時に、お湯やハチミツに溶かして少量ずつ服用してください。

五苓散について詳しくは下記のコラムをご参照ください。

コラム「五苓散の効果や副作用の解説」

熱中症の養生

熱中症にならないためには、日頃の養生も大切です。

十分な水分をとること、睡眠をしっかりとる、疲れを持ち越さない、帽子やサングラス、日傘の活用といった基本的なことをした上で、以下の対策も有効です。

スポーツドリンクを控える

スポーツドリンクという名だけあって、脱水による水分補給にうってつけと思われるかもしれませんが、私はお勧めしません。

それは、糖分が多くて塩分が少ないからです。

糖分が少ないものでしたら良いのですが、多くのスポーツドリンクは糖分が多くなりがちです。

その結果、血液中の浸透圧が高くなり、いくら飲んでも渇きは取れず脱水状態を改善できません。

さらに、糖分が多いと、いきなり高血糖になりその後血糖値が急降下する血糖値スパイクを起こし、脱力感や倦怠感を招いてしまいます。

ですので、飲み物としては糖分が少なく塩分の入っている経口補水液や水、お茶(麦茶)を服用してください。

さらに、漢方薬を一緒に併用してもらえるとなお良いです。

他にもカフェインの入っているコーヒーや紅茶、お酒なども利尿作用があるため水分補給とはならないことを注意しておいてください。

夏野菜を積極的に摂る

夏野菜といえば、「きゅうり・なす・トマト・スイカ・冬瓜」などがあります。

冬瓜は除湿効果があり、なおかつ体にたまって熱を冷ましてくれる作用があり、まさに夏の湿気と暑さ対策にうってつけです。

夏が旬の野菜や果物には、身体を潤して熱を冷ましてくれるものが多いので、旬の食材を取り入れることで、熱中症の予防になります。

冷え症の人は夏の野菜で身体を冷やしたくないと思って敬遠する場合がありますが、夏は外が暑いのであまり気にせずにとってもらって大丈夫です。

夏が過ぎて気温が下がってきてから、夏野菜の摂取を控えれば問題ありません。

タンパク質を多めに

熱中症の要因の一つに、筋力不足が挙げられます。

暑くなると食欲がなくなっしまい、どうしても喉ごしの良い「そうめん」や「ざるそば」などばかりに、手が伸びてしまうこともあるかと思います。

もちろん、夏に食べるからこそ美味しいものもありますが、そればかりでは栄養バランスが崩れてしまいます。

タンパク質に関しては季節問わず、安定して摂取してほしい栄養素ですので、できるだけ毎食「卵・肉・魚・大豆」の料理を取り入れるようにしましょう。

タンパク質は筋肉のもとになり、熱中症の予防になるだけでなく、肌ツヤをよくしたり、高齢者の場合はフレイルの予防にもなります。

空調は25〜27℃に

暑くなると冷房の温度をガンガンと下げてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、あまり冷やしすぎるのも禁物です。

冷やしすぎると室内外の温度差が大きくなって、冷房病の原因にもなります。

反対に、高齢者の場合は暑くなっても気づかずに冷房を使わない人もいます。

室内を冷やし過ぎても暑くし過ぎても身体に負担になりますので、気をつけて使っていきましょう。

まとめ

現代では熱中症は決して他人事ではなく、若い人でも体調がすぐれなったりすると発症する恐れがあります。

そのため、十分に対策しすぎるに越したことはありません。

レジャーに出かける際や屋外のお仕事がある際には、しっかりと対策をして熱中症にならないように注意しましょう。

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今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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