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漢方薬解説

【漢方薬解説】防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)

防已黄耆湯(オウイオウギトウ)はその名の通り、防已(ボウイ)と黄耆(オウギ)の生薬を含む漢方薬です。

体内の水分代謝を是正する働きがあるため、水ぶとりを解消する作用があり、肥満の漢方薬の一つとして用いられます。

確かに防已黄耆湯は、水ぶとりの方の肥満に効果的な場合がありますが、それだけではなくもっと幅広い活用ができます。

防已黄耆湯が作られた経緯から、今一度、処方の意図を読み取っていきたいと思います。

出典から読み解く防已黄耆湯

防已黄耆湯が作られたのは、今から1,800年ほど前(西暦200年頃)の中国の漢(後漢)の時代になります。

出典は『金匱要略』(キンキヨウリャク)という書物になります。

『金匱要略・痙湿暍病脈証治第二』
「風湿脈浮、身重く、汗出で悪風する者、防已黄耆湯之を主る。」
「喘する者は、麻黄半量を加う、胃中和せざる者は、芍薬三分を加う、気上衝する者は、桂枝三分を加えう、下に陳寒ある者は、細辛三分を加う。服して後当に蟲の皮中を行くが如し。腰より下氷の如し。後被上に坐し、又一被をもって腰下に繞(メグ)らし、温めて微しく汗せしむれば差ゆ。」

『金匱要略・水気病脈証并治第十四』
「風水脈浮、身重く汗出で悪風する者、防已黄耆湯之を主る。腹痛の者は芍薬を加ふ。」

『金匱要略・水気病脈証并治第十四』
「『外台』の防已黄耆湯は、風水、脈浮は表に在りとなす。其の人或は頭に汗出で、表に他病なく、病者但だ下重く、腰より以上は和をなし、腰以下は当に腫れて陰に及び、以って屈伸し難からべきを治す。」

防已黄耆湯について記載されているのは、『金匱要略』の中の3つになります。

長々と書いていますが、要約すると、「防已黄耆湯は、身体が重だるい、汗が出る、寒気がする、脈を触ると浮いている、このような時に用いてください」とのことです。

あっさりとした文章で、逆にわかりづらいかもしれません。

具体的な症状は書かれていますが、どのような原因で「身体の重だるさ、汗が出る」などの症状を引き起こしているのかをわかっていないと、臨床では応用ができないからです。

そこで、もう少しそれぞれの条文を詳しく見てみると、「風湿」もしくは「風水」という言葉が出てくるのがわかります。

風湿とは

風湿は六淫(ロクイン)と呼ばれる「・寒・暑・湿・燥・火」のうちの、「風」と「湿」の二つが合わさったものです。

六淫とは、自然界にある風や寒さ、暑さ、湿気などが強力になり、人体に影響を及ぼした時に呼ばれる名称のことです。

風湿は高湿度と風が合わさって、身体に影響を及ぼすもののことです。

では、風湿は身体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

これも、『金匱要略』に解説されています。

『金匱要略・痙湿暍病脈証治第二』
「病者一身尽く疼み、発熱、日晡所劇しき者は風湿と名づく。此病は汗出でて風に当るに傷れ、或は久しく冷を取るに傷れて致すところなり。」

この条文では、風湿についての詳細が書かれています。

要約すると、「風湿というのは、身体のあちこちが痛んで発熱し、夕方(日晡所)になると激しくなるもののことです。風湿は、汗が出ているのに、風に当たったり、長時間冷え込んだりしたら起きます。」

さて、風湿についてわかると、新たな症状「身体の痛み、発熱」も対象となることがわかります。

また、発症の要因が「汗をかいた後に風にあたったり、長時間の冷え」であることも明らかとなりました。

風水とは

風水についても、やはり愚直に『金匱要略』の条文から探してみます。

『金匱要略・水気病脈証并治第十四』
風水は其の脈自ら浮、外証は骨節疼痛し悪風す。」

『金匱要略・水気病脈証并治第十四』
「寸口の脈沈滑なるは中に水気あり、面目腫大、熱あるを、名づけて風水と曰う。」

『金匱要略・水気病脈証并治第十四』
「太陽病は脈浮にして緊、法当に骨節疼痛すべし。反て疼せず、身体反て重くして酸し、其の人渇せず汗出ずれば即ち愈ゆるは此れ風水たり。」

この3つの条文をまとめると、「風水は脈が浮いて、関節痛があって寒気がするもの。また、顔や目が腫れて、熱がある場合もあります。反対に関節痛がなく、身体が重だるく、のどが渇かず、汗が出ると治るものは風水です。」となります。

条文のまとめ

長々と解説してきましたが、防已黄耆湯は「風湿」・「風水」によって生じる身体の重だるさや関節痛、多汗などを改善する働きがあります。

風湿も風水も「湿・水」、つまり水が悪さをすることで引き起こされる症状を改善することができるということです。

これらをまとめると、以下のようになります。

出典からわかる防已黄耆湯の特徴
【病気の原因】
・風湿・風水
【病気のメカニズム】
・体に余分な水が溜まっている
・その水が、風にあたったり冷やされたりして、体内の水分代謝がうまく働かなくなる
・停滞した水が皮下に及ぶと水が溜まり「重だるさ・汗」となり、関節に溜まると「関節痛」などが生じる
・水は身体を冷やすので、寒気を覚え易い
【主な症状】
・身体の重だるさ、倦怠感
・関節痛などの痛み
・多汗症
・寒気 など

防已黄耆湯の配合生薬

防已黄耆湯は、「防已(ボウイ)・黄耆(オウギ)・朮(ビャクジュツ)・大棗(タイソウ)・生姜(ショウキョウ)・甘草(カンゾウ)」の6種類の生薬から成り立っています。

漢方薬名にもあるように、防已と黄耆が主薬になります。

防已黄耆湯の各生薬の働き
【防已】
・寒性
・水分を吸収排泄する
・水の停滞を治し、浮腫を治す
・鎮痛作用や炎症を抑える作用もある
【黄耆】
・温性
・体表面を強固にする
・汗を抑えたり、体表面の水はけを良くする
【白朮】
・温性
・水分代謝を良くし、体表面を強化して汗を抑える
・胃腸の働きを改善する
【生姜・大棗・甘草】
・胃腸の保護
それぞれの生薬の働きからわかるように、メインである防已と黄耆はともに、「体内の水分代謝を改善する作用があること」、とりわけ「体表面の水はけを改善する」ので、身体の重だるさや水ぶとりタイプに有効と考えられます。
また、配合生薬は防已をのぞいて、温める性質のものが多いため、「身体は冷えている傾向」であることがわかります。

防已黄耆湯の臨床の実際

出典や配合生薬の解説から分かるように、防已黄耆湯は「水毒」「痛み」をキーワードに幅広い病気に応用することができます。

変形性膝関節症(ヘンケイセイシツカンセツショウ)

防已黄耆湯で有名な使用例としては、変形性膝関節症かと思われます。

変形性膝関節症は、「加齢や筋力低下、肥満などにより膝の軟骨がすり減り、炎症や痛み、関節の変形を引き起こす疾患」のことです。

立ち上がりや歩き始めに痛みが出たり、正座やしゃがみ込んだりなどの、膝を曲げる動作が困難になります。

膝が痛むのと同時に「膝に水が溜まる」のが特徴なので、まさに防已黄耆湯の「痛み・水」を改善する働きにマッチします。

この際、膝関節の痛みと水腫を目標に防已黄耆湯が有効になる場合があります。

しかし、熱感が強かったり、赤みを呈している場合は防已黄耆湯は使いづらいです。

防已黄耆湯は全体で温める作用はあるものの、炎症などの「熱証(ネッショウ)」を抑える作用はありません。

肥満

肥満に用いる漢方薬としては、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)が有名です。

しかし、防風通聖散が適応する病態は「熱証」で、身体はがっしりしていて、便秘が強く、熱によるのどの渇きが強いものであることが条件です。

一方の防已黄耆湯は、水の停滞により皮下脂肪は軟らかく、筋肉が薄く、むくみやすい、汗をかきやすい、皮膚が湿っている、胃腸が弱いなどの特徴があり、防風通聖散とは反対のタイプになります。

肥満だからというだけで、漢方薬を選択しても思ったような効果が出ないばかりか、反って身体を損なう可能性もありますので、注意してください。

多汗症

漏れ出る汗が多く、多汗症の方に用いる機会があります。

全身の汗だけでなく、顔面や脇汗、ワキガ(腋臭)にも応用ができます。

ただ、水毒を持っている場合は、下半身ではなく上半身からの汗が出ることが多いです。

この場合も「水毒」を確認して、むくみや水ぶとりなどの特徴を確認してから用いる必要があります。

更年期障害や暑がりタイプの方の場合、「熱証(ネッショウ)」や「陰虚(インキョ)」のような水不足による熱感の場合もありますので、しっかりと弁別して用いる必要があります。

その他

それ以外にも、体表面の水毒であることを確認できれば、幅広い症状に用いることができます。

その他の防已黄耆湯の応用
・蕁麻疹や水疱を伴う湿疹
・だるさ、倦怠感
・むくみ
・精神不安
・月経不順
・冷え症 など
水の巡りが悪くなると、当然ながら「気・血」の巡りも悪くなります。
そうなると、気が鬱して気分が滅入ったり、血流が悪くなり月経不順を引き起こすことは容易に起こりえます。
水毒による影響は全身に及ぶので、油断なりません。

防已黄耆湯は水ぶとりは必須条件か?

結論から言うと、防已黄耆湯は必ずしも水ぶとり出なくても使うことができるといえます。

それは出典の条文にも記載がありませんでしたし、膝の関節痛のような局所の水腫の場合は、体型に問わず有効な場合もあるからです。

防已黄耆湯は男性よりも女性に適応となることが多いですが、特に未成年の女性の場合は、体格に関係なく用いてもよいと考えています。

しかし、その場合でも筋肉が筋張っている感じではなく、しまりがない軟らかい印象の方に効果的な印象があります。

まとめ

防已黄耆湯は水分代謝を是正して、幅広い病気に応用できる漢方薬です。
また、強力な作用を持つ生薬を配合していないことからも、比較的安心して用いることができるのも使い易いポイントです。
病院やドラッグストアなどで防已黄耆湯を用いたのに、効果を実感できなかった場合は、ぜひ専門の漢方の医療機関にご相談ください。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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