漢方薬を服用したら、髪の質が良くなったり、抜け毛が減るということはしばしば起こりえます。
円形脱毛症のような著しい脱毛のような場合を除いて、髪の状態を良くしたいという目的で当店にいらっしゃる方はほぼいらっしゃいません。
ですが、別のご相談でお渡しした漢方薬を服用していたら、髪の毛が太くなった、髪にツヤが出てきた、抜け毛が減った、白髪が減ったとのご報告を受けることがあります。
そこで、今回は漢方薬が髪の毛に与える影響について解説していきます。
髪の毛に影響を及ぼした症例
相談者:20代 女性
相談内容:月経不順・月経痛を改善したい
仕事が多忙になってきた頃から、月経が乱れ始めました。
月経周期が短くなったり、長くなったりして安定しません。
おまけに月経痛もひどくなり、鎮痛剤も多用するようになってしまいました。
同じくらいの時期から、抜け毛が多くなり、髪も細くなってきてしまいました。
このようなご相談を受けたので、自律神経を整えて月経周期や月経痛を改善する漢方薬をお出ししました。
すると、翌月の月経痛は軽減されるとともに、抜け毛が減り始めました。
さらに、次の月経では周期が安定して来て、なおかつ髪の状態も良くなってきました。
その後も順調な経過をたどり、髪の毛の状態も元の通りに戻ることができました。
髪は腎と関連する
先の症例では、月経不順を改善する漢方薬を用いたところ、副次的に髪にも良い影響を与えることができました。
直接的に髪の毛を改善しようと思ったわけではないのに、どうして髪にも良好な作用が生じたのかについて東洋医学的に考えてみます。
まずは、髪についての記載がある古典をひも解いていきましょう。
腎精と髪
『黄帝内経・素問・六節蔵象論篇 第九』
「腎なる者は、蟄(チツ)を主り、封蔵の本、精の処なり。其の華は髪に在り、其の充は骨に在り。」
『黄帝内経』によると、髪は五臓六腑でいうところの、「腎」と関連することが述べられています。
つまり、「腎の状態が髪に現れる」ということです。
東洋医学でいうところの腎とは、現代の腎臓とは異なっており、腎精(ジンセイ)を蓄えており、この精を使いながら身体を成長発育させていく働きがあります。
残念ながら、この腎精は20〜30代をピークに年齢とともにどんどん消費されて失われていきます。
腎精は年齢を重ねるとともに減少してくため、肉体が衰えると髪の毛も薄くなったり、艶がなくなり、白髪になっていく、いわゆる老化現象を引き起こします。
腎精は生命エネルギーのようなものなので、加齢だけではなく長期間にわたる過労が続いたりする場合も、消耗が早くなります。
そのため、腎精を無駄にしないように長期の過労を慎まねばなりません。
このような腎精の低下が原因の場合は、腎精を補う作用のある「鹿茸(ロクジョウ)」「補骨子(ホコツシ)」「菟絲子(トシシ)」「枸杞子(クコシ)」などの生薬が配合された漢方薬を用います。
代表的な漢方薬としては、七宝美髪丹(シチホウビハツタン)がありますが、これは日本でなかなか手に入りません。
さらに、腎精というのは生命力とほぼ同じなので、簡単には補うことはできません。
髪は血で補う
老化現象としての腎精の不足は、おおむね不可逆性であり、漢方薬をもってしてもなかなか難しいと言えます。
(老化した体を若い人に戻すことができないように)
ですが、一時的な損傷であったり、腎精を消耗し切らないような場合は、「血(ケツ)」を増やすことで、髪の状態を整えることができます。
髪は腎精の作用だけでなく、「髪は血の余り」といわれ、血も関与しています。
血というのは先の症例のように、子宮を栄養して月経を整える作用があるだけでなく、肌や爪、筋肉、髪など全身に栄養を送り届けて、機能を向上させる働きがあります。
髪に艶が出て太くなるのは、血の働きが旺盛であることを示しています。
肌や爪も同様に、血が旺盛であれば、艶が出て健康的な状態に保つことができます。
ですので、症例の女性が漢方薬で月経が整っただけでなく、抜け毛が減って艶が出てきたのも、身体全体の血が満たされたことによって生じたことになります。
血を補う作用があるのは、「地黄(ジオウ)」「当帰(トウキ)」「阿膠(アキョウ)」、さらに髪の毛の血を補う作用が強いのは「何首烏(カシュウ)」といったものがあります。
血を補う代表的な漢方薬は「四物湯(シモツトウ)」「芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)」「温経湯(ウンケイトウ)」「当帰飲子(トウキインシ)」などがあります。
(これらは髪の毛を整える作用というより、血を補う作用のものです)
このように漢方薬では、ピンポイントで髪の毛にアプローチするわけではなく、「血」や「精」を補うことで、髪だけでなく、肌や爪など全身の機能を向上させることができるのです。
その他の髪に及ぼす影響
今までは、腎精や血など髪そのものの栄養不足による影響について解説してきました。
ですが、それ以外にも髪の毛への栄養を送り届けるのを阻害する、流通をストップさせてしまう要因もあります。
一つには、ストレス過多によるものです。
ストレスが過剰になると、血流が悪くなり栄養が全身に巡らなくなります。
他には、湿熱(シツネツ)とよばれる頭皮の油のベタつきによるものです。
頭皮がベタついてしまうと、これもベタつきが栄養の流通を阻害してしまいます。
反対に冷え症が強い場合も、血流が悪くなってしまうので栄養が届けにくくなります。
このように、髪への作用はただ補うだけではなく、体質を見極めて血流が悪くなっていないかも確認する必要があります。
髪に良い養生法
髪の状態を良くするためには、「血」や「精」をきちんと蓄えておくこと、かつ無駄に減らさないようにすることが大切です。
そのためには、漢方薬だけではなく日常生活のさまざまな場面で気をつけるべきポイントがあります。
日常生活の養生法について、東洋医学の観点からご紹介します。
睡眠をしっかりとる
血は寝ている間に作られます。
そのため、睡眠時間が短くなってしまうと血の合成が進まずに不足してしまいます。
血が不足すれば当然ながら、髪への栄養も行き届かなくなってしまいます。
日本人は睡眠時間がとりわけ少ないので、7〜8時間は確保できるようにしたいところです。
食生活①大豆食品
私たちは食べたものを栄養として、血を作り出します。
そのため、口にするもの次第で体にとって必要なエネルギーや血の量が決まってきます。
髪に良いとされるものの1つ目は大豆食品です。
みそや納豆などの大豆食品がおすすめです。
大豆含有の大豆イソフラボンは腸内でエクオールという成分になり、女性ホルモンに似た働きをしてくれます。
・肌に潤いを与えてくれる
・骨密度の減少を防ぐ
・髪に潤いをつけ、抜け毛を防ぐ
・脂質の代謝、糖の代謝を改善 など
食生活②おやつにはナツメ
小腹が空いたら、お菓子を食べてしまう方もいらっしゃるかと思います。
しかし、甘いお菓子は体内で「湿」を生み出し、ベタつきを生み出してしまい、血流を阻害する原因になります。
甘いお菓子の代わりとしてオススメなのが、「ナツメ」です。
ナツメは、甘味もあって美味しく使いやすい食材の一つです。
美味しいだけでなく、鉄分も豊富に含まれていてプルーンの約1.5倍もあるといわれています。
また、良質なタンパク質も豊富に含まれているため、血の素となり、髪を作ったり艶を出すのにうってつけです。
食生活③黒ゴマ
東洋医学では、黒い食べ物は「腎」を補うとされます。
腎を補うことで腎精、そして血を補うことに繋がります。
黒ゴマや黒キクラゲなどは、腎を補う作用があります。
黒キクラゲは毎日摂取するのは大変だと思いますが、黒ゴマでしたらご飯のふりかけにも使えるのでとても便利です。
食生活④唐辛子
唐辛子に含まれるカプサイシンには血流をよくして、育毛効果があるとされています。
こちらも黒ゴマ同様に、七味唐辛子を料理に活用していただくのが便利です。
特に、先にお伝えした大豆との組み合わせがオススメです。
みそ汁に七味唐辛子をかけて食べていただくと、頭皮の血流が良くなり育毛効果を高めてくれます。
まとめ
髪の状態を良くするには、外からのケアも大切ですが、内側からのアプローチもとても大切になります。
そのためには、日頃の養生だけではなく漢方薬も効果的に働くことがあることをお伝えしました。
ぜひ、ご参考にしてみてください。
・腎の状態が髪に反映される
・腎には腎精が蓄えられており、年齢とともに減少する
・腎精を増やすのは難しい
・髪は血の余り
・血は髪だけではなく、肌、爪、筋肉を潤し栄養する
・血を補う漢方薬を用いると髪の質が良くなる
・それ以外にも血流を妨げる要因(ストレス・ベタつき・冷え)がある
・体質に合わせて、血の不足を補うか血流を妨げる要因を除くかを考える
・養生では睡眠と食事が大切








コメント