病態の把握。
きちんと見極めることができれば、慢性的な病気でも漢方薬で素早く改善へと導くことができる。
今回は病態把握を誤ってしまい、治療に時間をかけすぎてしまった症例となる。
症例 10歳 女性 アトピー性皮膚炎
小さい時からアレルギー持ちで、アトピーに苦しんでいた。
ステロイド剤を使いながら、なんとか状態をコントロールしていが、最近は肌の状態が不安定になってきたので、母親に連れ添われて、いらっしゃった。
首周り・顔に赤みがあり、耳裏はガサガサになり、ところどころ切れて、ジュクジュクしている。
調子が悪い時は、お腹周りにプツプツとした丘疹が出ることもある。
コロナ禍でマスクをしているとはいえ、顔周りのアトピーは一番気になるところだ。
なるべく早く炎症を抑えてあげたい。
卵・スギ・ヒノキ・ダニのアレルギーがあり、特に卵アレルギーが強く、経口減感作療法にて治療中である。
やや緊張しやすく、緊張する場面ではお腹を痛めることがしばしばある。
処方(経過)
皮膚症状は、全身状態と患部の状態のどちらを優先させるかが大事になってくる。
詳しくは、過去の記事をご参照ください。
さて、まずは患部の状態から見てみる。
赤み、乾燥、湿潤、痒みがある。
まずは患部の症状に焦点を絞って、治療を施してみる。
ここで注目した点は、熱証と湿証だ。
乾燥症状は気にしなくても良いのか、と思われかもしれないが、乾燥症状は熱証によって蒸された結果で生じることが多いので、治療の順番としては後回して十分である。
むしろ、乾燥症状は漢方薬を服用するより、保湿剤などで外側からケアする方が効果が出やすい。
処方:竜胆瀉肝湯加減
湿熱の代表方剤である、竜胆瀉肝湯をベースに加減したものを処方する。
苦味があるので、飲むのも苦労したようであるが、頑張って服用いただいた。
しかし、1ヶ月ほど服用したものの、パッとした効果は得られない。
湿熱の病態に間違いはないと思うのだが、効果がないとなると、患部の病態ではなく、全身状態の改善に目を向けた方が良いかもしれない。
特に小児の場合はまだ発達の途上であり、身体の陰陽のバランスが整わないことが原因となっている場合もあるからだ。
第二処方:小建中湯
小建中湯は、小児の諸々の症状に幅広く用いることができる処方だ。
特に今回の場合のような、小柄で緊張しやすく筋張った印象の子供には効果を発揮することがある。
1ヶ月程服用してもらったところ、お腹の調子や緊張症状はには改善が見られたものの、肝心の皮膚症状はあまり変化がない。
その後、十味敗毒湯+桔梗石膏に変方するも、効果なし。
さて、どうしたものか。
もう一度、病態を整理してみることにする。
患部の状態を湿熱とみて治療するも、効果なし。
体質的要因として治療するも、効果なし。
そうなってくると、患部あるいは体質判断のどちらかを見誤ったことになる。
しかし、小建中湯で身体の状態が良くなっていることから、体質判断に間違いはなさそうだ。
そこで、改めて患部の状態を確認してみる。
顔や首には赤みと乾燥、耳の後ろは切れていて、そこから浸出液が出ている。
これを湿熱の病態として治療をしたのが誤りなのだろう。
そこで、耳の後ろの病態は一度切り離して考えてみる。
顔と首は赤みと乾燥だけである。
ここだけみると、ただの熱証だ。
湿熱の病態はあるのかもしれないが、比重を考えると、湿<熱であり、熱証を抑える対策が弱すぎたのかもしれない。
そう、竜胆瀉肝湯加減では熱証を抑える黄連が含まれていないのだ。
第三処方:黄連解毒湯
1週間服用したら、赤みがスッと引いている。
今までで、一番良い反応が得られた。
顔の赤み、首の赤みはもとより、耳裏の湿潤も治ってきた。
コロナ禍で常時マスクをしている環境なので、耳裏は完全には綺麗にはならなかったが、その後も良好な状態が続いたので、3ヶ月程服用して治療を終えた。
まとめ
今回の症例は病態把握を誤ってしまい、結果として不要な治療を施してしまった。
患部の状態を、もっと精査する必要があった。
患部の部位によって、一見病態が異なるように見える場合は、どの部位を優先してみないといけないのかも見極めなければならない。
今回の場合、耳裏は常にマスクの紐が当たり、物理刺激が加わっており、それが皮膚に亀裂を作り、浸出液が出るまでになってしまった。
なので、本来の病態は首周りや顔の状態であったはずだ。
そこを見極められなかったのが悔やまれる。
結果的には改善へと導くことができたが、今後もし再発した際には素早く対応したいと思う。
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