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症例紹介

症例27 生理前後の頭痛と胃もたれ

漢方薬には内服薬と外用薬がある。

外用薬は種類が少なく、匂いや色が強烈なので、当店では採用していない。

内服薬にはエキス顆粒剤(細粒剤)や錠剤、丸剤、ドリンク剤、そして煎じ薬(お茶のように煮出して服用)などがある。

患者様の体調や効かせ方、要望などを考慮して、どの剤型を用いるかを決める(エキス剤を使われているところが多い)。

当店では、効き目を重視して、濃度が高い煎じ薬とエキス剤を採用している。

特に煎じ薬は生薬から直接成分を取り出すので、濃度が高い。

効き目を重視する私の薬局では、7〜8割程は煎じ薬をお出ししている。

最初は匂いや味が独特なので、抵抗を感じる方もいらっしゃるが、ほとんどの方は慣れれば問題なく服用できている。

今回は煎じ薬では効きが弱く、エキス剤に変更したところ、調子が安定した症例をご紹介します。

症例 40代 女性 生理前後の頭痛と胃もたれ

昔から頭痛持ちであった。

しかし、ここ数年は特にひどくなっているようだ。

病院で治療するも、なかなか改善がみられない。

そこで、別のアプローチを求めて、漢方薬にたどり着いたようだ。

患者様は、小柄で穏やかな印象の方だ。

頭痛日記もきちんとつけてくださったので、拝見したところ、特徴的な傾向が見られた。

生理が始まってから生理が終わった3日後くらいの間に、集中的に頭痛が発生している。

右の後頭部から肩にかけて痛みが強く、ひどい時は何も出来ず、横になっているしかない。

生理周期や出血量は変化なく、問題は見当たらない。

他の所見

・40歳を過ぎた頃から疲れが目立つようになってきた。

・食後は疲れが強くて、すぐには動けない。

・朝もだるくて、起き上がるにも一苦労する。

・朝は手が痺れていて、うまく動かせない。

・油物やお刺身を摂ると、胃もたれと下痢が生じる。

・冷え症(お腹、腰回り、手足末端、冬はしもやけ)

このような症状、全部は難しいかもしれないが、少しでも漢方薬で軽減できることを期待しているとのこと。

処方の選定

生理関連の頭痛、胃腸の弱り、倦怠感、冷え症などの複数の苦痛を伴う症例である。

このような場合は全部を同時に治していくか、優先順位をつけて、一つ一つを順番に治していくかをまずは考えなければならない。

今回の場合は、頭痛とそれ以外の症状(胃腸・倦怠・冷え)の2つに分けて治療するのが得策だと考えた。

というのも、胃腸の症状と倦怠感と冷えは同時に治療することが可能だと考えられるからだ。

胃腸の弱りがから、エネルギー不足になり、冷えや倦怠感を生じていると考えられる。

一方の頭痛に関しては、生理に関連しているので、別の病態として捉えていく必要がある。

頭痛が一番辛そうであるのだが、頭痛を治療するにも、まずは胃腸を整えないことには頭痛の漢方薬を服用することは難しい。

そこで、胃腸の治療から始めることにする。

第一処方:六君子湯(煎じ薬:乾姜を用いる)

胃腸の治療として、六君子湯を選択した。

1ヶ月ほど服用してもらうと、朝の倦怠感は薄らいできたようである。

だが、胃もたれや下痢の回数もあまり変化が見られない。

生理時の頭痛は、予想通り変化はない。

もう少し六君子湯を服用すれば、胃腸の状態も改善できるかもしれないが、思っていたより効きが良くない。

胃もたれや下痢は食事に気をつければ、ある程度は負担も減るようであり、頭痛の辛さが気になるようなので、頭痛の治療に変更することにした。

冷えが強く、普段から肩こりはあるが、頭痛時は首から肩にかけてコリが強くなること。

加えて、生理に関連して起こる頭痛であることから、血の不足による冷えの頭痛だと考えられる。

第二処方:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(煎じ薬)

この処方を出すにあたっての問題点としては、胃腸の弱さだ。

胃に負担がかかる当帰を服用できるか不安であった。

当帰を少量からスタートさせてみたところ、問題なく服用できた。

服用し始めてから、身体がスッキリしてきて、お腹の調子も整ってきた。

これはイケると思い、継続したところ、生理時の頭痛もだいぶ軽減されて、楽になってきた。

ただし、味が飲みづらくて飲むのも一苦労なようである。

おそらく、処方中に含まれる呉茱萸の味が苦いのだと思われる。

そのため、服用回数が減ってしまったのである。

トータルの成分量が少ないせいか、頭痛の軽減が一定のところで止まってしまった。

お腹の調子も改善はされているが、完全ではなく、頭痛もお腹も中途半端な形になってしまった。

その後、他の処方にもいくつか変えてみたが、改善は見られず、結局この処方が一番効果的なようであった。

しかし、苦いので呉茱萸の量を増やすことができない。

このジレンマを解決すべく、エキス剤に変更を提案してみた。

第三処方:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(エキス剤)

飲みやすくなれば、と本人も仰っていたので、試しに飲んでいただいた。

煎じ薬よりは飲みやすいようなので、試してみることにする。

すると、エキス剤に変更してから1ヶ月後の生理では頭痛が全く生じなかった。

さらに、継続して服用してもらうと、翌月も頭痛は全くなかった。

同時にお腹の調子も安定してきて、下痢や胃もたれもほとんど出なくなった。

翌月からは服用量を2/3(1日3回→2回)にして、さらに翌月は1/3(1日1回)と減らして、廃薬した。

考察

処方の選定に時間がかかってしまい、治療を終えるのに10ヶ月かかってしまった。

選定に迷いがなければ、ひょっとしたら、もっと早く治療を終えることができたかもしれない。

今回の症例から学んだことは3つ。

①煎じ薬ではなく、エキス剤(粉薬)の方が効果的であったこと

②味が苦手でも効果はあること

③六君子湯ではなく、当帰四逆加呉茱萸生姜湯で胃腸の状態が改善したこと

①について

一般的にはエキス剤より、煎じ薬の方が成分量抽出量が多いため、効き目を実感される方は多いと感じる。

ただ、今回の場合は処方に含まれる呉茱萸が苦くて、煎じ薬では服用量が少なくなってしまった。

結局、エキス剤の方がトータルの呉茱萸の量が多くなり、頭痛の軽減につながったのだと考えられる。

(呉茱萸は胃の冷えによる吐き気や頭痛に用いる)

②について

一般的には漢方薬の味が美味しく(抵抗なく)感じられると、効果を実感しやすいことが多い。

そのため、苦味が強い呉茱萸といえども、抵抗なく服用できる人がいる。

今回の場合は服用にはかなり苦戦したが、効き目は実感できた。

このことから、味が苦手であったとしても必ずしも効果が出ないわけではないことがわかった。

③について

体質的に虚弱であり、胃腸も決して強くはない方であった。

一般的には、四君子湯や六君子湯などの胃腸を鼓舞する漢方薬を用いるべきところであるが、効果の実感には時間がかかりそうであった。

対して、冷えの改善に用いる当帰四逆加呉茱萸生姜湯が下痢や胃もたれなどの症状を軽減させた。

これより、呉茱萸が頭痛のみならず、胃腸の状態を改善したと考えられる。

思い返せば、患者様の旦那様は暑がりで、夏場も冷房が強くて、家の中でも冷えを感じていた。

常に冷えにさらされていたことから、血流が強く阻害されてしまい、その結果、胃腸もかなりの冷えがあったのだと思われる。

胃腸の弱り=人参剤を用いるという、固定観念が処方の選定を鈍らせてしまったようである。

まとめ

今回の症例では患者様の体質のイメージに考えが引っ張られてしまい、処方の選定にバイアスがかかってしまった。

患者様を素直に診るということがいかに難しいか、毎度のことながら、漢方の奥深さを感じた症例である。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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