症例紹介

症例1 良性発作性頭位めまい症に桂枝加竜骨牡蠣湯

はじめに

「歳をとると、体が思うように動かなくなって、嫌になってしまう」

普段、患者様と接していると、よく耳にする言葉です。

食生活が豊かになり、医学も発達したとはいえ、以前より老化を遅らせることができるようになりましたが、完全に食い止めることはできません。

歳を重ねると、なんかしら身体に影響が出てくるのは致し方なく、特にご自身の弱い部分にダメージが出やすくなります。

この症例では年齢とともに、もともと弱い三半規管がさらに衰えて、良性発作性頭位めまい症を発症した方についてご紹介します。

ご相談の詳細

80代 男性 7月来店

<症状の特徴>

5〜6月にかけて、3回フラついて転倒しました。ここのところ、聴力も衰えてきて3年前から補聴器を付けています。

フラつく時は回転性のめまいではなく、フワッとする感じで、いずれも頭や身体を動かした時に生じます。40歳の頃にメニエール病を発症して、その時はひどい回転性のめまいでつらかったのですが、今は起きていません。

病院で検査をしましたが、脳には異常がなく、良性発作性頭位めまい症として診断を受けました。

<その他の症状>

毎日ウォーキングを欠かさず、糖尿病も患っているため、食事制限もきっちりと行っています。

毎日6時間眠っていますが、夜中にトイレで3回ほど目覚めてしまいます。また、朝のウォーキングの途中にオナラをすると大便がもれてしまうことが多々あって、困ってしまいます。

どのように治療したか?

最初は、糖尿病も患っているため、糖尿病の治療薬の副作用として低血糖を起こし、ふらつきが生じていると考えました。しかし、本人に確認したところ、低血糖の時のフラつきとは違うとのことでしたので、漢方薬による治療を開始することにしました。

さて、どうしたものか。聴力が落ちていることから、耳の機能がおとろえて、その結果平衡感覚が鈍っているのだとしたら、漢方ではどうすることもできません。高齢のため、一度失われた聴力を漢方薬で復活させることはできないのですからです。

ですが、夜間の排尿や大便失禁などの症状があることから、自律神経のコントロールができれば、改善する可能性はゼロではないと考えました。

高齢になると、活発に動き回ったり、膀胱や肛門を引き締める力出あったり、耳の機能を高める「陽」の力を高める力や反対にリラックスして、睡眠の質を高めたり腸の動きを落ち着かせたり、耳の興奮を鎮めて沈静化する「陰」の力がおとろえてしまいます。

そこで、陰陽の力を高めることで、自律神経を整えて耳の機能を安定化する処方をお出ししました。

処方:桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)

最初は1週間お出ししましたが、目に見えた変化はありませんでした。それどころか、一度激しい目眩が起きてしまいました。話を伺ってみると、前日に夜更かしをしていたとのことでしたのでしたので、調子が安定するまでは睡眠時間は削らないようにお願いしました。

さらに、同じ処方で2週間服用したところ、めまいは綺麗さっぱり起こらなくなりました。それどころか、同時に夜間の排尿も3回→0〜1回になり、非常に喜ばれました。

「身体全体の調子がいいようだ」

と嬉しそうに仰っているのが、とても嬉しく思います。

まとめ

高齢の方のめまいの治療は、難しいと感じています。特に耳が衰えてきている方は、漢方薬でも治せないことがあります。今回は陰と陽のバランスのゆがみが原因となって生じためまいでしたので、改善することができました。それどころか、夜間尿まで改善ができました。

漢方薬は全体を見る医療ですので、めまいを治したというよりも全体のバランスを整える治療をするため、一つの処方で複数の症状が改善されたのです。もちろん、すべての病気を治せるわけではありませんが、冒頭にあるように、

「歳をとると、体が思うように動かなくなって、嫌になってしまう」

と、あきらめてしまう前に、いちど漢方専門の医療機関にご相談してみては。

当薬局でも、めまいのみならず耳鳴りや頻尿、腰痛なども対応しております。お気軽にご連絡ください。

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今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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