葛根湯加川芎辛夷は花粉症や副鼻腔炎によく用いられる処方です。
葛根湯と名前が似ているのですが、使い方には違いがあります。
今回は葛根湯加川芎辛夷について、歴史的な背景を踏まえて解説していきます。
葛根湯についてはこちらよりご覧ください。
コラム「葛根湯の使い方・飲み方」
出典
葛根湯加川芎辛夷の出典は明確に定まってはいませんが、『本朝経験方』とされています。
『本朝経験方』とは、日本で従来経験されて得られた処方のことで、いわば日本オリジナルの漢方薬のことです。
とはいえ、葛根湯加川芎辛夷は葛根湯に「川芎(センキュウ)」と「辛夷(シンイ)」という生薬を「加」えたものなので、完全にオリジナルというわけではありません。
この処方はもとは江戸時代の頃、「浅田飴」のルーツとなる処方を考案した浅田宗伯(アサダソウハク)先生の書物にさかのぼります。
(厳密にはもう少し前からになりますが)
浅田宗伯の『勿語薬室方函口訣』(フツゴヤクシツホウカンクケツ)という書籍の葛根湯の項目に「・・・(葛根湯に)川芎、大黄(ダイオウ)を加えて脳漏(副鼻腔炎)、眼耳の痛みを治す」が有名です。
最初は「葛根湯加川芎大黄」として用いられていて、昭和の時代の大塚敬節先生や矢数道明先生、山田光胤先生などが葛根湯加川芎辛夷の形で使うようになったと言われています。
山田光胤先生は葛根湯加川芎辛夷を作ったのは、大塚敬節先生であると述べています。
「本方は浅田宗伯の葛根湯加川芎大黄を基としたと思われる大塚敬節の創案で、光胤が倣って常用し、次第に普及した。」
『漢方処方 応用の実際 / 山田光胤』(南山堂)P89
命名について
医療用医薬品における命名には、葛根湯加川芎辛夷と葛根湯加辛夷川芎の二つがあります。
葛根湯加辛夷川芎:小太郎漢方製薬株式会社
このように小太郎漢方製薬だけが葛根湯加辛夷川芎となっていますが、それ以外は葛根湯加川芎辛夷となっています。
私もさまざまな著書を拝読しましたが、どれも葛根湯加川芎辛夷の記載になっています。
なぜ小太郎漢方だけが葛根湯加辛夷川芎となっているのかは不明ですが、名前は違っても入っている成分自体には変わりはないので効能効果に違いはありません。
葛根湯加川芎辛夷の中身
葛根湯加川芎辛夷は葛根湯(7種類)に川芎と辛夷の2種類を加えたものになります。
葛根(カッコン)・麻黄(マオウ)・桂皮(ケイヒ)・芍薬(シャクヤク)・生姜(ショウキョウ)・大棗(タイソウ)・甘草(カンゾウ)・川芎(センキュウ)・辛夷(シンイ)
麻黄+桂皮:体表面を温めて、体表面の血流を上げて、発表(悪いものを追い出す)させる作用
生姜+大棗+甘草:胃腸を保護する作用、胃腸を元気づける作用
川芎(センキュウ):頭痛改善、化膿を抑制する作用
辛夷(シンイ):鼻づまり、鼻炎を改善する作用
葛根湯に比べて、「鼻炎などの鼻症状」と「頭痛症状」を緩和させる作用が強化されています。
葛根湯加川芎辛夷の効能効果
葛根湯加川芎辛夷の適応は「鼻づまり、蓄膿症(副鼻腔炎)、慢性鼻炎」になります。
葛根湯は風邪の初期症状や肩こり、耳鼻科領域、皮膚科領域など幅広い病気の初期症状に適応があります。
普通に考えれば、含まれいている生薬が増える葛根湯加川芎辛夷の方が葛根湯より対応できる病気が増えるかと思います。
しかし、適応病名にあるように葛根湯加川芎辛夷になることで反対に「鼻の炎症」に特化した漢方薬になっています。
それは、辛夷と川芎の作用のためです。
これらの働きを一つずつ見ていきましょう。
川芎の作用
葛根湯加川芎辛夷の前身の処方に、葛根湯加川芎大黄というのがあります。
葛根湯加川芎大黄は『勿語薬室方函口訣』によれば「脳漏(副鼻腔炎)、眼耳の痛みを治す」とあるように、鼻・眼・耳の症状に用いられています。
葛根湯に追加されている「川芎・大黄」の組み合わせは、芎黄丸(キュウオウガン)という処方になります。
この芎黄丸は「頭部の熱症状に有効」とされています。
大黄(ダイオウ)は熱を冷まして下す作用があります。
対して川芎は体の上部(特に頭部)に作用する働きがあります。
つまり、芎黄丸は川芎で頭部に薬の成分を届けて、大黄が頭部の熱を冷ますという組み合わせになっています。
辛夷の作用
辛夷(シンイ)は鼻に特化した作用を持つ生薬です。
とりわけ、鼻炎や副鼻腔炎には真っ先に用いるとされています。
辛夷を含む代表的な漢方薬に、「辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)」があります。
こちらも副鼻腔炎に用いる処方で、辛夷の影響が大きいとされます。
辛夷は鼻の炎症を緩和させることで、鼻の通りをよくして鼻炎症状を軽減してくれます。
辛夷の匂いを嗅いでみると、薄荷のようなスーッと鼻を通る香りがします。
川芎と辛夷の組み合わせによる作用
葛根湯加川芎大黄では、川芎と大黄の働きにより作用する部位が頭部(眼・鼻・耳)に限局されました。
さらに、葛根湯加川芎辛夷になることでもっと作用部位を狭めて「鼻」に効かせるようにしています。
つまり、辛夷と川芎を組み合わせることにより、広範にわたる葛根湯の働きを鼻に限定して、鼻専用の漢方薬になるということがわかりました。
江戸時代〜昭和期の漢方の大家の方々が、長年の臨床を踏まえて導き出した実践的な漢方薬といえます。
葛根湯加川芎辛夷の症例 / 関連コラム
コラム「症例64 寒暖差アレルギーに葛根湯加川芎辛夷が奏効した症例」
コラム「症例47 花粉症に葛根湯加川芎辛夷が奏効した症例」
「花粉症・鼻炎の漢方薬治療」
葛根湯加川芎辛夷の応用
私自身の体験になりますが、スギ花粉が盛んになる2〜4月頃は葛根湯加川芎辛夷を用いる機会が多くなります。
花粉症状でも「鼻づまり」をメインに訴える方には、葛根湯加川芎辛夷を選択することが多いです。
他にも風邪症状をこじらせて、副鼻腔炎になるような方にも葛根湯加川芎辛夷が適応する場合があります。
これらの場合、葛根湯の適応にあるような「無汗・悪寒」などの症状は無視して使います。
なぜなら、葛根湯加川芎辛夷は「傷寒」(風邪・インフルエンザ)の薬ではないので、「無汗・悪寒」などの風邪の初期症状は気にする必要はありません。
では、葛根湯加川芎辛夷をどのような時に使うのかというと、鼻の症状があり「裏証(体の内部の病気)」が原因ではないこと、「炎症症状が適合しているか」が当てはまっているときになります。
鼻の症状だからといってすべてが葛根湯加川芎辛夷の対象となるわけではありません。
炎症が強くて広範囲にわたる場合や化膿が強い場合は葛根湯加川芎辛夷に別の漢方薬を加えるか、そもそも最初から炎症を抑える力が強い漢方薬で対応する必要があります。
また、副鼻腔炎が慢性化した場合や再発を繰り返す場合は、鼻の炎症だけではなく体の内部の炎症が波及している可能性があるので、その場合は葛根湯加川芎辛夷の適応とならなこともあります。
この辺りは臨床を積み重ねて見極めていくしかないと感じています。
まとめ
葛根湯加川芎辛夷は適応する病名がはっきりしているので、とても使いやすい処方です。
しかし、その分応用範囲が狭く幅広きい病気には対応できません。
花粉症状がつらい方や副鼻腔炎を発症している方に適応となる場合がありますので、お困りの方はぜひ一度漢方専門の医療機関にご相談ください。












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