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養生

漢方に学ぶフレイル予防と養生

2022年現在、日本では高齢者(65歳以上)の割合が28.9%となっています。高齢化率はこの先も高まっていき、2050年には37.7%にまで上がっていく見通しです。2021年の平均寿命は男性が81.47歳(世界3位)、女性が87.57歳(世界1位)となっています。日本は長寿の国として、世界に誇れる高度な医療だけでなく、長年の生活習慣や考え方にも長寿の秘訣があるように思います。そこで、この記事ではフレイルを予防するために、長年の歴史をもつ漢方の理論をもとに解説していきます。

【出典元】
内閣府 高齢社会白書(高齢化の状況)
令和3年簡易声明表(厚生労働省)

平均寿命と健康寿命の違い

平均寿命とは、0歳の赤ちゃんが何歳まで生きられるかを示す数値です。文字通り、生まれてから命が尽きるまでの年齢のことを指します。

それに対して、健康寿命という指標があります。健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを指します。例えば、病気や足腰の弱りなどで介護がないと生活できない状態になってしまったら、健康寿命を過ぎてしまったと判断できます。

令和元年における日本人男性の健康寿命は72.68歳、女性は75.38歳となっています。近年は健康寿命を伸ばすことが提言されていますが、日本は健康寿命でも世界一(男女平均値において)となっています。しかし、平均寿命と健康寿命の差(令和元年)は男性で8.73年、女性で12.06年です。
どうでしょうか。差が大きいと感じるでしょうか。だいたい亡くなる最後の10年くらいは、健康寿命を過ぎてしまい、何かしらの不自由な生活を送ることになります。

誰もが「ピンピンコロリ」と生涯を全うしたいと思っているかともいますが、現実はなかなか難しいようです。(*皮肉になりますが医療が充実したことも、健康寿命と平均寿命との差が生まれている要因にもなっているような気がします。)

かくいう私もピンピンコロリを目指したいと思ってしまうものです。そのためにも、健康寿命を延ばして、平均寿命との差を縮められるかが養生の基本となります。

【出典元】
e-ヘルスネット 平均寿命と健康寿命
健康寿命の令和元年値について(厚生労働省)
健康寿命と平均寿命の違いとは?健康寿命を延ばすポイントも解説します!(楽天保険の総合窓口)

高齢者とフレイル

健康寿命を延ばすためには、フレイルについて理解しておく必要があります。フレイルとは、加齢により心と体が衰え弱った状態のことをいいます(*英語「Frailty(虚弱)」が語源)。

年齢を重ねれば、誰でも身体が弱ってくるのは仕方のないことですが、フレイルは要介護の一歩手前の状態です。ですので、フレイルの状態を放置すると、必然的に要介護になってしまい、健康寿命をまっとうしてしまったことになります。

しかし、フレイルは健康と要介護の狭間のことなので、正しく対策を行えば健康状態に戻ることが可能だということです。ですので、「身体が弱ってしまったからもうダメだ」とか、「年だからやりたいことがあるけど、諦めよう」とせずに、しっかりと対策を行うことが大切です。

次のような特徴が見られる方は、フレイルと判断します。

項目評価基準
体重減少6ヶ月で2kg以上の(意図しない)体重減少
筋力低下握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度通常歩行速度<1.0m/秒*
身体活動①軽い運動・体操をしています

②定期的な運動・スポーツをしていますか?

上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答

2020年改訂 日本版CHS基準(J-CHS基準)

*歩行速度1.0m/秒
歩行者用信号機がある横断歩道を、青信号の間に安全に渡りきれる速さのこと

★フレイル:3項目以上当てはまる場合
★プレフレイル:1〜2項目に該当
★該当なし:ロバスト(健常者)

【出典元】2020年改訂 日本版CHS基準(J-CHS基準)より作図

「健康⇄プレフレイル⇄フレイル→要介護」
このように、健康とフレイルは振り子のように行ったり来たりできる状態のことです。ですので、身体を動かせるうちに、事前に対策をしてフレイル対策をしましょう。

【出典元】
公益社団法人 東京都医師会
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

なぜ漢方から養生を学ぶのか?

漢方は中国医学を起源にもち、2,000年以上の歴史があります。(漢方についての詳細は「漢方薬について」をご参照ください。)

漢方は身体に起こるさまざまな症状を、単に病気とみなすだけではなく心身の不調和を原因とみなします。そのため、漢方治療は病気を治すというよりも、病気になってしまった身体そのものを立て直すことを目標とします

加えて、漢方は薬物治療だけでなく、未病(ミビョウ)といって、病気にはなっていないものの、身体の不調が出始めつつある状態を予防する考えがあります。

時代が変わると病気の種類は変わっていきますが、ヒトの身体の中身が大きく変わることはありません。そのため、長い歴史の中でヒトの体に焦点を当ててきた漢方の養生法は、いつの時代にも応用することができるのです。

フレイルは腎の衰えと陰陽の不調和

漢方でフレイルを予防するためには、漢方独自の理論について理解しなければいけません。結論から言うと、漢方で考えるフレイルは「腎の衰え+陰陽のバランスの乱れ」です。そのため、腎の機能を高める(維持する)こと、陰陽のバランスを整えることが漢方養生になります。まずは、腎と陰陽について詳しくご紹介していきます。

腎は生命エネルギーの源

漢方理論の一つに「五臓六腑」があります。五臓六腑はヒトの臓器の数を表しており、五臓には「肝・心・脾・肺・腎」、六腑は「胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦」(*五臓六腑についての詳細はここでは割愛します)となっています。

その中でも、フレイルと特に関わりの深い臓器が「腎」です。腎は現代医学の腎臓と似た機能がありますが、少し異なります(なにせ、この理論は2,000年以上前の理論をもとに考案されたものですから)。腎の働きは次のようになっています。

<腎の役割>
①腎は精を貯蔵する
漢方でいう精とは「生命力」そのものを指します。そのため、腎が旺盛だと発育や成長、生殖能力や寿命などに大きく影響します。また、骨を形成したり、脳に栄養を送り脳機能を活発にする作用があります。
②腎は水をコントロールする
腎は水分代謝の役割を担っています。とりわけ、膀胱と密接につながっているため、泌尿器のトラブルは腎に関連しています。
③腎は納気をコントロール
納気とは気を納める、つまり「肺が呼吸によって取り込んだ空気を深く引き込み腎に納める」ことを意味します。現代医学では理解し難いことですが、漢方ではこのように考えます。ですので、腎は肺と連携して、呼吸の状態を整えていると言えます。

このように腎は現代医学の腎臓とは異なる働きをする臓器として考えられています(現在の腎臓とは区別してご理解ください)。中でも「精を貯蔵する」機能がもっともフレイルと関連します。

腎機能の低下は老化の現れ

腎は生命力を担う精を有しているので、腎が衰えるとさまざまな症状が現れます。

<腎の衰えによる現象>
・生殖能力が減退→消失する
・身体が衰えて、気力がなくなる
・骨が脆くなる
・足腰の筋力が落ちる
・脳機能の低下(記憶力・認知力などの低下)
・聴力の低下、耳鳴りなど(腎は耳とつながっているため)
・抵抗力(免疫力)が低下
・呼吸機能の低下(納気の働きの低下)
・小便のトラブル(頻尿・夜間尿・尿もれなど)
など

年齢と腎精の関連

腎精の強さ(量)は年齢に大きく依存します。当たり前のことですが、若い頃の方が精が充実しているので身体が充実して、元気に活動できます。一方で、高齢になればなるほど、精は減少していくため、身体は衰えていきます。これは古来から不変のことで、今から2,000年以上前に書かれた書物(『黄帝内経・素問・上古天真論』)にも年齢による身体の変化についての記載があります。
女性の腎精の変化(体の変化)については、次のようの述べられています。

女性七歳になると腎気(腎精)が盛んになり、歯が生え変わり、髪の毛も長くなります。
十四歳になると腎精が充実・成熟し、月経が始まるようになります。
二十一歳になると、腎気が充満し、親知らずが成長して、身長ものびきります。
二十八歳になると、筋骨がしっかりして、毛髪の伸びも極まります。この時期は身体が最も強壮になります(腎気が一番充実)。
三十五歳になると、だんだんと顔がやつれ始め、頭髪も抜け始めます。
四十二歳になると、顔はまったくやつれて、頭髪も白くなり始めます。
四十九歳になると、月経が止まります。そのため、身体は老い衰えて、もう子供を産めなくなってしまいます。」

男性の場合は次のようになっています。

男性八歳になると、腎気(腎精)が充実し始め、毛髪は長くなり、歯が生え変わります。
十六歳になると、腎気が旺盛になり、発育して成熟し、腎気が充満して、射精することができるようになります。
二十四歳になると、腎気は充実して、筋骨はしっかりして、親知らずが成長し、身体もまた伸びて極まります。
三十二歳になると、筋肉が強壮となり、最もたくましくなります(腎精が一番充実)。
四十歳になると、腎気が衰えだし、頭髪は抜け、歯は痩せて衰えてツヤがなくなります。
四十八歳になると、顔面がやつれ、髪はさらにうすくなります。
五十六歳になると、筋肉が衰えて、活動の自由がなくなり、精力も少なく、肉体疲労が極まります。
六十四歳になると、歯は抜けて頭髪も落ちてしまいます。
「年老いてしまうと、筋骨はしっかりしていられくなり、天癸(腎精)もまた尽きてしまいます。そのため、髪の毛は白くなり、身体が重だるくなり、歩くのもおぼつかなくなって、再び子供を産むことができなくなるのです。」

『黄帝内経』によると、女性は7の倍数、男性は8の倍数で身体が変化していき、成長・衰退していくとされています。これは、おそらく生殖能力の限界年齢について述べたものです。現在の女性の閉経(生理が終わる)年齢が50歳くらいなので、2,000年以上経った現在でも人の体(腎精の推移)に大きな差があるとは思えずに、大いに参考になると考えられます。

陰陽のバランスを整える

漢方の理論でもう一つ大切な理論に「陰陽」があります。陰陽はもともと古代中国哲学の考えを応用したものなので、抽象的でわかりにくい理論です。ですが、正しく理解すれば日常のあらゆるところで活用できます。

陰陽とは?

陰陽とは、「世の中のあらゆるものを2つに分けたもの」になります。たとえば、夜の象徴である「月」と日中の象徴である「太陽」を比べると、月が陰、太陽が陽となります。同様に下記のようにさまざまなものを陰と陽に分けることができます。

太陽
休息活動
女性男性
(秋)冬(春)夏

 

この表より、陰陽のイメージは月と太陽のように、

陰(月):静か、暗い、冷たいイメージ
陽(太陽):活発、明るい、熱いイメージ

と捉えることができます。

また、陰陽は絶対的なものではなく、比べる対象によって常に変動します。例えば、夏の季節でも夏真っ盛りの時期と夏の終わりを比べた場合、夏真っ盛りを陽、夏の終わりが陰となります。

陰陽はバランスが大切

陰陽は2つのものを比べる時の指標に用います。陰気な人や陽気な人という言葉があるので、どうしても陽の方が優れていて、陰の方がイメージがよくありません。ですが、本来の陰陽はあくまでも2つのものを分類するだけで、優劣は存在しません。他にも陰陽にはいくつか大切な特徴があります。

1)相手がいないと成り立たない
2)陰は陽になり、陽は陰になる
3)陰陽はバランスが大事

ということです。

1)相手がいないと成り立たない

陰陽は絶対的なものでなく、あくまでも2つのものを比較して陰か陽かを判断します。そのため、どちらか一つだけでは成り立ちません。例えば、世の中に男性しかいなかったら、人類(生物)は存在できません。

2)陰は陽になり、陽は陰になる

なぞなぞみたいに思えるかもしれませんが、そんなに難しいことではありません。例えば、四季を考えてみると良いでしょう。寒い冬(陰の時期)からだんだん暖かくなって、春(陽への転換)となり、さらに暑くなると夏になります(陽が極まる)。その後、だんだん気温も下がり秋になり(陰への転換)、また冬(陰が極まる)になります。このように、陰陽は固定化されずに常に揺れ動きながら、転換していきます。

3)陰陽はバランスが大事

1)と通ずるところですが、陰陽に優劣はなくどちらが多ければ良いというわけではありません。両方のバランスがとれた状態を最適とします。例えば、人の体温は身体を温める陽の性質と身体の熱を冷ます陰の性質のバランスで成り立っています。そのため、陽が過剰になってしまうと体温が上昇してしまい、反対に陰が過剰になってしまうと体温が失われてしまいます。陰と陽のバランスが取れることで、体温調節がコントロールされています。

陰陽はお互いを区別するものですが、バランスが大切であるということです。

養生に活用できる陰陽の指標

では、実際の日常生活に陰陽をどう活用していけば良いのかを説明します。陰陽は相対的なものなので、比べる対象によって、コロコロと入れ替わります。ですが、養生にとって大切な陰陽は①人体②時間帯での比較になります。

①人体での比較物質面機能性
②時間帯で比較夜間日中

それぞれ一つずつ見ていきましょう。

①物質面(陰)と機能面(陽)

一つ目が人体を陰陽に分けた場合になります。

陰:物質面(目に見える形)、肉体
陽:機能面(目に見えない)、活発度合い

人はこの陰陽を両方併せ持つことで、日々の活動を行うことができます。陰だけではただの置物ですし、陽だけでは空気と同じです。陰陽が充実していることが、健康の尺度になります。ですので、陰陽をいかに整えていくかが養生にとって大切になります。

もう少し具体的にみていくと、

陰:筋肉、血液、内臓、毛髪、細胞、骨、爪など身体を構成するもの全て
陽:身体を動かすエネルギー、食欲(食量)などの胃腸の動き、声の張りなどの肺の強さ、元気に動き回れるか、免疫力など

人の体は陰(物質面)と陽(エネルギー)が一緒になって組み合わさることで、生命活動を行うことができます。

②時間帯で分ける陰陽

もう一つ、陰陽で大切なことは時間帯で分けられるということです。夜の時間が陰、日中は陽の時間になります。この陰陽の時間を意識して、日常生活を送ることが身体のバランスを整えるのに大切になります。つまり、夜である陰の時間はできるだけリラックスして、気持ちを落ち着かせることが大切ですし、反対に陽の時間は活動的に動き回ったり、精力的な行動をすることで、陰陽の時間を最大限に活かすことができます。具体的な内容は後ほどご紹介します。

腎精と陰陽の関係

ここまで、フレイル予防に大切な腎と陰陽について説明してきました。両者はお互いに独立しているのではなく、密接につながっています。腎には精が宿っていますが、その精は陰陽から成り立っています。つまり、腎精の根本は陰(物質面)と陽(機能面)が合わさったものになります。陰陽の面から見ると、陰(物質面)と陽(機能面)は、腎精に宿っていると言えます。そのため、腎精を高めることは陰陽を高めると言えますし、陰陽を高めることは腎精を高めることにもなるので、これからご紹介する養生法は腎精にも陰陽にも効果的です。

腎陰:身体を潤して、栄養物質を送り届ける
腎陽:身体を温めて、活力を与える

漢方養生法(腎機能の向上、陰陽のバランス平衡)

養生法というと、「何か特殊なことが学べるのかも」と思うかもしれませんが、おそらくみなさんが誰でも知っているものばかりになります。ですが、当たり前だからこそ大切なことばかりです。ぜひ、知っているだけではなく、できることから実践してみてください。

食事を整える

肉体や活動エネルギーの源になるのは食事です。漢方養生では、飲食の役割は非常に大きく、次のように説明しています。

人のからだは元気を天地から受けてできたものであるが、飲食の養分がないと元気は飢えて命を保てない。元気は生命のもとである。飲食は生命の養分である。だから飲食の養分は人生の毎日でいちばん必要なもので、半日もなくてはならない。
【出典元】養生訓(貝原益軒)中央公論新社

漢方には薬膳の考えがあり、食材一つ一つに効能効果を示しています。これらを一つ一つ覚えて、毎日の献立を作っていけば良いのですが、膨大な量の知識を把握しないといけません。ですが、それは現実的ではないので、もっとわかりやすく実践できる形でご紹介します。食事で大切なポイントは次の2点だけです。

バランスよく食べる

「バランスよく食べましょう」

この言葉は、物心ついた時から今まで何度も耳にしてきた言葉だと思います。ですが、これこそ食事で一番大切なことになります。栄養学が発展してきている現在においても、まだ完全なる食材や必要な栄養素がすべてわかっているわけではありません。そのため、単一の食材に全ての栄養素を期待することはできません。

かといって、一つ一つの食材を熟知して、毎日の栄養バランスを考えるのも大変です。そこで、手間がかからずに必要な栄養を補給できる方法が、「旬の食材を活用する」ことです。何も沢山の食材を毎日使う必要はありません。スーパーや八百屋さんで「安くて新鮮なもの」を選べば良いのです。旬の食材を使えば、「栄養価が高い、味が良い、安い」の良いところばかりです。幸い日本には四季があるので、季節ごとに旬の食材が変わるため、1年を通してみれば、バランスのとれた食材を摂取することができます。

漢方では、(真偽の程はさておき…)食材にも陰と陽の性質があるとして、各々の食材に陰陽を振り分けています。

身体の熱を冷ます身体を温める

旬の食材を摂取すれば、陰も陽も整えることができるのです。例えば、暑い夏(陽)にとれる食材(きゅうり・すいか・なす・トマト)は水分が豊富で、身体を冷やす性質(陰)が働きます。そのため、夏には夏の旬の野菜をとることで、身体の陽が過剰にならないようにブレーキをかけてくれます。このように、旬の野菜は季節に応じた身体の不足分を補ってくれます。

タンパク質で陰・米で陽を補う

タンパク質はどの年代にも大切ですが、とりわけフレイルの対策には必要です。タンパク質は陰(肉体)を高めてくれます。また、タンパク質は筋肉や骨、血液を作るだけでなく、男性ホルモンや女性ホルモン、自律神経に関わる脳内伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニン)も作ってくれます。

では、一体どれくらいの量を摂取すれば良いのでしょうか。厚生労働省には以下のように提示しています。

フレイル及びサルコペニア*の発症予防を目的とした場合、高齢者(65 歳以上)では 少なくとも 1.0 g/kg 体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられる。
【出典元】日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書

*サルコペニア:加齢により全身の筋肉量や筋力が低下したりすること

これより、例えば体重50kgの人の場合は1日あたり50g以上のタンパク質量を摂取することでフレイルやサルコペニアを予防できます。
では、食品に含まれているタンパク質量はどれくらいなのか。目安を記載しておきます。

食材含まれるタンパク質量
肉100g約20g
魚一切れ約20g
卵1個約6g
納豆1パック約6g
牛乳200ml約6g

先の養生訓では、肉を食べすぎてはいけないと戒めていますが、肉が一番タンパク質を摂取できるので、現代では意識して摂取すべきです。しかし、一方で肉や魚は「血肉友情」といって、元気を補う食品とされています。目安としては手のひらに乗るくらいの肉と魚を摂取してください。実際に長寿で現役バリバリに働いている方は、肉をたっぷり食べている方が多いです。

ですので、献立を考える際はまずは肉や魚を中心に考えていきましょう。ただし、胃腸が強くない方は肉の脂身が反って負担になってしまうおそれもあるので、脂身の少ない鶏肉を選ぶと良いです。また、鶏肉は身体を温める作用があります。手羽元や手羽先を生姜やネギと一緒に煮込んでスープにすれば、体も温まるし、骨の原料となるコラーゲンも豊富にとることができるのでおすすめです。

お米も大切です。近年はパン食の方も増えて、お米の摂取量が減少しています。また、お米は血糖値を上げるから、なるべく食べないように控えている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、お米は元気の源です。元気の気は「氣」とも書き、「氣」には米という字が入っています。実際、お米は東洋医学の効能として、「補中益気(ホチュウエッキ)」の働きがあるとされています。補中益気とは、お腹(胃腸)を補い元気付ける働きです(陽の作用)。そのため、朝ご飯はパンよりもお米を食べるのをオススメします。そして、お米を食べるなら、お供には味噌汁がオススメです。味噌は大豆(タンパク質)ですので、陰を補うことができます。お米と味噌汁で陰と陽の両方を補うことができるので、ぜひ朝食には和食を検討してみてください。

腎に効果的な食材

腎を補うのに効果的な食材をご紹介します。腎を補うものは黒いもの、粘りのもある食材が該当します。例えば、黒豆、きくらげ、黒胡麻、海苔、ひじき、山芋、なまこなどです。それ以外にも、豚肉や鶏レバー、うなぎ、えび、たいなども補腎作用があると言われています。

運動量を増やす

運動は陽気がないとできません。ですが、反対に運動をしないと陽気も増えません。そして、身体を動かすための陰(肉体)も必要です。近年はコロナの影響で、活動を自粛して筋力が低下してしまった方も少なくはないかと思います。その影響で陰陽の低下が進んでしまうと、フレイルになってしまいます。人は身体を動かすようにできているので、身体を使わないと使わない部位はすぐに衰えます。そうならないためにも、意識的に身体を動かして欲しいです。

とはいったものの、何をすれば良いのかわかりませんよね。具体的に簡単にできるものから順にご紹介していきます。

家事をする

普段から家事をされている方は、それも立派な運動になります。料理や洗濯、掃除、買い物など、どれも身体を動かす必要があるものばかりです。また、料理の献立を考えたり、料理で手を動かすことは脳の働きにも効果的です。

ウォーキング

ふくらはぎは「第二の心臓」と言われています。ふくらはぎは下半身の血液を重力に逆らって心臓に戻すため、全身の血流にとって大事な役割を果たしています。漢方では、足腰は「腎」が関わっていると考えます。足腰を鍛えることは腎を強化することになり、身体を元気付けます。

ですので、運動の基本は足腰を鍛えることになります。その中でも一番気楽に始められるものがウォーキングです。運動習慣のない方は、まず1日10分からでもウォーキングを取り入れてみてください。

階段を利用する

階段の上り下りも下半身強化につながります。ですが、筋肉が弱っている状態ですと、上るのには一苦労です。そこで、階段を降りることから始めてみましょう。下りの方が疲れない割に、筋肉を使います。また、足元をみながら降りる必要があるので、脳の活性化にもつながります。

かかと上げ下げ運動

ふくらはぎを鍛えるのに効果的な運動になるのが、かかとの上げ下げ運動です。ふらついてしまう方は、椅子や机に手をのせたり、壁に手をついて行うと良いでしょう。ゆっくりとかかとを上下して、ふくらはぎに刺激がくるのを感じましょう。回数には拘らず(最初は5〜10回)、できるようになったら少しずつ回数を増やしてみてください。かかと上げ下げ運動をしたら、しっかりとふくらはぎを伸ばして筋肉を和らげましょう。ふくらはぎの筋肉がついてくると、脚がつりにくくなります。

また、この運動はウォーキングのように外にでなくても行えるのが利点です。雨の日や暑い日、寒い日など、どうしても外に出たくない時でも行えますので、ぜひ取り入れて欲しい運動です。

スクワット・ハーフスクワット

ふくらはぎ同様に大切な筋肉は太ももになります。太ももは筋肉量が多い部位の一つです。ですので、積極的に鍛えていきたい部位になります。とはいえ、いきなりスクワットをすると膝や腰を痛めてしまう恐れがあるので、イスなどの支えを使って行いましょう。最初は45°くらい曲げるだけのハーフスクワットで十分です。1日10回を2〜3セットを目標にしましょう。これでも大変でしたら、もっと減らしてください。最初は筋力をつけるよりもケガをしないようにすることを優先します。

睡眠を整える

睡眠の大切さは今さらいうまでもありませんが、とても大切です。漢方では、眠っている間に陰(血や肉体)が作られると考えます。陰(肉体)が回復すれば、必然的に陽(元エネルギー)も回復してくるので、元気が出るのです。高齢になると睡眠時間が短くなったり、途中で目が覚めてしまうこともあります。睡眠を深くする、つまり夜である陰の時間を効果的にするためにも、日中に陽の活動を多くとることが大切です。日中に身体を動かして陽気を高めていけば、夜は反動で陰の働きが強まり、睡眠の質が上がります。
*陰と陽はバランスを保とうとするので、日中に陽が高まれば、夜は陰が高まります。

何もせずにボーッと1日を過ごしていると眠れなくないのに、日中に思い切り活動をすると夜はストンと眠れることがあるのは、陽と陰のバランスが取れているからになります。

1日の時間の使い方を見直す

朝・昼・夜の行動も陰陽に関わります。ざっくりと陰陽を分けると、太陽が出ている日中が陽の時間、太陽が沈んで暗くなると陰の時間になります。そのため、陽の時間には活動的な行動(家事や運動、頭を使う作業)、陰の時間にはリラックスする(ゆっくりお風呂に浸かる、リラックスできる音楽を聴くなど)ことで、身体が自然のリズムに適合していきます。

フレイルになってしまう人は、陽の時間の活動量が少なく、陰の時間の行動が多くなりがちです。先に紹介した運動を取り入れて、積極的に陽の行動を増やすように意識しましょう。

まとめ

年齢が上がれば、身体が衰えていくのは仕方がないことです。ですが、自分自身の心がけ次第で体の衰えを最小限に食い止めることもできます。そのためには薬だけに頼るのではなく、日頃の生活習慣が大切になっていきます。漢方は治療だけでなく、養生の理論にも優れています。ぜひ、腎を高めて陰陽を整える習慣を心がけて、健康的な生活を送れるようにしていきましょう。

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薬剤師 今井啓太
今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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