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治療について

妊娠中の風邪の治療に漢方薬

妊娠中はホルモンバランスが変動して、さまざまな症状が出やすい。

一方、安全に使用できる薬が少なく、辛い症状をやり過ごさざる終えないこともある。

そのため、比較的身体に優しいとされる漢方薬を求めて、来店される方がいらっしゃいます。

先日、妊娠中の風邪の治療について相談を受けたので、事例をもとに妊娠中の風邪治療の漢方薬について考えてみたい。

相談内容

現在は2人目妊娠中(5週目)である。数日前から、お子様の風邪が移ったようで、病院ではお薬を出してもらえず、相談にいらした。

現症状

・のどの痛み

・鼻水が多い(最初はサラサラ、今は黄色っぽくなってきている)

・熱なし

・倦怠感なし

・咳なし

見た感じは元気そうで、体力の衰えなども見られない。

さて、どうしたものか。

妊娠中でなかった時にはなにを出すか?

まずは、妊娠中ではなかったら、どのように治療をするだろうか考えてみる。

困っている症状はのどの痛みと大量の鼻水である。

頭痛や発熱・悪寒などはないので、葛根湯や麻黄湯などを使う表証は否定される。

一方、食欲不振や熱の上がり下がりもないので、少陽病の正証でもない。

また、陰病に落ちているような、虚証の感じもない。

病位はのどと鼻に限局していることから、肺の病証だと考えられる。

鼻水の状態の変遷から(サラサラ透明〜黄色粘稠)、寒証から化熱して熱証へと移行している状態だ(風寒化熱)。

処方でいうと、小青竜湯→麻杏甘石湯へと移行していく流れだ。

そうするとこの両者の中間である処方を選択するのが、最適だと考えた。

処方:小青竜湯加石膏

実際はどう対処したか?

しかし、現在は妊娠初期の段階だ。麻黄を含む小青竜湯を使うのも抵抗があった。

それは、小青竜湯の裏の処方と言われる苓甘姜味辛夏仁湯の条文が頭に思い浮かんだからだ。

『金匱要略・痰飲咳嗽病』

「水去り嘔止み、其の人、形腫るる者は、杏仁を加えて之を主る。其の証応に麻黄を内るるべきも、其の人、遂に痺するを以っての故に之を内れず、若し逆して之を内るる者は、必ず厥す。然る所以の者は、其の人血虚し、麻黄其の陽を発するを以っての故なり」

これは苓甘姜味辛夏湯から杏仁を加えて、苓甘姜味辛夏仁湯にする時の理由を述べた条文で、身体のむくみに対して、麻黄ではなく杏仁を用いたことが記載されたものである。

麻黄ではなく杏仁を用いたのは、麻黄を使うと「陽を発する」つまりエネルギーの発散と汗の発散による、血の不足を招く場合があるということだ。

今回のケースでは、見た感じの虚弱感は一切なく、一見使用しても良さそうである。

だが、現在は「妊娠中」という特殊な状況にある。

通常とは異なり、常時胎児に栄養を送るべく新鮮な血を送り続けている。

この状況で発表作用にある麻黄剤を使うと、発汗作用で貴重な血を損傷しかねない。

初めての方で体質がよくわからなかったこともあり、処方はせずに、事情を説明して、自然治癒で様子を見てもらうことにした。

妊娠中への風邪の対応はどうすべきか?

今回は安全を期して、処方を見送りしたが、どのような対応の仕方があるのかまとめてみる。

1 )麻黄の入っていない処方を用いる

今回のケースでは、小青竜湯の裏の処方である苓甘姜味辛夏仁湯を用いるのは一つの選択であった。

もしくは参蘇飲なども身体に優しいので、使い勝手が良い。

2 )麻黄剤を短期間使う

麻黄剤といえども、小青竜湯では麻黄の分量と割合はさほど多くはない。

風邪で使う場合は、1〜3日ほどの短期間であるので、辛い症状を長引かせないために、短期決戦で症状を緩和させるのも一つの手である。

3 )様子見する

ちょっとした風邪であれば、数日間様子をみるのも良い選択肢と言える。

不安を抱えたままお薬を使うより、おとなしく休んでいるうちに治ることがほとんどだからである。

というわけで、今後の方針としては

・風邪症状が強い(重い)場合

短期間麻黄剤を使って、症状の改善の軽減を優先する。

・風邪症状が軽度の場合

様子見をするか、どうしても薬を使いたい場合は緩和な処方を用いる。

このように対処したいと考えている。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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