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「漢方で体質改善」

よく目にする言葉である。

実際に私も患者様に説明するときに、わかりやすいように口に出すこともある。

しかし、体質改善とはいかなるものなのか。

さらっと説明すると、患者様がもっている体質、ここでいう体質とは漢方の理論で見た時に、正常から逸脱した状態、これを改善して整えていくことが、体質改善であると考えている。

ただし、実際の治療においては体質改善していく場合だけではなく、まずは苦痛な症状を取り除くことも大事になっていく(これも体質改善とも言えなくはないのだが・・・)。

今回は体質改善を目指すべきか、対症療法的に症状を緩和すべきか、見分けるのが難しかった症例である。

 

症例 40代 女性 手湿疹

 

10年ほど前、妊娠中に左の人差し指に手湿疹が生じる。

出産後も続いて、しばらくすると治るのだが、再発を繰り返していた。

一度、自然に治ったのだが、半年前に今度は右の人差し指に発症するようになる。

痒みが強く、病院でステロイドを処方されるも、一時的にしか改善がみられないので、漢方薬での治療を試みることにした。

患部を拝見したところ、ガサガサになって分厚くなり、浸出液も出てきている状態だ。

赤みはさほどないが、夜や疲れた特に痒みが強くなる。

もともと、アトピー体質で、背中や膝周りも痒くなることがある。

以前、病院で補中益気湯を処方されて、少し皮膚の状態が良くなったような気がしたとのこと。

<その他所見>

舌:淡白紅、歯痕

むくみやすい

 

処方の選定

 

手湿疹は難しい治療だと、個人的には思っている。

以前、一度きれいに改善するところまでいったが、その後再発してしまい、改善しきれなかった苦い思い出がある。

患部の状態は、見るからにかさついており、やや苔癬化している。

ただ、膨らみの部分の下に水の存在がうかがえる。

実際、かき壊すと滲出液がドロドロ出てくる。

そうなると、この皮下の水をどのようにどかすかが、治療の要になると考えられる。

患部は浸出液と乾燥と痒みがある。

なおかつ、アトピー症状をもっている。

これだけの情報が揃えば、患部の病態は「湿熱」だと、すぐにわかる。

ただ、気になるのは補中益気湯(気虚証)が、良かったような気がするという情報である。

もともとの体質としては、補中益気湯の適応があるのだと考えられる。

漢方の治療では、一般的に患部の状態のみならず、全身症状も統合して、治療を施していく。

今回の場合は患部の状態を優先すべきか、全身状態(体質)を優先すべきか、悩ましいところである。

ただ、一般的に皮膚病の治療をする際は、全身症状も大事ではあるのだが、皮膚表面に現れている状態を重視する。

なぜなら、内臓の病気と違って、皮膚疾患は目で見て状態を確認できるからである。

そこで、まずは「湿熱」を改善する治療を行なってみることにする。

1週間後、見事に効果が現れる。

手のジュクジュクした浸出液はなくなり、痒みも軽減された。

ただ、少しつばが増えてきた気がするとのこと。

この唾も、気になることのほどではないとのことなので、継続して2週間服用してもらうことにした。

ところがだ。

1週間服用したところで、連絡が来た。

嫌な予感がして話を伺ったところ、肌の状態はあれから変化がない。しかし、だんだんと粘っこい唾液が増えてきて、さらには口の渇き、胃もたれや胃のムカつきが強くなってしまったので、治療を中断したいとのこと。

明らかな失敗である。

私の選択ミスで患者様に不利益を被ってしまったのが、誠に申し訳ないです。

 

考察

 

なぜ、こうなってしまったか。

最初の1週間は、手湿疹に対して効果が得られていた。

しかし、私は患者様の大事なうったえを見逃してしまったのだ。

「少し唾が増えてきた気がする」

この何気ない一言である。

気にはなっていたのであるが、効果を実感できたので、処方を変えずにそのまま押し通してしまった。

『傷寒論・辨陰陽易差後労復病』

「大病差えて後、喜唾、久しく了了たらざるは、胃上に寒有り、当に丸薬を以て之を温むべし、理中丸に宜し」

この条文より、唾が増えてしまったのは、湿熱を治療したことで、胃に負担が大きくかかってしまったことによる。

もともとの体質が、皮膚治療の漢方薬を受け止めることができなかったのであろう。

「唾が増えた」

この言葉を手がかりに、処方を変更することができたならば、結果は違っていたのかもしれない。

(実際に行なっていないので、結果はわからないが・・・)

補中益気湯が功を奏していたのも、この結果から頷ける。

全身状態と患部の状態が一致しない時は、とりわけ慎重に処方を選択していかなければならない。

また、処方を間違えた時の対処もすぐに取れるように、想定されることを予見しておかなければならなかった。

今回のケースでは、患者様には大変迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちばかりである。

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