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前回は私の力不足で、治療がうまくいかなかった症例をご紹介しました。

症例28 全身状態と患部の状態のどちらを優先すべきか

今回も、皮膚疾患に関する治療の紹介です。

処方の選別に苦慮したが、なんとか著効を得ることができました。

 

症例 90代 男性 夜中の皮膚の痒み

 

5〜6年前から、お風呂に入ってから夜中にかけて、腕や背中、脚に突発的に痒みが出るようになる。

痒みは1時間ほど続くが、その後はスーッと引いていく。

どうやら、身体が温まると痒みが増すようである。

すねの部分は、かき壊して赤みをこえて、赤黒く変色している。

初診の時点では5月であったが、全体の皮膚はカサカサしていて、時折粉をふいている。

身体はやや痩せ気味で、年齢も年齢なので、腰は曲がっており、動作もゆったりとしている。

口調は穏やかでありながら、言葉には力が宿っている。

足はむくみやすく、靴下の痕がくっきりと残っている。

夜中にトイレで起きると、決まって身体中の痒みも出てくる(夜間尿2〜3回)。

食事には大変気を遣っておられて、栄養バランスも申し分ないほどであった。

以前は、病院で処方されたヒルドイドクリームを使っていたが、効果がなかったので、現在は使っていない。

 

処方の選定

 

皮膚の状態、症状の現れ方から、どうやら慢性蕁麻疹のようだ。

患部は赤みのある膨疹が現れていることより、熱証(炎症症状)であることは間違いない。

また、乾燥した皮膚の状態から、炎症の慢性化により患部の水分が蒸されてしまったことがうかがえる(陰虚)。

次に、体質をみてみよう。

高齢であること、あしのむくみ、夜間尿(前立腺肥大もある)、これらは中医学で言うところの腎虚だ。

体質的要因が皮膚に影響しているとすると(全身の肉付きが落ちて、皮膚の潤いが低下している)、陰虚が進行しているのがわかる。

陰虚に伴い、体内の熱を抑えることができなくなり、炎症へと繋がっていったのだと考えれらる(虚熱)。

以上のことから、皮膚の病変を見ても体質から見ても、陰虚であることには変わりがない。

しかし、治療するにあたっては以下の3通りの方法が考えられる。

・皮膚の病変を重視する

・体質的要因を重視する

・病変と体質の両方を考慮に入れて治療する

どれを選択するかによって、選ぶ処方は変わってくる。

前回の苦い失敗もあるので、まずは安全策を重視して体質(陰虚)の改善を目指して、処方を組み立てた。

 

第一処方:六味丸加減

2週間ほど服用していただいたが、皮膚の状態は全く変化はなく、さらに夜間尿も改善は見られなかった。

そこで、早めではあるが皮膚の炎症をとることに方針を転換した。

 

第二処方:消風散(しょうふうさん)

この処方にして2週間、夜の蕁麻疹が少し減ったようである。

さらに2週間続けてみると、少し良いようであるが、効き目が弱い。

そこで、より炎症を抑え込むために黄連解毒湯を追加してみた。

 

第三処方:消風散+黄連解毒湯

これに変えて2週間、蕁麻疹の頻度が3日に1度くらいまで減少する。

また、目立った副作用などもなく、調子は良好である。

そこで、継続して2ヶ月ほどすると、蕁麻疹は跡形もなく消失した。

 

考察

 

第一処方では、安全策をとって体質の状態から、処方を組み立てた。

2週間で効果がまったくみられなかったので、早々と見切りをつけて治療方針を転換した。

体質的要因であれば、本来はもう少し様子を見れば、徐々に変化が見られたかもしれない。

しかし、皮膚病に関してはもう少し変化の兆しが早く出る傾向にある。

そのため、同じ処方を続けるより、変えてしまった方が良い結果につながることが多い。

本来、六味丸は中医学でいうところの腎陰虚の改善に作られた処方であり、皮膚病の目的で作られた処方ではない。

まだ、発育が進んでいない小児や加齢により衰えてしまった腎機能を高める漢方薬である。

六味丸に配合されている地黄は皮膚の潤いには良いが、皮膚の炎症には効果が弱い。

今回の皮膚病が、蕁麻疹のように突発的に出てくるものではなく、ずっと出っ放しであり、赤みも薄いようであれば、六味丸でも良かったかもしれない。

しかし、突発的に出ては1時間ほどで消失する特徴、赤みを帯びていることから、風熱証であることは間違いない。

消風散は風熱証+陰血虚+血熱に対して、著効を得る処方である。

つまり、慢性的な炎症により、皮膚の水分がなくなってしまい乾燥化した状態に用いる処方である。

そのため、消風散により熱証を抑えるだけでなく、熱証により消失した陰血も補うことで、症状は緩和した。

ただ、消風散だけでは炎症を抑える力は不足しており、黄連・黄芩などの強い清熱作用が必要であった。

最初からこの処方に至らなかったのは、前回の反省もあるが、高齢な方であったことから、慎重に処方を選別した。

一般的に年齢が高くなるにつれて、体内のエネルギー(熱量)が減少していくため、強い熱証は生じにくくなる。

しかし、あくまでも一般的傾向であり、個別にみていかなければいけない。

高齢の方の皮膚病に対して、和田東郭は温清飲加減を用いていた。

(温清飲でも良かったかもしれない。)

 

和田東郭『蕉窓雑話』

「壮実な老人で、夜分甚だ体中が痒くなり、強く掻けばこせがさ(痒疹性湿疹)の様な物が出てやがて消え、また掻けばまた出、いつまで経っても止まぬものがある。これは、必ず肝火の強い人である。すなわち肝火により血分が燥し、血燥擦れば益々火が盛んとなり、この繰り返しで本症を現す。四物湯に黄連解毒湯を合わせ、浮萍(ふひょう)を加えて用いれば寄効がある。」

 

年齢が高いと、どうしても虚証(体の衰え)の方に目が行きがちである。

しかし、患部は赤みを帯びているわけだから、フラットな状態で病態をみなければならない。

今回の症例から、年齢にとらわれず、病態を的確にみることの大切さを学ばせていただきました。

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