便秘や下痢などのお腹の不調は軽度であればそこまで気にならないのですが、重くなってしまうと日常生活に支障をきたします。
今回は、お腹がギュルギュル鳴ってしまうのをなんとかして欲しいとのご相談についてご紹介します。
お腹が鳴ってしまうことは、多かれ少なかれ誰でも起こりうるのですが、頻繁にかつ大きな音ですと周囲にバレてしまい精神的にも大きな負担となります。
特に学生ですと静かな教室にお腹の鳴る音が響いてしまい、授業中も気が気でなくなってしまいます。
そのことが不安になり緊張してしまうことで自律神経が乱れて、さらにお腹が鳴りやすくなってしまう、という悪循環におちいってしまいます。
決して命に関わるような大きな病気ではないのですが、本人にとってはとても苦しい状況なので、一刻も早く改善したいことでしょう。
このように命に関わるような病気ではなく、また病院の薬(西洋薬)でも改善が見込めないものの、本人にとって苦痛な症状や病気こそ漢方薬が一番活躍できる場面かと思います。
相談内容
相談者:高校生 男性
相談内容:お腹の膨満感とガス、下痢を伴う腹痛、お腹がゴロゴロいう
中学生の頃から、お腹が張ったりガスが溜まりやすく、腸がゴロゴロと鳴って気になっていました。 特に授業中にお腹が鳴ってしまうのがつらいです。
空腹時にお腹が鳴りやすいですが、そうでない時も鳴ります。 お腹が張るとガスを出すことで一時的に軽減しますが、またお腹がすぐに張ってしまいガスが出やすくなります。
そのせいか、授業中に不安感が出て緊張しやすくなり、緊張すると腹痛を伴う下痢をしてしまいます。 最近は毎日のように下痢が続いています。
甘いものはあまり好きではなく、お菓子はほとんど食べませんし、食生活も気をつけています。
病院で診てもらったところ、器質的な異常はないとのことでした。
処方選択
やや猫背ではあるものの、食事もしっかり取れていて、虚弱体質の印象は見受けられません。
緊張するとお腹の調子が悪くなるようですが、生活習慣はしっかりと整っていて、見た目の雰囲気からも神経質な感じやストレスを抱えているようにも見えません。
お腹の症状が出ることがストレスなのであり、ストレスによってお腹の症状が出ているわけではなさそうです。
また食生活の乱れはなく、特定の食べ物が影響しているわけでもなさそうですので、食事の影響も排除できます。
冷えやのぼせなどの寒熱症状もないので、いよいよお腹の原因となる手がかりがなくなってきました。
そこで、起きている現象に着目して、その現象から病態を考えてみることにしました。
病位(病気の発症部位)は「腸」であることは明白です。
この腸がなんらかの影響で異常な動きをすることで、腸の蠕動運動に異常が生じて症状が起きていると考えます。
この腸の動きは自律神経の支配下にあり、東洋医学的には「気の巡り」が影響していると考えます。
したがって、この病態は「脾胃気滞」(腸の蠕動失調)と決定することができます。
そこで、自律神経を整えて腸の蠕動運動を整える処方にしました。
処方)小建中湯
この処方を1週間服用したところ、下痢が改善しました。
しかし、お腹がゴロゴロするのと、ガスの溜まり具合に変化はありません。
さらに、2週間服用してみましたが、お腹の張りはちょっと良い具合でしたが相変わらず変わりませんでした。
そこで、お腹の張りを「脹満」として捉えて、「厚朴(コウボク)」の入った処方を加えました。
『傷寒論』(66条)
「発汗後、腹脹満する者は、厚朴生姜甘草半夏人参湯これを主る」
厚朴生姜甘草半夏人参湯という長い処方名ですが、「厚朴・生姜・甘草・半夏・人参」から構成されていて、主薬は厚朴になります。
厚朴は、お腹の張りや胸やのどのつまりを解消させてくれる生薬です。 消化管や気道などが痙攣して、動きが鈍ったものを正常化してくれる働きがあります。
この厚朴が入った処方を(厚朴生姜甘草半夏人参湯とは別の処方)加えたら、お腹の張りやガスの溜まり具合、腸のゴロゴロする感じが軽減してきました。
今も継続して服用し、快適な学校生活を送っています。
まとめ
今回の症例では初回の漢方薬だけではうまくいきませんでしたが、処方を組み合わせることで症状の緩和を図ることができました。
一つ目の漢方薬で、一定程度の改善はできたもののまだ物足りないような時は、別の漢方薬に変更するか他の漢方薬を加える選択をします。
今回は一つ目の漢方薬の効果を信頼していたので、小建中湯はそのまま使用して厚朴を追加する選択をしました。
漢方薬をどのように運用するかは難しいところが多々ありますが、組み合わせることで効果を増強させることに成功した症例となりました。
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