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症例紹介

症例70 産後うつ / 二人目出産後の体調維持に漢方薬が奏効

出産前までは体調に異常がなかったのに、産後になってから急に体調不良が生じるようになったと伺うことがよくあります。
過去のコラムにも記載しましたが、出産は女性にとっては大きな体調変化を生じるきっかけになることがあります。

産後の不調についてのコラムはこちらをご覧ください。

今回ご紹介する症例は、一人目出産後に産後うつになったため、二人目出産での産後うつを予防したいというご相談でした。
過去にも産後のメンタル不調についての症例がありますので、よろしければこちらもあわせてご覧ください。

症例内容

相談者:30代半ば 女性
相談内容:二人目出産後の体調不良を予防したい(とりわけ産後うつの予防)

現在は、二人目を妊娠中で来月に出産を予定しているとのことです。
六年前に一人目を出産した直後から産後うつになり、改善するまでに時間がかかったようです。

一人目の出産時は切迫流産となったものの、無事に出産することができました。
一人目の出産直後から旦那さんは仕事が忙しく、初めての子育ても自分一人で見なければならず、いっぱいいっぱいになってしまったようです。

今回の出産では、旦那さんも1ヶ月育休を取得できる予定なので、前よりは精神的な負担は少なくなりそうとのことです。

今回は一人目の出産のような体調不良に悩まされないように、出産前から準備をしておきたいと思い漢方薬の服用を希望して来局されました。

全身状態

食欲・食量:正常 (現在は出産直前でお腹が張って、食量減少)
便秘がち:コロコロ便
低血圧・めまい・立ちくらみしやすい
体力がない、朝が苦手、疲れやすい体質
貧血がち
睡眠良好
腰回り、手足が冷えやすい
手荒れがひどく、乾燥や赤ぎれしやすい

処方検討

産後の対策として、出産直前から漢方薬の服用の開始を希望された症例です。

妊娠中は漢方薬の服用にも気をつけなければならないものもいくつかありますが、漢方薬の服用によって母子にどのような影響が出るかまでは明確にはわかっていません。

ですが、漢方薬の服用に際しても細心の注意を払ってお渡しする必要があります。

幸い、この方は出産直前であり大きな不調が出ていないことから、まずは出産を無事におくれるように陰血の補充(母子への栄養)と余分な水を停滞させない(妊娠中は水分代謝が乱れやすい)ことに配慮した処方をお渡ししました。

処方1)当帰芍薬散

当帰芍薬散は妊娠中に一番よく使われるのではないかというくらい、妊娠中の漢方薬として有名です。
当帰芍薬散は安胎作用(妊娠中の母体と胎児を安定させ、流産や早産などのリスクを減らすための作用)があると言われており、胃腸を保護し、子宮に栄養を送り、体も元気づける働きもあり、妊娠中にも使いやすい処方の一つです。

漢方薬を服用してから1ヶ月後に、無事に出産することができました。

無事に出産できたことは喜ばしいのですが、ここからが本番です。
産後は著しく体力を消耗した状態であり、なおかつ出産のために大きくなった子宮をもとに戻す子宮復古を滞りなく進める必要があります。

そのために、悪露(オロ)(お産のあとの血が混ざったおりもののことで、胎盤がはがれたところや卵膜がはがれて子宮にできた傷からの出血、子宮にたまっていた血液と分泌物や粘液が混ざったもの)をきちんと体外に排出させなければなりません。

そこで、体力の回復と子宮復古を兼ねた産後の漢方薬を処方しました。

処方2)芎帰調血飲第一加減

1ヶ月ほど服用してもらいましたが、順調に悪露も止まり、母乳もしっかり出ているとのことでした。 体力的にもそこまで辛くなく、メンタルも安定していました。

幸いお子さんも夜によく眠ってくれることや、旦那さんの育児休暇取得の影響も大いにプラスに働いたのかと思います。

ただ、体力的に少しつらいこととおへその下や太もも、足先などの冷え、手のほてりがあることから処方を変更しました。

処方3)温経湯

温経湯はさまざまな漢方薬が複合したような構成をしていますが、ベースは体の不足を補いながら温めて、元気をつける働きがあります。
こちらに変更してから体が温まる感覚を実感できるようになり、順調な経過を過ごしています。

この処方を2ヶ月ほど服用したところで、調子も安定しているということで、服用を中止することにしました。

まとめ

今回は産後のうつ対策のご相談でしたが、結局はうつのようなメンタルを安定させるような漢方薬は使いませんでした。
産後は体力や血の不足などがメインにあるため、漢方的には栄養補給に重点をおいた処方を重視することが多いです。

今回はまさに典型的な産前産後の処方を用いることで、産後の母体の回復に寄与できた症例でした。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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