「漢方薬は漢字だらけで読みにくい・・・」
「病院で漢方薬を処方してもらったけど、読み方がわからないから番号で覚えています」
といったお声をよく耳にします。
確かに漢方薬の名前は難しくて、読みづらいですよね。
ですが、漢方薬の名前は適当に付けられているわけではなく、いくつかの法則に従って名付けられています。
この法則がわかれば、漢方薬の名前のもつ意味がわかり、もっと漢方薬が身近に感じられるかもしれません。
そこで、今回は漢方薬の読み方と名前の法則をご紹介します。
漢方薬とは?
漢方薬の名前の法則をご紹介する前に、まずは前提となる漢方薬そのもののおさらいをします。
(詳しくは「漢方薬について」をご参照ください)
漢方薬とは、「複数の生薬を組み合わせたもの」です。
生薬とは植物・動物・鉱物のうちで、薬として用いることができる部分のことです。
生薬の例)
・葛根という生薬は植物クズの根の部分になります
(効能)首や肩の引き攣りを改善します
・紅花という生薬はベニバナの花の部分になります
(効能)血流を改善して、痛みを取り除きます。
このように、それぞれの生薬は固有の働きがあり、組み合わせることで効果を増強したり、副作用を軽減したりします。
漢方薬の例)
風邪の初期に用いる葛根湯は、7種類の生薬を組み合わせたものになります。
葛根、
麻黄、
桂皮、
芍薬、
生姜、
大棗、
甘草
それでは、本題に入っていきます。
漢方薬の読み方
まず、読み方についてです。
漢方薬は漢字だらけで読み方が難しいですが、読み方のルールはシンプルです。
「全部音読み」にすれば良いのです。
麻黄湯→マオウトウ
安中散→アンチュウサン
消風散→ショウフウサン
このようにすべて音読みにすれば、おおかたの漢方薬の名前を読むことができます。
漢方薬の名前のパターン
次に、漢方薬の名前の意味です。
たくさんあるので、可能な限りご紹介していきます。
①入っている生薬名のよる命名
一つ目は、入っている生薬名による名前の付け方です。
代表となる生薬による命名
漢方薬に含まれる生薬の中で、主役(主薬)となる生薬を漢方薬名にしたパターンです。
例)葛根湯、人参湯、呉茱萸湯など
漢方薬名 | 入っている生薬 |
---|---|
葛根湯 | 葛根・麻黄・桂皮・芍薬・生姜・大棗・甘草 |
人参湯 | 人参・白朮・乾姜・甘草 |
呉茱萸湯 | 呉茱萸・生姜・人参・大棗 |
複数の生薬による命名
入っている生薬のうち、2種類以上の生薬名を含んだ漢方薬名のパターンです。
例)当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・柴胡桂枝乾姜湯
漢方薬名 | 入っている生薬 |
---|---|
当帰芍薬散 | 当帰・芍薬・川芎・白朮・茯苓・沢瀉 |
桂枝茯苓丸 | 桂枝・茯苓・芍薬・牡丹皮・桃仁 |
柴胡桂枝乾姜湯 | 柴胡・桂枝・乾姜・黄芩・栝楼根・牡蠣・甘草 |
すべての生薬名を含んだ命名
漢方薬に含まれる、すべての生薬名が入っている命名パターンです。
例)甘麦大棗湯・苓桂朮甘湯・麻杏甘石湯
漢方薬名 | 入っている生薬 |
---|---|
甘麦大棗湯 | 甘草・小麦・大棗 |
苓桂朮甘湯 | 茯苓・桂枝・白朮・甘草 |
麻杏甘石湯 | 麻黄・杏仁・甘草・石膏 |
②入っている生薬の数による命名
含まれている生薬の数を表している、命名パターンです。
例)四物湯・六君子湯・八味丸
漢方薬名 | 説明 |
---|---|
四物湯 | 4つの生薬で構成されている |
六君子湯 | 6つの生薬で構成されている (*現在は、生姜と大棗が追加されて、8つの生薬で構成されている) |
八味丸 | 8つの生薬で構成されている |
③漢方薬の効能/病態による命名
漢方薬の効果効能や病気の状態(病態)を、漢方薬名にしたものです。
例)補中益気湯・抑肝散・四逆散
漢方薬名 | 効能/病態の説明 |
---|---|
補中益気湯 | 補中益気湯=胃腸(中)を補って、元気を益(ま)す 「中」とは身体の真ん中にある、お腹(胃腸)を意味します。 |
抑肝散 | 抑肝散=肝のたかぶりを抑える 肝のたかぶり:脳の興奮状態(めまい・怒り・不眠など) |
四逆散 | 四逆散=四肢(両手・両足)の逆を治す 「逆」:血流が悪くなり、先にまで進めないこと ストレスにより血流が悪くなって、手足末端まで血が届かず冷えるのを治す |
④効能/病態と生薬名を組み合わせたもの
今までご紹介した、2つの命名法を組み合わせたパターンになります。
例)半夏瀉心湯・黄連解毒湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
漢方薬名 | 説明 |
---|---|
半夏瀉心湯 | 半夏:生薬名 瀉心:効能を表す 心を瀉す(心の熱を取り除く) |
黄連解毒湯 | 黄連:生薬名 解毒:効能を表す |
当帰四逆加呉茱萸生姜湯 | *この処方は、漢方薬の中で一番長い名前です(11文字)。 ① 当帰・ 呉茱萸・ 生姜 →生薬名 ②加 →当帰四逆湯という処方に呉茱萸と生姜を加えた 当帰四逆加呉茱萸生姜湯=当帰四逆湯+呉茱萸・生姜 ③四逆 →病態を表す(四肢末端の冷え) ★当帰四逆加呉茱萸生姜湯とは★ 当帰・呉茱萸・生姜を含み、手足末端の冷えを改善する処方 |
⑤2種類の漢方薬名を組み合わせたもの
一緒に使うことが多い、2種類の漢方薬を一つにまとめた処方名。
漢方薬名 | 組み合わせ |
---|---|
柴朴湯 | 小柴胡等+半夏厚朴湯 |
柴苓湯 | 小柴胡等+五苓散 |
柴陥湯 | 小柴胡等+小陥胸湯 |
⑥四神によるもの
中国思想にもとづき命名されたものです。
四方を守る神のことを四神と呼び、それをもとに命名したもの。
北:玄武 | 玄武湯→真武湯に改名 宋代の皇帝(玄朗)と同じ字を用いることが憚られたので、改名された |
東:青竜 | 小青竜湯・大青竜湯 |
南:朱雀 | 朱雀湯 *現在はない |
西:白虎 | 白虎湯 |
まとめ
漢方薬の名前の意味がわかると、中に含まれる生薬や効能効果などがわかるようになります。
漢方薬を服用する際には、名前の意味を考えてみると面白いかもしれません。
<参考書籍>
・実践東洋医学 第2巻(東洋学術出版社)
・実践 方剤学Ⅰ(源草社)
・大塚敬節著作集(春陽堂)
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