今回は「漢方」「中医学」「東洋医学」の違いについて、少しお話をしたいと思います。
このコラムはYoutubeでも詳しく解説しています。
漢方について詳しくはこちらをご参照ください
漢方について勉強されたり調べたりしたことがある方は、インターネットやSNS、書籍などで「漢方」「中医学」「東洋医学」の言い回しが出てくることに気づいたかもしれません。
漢方、中医学、東洋医学は大枠は同じなのですが、指し示すものが異なっています。
結論から先に述べると、それぞれ以下のようにまとめることができます。
・日本で独自に発展した医学
中医学
・中国で発展した医学
東洋医学
・日本、中国、以外にも韓国やインドなど東洋一帯の医学を総称したもの
・日本の漢方のこと
漢方とは
漢方というのは「中国から伝わった医学を日本の気候や風土、日本人の体質に合わせて独自に発展させた医学」のことです。
もっと簡単にいってしまうと、「日本で独自に発展した医学」のことです。
漢方という名前がついたのは江戸時代のことで、ちょうど西洋医学が日本に入ってきたため西洋医学と区別するために「漢方」という名前が付けられました。
中医学とは
それに対して、中医学というのは、「中国の医学」のことです。
漢方も中医学も根っこは中国の医学を基礎にして発展しています。
ですが、日本と中国の気候や風土、気質などの違いから、漢方と中医学は似ているところもありますが、それぞれ独自に発展していったという違いがあります。
東洋医学とは
東洋医学には広義と狭義の二つの意味で使われることがあります。
広義の東洋医学とは漢方、そして中医学以外にも韓国の韓医学、モンゴル医学、チベット医学、インドのアーユルヴェーダ医学、アラビアのユナニー医学、インドネシアのジャムゥなどの東洋一帯の医学を総称したものを指し示します。
東洋医学はそれぞれの地域の歴史、風土、文化的な背景を元にそれぞれ発展してきました。
ただ、東洋医学にはもう一つ狭義の意味として「日本の東洋医学」、つまり漢方と同義語としても使われます。
実際には狭義の意味で東洋医学として使われることがほとんどで、「東洋医学=漢方」だと思っていただければ良いかと思います。
日本で行われている東洋医学治療とは
漢方や東洋医学は日本独自の医療で、中医学は中国の医学だと述べましたが、そうすると日本では中医学は一切用いることがないのかというとそうではありません。
①日本漢方
②中医学
③西洋医学的に漢方を用いる
④その他
①日本漢方
現在日本では、さまざまな流派で漢方薬治療を行っています。
一つ目が昔ながらの日本漢方を継承して治療に当たっているパターンです。
日本漢方にも古方派、後世派などさまざまな流派があり細分化しています。
②中医学
二つ目が中医学の考え方を取り入れて治療を行っているやり方です。
1972年に日中の国交が正常化して以降、現代中医学が日本に入ってきました。
現在は中医学を主体にして治療にあたる医師や薬剤師が増えている傾向にあります(理由は後述)。
③西洋医学的に漢方を用いる
三つ目は漢方を西洋医学的に考えるというやり方です。
漢方や中医学は西洋医学とは異なる体系で構成されているので、一から勉強しなおさないといけません。
しかし、西洋医学にどっぷり浸かっている医師や薬剤師の方ですと一から勉強するのも大変です。
そこで、西洋医学のように漢方薬の働きを体内の神経伝達物質などを用いて、現代医学的に解釈する考え方をします。
しかし、西洋医学的に見るということは病名で漢方薬を決めるということに近く、患者様の体質とかはあまり考慮せずに見るということにもなりかねません。
漢方や中医学の理論があまりわからなくても使えるので、西洋医学中心で治療をしている医師の間で使われていることが多い気がします。
④その他
東洋医学というのはこのようにさまざまな考え方やアプローチの仕方があるため、どれが正解とは言えない物でもあります。
これらを総合して活用したり、新たに新しい理論で漢方治療を行っている方もいらっしゃいます。
私も最初は中医学から勉強を始めましたが、それだけでは行きづまってしまい、今は幅広く役に立つものはなんでも取り入れるというスタイルに変わっています。
漢方は歴史が長いですが、常に時代に合わせてアップデートされていて、今後も新しい考え方やアプローチの仕方が出てくると思います。
漢方と中医学の違いとは
現在の日本では漢方と中医学の両方が入り混じった形で、実際の医療現場では活用されています。
それぞれ長所と短所がありますので、ご紹介します。
・漢方薬全体での効能効果を考えて、漢方薬を組み合わせて対応する
・実践的に考えて、空理空論を排除する
中医学
・生薬単体で考えて、個々人に合わせて生薬を加減する
・理論体系を確立して、学問として成立させた
漢方薬の捉え方の違い
漢方薬は複数の生薬を組み合わせて構成されています。
例えば、葛根湯は「カッコン・マオウ・ケイシ・シャクヤク・ショウキョウ・タイソウ・カンゾウ」の7種類を組み合わせたものになります。
日本漢方では、個々の生薬よりも漢方薬全体としての使い方や効果をみます。
葛根湯の場合、全体として体表面を温めて血流を改善して、風邪や肩こりを改善する処方ととらえます。
日本漢方の場合は、一つの漢方薬では効果が十分ではないと考えた時、もう一つ別の漢方薬を足すという風に考えます。
漢方薬は全体で一つの働きをするので、複数の症状や病態があれば、漢方薬を適宜追加していきます。
一方、中医学は個々の生薬の作用を単体で考える傾向にあります。
葛根湯でしたら、「葛根」が肩や背中の筋肉の凝りを改善して、「桂皮」で血流を改善するといったように考えます。
そして、生薬の組み合わせで漢方薬の効能が決まってくるとしています。
ですので、中医学では既存の処方を用いることは少なく、既存の処方に生薬を新たに追加したり減らしたりして、患者さんに必要な生薬を組み合わせてオリジナルの処方を作成します。
処方というのが生薬の組み合わせでできているので、漢方薬に患者さんを当てはめるのではなく、患者さんに必要な生薬を当てはめていく考え方をします。
理論的か実践的かの違い
中医学は学問としての体系をなすために、理論的に構成されています。
中医学には五臓六腑などの五行論や陰陽論、気・血・津液など、体の生理学や病理学をきちんと体系的にまとめています。
そのため、初学者でも勉強を始めやすく、教える側も教えやすいです。
近年は中医学をベースに勉強される方が多いのも、学びやすい・教えやすいという学問としての中医学が確立されたからです。
特に初学者は何を頼りに治療していけば良いのかは分かりづらいのですが、中医学の理論を勉強すれば、患者様の病態をある程度分類できるようになります。
例えば、生理不順があり、生理前のPMSでイライラしたり落ち込んだりするという漢方相談があった時に、中医学で考えるとこれは五臓の「肝」が異常を来していると病態分類できるのです。
「肝」はホルモンバランスや自律神経と関わりが大きい内臓だからです。
一方、漢方は実践主義です。
中医学はとてもシステマチックで便利なのですが、あまりにも機械的すぎる、もしくは哲学的な面もあって実際の臨床とかけ離れしまうこともあります。
(実際の臨床ではそんなに簡単に患者さんの病気や体質をキレイに分類はできないのです)
日本漢方はとにかく目の前にいる患者さんを治すこと、そのため治療に役立たない理論は無用であるとして、中医学の五行論を否定して、実践的な考えで治療にあたります。
ですが、日本漢方にも欠点があり、なぜこの病気にこの漢方薬が効いたのか、解説本を読んでもイマイチわからないことが多いのですね。
ある程度の実践経験や漢方の勉強をしてきて、やっと理解できることが多いです。
そのため、初学者には非常に勉強がしづらいのが難点です。
そういった意味でも、今は勉強会とか書籍も中医学ベースのものが増えていて、中医学を勉強される方が多くなっている印象です
まとめ
今回は少しマニアックな話になってしまいましたが、漢方と中医学の違いについて少しでも理解をしてもらえたら幸いです。
私は考え方としては実践的な日本漢方が好きで、目の前の患者さんが治ってもらえることを一番大切にしています。
そのために、日本漢方だろうが中医学だろうが良いところどりをしていて日々精進している次第であります。
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