漢方では定番とされている症例になるが、あえて取り上げてみた。
いまいちど基本に立ち返り、処方や病態を深掘りしてみようと思う。
症例 40代 女性 喉のつまり
ここ最近、日中に喉がつまったような違和感が生じ始める。
のどに痰が絡んでいるわけでもなく、咳払いをしても解消れない。
咽喉に病気があるわけでもなく、特段大きなストレスや環境の変化などもない。
ただ、元々緊張しやすい性格で、常に身体に力が入ってうまく力を抜くことができない。
加えて、食いしばりが強く歯が欠けてしまったこともある。
そのため、就寝時はマウスピースをつけている。
病歴:胃癌(胃の2/3切除)
その他:食欲、便通は正常、睡眠良好
処方(経過)
のどのつまり(ヒステリー球)は漢方で言うところの気滞にあたる。
実際にのどには何もないのに、何かつまっている感じ。
とりたいのに取り出せない、このような時に半夏厚朴湯で改善することがある。
実際、この患者様にも半夏厚朴湯を服用してもらったところ、ものの1週間でのどのつまり、食いしばり、あごの重だるさが軽減した。
調子が良いので、1ヶ月半程服用し、症状の安定を確認して治療を終えた。
考察
のどのつまりと言えば、半夏厚朴湯と言われるくらい漢方薬ではお馴染みの処方だ。
なので、考察の必要もないのだが、なぜ効いたのかについて、今後の臨床のために改めて検討してみる。
半夏厚朴湯はなぜ効いたのか?
まずは、半夏厚朴湯の組成を確認してみる。
半夏・厚朴・茯苓・生姜・蘇葉
5味のシンプルな構成だ。
今回、のどのつまりに効いたのは厚朴の働きによるところが大きいと思っている。
一般的に厚朴は気が肺や腸内に停滞して、胸満・腹満といった症状を呈している時に有効とされている。
しかし、漢方に携わっている身でありながら、気の停滞というのは、わかるようでよくわからない。
漢方用語は短くまとまっており、簡便に用いることができるが、雲をつかむようなところがあり、そのため人によって解釈が微妙に違ってくる。
そこが面白いところでもあるのだが、モヤモヤしてスッキリしないのが、なんだか気持ち悪い。
このモヤモヤを解決するには、一つには漢方の理論を明確にして、その中で言葉の理解を明確にしていくことだ。
ただ、西洋医学の知識にどっぷりと浸かってしまっている現代では、漢方の理論だけで生理や病理を理解するのは少なくとも私は困難だと思っている。
なので、むしろ漢方理論を現代の生理学や病理学と関連させて、相互の親和性を見つける方が私には理解しやすい。
そこで、話をのどのつまりの病態に戻して考えてみる。
こののどのつまりの症状は、食道付近の筋肉が過剰に収縮し、食道の内部が細く締め付けられたことによって、生じている。
したがって、症状の改善には食道の筋肉の緊張を和らげる必要がある。
先にあげた厚朴が、まさに食道の緊張を和らげる効果を発揮してくれているというわけだ。
つまり、のどのつまりは漢方的には気滞と定義されるが、その正体は食道の緊張であり、厚朴は食道の緊張を和らげることで気滞を解消しているというわけだ。
また、厚朴は食道のみに働いているわけではなく、腹満にも効果があるということから、消化管全般の緊張を緩めてくれる働きがあると考えられる。
同様に消化管の緊張を和らげる生薬に芍薬がある。
このふたつの生薬の使い分けは、まだ私の中では明確にはなっていない。
今のところは、ざっくりと分けてしまうと、芍薬は緊張による「痛み」、厚朴は緊張による「満(脹り)」といったところだろうか。
このように漢方を現代生理学・病理学と親和させること、一つ一つの生薬の働きがクリアになるので、臨床での応用がしやすい。
そうすると、なにもたくさんの生薬や処方を使いこなせるようにならなくても、数少ない生薬や処方で治療の応用が可能となる(それを実現するにはだいぶ遠い未来になりそうだが・・・)。
年々生薬の価格が上昇しており、さらにミニマリスト、SDGsなどの考えも盛んになってきている昨今、有限な生薬を無駄にせぬよう、一つ一つの生薬や処方の理解をさらに深めていきたい。
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