起立性調節障害は思春期の小児に起こりやすく、立ち上がった時に脳への血流が低下して、めまいや動悸、頭痛などの症状が発症する病気です。
この脳の血流障害は自律神経の乱れによって生じていて、遺伝的な要素だけでなく、生活習慣や天候などによっても左右されることもあります
起立性調節障害をきっかけにして、学校に通えなくなり不登校になってしまったケースの相談にもいくつか遭遇しました。
今回は起立性調節障害により、学校に行けなくなってしまった症例をご紹介します。
起立性調節障害の相談事例
相談者:高校生 女性 やや痩せ型
当店にいらっしゃる1年前に急に体が動かなくなりました。
文字通り体が動かせなくなり、1日中眠っているような状態で0:00に就寝して、眼を覚ますのは翌日の20:00頃です。
20時間ぶっ続けで眠りにつく日が1ヶ月ほど続き、2日だけ元の生活に戻るも、また20時間眠りにつく日が続きました。
その後は少しずつ起きる時間が早まり、なんとか夕方頃には起きられるようになりました。
しかし、拍動性の頭痛や腹痛、倦怠感、肩の痛みなど、さまざまな症状が現れるようになりました。
病院で検査をしてみるものの、なんの異常も見つからず、起立性調節障害と診断されました。
そこで、漢方薬局(当店ではないところ)に相談して、帰脾湯・補中益気湯・桂枝加芍薬湯・亀鹿二仙膠・鹿茸製剤・当帰含有のドリンクなどを服用して、一時は朝7~8時頃に起きられるようになりました。
しかし、しばらくしたらまた起きられなくなりましたが、今は11:00〜12:00頃にはなんとか起きられるようになっています。
その状態で、当店にお越しになります。
当店で相談した時の内容をまとめると以下のようになります。
・1日2食で食事量は本来の半分ほど
・疲れやすく、少し動いただけでぐったりしてしまう
・1日に何度も腹痛(胃のあたり)が痛む
・拍動性の頭痛が頻繁に生じる
・肩が凝って痛い
・手先足先の冷えが強い(体温は35.7℃くらい)
・便通は異常なし
・顔はのぼせやすい
・舌紅
1年前に体調を崩すまでは、学校も真面目に通っていて、勉強や宿題も完璧に終わらせるくらいの真面目さだったほどだそうです。
処方選択
体調を崩す前に相当の心身への負担がかかっていたものと思われます。
しかし、かなり無理をしていたにもかかわらず本人は体調がキツくなっていることを自覚せず、一生懸命に頑張り続けたことで、一気に負担が表出してしまったのでしょう。
手足が冷えるのに頭がのぼせやすいのは、身体が冷えることによって本来の陽気が上に押し出されてしまった状態(「虚陽上浮」)に陥ってしまっているからでしょう。
これを熱として冷やしてしまうと余計に陽気が損傷して、体力を失うことになります。
真っ先に思い浮かんだのは、「陰病」です。
身体の根本的な活動源となる「陽気」と体を形作る「陰血」が著しく損なわれてしまったのだと思います。
今までの頑張りが身体に大きな負担となってしまったこと、思春期の成長過程で自律神経(陰陽)のバランス失調を起こしていることが、この起立性調節障害の本質であると考えました。
陰病においてなくてははならない生薬として、「附子(ブシ)」があります。
これを軸に漢方薬を組み立てていきます。
そして、胃気を上げる「人参(ニンジン)」、全身に陰血や陽気を送り届ける「黄耆」、筋肉の緊張を緩和させる「芍薬」、これらが配合された漢方薬をお出ししました。
症状の経過
1週間の服用で、週に数日7時台に起きられるようになりました。
また、腹痛や肩の痛みの強さも10→5に減少し、発症する頻度も減ってきました。
食欲も少しずつ出てきて、7時台に起床できた時には1日3食を食べられるようになりました。
その後も起床時間も波(7:00〜13:00までと)がありながらも、徐々に早く起きられるようになりました。
その後、2ヶ月ほど服用したところで状態も安定したので、服用は終了となりました。
まとめ
元来真面目な性格だったため、漢方薬も嫌がらずにきちんと服用してくださったことが効果を高めてくれたのだと思います。
起立性調節障害に有名な漢方薬として「苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)」がありますが、これでは効果が今ひとつなことがあります。
漢方薬はマニュアルではなく、一人一人の患者さんのお身体の状態を見極めていかないといけないと実感した症例でした。
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