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養生

食事はおいしく楽しく

漢方というと「漢方薬」をまず思い浮かべる方が多いかと思いますが、漢方は漢方薬だけでなく「鍼灸・気功・太極拳・薬膳・按摩」なども含む、幅広い治療法を表しています。

ですので、治療だからといって何でもかんでも漢方薬を使うのではなく、養生(ヨウジョウ)として食事や運動などの生活習慣を整えることを漢方では大切にしています。

その中でも食事は私たちの身体を育み、日々の活動のエネルギー源にもなるので、養生を行う上で欠くことができないものです。

栄養バランスを考えたり、食べる量を調整することで、身体に必要な栄養素を満遍なく取り入れることができます。

しかし、厄介なことに身体にあまり良くないとされる白砂糖や油を使ったお菓子や揚げ物、またアルコール飲料などは美味しくて、ついついとりすぎてしまう傾向にあります。
これにより体調を崩したり、生活習慣病に陥っている方もいらっしゃいます。

食事で大切なことは「必要な栄養素の入ったものをバランスよく、そして腹八分目に抑えること」です。

そして、身体に不要で悪影響を及ぼすおそれのあるものを可能な限り摂取しないことです。

これが一般的な食養生になります。

しかし、ヒトはロボットのようにすべてが機械的にうまくいくわけではありません。


先日いらっしゃった70代前半のほっそりした女性の方が、とある症状でご相談にお見えになりました。
1年ほど前に少しお腹の調子が悪くなったので、腸内の検査をしたところ腸内環境がやや乱れているとのことでした。

そこで、食事を徹底的に見直すように指導され、今まで好きだった甘いものをキッパリとやめ、油物も控えるようになったようです。

そのため、外食にもほとんど行かなくなり、行ったとしても腸内環境に良いと思われるメニューを選んで食べたり、旦那さんとはメニューを分けて、食事をする日々を過ごしていました。

最初の頃はなんとなく調子が良い気がしていたのですが、だんだんと疲れやすくなったりちょこちょこ体調を崩すようになってしまいました。
また、制限された食事にもストレスがたまってきて、日々の生活も楽しくなくなってきているようです。

さて、この患者様は一般的にいえば理想的な食生活に切り替えているので、本来ならば身体の中も整って健康になっているはずです。
しかし、実際は望むような結果にはなっていません。

それは、食事において一番大事な要素である「美味しく、楽しく食べる」ことが抜け落ちているからです。

この患者さんのように好きなものを我慢して、身体の栄養バランスだけを考えた食事をする隣では、旦那さんが美味しそうなご飯を美味しく食べているのです。

食事は栄養だけでなく、食材の味覚や嗅覚、触覚などの五感を使って味わうものでもあります。

まる1年間頑張って食生活を改めた努力はとても素晴らしいのですが、それにより反ってストレスが過多になってしまい体調を崩してしまったのかもしれません。
私は上記のことを患者さんにお伝えし、「もっと緩く、ときには好きなものを食べてみてはいかがですか」と提案しました。

患者さんははじめはびっくりしていましたが、「そういってもらえて肩の荷がおりました」と笑顔になられました。
その後、定期的にお越しいただくうちに表情も豊かになり、食べる喜びも取り戻してきました。


漢方薬でのご相談もそうですが、理論ですべてが片付くわけではありません。
(かといって理論がいらないというわけではありません)

理論や一般論も大事ですが、個々人の状況に応じてきめ細かく見ていくことが大切だということを改めて確認させていただいた体験でした。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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