月経前になると、微熱や発熱感が生じることがあります。
月経が始まったタイミングから排卵が起きるまでを「低温期」、排卵後から月経が始まるまでを「高温期」といい、低温期と高温期の体温差は0.3〜0.5℃と言われています。
そのため、高温期は普段より体温が高くなる分、熱感を覚えやすいのですが、人によっては異常な熱感や微熱のような不快感が生じてしまい生活に支障が出てしまうことがあります。
このように月経前に現れる不調のことを総称して、月経前症候群(PMS)といい、微熱や発熱が強く出るケースもあります。
今回はPMSにおける微熱や発熱を漢方ではどのように考えて、治療を行なっていくのかについて解説します。
漢方における月経前の微熱や発熱の考え方
漢方では月経前の発熱症状を「経行発熱」や「経来発熱」とよびます。
経行発熱は月経前から月経期にかけて発熱して、月経が始まったり月経が終わったりすると熱が下がる病態のことです。
経行発熱は「熱」の症状ですので、何かしらの理由で身体に余分な熱が生じていることになります。
漢方では、経行発熱は「熱証」に分類され、病態に応じて熱を鎮める漢方薬を使用していきます。
ではなぜ、月経前に必要以上に熱が生じてしまうのでしょうか。
原因は一つだけではなく、体質的要因によっていくつかのタイプに分類することができます。
1. 肝鬱化火(カンウツカカ)
おそらく一番多く該当するするのが、肝鬱化火と呼ばれる病態かと思います。
これは中医学の考え方になりますが、人の内蔵は「肝・心・脾・肺・腎」の五つ(五臓)に分別されていて、月経と関係の深い臓は「肝」になります。
肝の役割の一つは「血を貯蔵する」ことです。
肝は必要に応じて、貯蔵された血を全身に分配する指揮官の役目を果たしています。
月経前になると、妊娠や生理出血に備えて大量の血が子宮に送られます。
そのため、平常時と比べて肝に貯蔵される血の在庫が不足してしまいます。
肝の二つ目の役割として、血を貯蔵するほかに「疏泄を主る」作用もあります。
「疏泄」とは気の流れをスムーズに全身に巡らせる働きのことです。
気は身体のエネルギー源や活力源であるため、全身を巡ることで我々は日々活動ができたり、食べたものを消化したり排泄したりすることができます。
また、気は精神の安定作用も担っているので、気が巡ることで精神・情緒が安定します。
そして、この肝の疏泄作用を発揮するには肝に貯蔵された血が動力源になります。
そのため、月経前のように肝の血が不足してしまうと疏泄作用が機能しなくなり、気が停滞してしまうことになります。
これを肝気鬱結(カンキウッケツ)と言います。
気はエネルギー源でもあり、温める働きがあるので、停滞することで熱が生じます。
肝気鬱結がさらに進行すると、停滞したところから熱が生じて、肝鬱化火に発展していきます。
だいぶ説明が長くなってしまいましたが、このように肝鬱化火は月経前に熱を生じる要因の一つになります。
・月経前に発熱して、月経が始まると熱が下がる
・出血の色が赤黒く粘稠な傾向
・顔面紅潮
・目の充血
・イライラしやすい、焦燥感、怒りっぽい
・不眠 ・頭痛、めまい、耳鳴り
・便秘
・のどや唇の乾燥
・舌が紅色、脈弦数 など
代表処方)加味逍遙散(カミショウヨウサン)・竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)・小柴胡湯(ショウサイコトウ)など
このようなタイプには、肝血を補いながら、疏泄を整える漢方薬を用いることで熱を冷まし、微熱や発熱を抑えることができます。
2. 陰虚火旺(インキョカオウ)
漢方では心身の充実度、偏りなどをはかる指標として、陰陽(インヨウ)という概念を用います。
陰陽というとなんだか難しそうなのですが、ここでは簡単に一部だけの作用だけをご紹介します。
陰:水のように身体を潤して熱を冷ます作用
ここで、陰虚というのは陰が不足した状態、つまり身体の水分が不足して熱を冷ます作用が低下している状態を指します。
そのため、相対的に身体を温める陽の作用が多くなります。
過剰となった陽は熱をもつことで、身体に熱を持ってしまいます。
陰虚の状態がさらに進行して、熱症状が顕著になったものが陰虚火旺になります。
では、どういう時に陰虚火旺となるのでしょうか。
陰虚というのは身体の水分が不足している状態です。
これは、体質的に乾燥しやすく、冬になると肌がガサガサになったり、身体が細いタイプに生じやすいです。
もしくは過労や加齢により身体の水分が不足してくると、陰虚になりやすいです。
このような陰虚タイプでは月経に関係なく手足がほてったり、のぼせやすいなどの特徴がありますが、月経期になるとより顕著に熱感を伴うようになります。
・普段から手足がほてりやすい、のぼせやすい
・寝汗をかきやすい
・夕方〜夜にかけての微熱、熱感
・月経期〜月経後に熱が生じやすい
・不眠 ・胸苦しさを感じる
・のどや口が渇きやすい
・舌紅、舌苔少、脈細数
代表処方)六味丸(ロクミガン)、知柏地黄丸(チバクジオウガン)など
陰虚火旺の場合は直接的に熱を冷ます作用だけではダメで、不足した陰を補いながら熱を冷ますような漢方薬を使う必要があります。
3. 気血両虚(キケツリョウキョ)
気はエネルギーであり、血は身体に潤いと栄養を与える働きがあります。
気血両虚ではこれら気血の両方が不足した状態のことを指します。
気血が不足した状態は、ひどく疲れ切った状態、過労が続いて元気がなく、食欲も落ちて体重も痩せてきてしまった状態のことです。
通常であれば、気が不足したらエネルギーも不足するので「冷える」のでは、と思うかもしれません。
本来はその通りで、普段はエネルギー不足で身体に正気がなく冷えています。
しかし、月経によって血を放出してしまうことで、相対的に陰が不足します。
そうすると、相対的に陽>陰となり、熱が発生することになります。
(*これは陰虚と同じ理論です)
また、気が不足するということは、気を全身に巡らせる力もなくなってしまっているので、気が停滞することにもなります。
この気の停滞により熱が生じて、発熱するとも考えられます(これを「気虚発熱」とも言います)。
・月経期〜月経後に発熱や微熱が生じやすい
・疲労倦怠感、食欲不振、精神疲労
・貧血性のめまい、立ちくらみ
・息切れ、動悸
・不眠
・目や口の渇き
・月経周期の延長
・出血量の低下
・身体が痩せてくる
・舌質淡紅、舌羸痩、脈虚細無力 など
代表処方)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、帰脾湯(キヒトウ)など
気血両虚の発熱では熱を無理矢理冷ましてしまうと、陽が損傷されて症状が悪化してしまいます。
身体を元気づけて、栄養をつけてあげることで、気血が充実して発熱を抑えることができます。
4. 瘀血(オケツ)
瘀血は簡単にいうと「血行不良」のことで、血が停滞することで生じます。
月経前から月経期にかけて子宮に血が集中しますが、子宮周りの血流が悪くなってしまうと子宮における瘀血が生じます。
瘀血は気の停滞と同様に、血が停滞することで熱となります。
女性には起きやすい病態で、月経不順や月経痛がある方には瘀血が生じている可能性が高い傾向にあります。
特に冷えや運動不足により血が停滞しやすく、瘀血になりやすいです。
【瘀血の特徴と処方】
・月経前に発熱が生じやすい
・月経が始まると出血とともに熱が発散される
・月経痛が強い
・出血量が多い
・月経の血色が紫や黒みがかかっている
・月経期の出血に塊が生じる
・青あざができやすい
・下肢静脈瘤がある
・皮膚がガサガサになる(サメ肌)
・舌辺紫、瘀点、脈渋 など
代表処方)桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、血府逐瘀湯(ケップチクトウ)など
瘀血の場合は、血流を改善して血が停滞しないようにする漢方薬を用いる必要があります。
まとめ
月経前後の発熱について、漢方の視点での病態や治療法について解説してきました。 今回はあくまでも一例ですので、上記に説明した以外の考え方もございます。
漢方薬の良いところは、ただ単に症状だけ(今回は発熱症状)を取り除くだけでなく、その原因にアプローチをするので、他の症状も一緒に改善することができることです。
また、発熱や微熱があるからといって、何でもかんでも熱を冷ます漢方薬を使うわけでもないことがお分かりいただけたかと思います。
月経前後の発熱や微熱がつらい場合は、漢方薬も選択肢として覚えていただけると幸いです。
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