風邪の引き始めにのどが痛む方、寝ている間に口呼吸をしてしまい頻繁に喉を痛めてしまう方もいらっしゃいます。
のどの痛みは、鼻・咽喉・扁桃・副鼻腔にかけての上気道の炎症によって生じます。 通常は扁桃や咽頭がウイルスや細菌に感染することで発症します。
扁桃炎や咽頭炎の場合は、のどの痛みに加えて発熱・倦怠感・嚥下痛・咳や痰などを伴うこともあります。
病院での扁桃炎や咽頭炎の治療は、のどの痛みを鎮めるトラネキサム酸や痰の切れをよくするカルボシステイン、痛みが強い場合にカロナールやロキソニンなどの解熱鎮痛剤などの薬が処方されます。
また、細菌感染と判断した場合には抗生剤が処方されることがあります。
抗生剤は細菌感染に適合した場合には強力に効果を発揮してくれますが、ウイルス性の場合には効果がなかったり、繰り返し発症する扁桃炎などの場合は抗生剤を長期に用いてしまう可能性があります。
一方の漢方薬は、扁桃炎や咽頭炎の初期から再発性のもの、また慢性化してしまった場合の各段階に応じて、用いるべき処方が用意されています。
したがって、扁桃炎の現在の状況や体質などを考慮して病態を把握すれば、短期間で効果を発揮してくれることもあります。
漢方で考える扁桃炎 / 咽頭炎の病態
扁桃炎や咽頭炎は風邪と同じように、細菌やウイルス感染によって発症します。
したがって、漢方での治療は基本的に一般的な風邪の治療と同じになります。
初発の場合は体表面にとどまっているので、発表剤を用いて細菌やウイルスなどの(邪気)を追い出す治療になります。
ただし、扁桃炎や咽頭炎は一般的な風邪のように冬季だけに限定されるわけではなく、夏場に発症することもあります。
また、症状から扁桃部や咽喉部が赤く腫れ上がることが多いので、身体が冷やされることで発症する「寒証(カンショウ)」ではなく「熱証(ネッショウ)」の性質に偏ることが多いです。
日本漢方で用いる感染症の漢方薬は寒証に適応するものが多い一方、感染症の熱証型には対応していないことが多いので、温病の処方や寒証に一手間加えた処方を用いて対応することが求められます。
また、慢性扁桃炎や再発性の扁桃炎の場合は一律に単一の処方を用いても効果が得られないことが多いので、状況に合わせて工夫して用いることが必要となります。
扁桃炎 / 咽頭炎に用いる漢方薬
扁桃炎や咽頭炎の初期は風寒型で発症することも多いですが、すぐに炎症が強くなり熱症へと転化(風寒化熱)や風熱型として進行する場合が多いです。
ですので、出ている症状をつぶさに観察して、適切な時期に適切な処方を用いることが大切です。
*ここでご紹介する処方はあくまでも一例です。
*他にも多数の処方がございますので、漢方専門の医療機関でみてもらうことをお勧めします。
葛根湯(カッコントウ)
扁桃炎の初発に用いる風寒型の処方です。
のどの痛みだけでなく、寒気や発熱、頭痛や肩こりなどの一般的な風邪症状が伴うこともあります。
のどの痛みはそこまで強くなく、風邪の引き始めの応用として用います。
寒気や発熱などがある場合は、短期間での治療が鍵となりますので、体を温めて短期間で治療を行うことが大切です。
葛根湯加桔梗石膏(カッコントウカキキョウセッコウ)
葛根湯に桔梗と石膏を加えた処方です。
葛根湯は風寒型であるのに対して、葛根湯加桔梗石膏は風熱型の処方になります。
風熱型では寒気はあまりなく、発熱や咽頭や扁桃の熱感や腫れ、痛み、赤みが強くなります。
桔梗と石膏はともに、のどの痛みと炎症を改善する作用があり、急性の扁桃炎や咽頭炎に用いることが多い生薬です。
扁桃炎や咽頭炎の場合は、炎症が強く風熱型になることが多いため、葛根湯加桔梗石膏の出番は多くなります。
葛根湯と同様に麻黄が配合されているので胃腸に負担がかかりますが、胃腸に問題なければ初期だけでなく慢性期にも応用することができます。
銀翹散(ギンギョウサン)
葛根湯加桔梗石膏と同様に風熱型の扁桃炎や咽頭炎に用います。
一般的には、発熱・頭痛・鼻づまりを伴うのどの痛みに用いますが、これらの症状がなく喉の痛みだけにも用いることができます。
のどの痛みが強い場合は「石膏」を加えた方が、炎症を抑える作用が強化されます。
急性扁桃炎の初期に用いて、速やかに炎症を除くことができます。
駆風解毒湯(クフウゲドクトウ)
『万病回春・咽喉篇』に記載されており、痄腮(ササイ)腫痛(急性耳下腺炎)の改善のために作られた処方です。
駆風解毒湯に桔梗石膏を加えると、耳下腺炎だけでなく上気道や扁桃の痛みや炎症の改善にも応用できます。
炎症が強く、のどの腫れも強い場合に効果的です。
また、胃にも優しいので葛根湯加桔梗石膏などの麻黄剤が胃に負担がかかる場合にも服用が可能です。
小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)
扁桃炎の初期から慢性期にかけて、幅広く使える処方です。
小柴胡湯には人参・大棗・甘草など、胃腸の保護作用もあるので、胃腸の弱い人にも使用可能です。
小柴胡湯だけですと炎症を鎮める作用が弱いので適宜、桔梗・石膏・薏苡仁などを組み合わせて、工夫して用いる必要があります。
柴胡清肝湯(サイコセイカントウ) / 荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
扁桃炎や咽頭炎を繰り返し発症する、再発性のものや慢性型の治療及び予防薬として用いられています。
小児は特に炎症を抑えるだけでなく、潤いをつけて口内や気道などの粘膜を保護する作用のある柴胡清肝湯を用いることが多いです。
成人してからは、より炎症を鎮める作用の強い荊芥連翹湯で体質改善を行なって、慢性・再発性の扁桃炎や咽頭炎を治療及び予防をしていきます。
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ) / 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
咽頭炎や扁桃炎は免疫力が落ちた時に細菌やウイルスに感染して発症します。
もともと体が弱い人や過労等で体力が低下している人は、黄耆建中湯や補中益気湯などで日頃から元気を落とさないようにすることで、予防として使うことができます。
また、扁桃炎や咽頭炎で風邪を引いた後の体力低下時の回復にも用います。
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以前のコラムでのどの痛みに用いる漢方薬の桔梗湯、甘草湯について解説しました。
桔梗湯や甘草湯は軽〜中等度の「のどの痛み」に用います。
咽頭痛の初期症状の場合で腫れが弱く、痛みも軽度な場合に用いることができます。
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