漢方薬は「安全で体にやさしい」というイメージが先行していることがあり、西洋薬と違って妊娠中でも問題なく使用できると思われがちですが、なかには注意を要すべき生薬や漢方薬があります。
今回ご紹介する内容の前提として、妊婦さんへの漢方薬の使用については私の知る限りいまだ明確な科学的なエビデンスはありません。
(絶対的に安全に使用できる、反対に絶対に使用してはならない生薬や漢方薬が決まっているわけではないということです)
しかし、それでは何を基準にして妊婦さんへ漢方薬を処方して良いのかがわからず、こわくて何も使えないことになってしまいます。
そこで、実際にどれだけ影響があるかは分かりませんが、伝統的な東洋医学理論に基づいて「妊娠中に控えた方が良い生薬・漢方薬」、「妊娠をサポートする生薬・漢方薬」についてまとめてみました。
*生薬や漢方薬について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
もちろん、すべてにおいて今回ご紹介する内容が当てはまるわけではなく、個々人の体質や状況に合わせて適宜検討して用いることが大前提となります。
使用を控えた方が良いと言われている漢方薬であっても、「有故無損」(故あれば、損なうことは無い)のように、使用することの恩恵が大きい場合は服用を推奨することもあります。
慎重投与とされている生薬や漢方薬は個々人で判断せずに、必ず東洋医学に精通している医師や薬剤師等にご相談の上ご使用ください。
妊娠中への使用禁忌となる生薬・漢方薬
胎児に対して悪影響を与えたり、流産を引き起こしたりする可能性があり、毒性が強いものが該当します。
巴豆(ハズ)、大戟(ダイゲキ)、牽牛子(ケンゴシ)、水蛭(スイテツ)、虻虫(ボウチュウ)、斑猫(ハンミョウ)、陸将(リクショウ)など
どれもききなじみのない生薬かもしれませんが、これらは一般的な漢方薬には含まれておらず、日本ではほとんど使われていないので、あまり心配しなくてもよいかと思います。
妊娠中への使用が慎重投与となる生薬・漢方薬
妊娠中への使用が禁止なわけではないですが、流産を起こす危険性があるので、慎重に投与する必要があるとされているものになります。
慎重投与とされている生薬や漢方薬になると、よく使用されているものも含まれてくるので、一般の方が自己判断で使用するのは注意が必要です。
下剤系:大黄(ダイオウ)・芒硝(ボウショウ)・麻子仁(マシニン)
活血剤(血流改善):桃仁(トウニン)・紅花(コウカ)・牛膝(ゴシツ)・牡丹皮(ボタンピ)
理気剤(気の巡りを改善):枳実(キジツ)・厚朴(コウボク)・半夏(ハンゲ)
温裏薬(温める作用):乾姜(カンキョウ)・附子(ブシ)・呉茱萸(ゴシュユ)・肉桂(ニッケイ)
その他:五味子(ゴミシ)・酸棗仁(サンソウニン)・辛夷(シンイ)・薄荷(ハッカ)・薏苡仁(ヨクイニン)
など
「半夏・厚朴・乾姜」などは妊娠中への使用は慎重投与となっていますが、つわりに用いる代表処方である「小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)」や「半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)」、「乾姜人参半夏丸(カンキョウニンジンハンゲガン)」にも含まれいています。
そのため、必要とあれば使用する機会も多く見受けられます。
「大黄・芒硝」などの下剤には子宮収縮作用がありますが、妊婦へ投与したところ便が緩くなる作用がありましたが、胎児への影響は見られなかった報告もなされています。
【妊娠時の使用に注意が必要な代表的な漢方薬】
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)・半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)・大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)・桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)・大柴胡湯(ダイサイコトウ)・麻子仁丸(マシニンガン)・牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)など
桂枝茯苓丸は「催生湯」とも呼ばれていて、分娩誘発に用いられたこともあります。
そのため、妊娠中では流産のおそれがあるとされるので、基本的には使用しません。
しかし、全部が全部使えないわけではなく適正に用いれば使用することもできます。
妊娠初期での通常量の使用では流産にはならないため、妊娠反応陽性(妊娠4週)を認めた段階で服用を中止すればよい
『漢方処方ハンドブック / 花輪壽彦 / 医学書院』P307
また、たとえ妊娠中であっても桂枝茯苓丸を用いるような「瘀血(オケツ)の所見(血流障害)」がみられれば、使用もやむおえないこともあるということです。
そのため、ここでとりあげた生薬や漢方薬は妊婦さんへの投与は十分注意して使用する必要はありますが、必要以上に警戒しすぎて服用を見送ったことで、かえって妊婦さんへの身体の負担が生じてしまう可能性もあるので、判断が難しいところであります。
妊娠をサポートする生薬・漢方薬
東洋医学には「流産を予防し、妊娠を継続させ、胎児を安定させる」安胎薬というのがあります。
今から2,000年ほど前の古典『金匮要略』には妊娠病篇があったり、また『備急千金要方』には妊娠各月の安胎薬と流産・早産予防薬の記載があり、妊娠中への各種のトラブルに漢方薬が使われていた経緯があります。
また、妊娠時に現れるさまざまな症状(つわり・切迫流産・妊娠中毒症・風邪・咳・妊娠疹)にも対応できる漢方薬が用意されています。
*妊娠中の風邪についての漢方薬使用についてはこちらをご覧ください。
「安胎薬」と呼ばれ、妊娠中も長期服用ができる(もちろん体質考慮は忘れてはいけない)生薬・漢方薬をご紹介します。
黄耆(オウギ)・人参(ニンジン)・艾葉(ガイヨウ)・香附子(コウブシ)・冬虫夏草(トウチュウカソウ)・白朮(ビャクジュツ)・陳皮(チンピ)・紫蘇葉(シソヨウ)など
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン):当帰・芍薬・川芎・白朮・茯苓・沢瀉
白朮散(ビャクジュツサン):白朮・川芎・蜀椒・牡蛎
芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ):地黄・当帰・芍薬・川芎・阿膠・艾葉・甘草
当帰芍薬散は血を増やし、母胎ともに栄養を送り届けながら、妊娠高血圧症などによる身体のむくみを改善したり、腹痛を改善する作用があります。
また、胃腸にもやさしく妊娠中だけでなく婦人科全般に応用することができます。
まとめ
今回は妊婦さんへの漢方薬の服用について、解説してきました。
明確な根拠となるものがないので、使用に際しては注意が必要なものもありますが、漢方薬を適正に使用して無事に出産を迎えられるように使われて欲しいと思います。
関連記事
参考資料
・『いまさら聞けない生薬 漢方薬 / 牧野利明 / 医薬経済社』
・『症例実解漢方薬学 / 京都廣川書店』
・『まずはコレだけ!漢方薬 / 今津嘉宏 / じほう』
・『漢方処方ハンドブック / 花輪壽彦 / 医学書院』
・『西洋医学の現場で実践に役立つ漢方治療 / 橋本浩 / 株式会社シービーアール』










コメント