五苓散は、梅雨の季節から夏にかけて用いられることが多い漢方薬の一つです。気圧変動の頭痛やめまい、夏バテなど幅広い症状に対応できる漢方薬ですので、病院で処方されたり市販薬で購入されて、お使いになられた方もいるかもしれません。五苓散の特徴ははっきりとしているので、正しい使い方を抑えておけば、広範囲の症状に応用することができます。ですが、症状だけを頼りに一律的に用いても効果を得られません。
そこで、この記事では五苓散のすべてを余すことなく解説していきます。
・五苓散の効能効果
・五苓散の飲み方や注意点
・副作用について
・他の漢方薬との使い分け
・五苓散タイプの養生法
・まとめ
五苓散は水の異常を改善
五苓散は頭痛・めまい・吐き気・二日酔い・むくみ・多汗・下痢・夏バテなど、広範囲にわたる症状に効果を発揮します。これらの症状は一見バラバラにみえますが、漢方ではまったく同じ病態(病気の原因)によって、生じていると考えます。
それは、「水の異常」です。
身体の中の水分バランスが乱れたことで、さまざまな症状が引き起こされます。この水の異常を改善してくれるのが五苓散になります。さっそく、五苓散の解説をしていきたいのですが、その前に漢方の基礎的な考えである「水」や「水毒」について説明していきます。
水は体液のこと
人の体の約60%は、水でできていると言われています。この水が身体を潤したり、体液となったり、体温調節したり、余分な老廃物を流したりしてくれます。漢方ではこの身体にとって有用な水・体液のことを水(スイ)や津液(シンエキ)とよんでいます(流派によって呼び方が異なるだけで、意味は同じです)。
<水・津液とは>
生命活動を行うのに必要な身体の水分のこと
全身にくまなく広がり、様々な働きをします。
口:唾液
目:涙
胃:胃液(消化液)
腸:腸液(便の硬さを調節)
関節:関節の動きをスムーズにする
肌:潤い
など
水はどれも、身体を正常に動かすのに必要なものばかりです。
水が停滞すると水毒となる
一方で、身体にとって有害となる水のことを水毒(スイドク)や痰飲(タンイン)とよび、正常な水と区別しています。水はサラサラとして、全身をスムーズに流れていきますが、なんらかの影響で水が粘り気を帯びて流れが悪くなり、一箇所に停滞してしまったことで水毒が生じます。水毒は重く・全身のどこにも分布する特徴から、以下のように多彩な症状を引き起こします。
<水毒・痰飲とは>
身体にとって不要な水(粘っこい痰)のこと。
停滞する部位によって、多彩な症状を引き起こします。
頭部:めまい・頭が重だるい・耳鳴り・頭痛
肺:喘息・咳・痰が出る
胃腸:吐き気・下痢・胃もたれ
皮下:むくみ・身体の重だるさ
関節:しびれ・痛み
舌:腫れぼったくむくんでいる、歯形がつきやすい
水毒はどのように生じるのか?
水毒の発生原因は、身体の中に原因がある場合と身体の外から影響を受ける場合とがあります。特に水毒は胃腸に負担がかかると生じやすくなります。というのも、摂取した水分や食事は胃腸で消化・吸収されることで、全身に分布します。ですので、胃腸に負担がかかると、消化・吸収が正常に働かず停滞してしまいます。これにより、水毒が発生してしまいます。
また、身体の内側だけでなく外部要因でも水毒が強くなります。空気中の湿度が高くなると、必然的に身体の中にも水分がたまりやすくなります。雨の日の方が身体が重だるかったり、むくみが強く感じるのは、身体に余分な水がたまってしまうからです。
水毒の発生原因
<体内に生じる場合>
・食べ過ぎ
・水分のとりすぎ
・運動不足で水分停滞
・エネルギー不足
<身体の外側に原因がある場合>
・季節(湿度の高さ)
・気候(雨の日は湿度が高まる)
・湿度の高い環境
水毒は気候の変動によって生じやすく、湿度が高くなると身体に取り込む水分量も多くなります。特に梅雨や台風の時期には、めまい・耳鳴り・頭の重だるさが起きやすくなります。それは、気圧変動により水分代謝が悪くなってしまうからです(詳しくはご相談の多い症状「気象病」をご参照ください)。
五苓散の生薬構成
五苓散は、猪苓(チョレイ)・沢瀉(タクシャ)・茯苓(ブクリョウ)・朮(ジュツ)・桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成されており、水毒を改善する作用があります。
(余談)五種類の生薬+猪苓や茯苓の苓から、五苓散と名付けられました。
効能・効果 | |
猪苓(チョレイ) | 水分のめぐりをよくする (水分バランスを調整する) |
沢瀉(タクシャ) | |
茯苓(ブクリョウ) | |
朮(ジュツ) | |
桂皮(ケイヒ) | 身体を温めて、水毒を動かす |
このように、4つの生薬が水毒をめぐらすことで、症状を改善させます。そこに、桂皮(シナモンのこと)の辛味成分を加えることで身体が温まり、水毒をめぐらせるのを後押ししてくれます(身体を温めると血流や水の流れがよくなりますからね)。
五苓散の効能効果
では、実際にどのような症状に効果を発揮するのか、具体的に解説していきます。五苓散は、水分のバランスを整えてくれるため、全身の水毒症状に効果を発揮します。ですので、特定の症状だけでなくさまざまな部位の多彩な症状に用いることができます。
めまいの改善
漢方でめまいを治療する場合、まずはどのタイプのめまいであるのかを特定する必要があります。詳しくは、ご相談の多い症状「めまい」をご参照ください。五苓散が適応となる場合のめまいは、水毒が原因の場合です。具体的には、
・めまいとともにむくみなどの他の水毒症状が生じている
・気圧の変動で生じやすい(湿気により水毒が生じやすいため)
・メニエール病のようなリンパのむくみが原因となる場合
・舌が腫れぼったい(むくんでいる・歯形がついている)
・水分を多く取りがち
これらに該当する方は、水毒である可能性があるので、五苓散が効果的である可能性があります。耳周りのリンパのむくみ(水毒)を改善して(水分をめぐらして、むくみを解消)、平衡感覚を整えることで、めまいを治療します。
頭痛の改善
頭部の水分代謝を改善することで、頭痛を改善します。ズキズキする偏頭痛や重だるい頭痛(水毒により重だるくなっている)の場合に効果的です。「頭に重いヘルメットや帽子を被っているようだ」と表現する方もいらっしゃいます。めまいと同様に、気圧変動による頭痛に効果的です。
耳の不調(耳づまり・耳鳴りなど)の改善
内耳はリンパ液で満たされており、水分代謝が悪くなると、リンパのむくみが生じます。そうすると、耳周りの血流が悪くなり、耳鳴りが生じたり、耳のつまりが生じてしまいます。また、耳の不調には水分をたくさん摂った方が良いと耳にして、過剰な水分を摂ってしまっている方は水毒を助長してしまう場合があるので、注意が必要です。
ただし、慢性的な耳鳴りや耳詰まりの場合は、漢方薬では改善が難しい場合もあるので、気になる方は漢方専門の医師や薬剤師にご相談ください。
むくみの改善
皮下に停滞した水分を、めぐらしてくれます。普段から、デスクワークが多く、運動もあまりしない方は脚の筋肉をあまり使いません。そうすると、血流が悪くなり同時に水分のめぐりも悪くなってしまいます。また、天候が悪い日は水分が停滞しやすく(血流が悪くなりやすい+湿気が多いため)、むくみが強くなりやすいです。この場合にも、五苓散を用いることもあります。ですが、五苓散はあくまでも一時的な水分停滞を解消するにすぎません。根本的に解決するには、運動や食事の改善が必須となります。
胃腸症状(嘔吐・下痢)の改善
五苓散は胃腸にたまった水分を動かしてくれます。特に夏場は冷たい水分を大量に摂取してしまいがちです。冷えた飲食物により胃が冷やされると、動きが鈍くなり、せっかく取り入れた水分も適切に代謝されません。その結果、胃に水がたまりチャポチャポと音を鳴らすこともあります。
胃に水がたまってしまうと、水が逆流して吐いてしまうことがあります。この場合の嘔吐は胃酸というより、飲んだ水がそのまま逆流してくるので、水逆(スイギャク)といいます(赤ん坊や幼児によくみられます)。
また、腸に水がたまり冷やされると、温めようとして過剰に腸が動いてしまい、水様の下痢になってしまいます。下痢にしても、嘔吐にしても水様状のものである場合は、五苓散の適応となることがあります。
二日酔いの改善
五苓散は胃腸の水毒にも働くため、二日酔いにも効果的です。特に冷たいビールを多量に飲んで、胃腸が冷えている時の二日酔いに用います。アルコールは利尿作用があるため、初めのうちは摂取した水分もどんどん小便として排出されます。加えて、アルコールの分解のために、体内の水分が多量に消費されて、身体は一種の脱水状態に陥り、のどの渇きが強くなります。
また、アルコールのベタつきと胃腸の冷えにより、胃腸内には水分が停滞してしまいます。おまけに小便の出も悪くなってしまい、余分な水も排出されなくなります。これにより、吐き気が生じたり下痢となったり、はたまた頭部に水分が上ることで、頭痛になってしまいます。
このように身体の一部は脱水状態となっていても、一部には過剰な水分が停滞している状態にも五苓散を用います。
しかし、実際のところは五苓散を飲んだことで、どれほど二日酔いが早く改善されるかは不明です。私自身で試してみたことはありますが、五苓散を服用しなくても自然に回復していったように思います。食べ物の消化も助けるために、平胃散や半夏瀉心湯を併用する方が効果的なのかもしれません。
夏バテ・熱中症の改善
暑い夏は、どうしても冷たい水をたくさんとりがちです。なおかつ、冷房のきいた部屋に1日中いて、動かないと、はい、水毒の出来上がりです。身体中に水毒がたまると、水の重たさから、動いていないのに、身体がだるい、疲れが取れないといった症状が出てきます。
もしくは、暑い夏の炎天下で、のどがカラカラになり、多量に冷たい水を摂取してしまうことで、せっかく飲んだ水も吸収されずに停滞してしまい、ぐったりとしてしまいます。
熱中症かと思いきや、実は水分の大量摂取であったり、冷房で身体が冷やされてぐったりとしてしまう場合もあります。そのような時に五苓散は効果的な処方となります。温かいお湯に五苓散を溶かして、少しずつ水分をとることで、しっかりと身体に吸収されます。そうなれば、余計な水分摂取を控えることができます。
五苓散は利尿剤ではありません
五苓散は、水分のめぐりをよくすることから、よく利尿剤・利水剤と表現されることがあります。確かに、五苓散を服用するとお小水が増えたり、トイレが近くなったり、頻尿になる方もいらっしゃいます。
ですが、五苓散を服用しても尿量が全く変わらない人もいます。
五苓散の働きはあくまでも、身体の水分のバランスを整えてくれることにあります。そのため、身体に過剰な水分がたまっていれば、余分な水分が尿として排泄されますが、身体に必要な水分までも過剰に出てしまうわけではありません。それが、病院で処方される利尿剤との大きな違いになります。
ですので、五苓散を服用して小便の回数が増えないと、効いていないんではないかと心配にならなくても大丈夫です。実際に当薬局で五苓散を服用した方でも、尿量や回数が変わっていなくても症状が軽減されているケースは少なくはありません。
繰り返しになりますが、水毒をめぐらして、水分バランスを正常に戻してくれるのが五苓散の働きです。
効果が現れるまで、どれくらいの時間がかかるのか?
病気の症状によっては、ある程度の期間服用を続けることで症状が改善してくる場合と、頓服的に服用してすぐに効果を得られるケースとがあります。五苓散の場合は、後者になります。どちらかというと、長期間の服用を続けて効果を発揮するというよりも、今つらい症状をすぐに改善していくことを目指します。
突発的に生じた嘔吐の場合ですと、服用してから30分程で効果が出ることもあります。気象病の頭痛やめまいの場合でも、服用してからすぐに効果を実感してもらえることが多く、即効性のある処方になります。
反対に頭痛やめまい、むくみなど、比較的長い期間にわたって、症状が出ていても、五苓散を服用して1週間たっても効果が出ない場合は、別の方法を考えます。
たいていの場合は、他の処方に切り替える必要がありますが、成分量が不足しているために効果が得られない場合も多いです。市販の漢方薬や病院で処方されるエキス剤(粉薬)では、成分量が不足していることもあるので、煎じ薬に変更することで効果が出ることもあります。
五苓散の飲み方・注意点
五苓散の出典である『傷寒論(ショウカンロン)』には白飲(お湯)で服用するように、指示されています。繰り返しの説明になりますが、五苓散は水毒(水分の停滞)に対して用いるため、冷たい水で飲んでも水は動いてくれません。お湯のほうが胃腸に負担もなく、吸収もスムーズに行われます。
飲むタイミングは、頓服的に用いる場合は、症状が出た時に(下痢・嘔吐)、食事に関係なく服用することができます。継続して服用する場合は、1日2〜3回(商品によって回数は異なります)、空腹時に服用ください。五苓散は胃に負担となる生薬がないので、空腹時の方が吸収が早くなります。
<空腹時とは>
食前:食事30分前
食間:食事と次の食事の間のことで、食事を終えて約2時間後
飲み方についての注意点は、質問形式で以下にまとめておきますね。
Q 症状が改善しても、飲み続けて大丈夫か?
A 五苓散は水分代謝を改善する漢方薬ですが、長期間服用すればするほど体質が変わってくるわけではないと思っています。ですので、症状が改善したら服用をやめても大丈夫です。むしろ、養生に気をつけて生活を送っていただくことの方が大切になります。
ただし、梅雨の季節や台風の季節など、気圧変動が大きい時期は気圧を確認しながら、しばらくの間服用を続けるのが良いでしょう。
仮に長期間服用してしまっても、身体に害が出ることはありませんので、ご安心ください(詳しくは副作用のところで説明します)
Q 妊娠中・授乳中も使うことができるの?
A 妊娠の状態にもよりますが、基本的には用いることはできます。むしろ妊娠中は、水分代謝が悪くなり(運動の低下やホルモンバランスの変動)、むくみが生じやすくなります。ですので、妊娠中でも有効な場面は存在します。ただし、他のお薬との飲み合わせもあるので、服用する際には漢方専門の医師や薬剤師に相談することをオススメします。
Q 赤ちゃんにも飲ませることができるの?
A 生後3ヶ月以上であれば、服用が可能です。特に乳幼児は胃腸の機能が未完成なので、ちょっとしたことですぐに吐いてしまいます。水分を欲しがっているのに、与えてみるとそのまま水を吐き出すような場合には、五苓散が適応となります。のどは乾いていても、胃に水がたまっていると、いくら水分を与えても吐き出してしまいます。少量のお湯に五苓散を溶かして、スプーンで少しずつ含ませてあげてください。吐き出さないようなら、適量を少量ずつ与えてあげて、30分もすれば吐き出さなくなります。
Q 五苓散と他の薬との飲み合わせは問題ないですか?
A 基本的に他の薬と飲み合わせても問題ありません。ただし、他の漢方薬と飲み合わせたり、生薬成分が入ったお薬と併用する場合は、成分が重複する場合もあります。その場合は漢方薬に詳しい医師や薬剤師に確認するようにお願いします。
副作用について
五苓散に入っている生薬は、作用が穏やかなものばかりなので、比較的安心して服用することができます。ですが、漢方薬は天然由来のものとはいえ、身体に馴染まないこともあります。その場合は。胃腸に負担がかかったり、蕁麻疹のような赤みを伴った発疹が出ることもあります。
私自身の経験では、今まで五苓散による副作用の報告はありません。
他の漢方薬との使い分け
五苓散は水毒を改善してくれますが、似たような働きをする漢方薬が他にもいくつかあります。ここでは、五苓散と似ている働きをするものとの鑑別をしてみます。
五苓散と五苓散料の違いとは?
商品名や病院でもらう漢方薬を見ると、「五苓散」と表記されているものと、「五苓散料」と表記されているものがあります。例えば、ウチダ和漢薬さんの商品には、「五苓散(散剤)」・「五苓散料(煎じ薬)」・「五苓散料(エキス細粒)」の3種類がラインナップされています。
参考:ウチダ和漢薬・製品案内
詳しく説明すると長くなってしまうので、ここでは簡単に説明します。
結論からいえば、用いている生薬の種類や効能効果は同じものと考えていただいて大丈夫です。違いは、剤形にあります。五苓散の「散」とは散剤のことで、生薬を粉末状に粉砕して混ぜ合わせたものを指します。
一方で、五苓散料の「料」とは、本来は散剤として用いるものを、煎じ薬(お茶のようにグツグツ煮出して服用する方法)として用いる場合につけられます。さらに、煎じたものを乾燥させて、顆粒や細粒のような粉薬にしたものをエキス剤と呼びます。
◯◯散
生薬をそのまま粉砕して、混ぜ合わせたもの。香りが豊かですが、粉末状なので服用時にむせやすい。
◯◯散料
生薬を煎じて(グツグツを煮出して)、お茶のように服用する方法。
(詳しくは煎じ薬とはをご参照ください。)
◯◯散(料)エキス顆粒(細粒)
生薬を煎じた後に、乾燥させて粉状にしたもの。散剤よりもさらっとしていて飲みやすい。
この場合は「料」の字がついているものとついていないものがあります。
このように、飲みやすさや効力に多少の違いはありますが、入っている生薬は同じであるので、効能効果はおおむね同じものと考えていただいて問題ありません。
ただ、『症候による漢方治療の実際』(大塚敬節)(p279)によると、「五苓散を水逆の嘔吐に用いるときは、煎じて呑ますよりも、粉末にして重湯で呑ますのが一番良い」とあります。
一方で、同書籍(p19)「当帰芍薬散は元来は粉末にして酒で飲むことになっているが、煎じて飲んだ方がのみやすいし、効力もあるので、粉末にしないで水でせんじて飲んでよい。」、また同書籍(p425)には「この方(当帰芍薬散)は粉末にして酒でのむことになっているが、水で煎じて飲んでよい。胃の弱い人はせんじた方が、胃にもたれなくてよい。」と記載されています。
ですが、煎じと散剤のどちらが効果的であるのかは判断に迷うところです。かくいう私も、煎じ薬かエキス剤しか用いたことがないため、どれほどの効果の違いがあるのかは正直わかりません。市販で売られているものや病院で処方されるものはほとんどがエキス剤になります。
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)との違い
苓桂朮甘湯は五苓散と同じような生薬が含まれており、同じような働きをします。
五苓散 | 苓桂朮甘湯 | |
猪苓(チョレイ) | ◯ | − |
沢瀉(タクシャ) | ◯ | − |
茯苓(ブクリョウ) | ◯ | ◯ |
朮(ジュツ) | ◯ | ◯ |
桂皮(ケイヒ) | ◯ | ◯ |
甘草(カンゾウ) | − | ◯ |
含まれている生薬の違いは、猪苓(チョレイ)・沢瀉(タクシャ)・甘草(カンゾウ)の有無になります。似たような生薬の構成なので、同じように働きますが、五苓散の方が水分の停滞を改善する沢瀉・猪苓を含んでいるため、症状が激しい状態に効果的となります。例えば、ぐるぐるとした激しいめまいの場合は五苓散の方が効果的で、ふわふわと揺れるような軽いめまいならば、苓桂朮甘湯の方が適しているといえます。
沢瀉湯(タクシャトウ)との違い
沢瀉湯は病院の処方にはなく、市販薬でもあまり見かけることのない処方です。
五苓散 | 沢瀉湯 | |
猪苓(チョレイ) | ◯ | − |
沢瀉(タクシャ) | ◯ | ◯ |
茯苓(ブクリョウ) | ◯ | − |
朮(ジュツ) | ◯ | ◯ |
桂皮(ケイヒ) | ◯ | − |
沢瀉湯は、驚くべきことに沢瀉と朮の2種類の生薬しか含まれていません。これだけみると、五苓散の方が効きそうですが、沢瀉湯は余分な生薬を削ぎ落として、めまいに特化した漢方薬になります。そのため、症状がめまいだけで、しかも激しいめまいの場合は沢瀉湯の方が強力に働きます。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)との違い
婦人病によく用いられる当帰芍薬散ですが、五苓散と似ているところもあります。
五苓散 | 当帰芍薬散 | |
猪苓(チョレイ) | ◯ | − |
沢瀉(タクシャ) | ◯ | ◯ |
茯苓(ブクリョウ) | ◯ | ◯ |
朮(ジュツ) | ◯ | ◯ |
桂皮(ケイヒ) | ◯ | − |
当帰(トウキ) | − | ◯ |
芍薬(シャクヤク) | − | ◯ |
川芎(センキュウ) | − | ◯ |
当帰芍薬散も五苓散同様に沢瀉・茯苓・朮の水分停滞を解消する生薬が含まれています。五苓散と異なるのは、当帰・芍薬・川芎が含まれていることです。これらの生薬は血(生理に関連する)に働く生薬です。
そのため、水毒の症状(めまいや頭痛、むくみなど)が、生理周期に関連が深い場合、五苓散より当帰芍薬散の方が効果的です。例えば、生理前になるとむくみが強くなる、めまいがする、下痢になりやすいなどです。また、血の異常による生理不順(生理が遅れがち・血量が少ない、生理痛があるなど)がある場合にも、当帰芍薬散を用います。
真武湯(シンブトウ)との違い
真武湯は身体が弱り、冷え切ってしまったことで水分が停滞した病態に用います。
五苓散 | 真武湯 | |
猪苓(チョレイ) | ◯ | − |
沢瀉(タクシャ) | ◯ | − |
茯苓(ブクリョウ) | ◯ | ◯ |
朮(ジュツ) | ◯ | ◯ |
桂皮(ケイヒ) | ◯ | − |
生姜(ショウキョウ) | − | ◯ |
芍薬(シャクヤク) | − | ◯ |
附子(ブシ) | − | ◯ |
真武湯も茯苓・朮が共通して含まれています。五苓散と異なるのは、真武湯は身体が弱った人のめまいや下痢(水様便)、むくみに用いることです。真武湯に含まれている附子(ブシ)は、新陳代謝を高めて、身体を温めて、それにより水分をめぐらす力をつけてくれます。普段から冷え症で生命力が乏しく、ぐったりと疲れ切ってしまった状態で、下痢やむくみ、めまいなどがある場合は真武湯の方が適しています。
五苓散タイプの養生法
五苓散を用いるタイプの方は、水分代謝が悪い傾向にあります。そのため、日頃から水分が停滞しないように注意する必要があります。水分停滞は漢方薬だけで改善するのは難しく、養生をしっかりと行うことで相乗効果が出ます。ぜひ、できることから取り組んでみてください。
水分の取り過ぎに注意
適切な水分量をとるのであれば、問題ないのですが、取りすぎてしまうと容易に水毒になってしまいます。特に、普段から運動をする習慣がなく、汗をあまりかかないのであれば、水分はほどほどで十分です。
(もちろん、運動をしたり汗をいっぱいかくような場合は、普段より多めの水分が必要になります。)
人によって、季節によって、適切な水分量は異なるため、一概に適正な量をお伝えすることはできませんが、お勧めはこまめに少量ずつ飲むことです。ゆっくり少量ずつ水分を補給することで、適切に水分が吸収されて、水毒になりにくくなります。
油物・甘い物・アルコールに注意
水毒の原因の一つが、食べる物になります。特に油物・甘い物(砂糖)・アルコールはベタつきが強く、水毒を発生させやすい食事です。水毒体質だなと思う方は、これらの食事(おいしいものばかり!)をとりすぎないように気をつけてみてください。
身体を冷やさない
冷たい飲み物、食べ物は消化を悪くします。そうすると、摂取した水分や食事が消化されずに、水分が停滞してしまいます。エアコンの温度も適切に管理して、外からの冷えにも気をつけましょう。身体が冷えると血流が悪くなり、水分も停滞してしまいます。
運動を心がける
筋肉をつけて血流をよくすることが、水分の停滞を防ぎます。運動をすることで、冷えも改善できますし、ストレス軽減効果も期待できます。そのため、水分代謝の改善には運動が一番おすすめになります。とりわけ脚(ふくらはぎ)は第二の心臓といわれるので、足を使った運動(階段の上り下り、かかとの上げ下げなど)を取り入れましょう。
十分な睡眠をとる
漢方では、眠っている間に血が作られていると考えます。そのため、十分に睡眠をとることで、新鮮な血が全身に巡ります。そうすれば、血とともに水分も一緒にめぐっていきます。水分停滞以外にも疲れは万病の元になりますので、体調がすぐれない時は早めに休むようにしましょう。
天候・気圧の変化を調べておく
水分停滞しやすい方は、気圧の変動で症状が悪化しやすいです。天候が変わると、気圧が下がり、湿度が高くなるため、身体に水分をため込みやすくなります(詳しくはご相談の多い症状「気象病」をご覧ください)。そのため、事前に天候や気圧の変化を調べておくことで、無理のない予定を組み立てることができます。天候が悪い日は、いつもより予定を減らして、ゆっくりと休む時間を多めにとるように準備しておくことをオススメします。
まとめ
五苓散の使い方について、ご理解いただけましたか。全部の情報を詰め込んだので、かなり長文になってしまいました。ですが、これを参考にして、五苓散を服用してみたり、または養生だけでも取り入れていただけると、水毒の予防や改善にも繋がります。
基本は食事・運動・睡眠になりますので、日頃から養生をしておき、いざとなったら漢方薬に頼るようにしていきましょう。
この記事の執筆者:三鷹の漢方薬局 Basic Space 今井啓太
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