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生薬解説

川芎の副作用・効果的な使い方

「漢方薬は安全」

「天然由来で、身体にやさしい」

「副作用が少ない」

インターネットや書籍などで、漢方薬の情報を集めた方は、一度は目にしたことがある記述であると思う。

私も日々患者様にお薬をお出ししている経験から、(慎重に薬を選んでいるのもあるが)、漢方薬の安全性を実感している。

しかし、臨床経験を重ねていくうちに、まれに書籍などに書かれていない(私が見つけられていないだけかもしれないが)、予期せぬトラブルが生じることがある。

そのため、私は効果を実感してもらうのはもちろんのことだが、いかに副作用が出ないかについても十分注意して、薬を選ぶようにしている(初回は原則、数日〜1週間以内にしているのもそのためである)。

一方、これから初めて漢方薬を服用する方は、効能効果だけでなく、副作用や弊害についても注意しておいた方が良いと思う。

漢方薬は西洋薬と比べて、確かに効き目がマイルドな面もあるが、体質に合っていなかったり、適切な処方ではなかったりすると、効果が出ないばかりか、反って身体に悪影響を及ぼすこともあるのだ。

今回は婦人科でよく使われている、川芎(センキュウ)という生薬の注意点について、実際の臨床を踏まえて、考察したいと思う。

症例1 川芎による動悸・パニック様症状

40代後半 女性 更年期障害によるのぼせの治療

昨年の夏、暑くなってきたタイミングで、上半身に熱がこもり、頭がのぼせてしまうようになる。

日中はまったく外に出られなくなってしまい、横になっているしかできなくなってしまった。

今年も夏が近づくにつれて、昨年のようにのぼせが出てきたので、再発をおそれて来店された。

初めは、加味逍遥散(カミショウヨウサン)にて、5〜7割ほどのぼせが軽減されたが、あと一息というところで、止まってしまった。

そこで、処方を女神散(ニョシンサン)に切り替えた。

しかし、女神散の服用して数分後、パニック障害のような動悸、息苦しさ、なんとも言えない焦燥感、気持ち悪さが出てきた。

すぐに使用を中止してもらい、川芎を抜いて服用してもらうと、その後は問題なく服用ができた。

症例2 川芎によるのぼせ

40代 女性 慢性副鼻腔炎

10年ほど前から、副鼻腔炎を繰り返し、次第に匂いが感じられなくなってきた。

ただ、運動したり鼻の奥から鼻水の塊が出ると、一時的に嗅覚が戻るので、まだ治る可能性があると感じて、来店された。

少しずつ処方を変えていき、徐々に匂いを感じられる時間が増えてきた。

そのタイミングで、川芎の入った処方に変更した。

すると、服用してからのぼせが生じるようになり、胃のあたりもムカムカするようになる。

そこで、川芎の入っていない処方に変更すると、のぼせや胃のムカつきは消失した。

川芎の効能効果

以上の2つの症例から、川芎により不都合な症状が出たのは明らかである。

なぜ、このようなことが起きてしまったのだろうか。

まずは、川芎の効能効果を再度見直してみたいと思う。

『新古方薬嚢』川芎(抜粋)

「味辛温、気のめぐりを良くしのぼせを下げ頭を軽くす」

『本草備要』川芎(抜粋)

「血中の気薬なり。清陽を助けて、諸鬱を開く。頭目に上行し、血海に下降す。湿気頭に在り、血虚頭痛、腹痛脇風、気鬱血鬱を治す」

『傷寒論の謎 二味の薬徴』川芎(抜粋)

「人の頭は穹窿(きゅうりゅう:弓の形をしたもの)、竅高で、この草は薬として上行して専ら頭脳の諸疾を治す、だから芎藭の名があるという。川芎は地黄とともに、胃腸障害を起こすことが間々ある。胃の弱そうな者や胃内停水のある者は少量ずつ2gくらいから始めるか、人参湯を合方すると良い。(酸棗仁湯の)川芎は気逆して、血気下降せざる者を下降させるのが能である。川芎はよく上部、頭部の血鬱を瀉する能がある。」

これらのことを要約すると、

・胃に負担がかかるので、胃の弱い人には注意

・川芎の芳香性から、身体上部に影響を及ぼしやすい

・血の巡りをよくする

よって、症例の二人のように頭や心臓部の血流が促されて、のぼせや動悸などが生じたり、胃に負担がかかることも納得がいく。

しかし、川芎を服用すると全員がのぼせるわけではないし、胃への負担が生じるわけではない。

この違いはなんであろうか。

次に、川芎を使う場合の対策について考察してみた。

考察

1)胃が弱い人には注意

先に述べたように、川芎は少なからず胃への負担がありそうである。

もともと胃が弱い人や過労や食べ過ぎなどで、一時的に胃が弱っている人に用いる時は注意が必要である。

もし、胃が弱っている場合、以下の3つの対策が考えられる。

①川芎の使用を避ける(別の処方を選択する)

②人参などの胃腸を保護する処方を足す

③食後に服用

このような形を取ることで、胃への負担を軽減もしくは無くすことができるのだと思う。

実際は①のように川芎の使用を止めることは少なく、②や③で対処することが多い。

2)冷えがない人には注意

川芎は「血中の気薬」と言われ、温めながら血流を促す働きがある。

特に川芎は温性の当帰(トウキ)と組み合わせて、温めながら血流改善を目指すことが多い。

症例1で用いた女神散はまさに「当帰+川芎」の組み合わせである。

『薬徴新論』

「当帰+川芎:温めて気血をめぐらし、陰性の瘀血を和す」

したがって、冷えがない場合に用いるたり、暑がりだったりする場合は、熱が過剰になってしまい、服用後に一過性の興奮状態に陥ることは想定できる。

仮にのぼせがある場合でも、上熱下寒(のぼせているが下半身の冷えが強い)であったり、明らかな冷え症がある場合には、のぼった熱を行らすことで、上下の熱のバランスを整えることができるであろう。

今回の症例のように、冷えがない場合には原則として用いない方が無難であろう。

しかし、そのような場合でも、必要であれば川芎を用いることが可能になることがある。

それは「芍薬(シャクヤク)を足す」ことだ。

芍薬も当帰や川芎と同様に血に働く生薬である。

しかし、当帰と川芎と違って、温める作用がない。

むしろ、熱が過剰にならないようにブレーキをかけてくれるのだ。

先の女神散は当帰+川芎の組み合わせで、芍薬は入っていない。

症例1では川芎を抜いたが、芍薬を足すのも一つの選択肢になりうる。

「当帰+芍薬+川芎」と見事な組み合わせで作られた処方に、当帰芍薬散がある。

偶然なのか、はたまた計算されて作られたのかは定かではないが、絶妙な組み合わせであるとしか言いようがない。

2,000年前の処方がいまだに色褪せることなく、使用されていることの意味。

まだまだ古人から学ぶべきことは山ほどありそうだ。

最後に

今回は「漢方薬は安全ばかりではないよ」といったことを書きかました。

現在、漢方薬を服用されている方やこれから服用しようとしている方の中には、「漢方薬がこわい」と不安に思われた方もいるかもしれません。

ですが、最初にも書きましたが、適切に漢方薬を使用すれば、トラブルが生じることは比較的少なく、安心して使うことができます。

また、仮に不都合なことが起きたら、すぐに使用をやめれば、症状も治ります。

そのため、漢方薬をお使いになりたい場合は、漢方専門の医療機関をオススメします。

適切な漢方薬を処方していただけるので、問題は限りなく少なるでしょう。

気になることがございましたら、一度漢方専門の医療機関をお尋ねくださいませ。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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