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症例紹介

症例24 「母乳が止まらない」「くり返す乳腺炎」

母乳が出なくて困ることもあれば、今回お伝えする症例のように母乳が出過ぎて困る場合もあります。出産という大イベントを終えたら、休むことなく子育てが始まります。身体への負担が大きくなってしまうと、せっかくのお子様との触れ合いで生まれる喜びや慈しみの感情が薄れてしまいます。負のスパイラルに入ってしまわないためには、一時的な治療ではなく、患者様のお身体の根本的な原因を突き止めて、適切な治療を施すことが必要です。

症例 30代 女性 繰り返す乳腺炎をなんとかしたい

年末に差し掛かる頃、可愛らしい娘さんをのせたベビーカーを押していらっしゃったお母様。パッと見た感じはスラッとして、気品が漂っていますが、どことなく疲れた印象をまとっていました。

「乳腺炎を何度も繰り返してしまうのです」

そう話始めたお声ははっきりとした口調ですが、どことなく声に力がない。1歳3ヶ月になる娘さんにはずっと母乳を与えているが、出てくる母乳の量が多すぎて、お子様が飲めない分は適宜搾乳をして、母乳を捨てているという。それでも、すぐに胸が張ってきて、定期的に助産師さんにマッサージをしてもらっている。マッサージで一時的に楽になるもののすぐにまた張ってきてしまい、乳腺炎を発症してしまう。乳腺炎の治療をしても、また同じサイクルにはまってしまい、何度も繰り返してしまう。そこで、助産師さんの勧めもあり、漢方薬に頼ってみよう、そう思われて来店されました。2人目の出産を希望してはいるものの、出産後はまだ生理も再開していないのも気掛かりにしているご様子。

以上のことを伺ったはものの、この時点ではまだ処方の決定には至らない。

もう少しお身体全身の状態を伺う必要がある。

精神的な負担まではさほど感じられなかったのであるが、ほっそりとした体つきとどことなく疲れた表情が気になりる。

・睡眠時間

・食事の量

・体重の変動

を確認したところ、なるほどと合点がいきました。

「大丈夫です。良くなりますよ」と自信を持ってお答えしました。

処方の選定

今回は何度も繰り返してしまう乳腺炎を治したいというのが本人のご希望。ここで焦ってしまい、「乳腺炎だから炎症を抑える治療」と考えてはダメである。なぜなら、来店時は乳腺炎は発症していないので、治療ではなく予防に重点をおかねばなりません。つまり、標治(対症療法)ではなく本治(根本的な治療)について考えねばなりません。

ポイントは乳腺炎の要因となっている母乳量が多いのをどうやって減らすかになります。母乳の量が減少すれば、乳腺に詰まりが起きにくくなり、胸が腫れる事はなくなります。

なんらかの原因→母乳が多い→乳腺炎

まずはこのように考えられます。

次に母乳の多い原因を探ります。

ここで、次に進む前にそもそも母乳とはなんぞやということを知っていなければなりません。

母乳=血液

ここを押さえていないといけません。つまり、血の疾病として治療すれば良いわけです。こうなると考えられる病態としては、以下の3つの病態のいずれかになります。

①瘀血(血の流れが悪くなる)

②血熱(血の勢いが増して溢れ出る)

③血虚(血が不足してしまった状態)

ここまでくればあともう一息です。ここでウンウンと唸ったところで答えは出ません。なぜなら答えは患者様の中にあるからです。

そこで、私が決め手とした質問になります。

患者様の返答を載せます。

・睡眠時間

 夜中に何度もお子様が起きてしまうので、睡眠は数時間を細切れで取れるのみ。さらに日中は仕事をして、昼寝もできていない。疲れがたまっている。

・食事の量

 食事は取れているが、全体的に量は減少している。

・体重の変動

 体重は出産前から比べて3〜5kgほど減少。身長は160cm程であるのに対して、体重は40kgまで落ちてし待っている。

これだけの情報がそろえば、答えは出ます。

③血虚

ですね。

身体を栄養して、体力を保つのに必要な血が足りなくなっています。血が不足すると、母乳が減るのでは?と思われますが(その場合もあるでしょう)、陰血が損傷しているということは相対的に陽気の損傷もあります(陰陽互根)。陽気が不足すれば、母乳を押し留めておく力も無くなってしまいます。結果として、栄養となる母乳(血)をどんどん流してしまい、さらに血虚を加速させてしまっている状態になってしまっています。

陰血の補充と陽気の回復を兼ねた治療をしました。

処方:十全大補湯

(エキス製剤を希望されました)

服用後の経過

少量から服用をスタートしました。

1週間の服用では変化なし。

飲み始めてから3週間。

乳腺炎になりそうになりつつも、持ち堪える。胸の張りがやや軽減。母乳量は変化なし。

増量して+2週間。

母乳量、胸の張りが減少。

2ヶ月後には母乳量がどんどん減ってきたので、断乳を開始。

3ヶ月後に生理が再開。

断乳を始めたこともあり、さらに母乳は減少。

合計3ヶ月半の服用で状態安定したので、治療を終えました。

まとめ

今回の症例では処方を変えることなく、症状を安定させることができました。

ポイントは2点

・母乳の捉え方

・局所だけでなく全身状態も考慮すること

まさに漢方ならではの考え方の大切さを教えてくれた症例でした。残念ながら、漢方薬だけでは疲れを取ることができなかったのが心残りです。ただ、断乳を開始してから少しずつ睡眠時間も取れるようになってきたので、生活習慣が安定してくれば、疲れや体重も改善できるのではないかと期待しています。今後体調が安定して、2人目の出産が無事にできることを願っています。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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