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コロナウイルス後遺症の倦怠感に補中益気湯が効かない

コロナウイルスに感染した後、熱は下がったものの咳が止まらなかったり、関節痛、頭痛などの症状が出始めたり、再発したりすることがあります。

コロナ罹患後の後遺症は時間経過とともに症状が改善することもありますが、なかにはいつまで経っても症状が改善せず、生活に支障をきたす場合もあります。

今回は、コロナ罹患後の後遺症としてよく遭遇する疲労倦怠感について考えてみたいと思います。

疲労倦怠感には補中益気湯

一般的に疲労倦怠感というと、中医学では「気虚(キキョ)」という病態に分類されます。

気虚は「身体のエネルギーが不足した状態」を指していて、気が五臓のどこで不足するかによって、さらに細かく「肺気虚」「脾気虚」「肝気虚」「心気虚」「腎気虚」に分類されます。

五臓の中でも脾は胃腸を統括しており、食べたものからエネルギー生み出す作用があります。
そのため、気虚の根本は「脾」にあることが多く、気虚といえば「脾気虚」を指していることが多いです。

コロナウイルスやインフルエンザ、風邪などに感染した後は、発熱を経て症状が軽減していきます。
風邪を治す過程で生じる発熱状態に達するために、多量のエネルギーを消費するため、風邪後はぐったりとしてしまい、「気虚」の状態に陥りやすいです。

そこで、気虚による疲労倦怠感に用いる代表処方として「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」があります。

補中益気湯はエネルギー不足に陥った身体に、元気をつけてくれる働きがあります。
そのため、風邪やコロナウイルス感染症に限らず、手術や大病の後や過労によって生じる疲労倦怠感に補中益気湯は幅広く活用することができます。

しかし、なかには補中益気湯を用いても疲労倦怠感がとれないケースもあります。
当店では、特にコロナウイルス感染後の疲労倦怠感には、補中益気湯では改善されないケースに遭遇することが多い気がします。

(この場合、病院や市販薬で補中益気湯を用いて改善されている場合は、当店にいらっしゃっていないだけだと思いますが・・・)

そのような場合は、別の視点で治療を考えていく必要があります。

コロナウイルス感染症後の疲労倦怠感に補中益気湯が効かない場合

補中益気湯は優れた漢方薬の一つであり私も使うことがありますが、コロナウイルス感染後の疲労倦怠感に効果を実感できないことを経験しています。

では、なぜ効かないのでしょうか。

原因はいくつかあるのかと思いますが、疲労倦怠感イコール「気虚」とは違うアプローチが必要だということです。

私は、「①より深い身体の損傷」もしくは「②慢性炎症」の二つの可能性(もしくは両者の合併)があるのではないかと考えます。

①より深い身体の損傷

これは何かというと、「気虚」よりも身体の損傷度合いが激しい状態のことを指しているといえます。

補中益気湯は、中国の「金・元」の時代の『脾胃論』(1249年)に作られた処方です。
当時は、戦乱の中で長期間の過労や飢餓により、疲れ果てて元気がなくなって生じた発熱に対して、胃腸機能を建て直し、元気をつける処方として、補中益気湯は作られました。

身体のエネルギーは「気」であると説明しましたが、その「気」を作り出すための土台は「陽」です。
「陽」は身体の熱源であり、熱によって気が生じ、気がエネルギーとして全身に分配されます。

時代は遡り、後漢(200年くらい)の『傷寒論』(281条)には「少陰の病たるは、脈微細、ただ寝ねんと欲す」とあります。

「少陰病という病態では、身体がぐったりとして終始横になっていたい」という意味になります。

これは補中益気湯よりも一段階身体の損傷が大きい「陽の不足」状態を表しているものです。

実際にコロナ後遺症の疲労倦怠感では、1日の大半を眠っていたり横になったりしているケースも見受けられます。
このようなケースでは、気虚でのアプローチでは対応が難しく、陽の虚損についても考慮する必要があるのかと思います。

漢方薬としては補中益気湯に生薬を追加するか、もしくは他の漢方薬を用いて陽気の回復を図る必要があります。

②慢性炎症

十分な休養をとっても疲労感が回復せず、6ヶ月以上続く「慢性疲労症候群」というものがあります。
近年では「疲労」は肉体疲労として見るのではなく、「脳の炎症」や「慢性上咽頭炎」といった、一見疲労とは関係なさそうなものが関わっているといわれるようになってきました。

「脳の炎症」や「慢性上咽頭炎」に共通するのは「炎症」です。

①で説明したのは身体の「虚」により、気や陽が不足することで疲労が生じると考えましたが、炎症による場合は身体に不要なものが溜まっている「実」の病態といえます。

実際に『新・臨床中医学入門』では、四肢(手足)の倦怠感には虚だけでなく、実によるものについても言及されています。

これらのことから、たんに「疲労=身体の弱り」と考えるだけではなく、炎症を漢方的にどうやって沈静化させるかも考える必要があります。

漢方薬で治療をする場合は、一つには「柴胡剤」とよばれる抗炎症作用を持つ漢方薬、もしくは一貫堂医学による「温清飲」を基本処方として用いる方法、さらにはより強力な抗炎症作用をもつ生薬を用いるなどの工夫が必要です。

まとめ

今回はコロナウイルス後遺症による疲労倦怠感の漢方的な考え方について、考察してみました。

コロナ後遺症の疲労は「虚」だけでなく「実」の部分も考えられるため、両者のどちらを用いるのか、もしくは両者を併用していくのかは個別にみていく必要があるかと思います。

まだまだ、浅はかな考察ではありますので、随時アップデートできればと思っています。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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