日々漢方相談を行なっていると、馴染みのある病名や症状だけではなく、聞き馴染みのない病名を患者様から告げられることがあります。
恥ずかしながら、患者様からお聞きした病名で知らなかったものの一つに「唾石症(ダセキショウ)」があります。
文字を見れば病気の状態が想像ができそうな病名なのですが、口頭での説明だと「???」となってしまいました。
唾石症とは、唾液腺の中に石のような塊ができる病気のことです。 胆石症や尿路結石と同じように、発症する部位が唾液腺であるということから「唾石症」という病名になっています。
唾石症になると、食事の時に顎の周りが腫れて痛むという特徴があります。
さらに細菌感染してしまうと、皮膚の赤みや腫れを伴うことがあります。
小さい唾石であれば、自然に排出されることがありますが、細菌感染している場合は抗生剤での治療になります。
感染を繰り返す場合は、摘出手術を行うこともあるようです。
さて、冒頭での唾石症を知ったきっかけについてのお話です。
30代後半の女性の方で、相談内容はのどのつまりとリンパの腫れを治して欲しいとのことでした。
病歴として以前に唾石症になったことがあり、リンパの腫れの症状もひょっとしたら唾石症が再発したことが原因かもしれないということでした。
この当時は唾石症について明るくなかったので、胃腸の不調やストレスの影響などの全身状態を鑑みた漢方薬をお渡ししました。
その後、病院でエコー検査をした結果、唾石症ではないことが判明しました。
結局、唾石症の漢方薬治療には至らなかったのですが、今後のためにも漢方薬ではどのように考えれば良いのかを調べてみました。
私の手持ちの書籍の『大塚敬節著作集』に唾石症の漢方薬治療についての記載がありました。
大塚敬節先生は唾石症の治療薬として「唾石散」を考案されました。
唾石散は「芍薬・枳実・山梔子・甘草」の四味からなるシンプルな処方です。
処方構成から排膿散の桔梗を山梔子に置き換えた、もしくは梔子甘草湯(山梔子+甘草)と枳実芍薬散(枳実+芍薬)を合わせた処方とも見ることができます。
梔子甘草湯には炎症を鎮める作用があり、枳実芍薬散は痛みを鎮める作用があります。
唾石散は排膿散のように唾石を押し出す作用があるのか、大塚敬節先生の症例では唾石散を服用して数日以内に唾石が排出されたようです。
唾石散はエキス製剤にはない処方ですので、エキス製剤で代用する場合には、「排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)」と「梔子柏皮湯(シシハクヒトウ)」の組み合わせが近い形になるのかと思います。
この処方は大塚敬節先生が多くの患者様を診てこられた中で、類似の病気から推論して作られた漢方薬の一つです。
私のような凡人には、新たな漢方薬を考案する自信などなく、先人の知恵を拝借するばかりです。
ですが、今回の症例を経験して、初見の病気や症状に対しても病名で漢方薬を決定するのではなく、首尾一貫とした姿勢で常に冷静にお身体の状態をお伺いして、適切な漢方薬をご提示することを忘れてはいけないと改めて感じました。
今後、唾石症のご相談が来るかわかりませんが、備忘録としてコラムにまとめました。
コメント