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漢方について

梅雨〜夏の漢方薬(2)生脈散【夏バテ対策】

近年の夏場は気温が異常に高く、なおかつ長引く傾向にあります。
そのため、熱中症や夏バテで体が悲鳴をあげてしまう方もいるかもしれません。

今回は、梅雨〜夏場にかけてよく用いる漢方薬である「生脈散(ショウミャクサン)」について解説します。
前回は、夏かぜによく用いる「藿香正気散(カッコウショウキサン)」について解説しています。

生脈散がおすすめな方

結論から申し上げますと、生脈散は「身体の水分を補い、元気をつける」漢方薬です。
そのため、生脈散は汗を大量にかき、体が疲れやすい「夏バテの予防・改善」にもってこいの処方です。

生脈散がおすすめな方

・夏場の炎天下で労働(農作業・建設業・交通整理など)を行う方
・屋外で運動をする方(部活動・クラブ活動・アスリートなど)
・高齢で水分摂取を忘れやすい方
・体が虚弱ですぐに疲れやすい方
・夏場の疲れで体力の回復が遅い方
など

生脈散の出典

生脈散の出典は、中国の金の時代に張元素が『医学啓源』の中に記載しています。

「麦門冬、気は寒なり、味は微苦甘なり、肺中の伏火にて、脈気絶えんと欲するを治するには、五味子、人参の二味を加へ、生脈散をつくり、肺中の元気不足を補う」
『医学啓源・巻下・十二・用薬略旨・薬類法象・燥降収・麦門冬項』

出典より、肺の熱(火邪)によって、身体の水分が焼き尽くされて、脈が弱って消えそうな時に生脈散を使うと、肺の元気を取り戻すことができるとされています。

まさに生脈散の名前の通り「脈を生ず」、脈を回復させ元気を取り戻すことを可能にする処方です。
実際に中国の病院では生脈散の注射薬や点滴があり、その名の通り肺や心臓が弱って脈が消え入りそうな時に脈を復活させる特効薬として用いられています。

その後、張元素を師と仰いだ李東垣(リトウエン)が『内外傷辨惑論』の中の「暑傷(暑さにやられる)」で生脈散を取り上げています。
この書の中では「暑さでやられて、大量の汗をかいて体がだるく息切れをするような時に生脈散を用いる」としています。

これが、現代でも受け継がれており、夏場の体力虚弱、夏バテに生脈散が使われている所以といえます。

生脈散の構成生薬

生脈散は出典の通り、夏バテのようにひどく脱水したり疲労感が強い時に体を元気づける作用があります。
それだけ強力な作用が期待できる漢方薬なのですが、生き脈散は「人参(ニンジン)・麦門冬(バクモンドウ)・五味子(ゴミシ)」のたった3味のみで構成されています。

人参

人参は野菜のにんじんではなく、オタネニンジンの根を乾燥させたもので、朝鮮人参などとして広く使われています。
この人参は生津作用が強く、津液(体の水分=体液)を生じる力が強く、夏場の多量の発汗によって失われた水分を補うことができます。
人参は一味で「独参湯」としても使われ、多量の出血や脱水時の起死回生の薬としても使われるほどのパワーがあります。

麦門冬

麦門冬は肺、胃、心に作用して、潤いをつけ余分な熱を冷ましてくれます。
肺を潤せば、肺の粘膜が充実して空咳のような乾燥した咳を鎮めることができます。
胃を潤せば食欲を増進させたり、胃酸の逆流を鎮めてくれます。
心を潤せば、息切れや動悸などの症状を鎮静化する作用もあります。

五味子

五味子は「五つの味」(甘味・酸味・苦味・辛味・塩味)のすべての味がするということから名付けられましたが、実際は酸味が強いです。
この酸味には収斂(シュウレン)作用があり、皮膚を引き締めて汗が出過ぎるのを止めてくれます。
そのため、夏の暑さで過剰な水分を汗として漏れ出ないようにして、体の水分を保持する作用があります。

生脈散の効能 / 臨床応用

生脈散に含まれる人参・麦門冬・五味子はどれも体の水分を保持する作用があります。
水分が汗として漏れ出る場合、単に体の水が放出されるだけでなく、一緒にエネルギー(気)も漏れ出てしまいます。
そのため、汗をかくと脱水状態としてのどが渇くだけでなく、倦怠感・だるさといったエネルギー不足の状態も起こってくるのです。

夏バテ

生脈散が一番使われやすいのが「夏バテ」による疲労倦怠感になります。
特にもともと体が虚弱でちょっとしたことですぐ疲れてしまう、痩せ型の人や高齢者の方には夏場に少しお出かけする際に持参しておくと良いでしょう。

また、炎天下の中でのスポーツや仕事をする方にも効果的です。
出かける前に服用しておくか、運動中や作業中に疲れやのどの渇きを感じたらスポーツドリンク等と一緒に服用すると良いでしょう。
過度な脱水を予防しながら、体力の回復を見込めます。

その他の応用

今回は生脈散の夏場での活用法についての解説ですので、他の使い方については別の機会に改めたいと思いますが、それ以外にも多くの活用法があります。

生脈散は「肺・心」に作用する処方ですので、肺の症状や心臓の症状にも応用することは可能です。
例えば、病中病後で体力が低下し、「乾いた咳がなかなか治らない」場合や、「動悸・息切れがする」場合などにも適応となることがあります。

まとめ

生脈散は構成生薬が3味と少なく、その分切れ味が良い漢方薬です。
長期間服用して体力を補う作用もありますが、夏バテや一時的な疲労倦怠感などには即効性をもって効果を発揮してくれます。

また、他の漢方薬との相性もよく、体を元気づける漢方薬や体に潤いをつける漢方薬と併用することで、作用を増強させる時にも用いることができます。

残念ながら保険診療の対象外の処方ですが、夏になると体調を崩しやすい方や夏場に外出する機会が多い方は常備しておくと良い処方の一つかと思います。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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