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治療について

梅雨〜夏の漢方薬(1) 藿香正気散

今回から梅雨時期〜夏場によく用いる漢方薬の処方解説をしていきます。
第一弾としまして、夏風邪の処方として有名な藿香正気散(カッコウショウキサン)を解説していきます。

この漢方薬は保険診療に適応となっていませんが、この時期には使う機会が多く重宝する漢方薬の一つです。

藿香正気散はこのような方にオススメ

・梅雨から夏の季節に風邪をひいてしまった方
・食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸にトラブルが出た方(食欲不振・胃もたれ・吐き気・下痢・胃の膨満感など)
・ビアガーデンや宴会、旅行や出張などが多い方のお供に

藿香正気散の出典(出どころ)

藿香正気散の出典は『太平恵民和剤局方』という書物になります。
この書籍は中国医学史上初めて、国家によって頒布(広く分けて配り、行きわたらせること)された薬品の専門書です。
作られた時代は中国の宋の時代で西暦1,151年です。

この出典にはどんなことが書かれているのかを要約すると「体の表面では冷たい空気にあたり冷えることで、寒気や発熱、喘息、咳などの風邪症状が現れます。体の中には水(湿度が)がたまったことで生じる胃腸の不調に藿香正気散を用いる」とされています。

藿香正気散はどんな時に用いるか

出典に記載されている通り藿香正気散は体の表面は冷えて風邪症状、体の中とりわけ胃腸には湿邪(水よりもベタつきが多いもの)が停滞した状態にものに用います。

具体的な状況で考えてみましょう。
体の表面が冷えているとは、薄着で冷たいエアコンの風や冷たい夜風に当たっている状態ですね。
当然体の表面は冷えるので肌寒さを感じています。
この冷えが強くなると、場合によっては出典の条文の通り悪寒発熱などの風邪症状をあらわすことがあります。

この体表面が冷えている状況で、ビールやジュース、果物などの水気の多いものや唐揚げやアイスクリームのように脂肪分が多くベタつきのあるものを過飲過食してしまうと、胃腸で消化吸収が追いつかず、処理しきれなかった飲食の残渣が湿邪として胃腸に停滞してしまいます

さらに、夏場は夜が涼しいとはいえ他の季節と比べると湿度は高いので、外気の湿気も体の中に入り込みやすいので、余計に湿邪の影響を受けやすくなります。

すると、翌朝からなんとなく肌寒さが残っていて悪寒や発熱などの風邪症状が出現し、湿邪が胃腸に停滞するので下痢便(軟便〜泥状便〜水様便)や胃もたれ、胃のムカつきなどの症状が出てきます。
それ以外にも、胃腸に湿邪が停滞しているので食欲低下、舌に苔がベッタリとついていたり、口の中が粘ったりします。
このように風邪症状と胃腸症状が両方出現したときに、藿香正気散を用います。

湿気が多い梅雨から夏の季節は、気温が高いので水気のものを多く摂ってしまいがちです。
なおかつ、暑いのでエアコンで体を冷やしてしまいがちですので、藿香正気散は夏風邪や夏の胃腸のトラブルに応用できる機会が多いのです。

夏風邪以外にもノロウイルスなどの食中毒、胃腸炎、胃腸風邪など幅広く応用することができます。

葛根湯との鑑別

風邪に用いる漢方薬といえば、葛根湯が有名ですよね。
ですので、夏風邪といえど葛根湯ではダメなのかという点を解説します。

葛根湯は藿香正気散に比べて、体を温める力(発表力)が強いので悪寒の度合いが強い場合に用います。
梅雨から夏の場合は冷房や夜風で冷えることはあったとしても、冬場のようにひどく冷えにさらされることはそうそうありません。

もちろん夏場でも「冷蔵庫内で長時間作業をする」、「エアコンの冷気が直接当たる場所に長時間いる」などの強力に冷えにさらされる環境にいれば、激しい悪寒(背中〜うなじがゾクゾクとする)が生じて、葛根湯が適応となることがあります。

しかし、多くの場合はそれほどの冷えにさらされる状況は少なくそこまでの悪寒は生じないので、夏場に葛根湯が適応となる機会は少ないかと思います。

ちょうど先日(6月上旬)、患者様が風邪を引かれました。
風邪用の漢方薬を飲もうと思ったのだそうですが、葛根湯しか持ち合わせがありませんでした。
とりあえず飲もうとしてみましたが、2口服用しただけで気持ち悪くなって服用できなかったそうです。

今の季節は寒暖差で冷えることも多いですが、気温が高くなってきているので、体が冷えてもすぐに熱化しやすいです。
この患者様の場合も最初は冷えが原因だったとしても、すぐに熱化してしまったので葛根湯が適応となる場面ではなかったのだと思います。
熱化した場合の風邪には銀翹散が適応となりますが、藿香正気散も軽度の熱であれば対応可能です。

ということで、夏の風邪には葛根湯よりも藿香正気散、熱化が強ければ銀翹散が適応となることが多いです。

まとめ

藿香正気散は体の表面は冷えて風邪症状、体の中は胃腸に湿邪がたまって胃もたれや食欲不振、下痢などが生じている場合に適応となります。
ここで大切なことは、風邪症状もしくは胃腸症状のどちらか一方しか症状がなくても使えることができるということです。

ですので、胃腸症状のない夏場の風邪の初期に用いることができますし、反対に風邪症状はなく食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸にトラブルが出てしまった時に、頓服的に用いることができます。

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今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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