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症例紹介

症例40 不眠と多汗・寝汗に加味逍遥散

自律神経失調症。
過労やストレス、生活習慣の乱れにより、自律神経のバランスが乱れた状態のことをいいます。
自律神経のバランスが乱れると交感神経がたかぶって、入眠できない・動悸がする・体温調節ができず体がほてるといった症状や疲労・肩こり・胃腸障害といったさまざまな症状を引き起こします。
今回の症例は過度なストレスにより、本人も自覚がないほど自律神経のバランスを乱してしまった症例になります。

相談内容

50代前半 女性
相談内容:寝付けないことと汗が異常に出る

12月の最中、暖冬とはいえ季節は冬真っ盛り。
そのような状況で、汗がどっと出て困るという相談です。
きっかけは明らかで、お子さんの進路について大きな負担になっているとのことでした。
一見、本人もそこまで大きなストレスには感じておらず、声もしっかりしており元気そうですが、相談の途中で急な眠気に襲われたようで時折あくびが止まらなくなります。
睡眠についてお伺いしたところ、ここ最近はまったく寝付けなくなってしまったとのことです。数時間したら、ようやくうっすらと眠れるものの途中で身体が暑くなり、目が覚めてしまう。その後、また寝付けなくなるため、日中にどっと眠気が来てしまう。この繰り返しの日々で、日中に眠気が出てきてしまうようです。

<その他の所見>
月経はまだあるものの、少しずつ周期が不安定になり、出血量も減少してきています。
食事や便通については特に問題ありません。

処方選択

今回の症例は、精神疲労による自律神経のバランスが乱れて異常な発汗や睡眠障害をきたしたものです。
お子さんの進路についてうまくいかないことがストレスの要因となっていますが、本人はそこまで大きなストレスと感じていません。
しかし、実際にはこのような状況になってから症状が出始めているので、関連性は大きいと考えてよさそうです。
加えて、相談者の年齢や月経状況から更年期にさしかかっていることも体調不良の要因と言えるでしょう。
つまり、外的なストレスと内的(ホルモンバランスの乱れ)の両方が自律神経を乱していると考えられるため、両方に対処できるアプローチが必要です。

そこで、現在の状況を漢方的にみてみます。

・月経が終わりに近づいているため、体の「血」が減少している
・思い悩み、ストレス過多で「血」を消耗する
 ↓
・血の不足により、体の水分が不足して熱を抑えられない
 ↓
・発生した熱により頭が興奮して、入眠障害
・体温調節がうまく行かず、発汗する

このような推論が立てられます。
そのため、漢方薬の処方を決める際には、以下の2点がポイントになります。

①体の余分な熱を鎮める
②不足した血(陰)を補う

実際にお出しした処方は以下の通りです。

処方:加味逍遥散(カミショウヨウサン)+亀鹿霊仙廣(キロクレイセンコウ)

2週間分を服用したところ、すぐに入眠できるようになり、発汗もしなくなりました。
まだ更年期の最中であること、家族間のやりとりの負担があることから、現在も継続して服用中です。

考察

今回の症例は外的ストレスによるものと、内的(更年期)の両方が関与するものでした。
加味逍遥散と亀鹿霊仙廣はともに血を補い、熱を冷ます作用のある処方です。

・加味逍遥散:血を補う<熱を冷ます
・亀鹿霊仙廣:血(陰)を補う>熱を冷ます

この両処方の相互作用により、いち早く症状を軽減することができました。
しかし、今回のように今後も症状が悪化する要因(外的・内的)がある場合は、継続して服用することで予防にも繋がります。
そのため、今後も経過を観察しながら処方を調節していきたいと思います。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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