先日、自転車のチェーンがうまく回らずペダルを漕ぐと「ガクン」となってしまうことが増えてきたので、近所の自転車屋さんに見てもらうことにしました。
素人ながら私はチェーンが緩んで(たるんで)しまったので、ペダルを漕ぐとチェーンが外れてずれてしまうからかと思っていました。
しかし、自転車屋さんの店主の方はパッと一目見ただけで、「あーこれはチェーンのオイルが切れているからだね」と瞬時に原因を突き止めました。
確かに、自転車を購入したときはまめにチェーンに油を刺していたのですが、だんだんと面倒になって頻度がどんどん落ちていっていました。
早速オイルを塗ってもらうと、それ以降はチェーンが空回ることなく、スムーズに走ることができるようになりました。
さすがはプロです。
ひるがって、私はどうでしょうか。
患者様の状態を一目見ただけで、お体の状態を全てを悟ることなど到底できそうもありません。
自転車屋さんのように視覚的情報を元に状態を把握する方法というのは漢方の診断でもよく行います。
漢方の四診の一つである「望診」がそれにあたります。
そんな時にふと思い出すのが、かつてなんでも見通すことができると言われた名医の代名詞とも言われた医師の「扁鵲(へんじゃく)」です。
扁鵲は春秋戦国時代の生まれ(紀元前500年頃)で、若くして医術を長桑君から学びます。
とても医療技術が優れていて、内臓の病気の状態を透視することができたという伝説が残っています。
その技量をもって、各国をめぐり(斉・趙・秦など)、外科・婦人科・小児科など診療科目に関わらず、多くの人を治したとされています。
扁鵲がすごいのは、各国の気候や生活様式を素早く把握して臨機応変に治療を施していたところです。
漢方では気候や生活習慣と体調の関連を大切にします。
つまり、その土地土地の風土を理解していないと同じような症状でも病気の原因や状態が把握できません。
それをいとも簡単にやり遂げてしまう扁鵲。
湯液だけでなく、鍼灸・按摩など幅広い治療法を身につけていて、状況に合わせて最適な治療法を選択していたとされます。
最終的には、秦国の皇族に仕えているお医者さんである李醯(りけい)の嫉妬され、刺客によって殺害されたとされています。
いつの時代も妬みや恨みはあるものですね。
今回ご紹介した扁鵲唱えていた言葉に六不治というのがあります。
六不治とは治すことができない状態や心構えを六つに分けて説いたものです。
これは、現代でも通ずるものがあるので最後にご紹介したいと思います。
【扁鵲の六不治】 |
・驕り高ぶって道理をわきまえない人 ・身体を粗末にして財産を重んじる人 ・衣食の節度を保てない人 ・陰陽ともに病み、内臓の気が乱れ切った人 ・痩せ衰えて薬が服用できない人 ・巫(霊能者・呪術師のようなもの)を信じて、医者を信じない人 |
紀元前の頃に、医療と宗教を切り分けて考えていたのはとても合理的と言えます。
私のような凡人かそれ以下の漢方技量しか持ち合わせていないものからすると、望診だけつまりパッと見ただけでその人の病気の状態と最適な漢方薬が決められることはまずあり得ません。
それでも、望診から得られる患者様の状態を感じとる力はとても大切で、知識や検査データでは知り得ない情報がたくさんあります。
スマホやパソコンばかり見ていないで、もっと人をみて対話を積み重ねていくことを大事にしたいと思います。
【参考書籍】
・『漢方の歴史 / 三室羊』(あかし出版)P17
・『まんが中国医学の歴史 / 山本徳子』(医道の日本社)P40-53
・『中国医学の歴史 / 東洋学術出版社』P141-143
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