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症例紹介

症例19 頭痛とめまい

命に関わるような頭痛(脳の障害)は別として、西洋医学の基本的な頭痛の治療では鎮痛剤を用います。軽度であったり、ごくたまに起こる頭痛でしたら、対症療法として鎮痛薬を用いるのは非常に効果的です。

ですが、慢性的に頭痛を繰り返している場合は、過剰に鎮痛剤を服用すると、一時の頭痛は抑えられても、薬の効果が切れると、再びずつうが起きてしまう場合があります。なかには、鎮痛剤の服用が増えたことで、反って頭痛を生じてしまう場合もあるので、注意が必要です(薬剤性の頭痛)。

そのような場合は漢方薬が効果を発揮する場合もあります。

今回の症例では、数年にわたる頭痛を漢方薬で軽減させることができので、ご紹介します。

症例 20代 男性

初診で来局されたのが9月上旬である。ここのところ天気が悪くて、
それにともない頭痛が多くなり、ここ数日間仕事を休んでしまいました。

頭痛の発症時期を確認すると、20歳になったときくらいから、頻度が増えて、それから、毎年梅雨の季節と12~1月に頭痛が強くなる傾向にあることがわかりました。

目の奥や目の周囲にかけて痛み、同時に肩や首の凝りも強くなる。

頭痛時はお風呂に入ったり、人と話したりすると、痛みが軽減されるようである。

また、歩いているときにフラつくこともある。もともと乗り物酔いしやすく、吐き気を催しやすい。

他の特徴としては、
ストレスがかかると腹痛になりやすい。

学生時代は一人前の量を食べられていたのに、今は外食時に小盛で十分になったようである。

背が高く、スラッとしていて、物腰がやわらかい、優しそうな印象である。

暖房が効いている部屋だとのぼせやすく、顔が赤くなりやすい。

処方の選定


頭痛を治療する場合は一律の漢方薬ですべてを対処することはできません。必ず病態を把握して、それに合わせて処方を選定する必要があります。

頭痛で多いタイプは
・天候(気圧、気候)によるもの
・生理周期に関連したもの(女性)
・肩こりにともなうもの

今回のケースでは梅雨の季節と相談に来られた台風の多い9~10月に頭痛が生じていることから、ひとつには天候によって、頭痛が引き起こされていると考えられます。

ただ、気になる点は12~1月にも頭痛が増えるということです。
というのも、この季節は気象病による頭痛の方はわりかし安定していることが多いからです。

季節の変動に合わせて処方を変えていけば良いのか、そのままでいけるのかが、現段階では不明です。

梅雨や台風の時期の頭痛の病態と真冬の時期の頭痛の病態が一致していれば、同じ薬で治療が可能ですが、病態が異なっているのであれば、季節に応じて処方を変更する必要があります。

初診時は9月であったので、この時点での頭痛は、台風などの気圧の影響と考えて、気圧の影響による上衝として桂枝甘草湯を内包した、苓桂朮甘湯を処方することにした。

合わせて、リラックスによっても軽減するので、筋肉の緊張をほぐす芍薬甘草湯を加えた。

服用後の経過


(第一処方)
苓桂朮甘湯+芍薬甘草湯 5日分
少し頭痛が軽減、めまいは変わらない

(第二処方)
めまいも軽減させたいので、
重しとなっていた芍薬を外す
苓桂朮甘湯 14日分

台風の前後で頭痛が起きそうになるが、なんとか持ちこたえることができた。
めまいは消失する。

さらに14日分を服用すると、頭痛はほぼなくなったので、1ヶ月分処方する。

しかし、1ヵ月後に来局したときには、再び頭痛が始まったとのこと。11月になり、天候は安定していたのに頭痛が生じてきたとなると、当初の予想通り、頭痛の病態は2通りあることがわかった。

そこで、寒くなってきたことで、筋肉が硬くなり、血流が悪くなったのが、今回の頭痛の要因となったのでは、と考えた。

(第三処方)
ここで私は判断ミスをした。
頭痛の原因を風寒の邪が体表にかかったものとして、葛根湯をお出ししてしまったこである。すると、3日後に電話があり、葛根湯を服用すると動悸が強くて眠れないとのこと。さらに胃がもたれて、食欲が落ちてしまっていた。あらかじめ、葛根湯で生じうる副作用についてお伝えしていたので、患者様も異変にすぐきづき、ご連絡をくださった。

もともと胃腸が強くなかったので、副作用が出てしまい、なおかつ、頭痛にも効果がみられなかったので、葛根湯は不適当であった。

もういちど詳しくお話をうかがうと、特に緊張のかかるような仕事を終えた次の日に、頭痛が強くでるとのこと。そして、首や肩のこりも同時に現れる。毎年この時期は仕事が忙しくなり、緊張する場面が増えるとのこと。

そこで、今までの考えを改めて、再度病態を考察する。
緊張と弛緩により血管の緊張と弛緩が起きて、それにより頭痛が生じているのであろう。そこで、筋肉の緊張をほぐし、血管の圧をコントロールできれば、頭痛が軽減できるのではないかと考え、処方を組み立て直す。

(第四処方)
緊張を緩和し、血管の負荷を軽減する処方にする。
ここでは、

香附子(コウブシ)と川芎(センキュウ)

を組み合わせた処方にする。

この処方にすることで、痛みが強くならずに抑えられ、なんとか忙しい時期の仕事を乗り越えられることができた。

3週間ほど服用した時点で、仕事が一段落したので、治療を終えた。

まとめ


今回の症例は頭痛によって仕事を休まざるおえない状況をいかにくいとめられるかであった。

最初の方は苓桂朮甘湯にて、良い状態を保てていたが、油断して1ヵ月分を投与して、その間に頭痛の主な要因が変化して、頭痛を再発させてしまった。

さらに病態の読み違えで患者様に不都合を負わせてしまった。

最終的にはなんとか症状を軽減することができたものの、服用期間がやや少なく、本当はもう少し続けてもらって、香附子や川芎が緊張型の頭痛にどれほど効果的であったかを確認したかった。

その点については今後の課題である。
まだまだ患者様を診れていないので、もっと的確に病態を把握して、処方を慎重に投与していかなければならない。

今井 啓太

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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