ここのところ気温が上がったり下がったり、天気も晴れたり雨だったりと落ち着かない状況になっていますね。
まだ関東では梅雨入れはしていませんが、沖縄や九州南部ではもう梅雨入りをしていますね。
おそらくあと1〜2週間くらいもすれば、関東も梅雨入りしてくるのではないでしょうか。
梅雨入りすると体調不良を起こす人が多くなりますので、梅雨入りする前にこの時期に起こりやすい「下痢症状」について解説します。
気象病とは
梅雨の季節の体調不良は「気象病」とも言われています
気象病とは、気圧、気温、湿度などの気象・天候の変化によって、身体に不調や症状が起こるもののことを指します。
気象病の代表的な症状としては「頭痛」「めまい」などが多いですが、それ以外としては食欲低下・倦怠感・気分の落ち込み・眠気、そして今回お話のテーマにもなっています「下痢」も起こりえます。
なぜ梅雨の季節に下痢が生じるのか
お腹がもともと弱い人は年中変わらず便が緩いのですが、そうではなく梅雨の季節になると下痢しやすくなる方も少なからずいらっしゃいます。
これは、梅雨の季節の特徴が下痢と関連しているからです。
この梅雨の季節の特徴は、「気温の上昇」「湿度の上昇」が挙げられます。
1)気温の上昇
気温の上昇そのものが下痢を引き起こすわけではありません。
気温が上がるとどうしても冷たい飲み物や食べ物を多くとってしまったり、冷房を効かせ過ぎてしまい、体を冷やしてしまいがちです。
その結果、胃腸が冷えてしまい下痢になってしまうことがあります
2)湿度の上昇
湿度が上昇るすると、体の中にも水分が溜まりやすくなります。
空気中の水分が体内にも取り込まれやすくなるためです。
しかも、湿気というのはさらさらではなくベタつきがあります。
漢方では、体内にある正常な水分と区別して余分なベタつきのある水のことを「湿邪」と呼びます。
湿邪は水と違ってベタつきが強いので、一度体内に入り込んでしまうと簡単に取り除くことができません。
そのため、余分な湿邪が腸にたまってしまい下痢になってしまいます。
【補足】
体の中に溜まった余計な水分は、「水→湿→痰飲」の順に粘り気が強くなりベタつきが強くなっていきます。
下痢を見る際には、「水」「湿」「痰飲」のどれが関与しているのかを見極めることが大切です。
漢方治療は「冷え」と「湿」の除去
これらより、梅雨の時期に起きやすい下痢の特徴としては、「お腹の冷え(寒)」と「腸に水(湿邪)が溜まる」ことになります。
しかし、状況や人によって下痢にもいくつかのパターンがあります。
下痢の状況を見極めて、漢方薬を適切に使い分けることが大切です。
今回は下痢に用いる漢方薬の一部をご紹介します。
*他にも下痢に用いる漢方薬は多数あります。改善が見られない場合は、漢方専門の医療機関にご相談ください。
五苓散
「水」が過剰に腸に溜まってしまったことで生じる下痢に適応となります。
五苓散の下痢の特徴は「水様下痢」「腹痛はない」「のどの渇き」「小便の出が悪い」の4点セットがある時に効果的です。
五苓散の本質は、水分バランスの偏りを改善することにあります。
下痢に用いる場合は、体内の水分バランスが乱れて腸内に水分が偏ってしまった状態です。
そのため、のどはカラカラに乾いているため水分を摂るのですが、その水分が全部腸にたまってしまって、いくら水分を摂っても渇きは改善しません。
しかし、小便としても水は排出されず腸に水分がたまり続けるため、水下痢として排出されます。
腸の過剰な攣縮はないため、腹痛は生じません。
五苓散を服用すると腸内の水分が全身にめぐるため、のどの渇きが改善されて下痢も治ります。
平胃散
「湿」が腸に溜まった状態に適応となります。
平胃散は五苓散のようにサラサラした水ではなく湿が停滞しているため、便の状態も水様便ではなく軟便〜泥状の便になりやすいです。
ここでいう湿邪というのは決して空気中に湿気によるものばかりではなく、普段口にする食事の影響も大きく関わります。
湿邪は「ベタつき」が特徴ですので、脂肪分の多い食事や炭水化物(特に甘いお菓子)などは体内に取り込まれると湿邪に変換されやすいです。
湿邪となったものは、胃腸での消化吸収がうまく行われないので、そのまま下痢となって排出されます。
私はこってりしたラーメンや揚げ物をたくさん食べると、テキメンにお腹を壊してしまいます。
気温も上がるとアイスクリームも冷たくて美味しいのですが、その中身は乳製品や砂糖なので身体の中にはべっとりとした湿邪がたまってしまいます。
このように湿邪の影響でお腹を壊してしまった時は平胃散が適応となります。
藿香正気散
この漢方薬はもともとは季節問わずに使える「風邪薬」として作られました。
藿香正気散の中身には平胃散が含まれているので、平胃散同様に体の中の湿邪を取り除く作用があります。
そのため、平胃散と同様に湿邪を取り除きたい時に用います。
それに加えて、夏風邪になってしまっ時には平胃散ではなく藿香正気散を用います。
湿度が高いところに汗や冷房、もしくは夜風にあたって、ビールなどの冷たい飲み物や生もの、油物などを食べることで、身体の表面は冷えたことで風邪をひき、身体の中は湿邪がたまることで吐き気や下痢などが発症します。
このような時に藿香正気散の適応となります。
平胃散にさらに胃腸の働きを良くするものを加えていますので、平胃散の強化版として用いることも可能です。
人参湯
「お腹の冷え」による下痢に用います。
人参湯は「人参・白朮・乾姜・甘草」の4種類の生薬で構成されており、どれもお腹を温める生薬ばかりです。
漢方薬の名前の通り人参が主薬になりますが、配合されている生薬の中では乾姜がもっともお腹を温めます。
そのため、お腹が冷えて下痢する場合のファーストチョイスになります。
人参湯が適応となるケースでは以下のような場合に該当します。
- 冷房が効き過ぎた室内に長時間いてお腹が冷えた
- 冷たい飲み物や食べ物を一気に食べた
など、お腹を冷やすような状況になってしまって下痢するような場合に用います。
もともと冷え症タイプの人がなりやすいですが、普段はお腹が強くても一時的にお腹が冷えてしまった場合にも有効です。
この時の便の状態は軟便〜泥状〜水様便と幅広くなります。
冷えが強くなればなるほど腹痛が強くなる傾向にありますが、腹痛がないこともあります。
人参湯はお腹を温める漢方薬ですので、服用する際には温かいお湯に溶かしてゆっくりと服用するようにしてください。
この漢方薬は一時的にお腹が冷えた時だけでなく、慢性的な冷え症の体質改善として長期に服用することも可能です。
六君子湯
「胃腸虚弱」の体質改善の漢方薬になります。
日頃から胃腸が弱くて食も細く、下痢や胃もたれなどの胃腸症状を慢性的に抱えている人が普段から服用することで胃腸を丈夫にする漢方薬です。
六君子湯は「四君子湯」と「二陳湯」を組み合わせた処方です。
四君子湯は胃腸を元気づけて食欲を向上させることで、食べたものを栄養源にして体を元気づけることができる作用があります。
二陳湯は痰飲を除去する作用があります。
ここでいう痰飲とは胃腸で消化不良を起こした食べ物の残渣のことで、これらを除去することで胃腸への負担を和らげます。
梅雨の季節に胃腸を壊しやすいだけでなく、日頃から胃腸が弱い方は六君子湯を日常的に使い、下痢をしたときは先にご紹介した処方を併用すると、下痢に苦しまなくてよくなります。
このような働きのため、六君子湯を服用することで胃腸の働きを向上させ下痢をしづらい体質へと導くことができます。
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