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症例紹介

症例75 便秘症と心臓弁膜症による息切れに漢方薬が奏功した症例

便秘で苦しむ方は多く、とりわけ女性や高齢者に多い傾向にあります。
高齢になると、体の水分不足や腸の蠕動運動の動きが鈍くなってきてしまい、便秘になりやすいです。

高齢者の便秘には腸に潤いをつけたり、腸の動きを改善する漢方薬を使うことが多いですが、今回は別の視点で著効した症例をご紹介します。

ご相談者:70代 女性
相談内容:便秘と息切れの改善

昔から便秘がちではあったのですが、5年ほど前に子宮癌が見つかり手術で摘出してから便秘がちになってしまいました。
病院で酸化マグネシウムをもらっていて、2〜3日大便が出ないと使って、なんとか出しています。
それでも便が出ないときはセンノシドを用いますが、たいていはひどい下痢になってしまうのでできれば使いたくありません。

大便はコロコロの兎便のことが多く、マグミットを使うとスルッと出ることもあります。

少し階段を上がると息切れやふらつきが出ていたので、病院で診てもらったところ心臓弁膜症と診断されました。

胃はあまり強くはなく、少し食べ過ぎてしまうと胃痛になってしまうことがあります。

冷えやのぼせなどはないですが、冷えは少し苦手です。

(日中の活動量もあり、体格の偏りも見受けられません。)

処方選択

高齢者の便秘のファーストチョイスといえば、麻子仁丸(マシニンガン)と言ってもいいくらい、使い勝手が良い処方です。
麻子仁丸は体の水分が少なくなることで、腸が乾き便が硬くなり排便が困難になる時(腸燥便秘)に用います。

兎糞便であることからまずは麻子仁丸を試してみましたが、少し便の出が良くなるくらいで、なかなか安定しません。
麻子仁丸の服用量は個人差があるので、こまめに調整をしていましたが、服用量が多くなると下痢になってしまい、コントロールが難しい状況でした。

それ以外にも麻子仁丸をベースとして八味丸や炙甘草湯(心機能の向上も兼ねる)のように、潤いをつける漢方薬を組み合わせたり、蠕動運動を強めるために桂枝加芍薬湯や四逆散を併用しましたが、手応えはパッとしません。

そんなこんなで四苦八苦している時に、患者様が問診中に放った一言でハッとしました。

「身体の冷えは感じないのですが、冷たいものを飲んでしまったり、寒かったりすると便の出が悪くなる気がします」

今まで、便秘の原因は腸の乾燥や腸の蠕動運動ばかりに気を取られていましたが、「冷え」は完全に見落としていました。

そこで、胃腸を温める「人参湯(ニンジントウ)」を用いたところ、大便が安定して出るようになりました。

同時に、人参湯を服用してからは息切れも減少してきたようです。

現在も便通は安定しており、継続服用しています。

考察

人参湯は胃腸を温める漢方薬ですので、どちらかというと冷えて下痢をしたり、強い冷えを自覚している場合に用います。
しかし、患者様本人は普段からしっかりと防寒対策をしているため、そこまで冷えの自覚もなく、人参湯を服用しても体が温まる感覚はないようです。

それでも、人参湯で効果を感じていることから、胃腸の冷えが便秘の要因であったと判断できます。

私は便秘に人参湯を用いたことはなかったのですが、大塚敬節先生が『症候による漢方治療の実際 』(南山堂)の中で、便秘に附子理中湯(人参湯に附子を加えたもの)を用いた医案を紹介しており、納得がいきました。

また、人参湯は胃腸に作用するだけでなく、『金匱要略・胸痹心痛短気脈証弁治』より、胸がつまって苦しいような時にも用いるとされています。

息苦しさは心臓弁膜症によるものかは定かではないのですが、胃腸の働きが良くなり便通が開通したことで、「大腸→肺」の流れも是正されたのかもしれません。

なかなか症状が改善しないときは、「同じ処方を徹底することで突破する場合」、「同じ処方で分量調節することで突破する場合」、「少しの加減で突破する場合」、「別の処方に変更することで突破する場合」があります。

今回はささいな患者様の一言で、新しい視点が加わり改善に至った症例でした。

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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