当店ではバルトリン腺炎の漢方相談は決して多いわけではありませんが、何度も再発してしまう方もいて日常生活に支障をきたしてしまう方がいます。 西洋医学で対応することが多いのですが、漢方薬でも対応できる場合があるので、今回はバルトリン腺炎についてご紹介します。
バルトリン腺炎とは
バルトリン腺とは、女性器の膣の入り口の両側にある分泌腺のことです。 ここから、性交渉時などに粘性の液体を分泌し、腟内や外陰部に潤いを与える役割をしています。
このバルトリン腺(膣周囲)の腫れや痛みが生じる場合、バルトリン腺の炎症が考えられます。
バルトリン腺炎 ・細菌が入り込んで炎症を起こしたもの バルトリン腺膿疱 ・分泌腺がつまって、袋状に腫れてしまった状態 バルトリン腺膿瘍 ・バルトリン腺炎が進行し、膿が溜まってしまった状態
バルトリン腺炎の症状としては、陰部の痛みと腫れで、腫れが大きくなると日常生活に支障をきたし、特に歩行時や座っている時に不快感や痛みを感じることもあります。 バルトリン腺炎は細菌感染によるものなので、ストレスや寝不足、疲労などによる免疫力の低下が原因と考えられます。
西洋薬治療では、細菌感染による腫れや痛みがある場合は抗生剤を投与して炎症を鎮めていきます。 バルトリン腺膿瘍がひどくなってしまった場合には、膿瘍を切開し、膿を排出する切開排膿術を行ったりもします。
一度治療をしても何度も再発をしてしまう方もいて、その場合はバルトリン腺を摘出する手術を行うこともあります。
漢方で考えるバルトリン腺炎
漢方薬局においてバルトリン腺炎の相談にいらっしゃる場合は、何度も再発しその度に抗生剤や切開を繰り返しているようなケースが比較的多いと感じます。
また、バルトリン腺炎に限らず、副鼻腔炎や膀胱炎、膣カンジダ症なども再発を繰り返しやすく、その度に抗生剤で対症療法しているケースも見られます。
このように、病気の再発を何度も繰り返してしまうのは、漢方では「体質的」な問題があると考えて、再発を繰り返す体内の異常を整える、つまり体質改善を行うことで症状を治療するのみならず、再発を抑制することを目指していきます。
このことは、単に漢方薬は症状や病名で一律的に薬を決めるわけではなく、どのような体質をもっているのか、再発しやすい体質とは何かを見極めながら治療にあたります。
バルトリン腺炎では、急性期→亜急性期→慢性期へと移行していく過程での炎症の程度、炎症による体の消耗具合に応じて、漢方薬を適切に使い分けていきます。
そこで、バルトリン腺炎の漢方薬治療の説明に入っていくわけですが、バルトリン腺炎の病態は「陰部で生じている炎症症状」です。
ですので、漢方薬治療では「陰部に作用する薬物」でなおかつ「炎症や化膿を鎮める薬物」を組み合わせたものを用います。
実際に、バルトリン腺炎のような陰部の症状に作用する漢方薬が多数創設されています。 その中でもっとも代表的な処方が、竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)です。 この漢方薬は15〜16世紀を代表する薛立斎(セツリツサイ)によって創設されました。
「肝経の湿熱、或いは嚢癰、便毒、下疳、懸癰、腫して痛みを作し、小便濇滞(ショクタイ)し、或いは婦人陰瘡痒痛し、男子陽挺(鬼頭)腫脹し、或は膿水を出すを治す。」
薛立斎『外科枢要・治瘡瘍各症附方』加味竜胆瀉肝湯
この条文はわかりづらいですが、要約すると「男女問わず、陰部や泌尿器系の炎症や化膿性疾患には(加味)竜胆瀉肝湯を用いよ」ということが述べられています。
実際に竜胆瀉肝湯は膀胱炎や尿道炎、前立腺炎や子宮内膜炎など陰部や泌尿器系の疾患に用いて、効果を発揮してくれます。
そのため、竜胆瀉肝湯はバルトリン腺炎の治療でも真っ先に候補に上がる処方の一つです。
もちろん、炎症や化膿の状態、再発性、体質なども考慮して適宜処方を検討したり、複数の漢方薬を使い分けたりしながら治療にあたっていくことにはなります。
漢方薬では、急性期では竜胆潟肝湯のように炎症や化膿を素早く取り除くような処方の組み合わせて用います。 再発性や慢性化した状態では、ただ炎症をとるだけでは対症療法にしかならないため、症状を引き起こす身体の弱りにも注目しながら、炎症を抑えつつ病気を引き起こす身体の弱りを補う処方をバランスを見極めながら、うまく組み合わせていくことが大切になります。
バルトリン腺炎でお困りの方や何度も再発してしまう方は、漢方薬でも改善できることがありますので、お困りの場合は漢方専門の医療機関に一度ご相談してみてください。
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