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処方解説

梅雨〜夏場に用いる漢方薬(3)白虎加人参湯

白虎加人参湯という漢方薬はツムラさんの添付文書の効能効果に「のどの渇きとほてりのあるもの」との記載があります。
*この処方は医療用医薬品にもあり、保険処方箋でも取り扱いのある漢方薬です
この効能効果だけを見ると、「これって一体どんな病気なの?」と不思議に思うかもしれません。

のどの渇きやほてりなどは、夏場になれば誰でも実感する状態でもあります。
今回は白虎加人参湯の「のどの渇きとほてりのある状態」とはどういうことなのか、また夏場にはどのように活用すれば良いのかについて解説します。

白虎加人参湯の出典

白虎加人参湯の出典は葛根湯と同じく『傷寒論(ショウカンロン)』という書籍になります。
*『傷寒論』西暦200年前後に作られたといわれています。

この『傷寒論』の中にの中に白虎加人参湯はどのような場面で用いるのかついて、いくつかの文章で述べられています。
その中から一つの条文をご紹介します。

「太陽の中熱は暍(えつ)、是れなり。汗出でて悪寒し、身熱して渇す。白虎加人参湯之を主る」

太陽というのはお日様の太陽のことではなくて体表面でを意味しており、中熱というのは「熱に中る」のことです。
暍というのは、「熱中症や日射病」のことです。

ですので、この条文を現代に翻訳すると、
「太陽の日差しを受けて熱中症になり、汗が出て寒気がし、体に熱感があり口が渇いている時に白虎加人参湯を用いなさい」
となります。

これで、最初にご紹介したツムラさんの効能効果「のどの渇きとほてりがあるもの」輪郭が少し見えてきたかもしれません。

熱中症になるくらい身体に強い熱が溜まって、汗がたくさん出て、体の水分が枯渇するので喉が渇いてしまう。
そんな時に用いるのが白虎加人参湯の使い方だとわかります。

白虎加人参湯の生薬構成

白虎加人参湯は白虎湯という漢方薬に人参という生薬を加えたものになります。
(*白虎加人参湯=白虎湯+人参)

白虎湯は「石膏(セッコウ)・知母(チモ)・粳米(コウベイ)・甘草(カンゾウ)」の4種類の生薬で構成されていて、ここに人参を加えて白虎加人参湯になります。

白虎加人参湯の構成生薬から、大きく2つの特徴を見出すことができます。

1.身体の熱を冷ます性質がある

まずは全体の構成として、「石膏・知母」が「寒性」で身体の熱を冷ます性質があります。
特に石膏は「大寒」と言って、体の熱を除く作用が強力です。

さらに「粳米」は「涼性」でやや冷やす性質があります。
甘草は「平性」と言って、温めも冷やしもしないです。

ですので、白虎湯は甘草以外のすべての生薬は身体を冷やす作用があります。

白虎加人参湯はそこに人参を加えますが、人参は「微温性」で少しだけ温める方に傾きますが、それでも石膏や知母などの冷やす作用が強いので、白虎加人参湯の全体としての性質は体を冷やす方向に働きます。

そのため、白虎加人参湯の1つ目のポイントは「身体に熱があるのを確認」してから使う必要があります。

2.身体(胃)を潤す作用がある

白虎加人参湯は甘草を除いた「石膏・知母・粳米・人参」はどれも身体を潤す作用があります。
とりわけ、胃に作用し胃を潤します。

胃は口とつながっているので、のどの渇きがあるということは胃も渇いているというように漢方では考えます。
ですので、白虎加人参湯は胃を潤すことでのどの渇きを改善する作用があります。

胃が潤うことは、ただ単にのどの渇きを潤すだけにとどまりません。
胃で水分が吸収された後、その水分は血液をめぐり全身に運ばれます。
そして、肌や目、筋肉などを潤すことで乾燥から身を防ぎ、本来の機能を発揮することができます。

そのため、熱中症になってしまったら、脱水症状を起こし体の水分が不足することでめまいや筋肉の痙攣などが生じたりするわけです。

白虎加人参湯の2つ目のポイントは、「身体の水分が不足して乾燥状態が見られる」ことです。

白虎加人参湯の臨床応用

今まで見てきたように、構成生薬から「体の熱感」「乾燥」症状が必要であることがわかりました。
実際に、白虎湯を使う目標として、「大汗・大熱・大渇・脈洪大」の四大症状を確認することが、昔から言われています。

<白虎湯の四代症状>
・大汗:汗を多量にかく
・大熱:体の表面に熱がこもっている
・大渇:のどが渇いて、冷たい飲み物を欲すること
・脈洪大:大きくて力強い脈のこと

身体に熱がこもっているので、熱がこもり脈も力強くなります。
熱のため汗がたくさん出るので、脱水と体の熱に対応するために冷飲を好む、というのが白虎湯および白虎加人参湯の特徴です。

1.熱中症

夏の暑さで身体がやられてしまう場合、これを「暑邪(ショジャ)」と呼びます。
暑邪は熱の性質を帯びていて、身体を冒すと「高熱・のどの渇き・汗が多い・脈が速くなる」などの症状が現れます。
このように、身体に夏がこもり水分を失いかけている状況の時に白虎加人参湯を用います。

夏場に屋外でのスポーツや仕事をしていて、体が熱くなって頭痛や脱水症状が現れる前に白虎加人参湯を頓服的に服用することで、熱中症の症状を抑えることができます。

2.皮膚症状(湿疹・アトピー性皮膚炎など)

夏場に出やすい症状として、身体に熱がこもることで皮膚に炎症が起きやすくなります。
夏場のアトピー性皮膚炎や湿疹などに、白虎加人参湯が適応となる場合があります。

中国の古典医書には多数、白虎湯を皮膚の症状に応用しています。

「〜発斑、兼ねて、豆疱、瘡疹、伏熱を治す」


『宣明論方』劉完素

この条文では、皮膚が紅くなる紅斑、豆疱(水疱)、湿疹などの皮膚症状に白虎湯を用いるとされています。

「外表の熱、裏に入るときは則ち、譫語、口乾、発疹、潮熱」


『儒門事親・暑門』張子和

このように熱が体内に入った時は、皮膚症状に白虎湯を用いるとしています。
それ以外にも、多くの古典で皮膚症状に白虎湯を用いる例が紹介されています。

白虎加人参湯は皮膚が乾燥して(場合によっては落屑といって皮膚が粉状に落ちることもあり)、赤みが強く、熱感がある(熱がこもっている感じ)、汗が多く(なくてもいい)痒みが強い時に効果を発揮することがあります。

アトピー性皮膚炎でも汗はかくのに皮膚の傘付きが強い場合に有効なことがあります。

3.糖尿病

糖尿病について、季節性関係なく使うので、あまり関係ないかもしれませんが、少しだけご紹介します。
現在では、糖尿病治療に白虎加人参湯を用いることはあまりないのですが、用いられる経緯をご紹介します。

「高消(コウショウ)は、舌上赤裂、大いに渇して飲を引く、逆調論に云く、心、熱を肺に移し、膈に伝わりて消する者、是なり。白虎加人参湯を以て、之を治す。」


李東垣『蘭室秘蔵』消渇門・消渇論

この出典で述べているのは、「消渇(ショウカチ)」という病気を「高消・中消・下消」の三消に分けたうちの高消についての解説です。
高消では、「舌が紅く裂け、のどが渇いて水を飲みたがる症状があり、この場合に白虎加人参湯を用いる」としています。

この、消渇(ショウカチ)がのどの渇きが強く水を飲みたがるなどの症状や多尿などの症状を現す病証のことです。
この消渇が糖尿病に似ているということで、白虎加人参湯が糖尿病がのどの渇きが強い場合に応用されると言われています。

ですが、私は使ったことがないので、実際のところはどこまで効果を発揮してくれるのかはわかりません。
糖尿病の場合はまずは西洋治療を優先するのが望ましいでしょう。

ただ、知母に「血糖降下作用がある」ともいわれたり、石膏を加えるとその効果が強まるともいわれています。

白虎湯と白虎加人参湯の違い

白虎湯と白虎加人参湯の違いは人参が入っているかどうかの違いだけです。
人参は「身体を潤し、元気づける作用」があります。

そのため、白虎湯が適応となる方で潤いの不足(肌の乾燥が強い)、や気力が不足(身体の虚弱)が明らかな場合は人参の配合された白虎加人参湯の方が効果的と言えます。

具体的には・・・

白虎湯の患者さんで熱症状が慢性化した場合、熱によって身体の水分がどんどん奪われていきますね。

このように熱による脱水が進行した場合は、白虎加人参湯を用いるのが望ましいとされます。

もしくは、元々の体質が乾燥タイプであったり身体がやや虚弱で細い方とかは身体に水分を溜め込む力がないので、身体に熱がこもるとすぐに水分が失われてしまいます。

そのような方は白虎湯よりも白虎加人参湯が適応となります。

まとめ:白虎加人参湯がオススメな方

・夏場に野外で仕事をする人・スポーツをする方(身体の熱感・のどの渇き・頭痛・多量の汗)
・皮膚病(湿疹やアトピー性皮膚炎などで皮膚が乾燥して、赤みが強い場合に用います)

今井 啓太

薬剤師。1984年生まれ。名古屋市立大学、大学院を出た後、大手医薬品卸会社に入社。営業所の管理薬剤師として、西洋医学を中心に知識を深める。その後、調剤薬局勤務を経て、漢方薬局 博済に勤務。福島毅先生より、中医学理論及び漢方の臨床について学ぶ。その後、漢方コラージュの戸田一成先生より漢方経方理論を学び、実践への礎を築く。2016年、三鷹にて漢方薬局 Basic Spaceを開局。

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