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咳嗽とは

咳嗽とは、一般的には風邪の初期から後期にかけて日常的に生じる「せき」のことです。

咳は気道内の異物を排出しようとする身体の防御反応の一つであり、痰は主に気管や気管支からの分泌物で、気道の浄化と感染防御を行っています。

通常は風邪症状が治るとともに咳嗽も治ってくるので、たかが咳だと思ってみくびっていると、慢性化してしまい数ヶ月も咳が止まらないことも出てきてしまいます。

近頃は咳嗽が慢性化して1ヶ月以上も続いている方も増えているような印象があります。

東洋医学ではかつて「咳嗽」のことを「咳」と「嗽」を分けて考えていました。

:無痰有性(痰がなく、音が出るもの)
:有痰無声(痰があり、音が出ないもの)
咳嗽:有痰有性(痰も音もあるもの)
実際の臨床においては、はっきりと「咳」と「嗽」を分けることが難しいため、一般的には合わせて「咳嗽」と呼ばれています。
咳嗽は風邪症状の結果として現れたり、肺の持病の結果として現れたり、全身症状の弱りの結果として現れたりなど多岐にわたった要因が存在します。
ただし、咳嗽はあくまでも症状に対して名付けられたものですので、今回は風邪症状や他の病気の結果生じる症状としての咳嗽は除いて(それについては本命の病気の治療を優先する)、咳嗽が主の症状として現れているものに絞って漢方薬の対策をまとめています。

咳嗽の症例

コラム「長引く痰が絡む咳に竹筎温胆湯」

コラム「症例54 ニキビと鼻水と咳」

コラム「症例42 長引く咳と痰に蘇子降気湯」

コラム「症例39 長引く咳に荊防敗毒散」

コラム「症例36 コロナ感染回復後の倦怠感と咳に味麦益気湯」

コラム「風邪のあとに残った咳の漢方薬治療」

咳嗽の弁証論治

東洋医学において咳嗽を治療するには、押さえておくべきポイントがあります。

咳嗽だからといって、病名での漢方薬投与は当たれば良いのですが、外れた場合に悪化してしまうこともあるので、丁寧に鑑別していく必要があります。

病位は「肺」

まずは、病位(病気が生じている部位)を明らかにする必要があります。

そこで、参考になるのは古典です。

『黄帝内経素問・欬論篇』
「肺の人をして咳せしめるは、何ぞや。岐伯対(こた)えて曰く、五臓六腑は皆、人をして咳せしむ。独り肺のみにあらざるなり。」

東洋医学では、人体の内臓を五臓六腑に分けて考えます。
とりわけ五臓の働きが大切になるのですが、『黄帝内経』では咳は五臓の肺がメインではあるものの、全身(五臓六腑)と関連していることを述べています。

『景岳全書・雑証謨・十九巻・咳嗽』
「総ての咳証は多いと雖も、肺の病に非ざるは無し。」

『景岳全書』では、咳の原因はたくさんあるが、「肺の病気」であることは間違いない、と述べています。

五臓六腑でいうところの肺は「肺・気管・気管支・鼻・体表面など」広い領域を指しています。

『黄帝内経』と『景岳全書』から、咳嗽は「肺」が病気の本質的な部位であり、派生して他の臓器(肝・心・脾・腎)も原因になり得ることがわかります。

外感と内傷

またしても、『景岳全書』からの引用です。

『景岳全書・雑証謨・十九巻・咳嗽』
「咳嗽の要は唯だ二証に止む、何を二証となすや。一つに曰く外感なり、一つに曰く内傷を曰う。これに尽きたり。(中略)外感の咳、それ来たりて肺にあり。故に必ず肺より以って臓に及ぶ。これ肺を本となし、臓を標となすなり。内傷の咳、まず臓を傷らるるによる。故に必ず臓より以って肺に及ぶ。これ臓を本となし、肺を標となすなり」

『景岳全書』によると、咳嗽の原因は「外感」と「内傷」に分けられると考えています。

外感とは、身体の外、つまり自然界の影響を感じる(受ける)ことです。

通常は雨の日であったり、寒い日、暑い日などがあっても、体はうまく適応してやり過ごすことができます。

しかし、過度な暑さや寒さ、湿気の影響で体に悪影響を及ぼすとこれを「外感病」と言い、病気の原因となります。

具体的には六因(ロクイン)と呼ばれ、具体的には「風・寒・暑・湿・燥・火」があります。

『河間六書』
「寒暑燥湿風火の六気、みな人をして咳せしむ」

とりわけ、肺は五臓の中でも一番上部にあるため、六因が侵入してきて一番最初に侵害されます。

中でも咳嗽の場合、「風・寒・燥・熱」の邪の影響を受けやすいです。

対して、内傷咳嗽は、肺本来の病気や他の臓器の病気が肺に波及し、肺の機能を低下させることで生じる咳嗽のことです。

そのため、内傷咳嗽の病理は「肺」の機能失調による咳嗽と、他臓(脾・肝・腎)が肺に及ぼすことで生じる咳嗽とに分けることができます。

*肺の機能失調による咳嗽は次の「乾咳と湿咳」で詳しく解説します。

乾咳と湿咳

東洋医学では五臓六腑で病気の部位を特定するだけでなく、「気・血・水(津液)」の生理物質も病気に大きく関係します。

その中でも咳は「水」との関連が深い病気です。

水は体に潤いを与えると同時に、「肺」の領域においては気道の粘膜に潤いを与えることで、乾燥を防いだり、細菌、ウイルスなどの病理産物から身を守ってくれます。

一方で病的な状態になってしまう、つまり「肺における水の量、質の変化」が起きると気道がやられてしまい、咳嗽が生じます。

乾咳:乾燥した咳(空咳)、肺の「水」が枯渇した状態
湿咳:「水」が異常な量に増えたり、粘っこくなる(質の変化)ことで痰が生じる

寒と熱

東洋医学では、病態を把握する物差しの一つに「寒熱」があります。

身体の中に余分な熱がないか、余分な寒がないかを探ります。

これは先ほどの外感のところに出てきた、六因の「寒」と「熱」とも関連します。

また、六因の寒熱に加えて、内傷の「寒」と「熱」もあります。

同じ咳嗽であっても、肺熱なのか肺寒なのかによってもまるっきり対処が違います。

咳嗽における寒熱のポイントは以下のようになっています。

肺熱:痰が黄色、痰が粘性、温まると悪化する など
肺寒:痰がサラサラで透明、冷えると悪化する など

標と本

最後のポイントは「標」と「本」です。

:病気の表面状の症状
:病気の原因となる本質

「漢方薬は体質改善である」という言葉が一人歩きをして、どうしても全身状態を鑑みて処方を決める、いわゆる「本」の治療が大切だと認識されがちです。

しかし、咳嗽に関しては他の臓器が関わっているとはいえ、病位の本質は「肺」に限局されます。

そのため、急性の咳嗽であればあるほど、「肺」に焦点を絞った漢方薬の選定を行うことが大切になってきます。

急性咳嗽に関しては、まずは咳嗽の症状を取り除くことを目的として、対症療法となる「標」に絞った漢方薬を用いることを優先するケースが多いです。

対して、慢性咳嗽になると、ただ咳嗽の症状だけの治療の「標」ではうまくいかないこともあります。

その場合は、咳嗽の本質(他臓との関わり)も考慮して、時には全身状態も把握した上で、標と本を取り入れた漢方薬を用いるケースもあります。


以上のことから、咳嗽といっても様々な東洋医学的な視点で病態を明らかにしていかないと、なかなか改善までに至らないことがあります。

咳嗽を繰り返す方や慢性化して治らないような場合は、東洋医学専門の医療機関にご相談いただければと思います。

咳嗽に用いる代表的な漢方薬

弁証論治のところで咳嗽の病態を把握したら、最後の漢方薬を選定していきます。

ここで取り扱う漢方薬はあくまでも一例になります。

他にも多数の漢方薬がありますので、個別に合わせて使い分けたり、複数を組み合わせたりします。

麦門冬湯(バクモンドウトウ)

【配合生薬】麦門冬・半夏・粳米・大棗・人参・甘草
【主治】肺陰虚
麦門冬を主薬とした肺陰虚(肺の水が不足した病態)の咳嗽に用います。
いわゆる乾燥した咳(空咳)を特徴として、「ケンケン」「コンコン」という乾いた咳に用います。
出典の『金匱要略・肺痿肺癰咳嗽上気病』の「大逆上気」とあるように、一度咳込むとなかなか止まらなかったり、「咽喉不利」のように、のどがムズムズ・イガイガしてちょっとした刺激にも咳込んでしまうような時に用います。
人参や棗など胃腸にも優しいので、長期間の服用にも問題なく使えます。
高齢者や慢性化した咳嗽に用いることが多く、適応すると短期間で咳嗽が減じることもあります。

三拗湯(サンヨウトウ)

【配合生薬】麻黄・杏仁・甘草
【主治】風寒咳嗽
三拗湯は麻黄湯から「桂皮」を除いた処方で、風寒の邪による風邪症状(頭痛・発熱・悪寒・関節痛など)がなく、咳嗽や喘息などの肺症状だけがある場合に用います。
風寒による六因の邪によるため、急性期の咳嗽に用いられ、冷たい風に当たったことで生じる咳嗽で、咳の勢いは強く激しいものになります。
麻黄も杏仁も気道の炎症を鎮め、咳を止める作用があります。
また、甘草と麻黄の組み合わせは甘草麻黄湯という処方になり、浅田宗伯は気管支喘息に用いており、気管支平滑筋の痙攣を抑える作用があります。

麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)/ 五虎湯(ゴコトウ)

【組成】麻杏甘石湯(麻黄・杏仁・石膏・甘草)+桑白皮(五虎湯)
【主治】肺熱咳嗽
三拗湯に石膏を加えたものが麻杏甘石湯、さらに桑白皮を加えたものが五虎湯になります。
石膏も桑白皮も性は「寒」であり、肺や気道の炎症である肺熱を鎮め咳嗽や喘息を抑える働きがあります。
肺熱の咳嗽の特徴は、咳嗽が激しく、時にかすれて、黄色でネバネバした痰が出る、もしく痰はあまりでません。
熱により気道の粘膜が蒸され、のどが渇き、痛みが生じることもあります。
温めると悪化する傾向があります。
のどの痛みや咳嗽が強い時は、桑白皮が配合された「五虎湯」を用います。
さらに、黄色のネバネバした痰が多い時は痰を溶かす二陳湯を加えた「五虎二蔯湯」を用います。

清肺湯(セイハイトウ)

【組成】黄芩・桔梗・桑白皮・杏仁・山梔子・天門冬・貝母・陳皮・大棗・竹茹・茯苓・当帰・麦門冬・五味子・生姜・甘草
【主治】肺熱・肺陰虚
大気汚染や長期間のたばこの煙による刺激で、肺や気道に炎症が継続してあると、痰や咳嗽が慢性化した状態になります。
このような呼吸器疾患に用いるのが、清肺湯です。
「タバコ病」とも言われるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に適応となることが多く、粘っこくて切れにくい黄色の痰やのどの痛み、息切れを伴う咳嗽であるのが特徴で、痰が切れるまで咳込むこともあります。
一方で、気道の炎症が慢性化することで、気道の粘膜はただれて、のどがかれて声枯れが生じたり、血痰を伴うこともあります。

竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)

【組成】半夏・陳皮・茯苓・枳実・生姜・甘草・竹茹・麦門冬・柴胡・黄連・香附子・桔梗・人参
【主治】痰熱上擾

竹筎温胆湯は温胆湯に「麦門冬・柴胡・黄連・香附子・桔梗・人参」を加えた処方で、温胆湯より熱証が強く、傷陰(のどの粘膜損傷がある)症状がある場合に適応となります。
出典である『寿世保元』にあるように、風邪が長引いて咳嗽が残り、粘っこい黄色の痰が多量に出て、さらに炎症が続くことで、脳が興奮して眠れないようなものに用います。

コラム「長引く痰が絡む咳に竹筎温胆湯」

葦茎湯(イケイトウ)

【組成】薏苡仁・冬瓜子・桃仁・葦茎
【主治】肺癰

肺熱が極地まで達して、化膿性の痰を伴う咳嗽に用います。
配合されている「薏苡仁・冬瓜子」は化膿して悪臭のある緑色の痰が多量に出るときに、排膿(膿を排出する)させて、化膿症状を軽減させることができます。
しかし、炎症を抑えたり咳嗽を鎮める作用は乏しいため、葦茎湯を単独で用いることは少なく、炎症や化膿症状が強ければ、「石膏・連翹・金銀花・桔梗」などを含んだ漢方薬を適宜併用する必要があります。
湯本求真は、石膏は「粘稠度の高いネバネバ・ゴロゴロとした濃黄色の痰」に、薏苡仁は「粘稠度の低いサラサラとした淡黄色の痰」に用いると述べており、臨床での石膏と薏苡仁の使い分けの参考となります。

参蘇飲(ジンソイン)

【組成】蘇葉・枳実・桔梗・陳皮・葛根・前胡・半夏・茯苓・人参・大棗・生姜・木香・甘草
【主治】気虚湿痰 / 風寒咳嗽
参蘇飲は配合生薬の人参の「参」と蘇葉の「蘇」のことで、人参は脾胃気虚(胃腸の弱り)を改善し、蘇葉は風寒の邪を軽く発散させて追い払うとともに、脾胃気滞(胃腸の働きの低下、つまり)を改善する作用があります。
一般的には「体力のない胃腸の弱った人の風邪」に用います。
ただ、発表作用は弱いため、風邪症状がない咳嗽にも応用が可能です。
配合生薬に「半夏・茯苓・陳皮」などの二陳湯を含むため、痰飲(体内の不要な水)をさばきながら咳嗽を鎮める作用があるため、サラサラ〜粘りのある痰を伴う咳嗽にも応用することができます。
適応は胃腸が弱く虚弱体質な傾向であるため、食欲不振・疲れやすい・下痢傾向などの症状があり、肺も弱っているため、咳の勢いも強くはなく、痰が絡んで困る咳嗽に用いることができます。

十味咳嗽(ジュウミガイソウ)

【組成】茯苓・半夏・陳皮・桔梗・前胡・紫蘇子・杏仁・桑白皮・枳殻・生姜・甘草
【主治】湿痰咳嗽
その名の通り、生姜を除いたら10種の生薬で構成された処方になります。
十味咳嗽は湿痰に対応する二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・甘草)に止咳作用のある「杏仁・前胡・桔梗・紫蘇子・桑白皮」を加えた処方です。
サラサラより少し粘り気のある白色〜少し黄色の痰が多く出てのどに絡む咳嗽に効果的です。

甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)

【組成】甘草・乾姜
【主治】肺中冷

甘草と乾姜からなるシンプルな処方です。
この後に出てくる、小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯・人参湯にも含有されており、肺の冷えの病態の基本処方となります。

『金匱要略・肺痿肺癰咳嗽上気病』
「肺痿、涎沫を吐して咳せざる者は、その人渇せず、必ず遺尿し、小便数なり。然る所以の者は、上虚して下を制する能わざるを以っての故なり。これを肺中冷と為す。必ず眩し、涎唾多し。甘草乾姜湯を以って之を温む。若し湯を服し已って渇する者は消渇に属す。」

この条文にあるように、「咳は出ないが、痰が多い」とあり、咳の方剤としては不適ではありますが、湿咳における痰をさばく基本処方となるのでご紹介しました。
ここでいう痰は「涎唾」であり、これは「水のようなサラサラな痰」であり、これは身体が冷えているために生じる痰です。
乾姜は体を温めますので、肺を温めて水のような痰を減らしたい時に考慮すべき方剤です。

小青竜湯(ショウセイリュウトウ)

【組成】麻黄・桂皮・芍薬・半夏・細辛・五味子・乾姜・甘草
【主治】表寒裏飲
小青竜湯は「甘草乾姜湯」を内包しているため、薄く水様でサラサラ〜泡状の多量の痰を伴う湿咳に効果的です。
咳が強い場合は、からえづきを伴うことがあります。
気管支喘息にも用いることができ、横になると呼吸困難や咳嗽が激しくなる傾向があります。
全体の生薬構成が温性に偏っているため、体が冷えやすく、冷えによって誘発されやすい湿咳に有効です。
水様の痰だけでなく、サラサラした鼻水が出たり顔面部のむくみが生じることがあります。
眠れないほど激しい咳や手足が落ち着かなかたっり、痰が熱化して黄色味を帯びてくる場合は石膏を加えた「小青竜湯加石膏」を用います。

苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)

【組成】茯苓・杏仁・甘草・乾姜・五味子・細辛・半夏
【主治】寒痰阻肺
苓甘姜味辛夏仁湯は長い名前ですが、含有される各生薬の一文字を組み合わせた名称です。
小青竜湯の裏の処方と言われ、小青竜湯から体表に働く「麻黄・桂皮・芍薬」を除いて、「茯苓・杏仁」を加えたものになります。
そのため、苓甘姜味辛夏仁湯には表証(寒気・発熱・頭痛など)がなく、専ら咳嗽や痰の症状のみの場合に適応となります。
小青竜湯と同様に湿咳に該当し、痰の性状もサラサラや泡状で多量に存在する場合に用います。
麻黄が配合されていないので、麻黄が服用できない胃腸虚弱な人や緑内障、前立腺肥大などの既往を持つ湿咳タイプに用いることができます。

人参湯(ニンジントウ) / 理中湯(リチュウトウ)

【組成】人参・白朮・乾姜・甘草
【主治】脾胃陽虚 / 胃寒
人参湯は、一般的に脾胃(胃腸)を病位とするため、本来は咳嗽に適応となることはありません。
しかし、人参湯にの「甘草乾姜湯」を含有しているため、「肺中冷」による咳嗽が適応となる場合があります。
『金匱要略・胸痺心痛短気病脈証并治』「胸痺、心中痞〜人参湯も亦た之を主る」とあり、胸やみぞおちの痞えがある場合に人参湯が適応となる場合があります。
冷えた空気にさらされて、なおかつ胃の働きが悪くつかえている時の咳嗽に人参湯が有効となります。
冷えが強く、水様の痰が多い場合は「附子」を加えて「附子人参湯/附子理中湯」として用います。

小柴胡湯(ショウサイコトウ)

【組成】柴胡・黄芩・半夏・生姜・人参・大棗・甘草
【主治】半表半裏

小柴胡湯は「柴胡・黄芩」の清熱作用のある生薬を配合しているため、黄色い少量の痰を伴う咳嗽です。
出典である傷寒論には、加減法が記載されており、症状に応じて加減するように指示されています。

『傷寒論・巻第三・弁太陽病脈証并治中第六』
「若し咳する者は、去人参、大棗、生姜、加五味子半升、乾姜二両」

咳する場合は人参、大棗、生姜を除いて、五味子、乾姜を加えて用いるとされています。
この場合は「甘草乾姜湯」の方意となるため、痰の量が多い場合に用います。
しかし、一般的に痰が多い場合は「半夏厚朴湯」を合方した「柴朴湯」を用います。
また、熱性が強くなり痰が絡んで取れなくなり胸の痛みまで生じるような場合は、小陥胸湯を合方した「柴陥湯」を用います。
このように、小柴胡湯は半表半裏という幅広い症状に対応できる一方で単独で咳嗽に用いることは少なく、加減したり合方して用いることで効果を発揮します。

半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)

【組成】半夏・茯苓・厚朴・蘇葉・生姜
【主治】痰湿阻肺

半夏厚朴湯といえば、今ではのど元の痞え、ヒステリー球の薬だと思われていますが、咳嗽や吐き気など、さまざまな症状に応用可能です。
咳嗽に用いる場合は、風邪が治った後にのどに白い粘っこい痰が絡まるような咳嗽に用います。
出典の『金匱要略・婦人雑病脈証并治』には「婦人、喉中炙臠あるが如きは、半夏厚朴湯之を主る」とあり、喉元がイガイガして、咳払いをしていないと咳が止まらず、コンコンとしたいがらっぽい咳が特徴的です。
また、婦人に限らず上記の症状があれば男性にも適応可能です。

滋陰降火湯(ジインコウカトウ)

【組成】地黄・当帰・芍薬・天門冬・麦門冬・陳皮・朮・知母・黄柏・甘草・(大棗・生姜)
【主治】肺腎陰虚・陰虚火旺
滋陰降火湯は、「肺」のみならず「腎」にも影響が及んだ咳嗽です。
慢性的な咳嗽のため、肺だけでなく腎も損傷してしまった場合、あるいはもともと体が弱って腎を障害されている方が肺をやられて慢性咳嗽となった場合、肺腎陰虚となり滋陰降火湯の適応となります。
「陰虚」とは体の水分が損傷してしまった場合であり、「乾咳」に該当します。
乾咳のため、痰はなく、あっても少なく粘っこくてキレが悪いのが特徴です。
「地黄・当帰・芍薬」といった血分に作用する生薬も配合されており、血痰が混じる場合も想定されています。
また、病位が肺腎にまたがっているため、全身的な乾燥(皮膚枯燥・肌肉損傷・脱髪など)も見られます。

蘇子降気湯(ソシコウキトウ)

【組成】桂皮・生姜・大棗・甘草・蘇子・厚朴・半夏・陳皮・前胡・当帰
【主治】寒痰喘咳 / 上実下虚
蘇子降気湯は「蘇子」を主薬として、肺の余分な水を除去して吸い込む力である「降気」を楽にする処方です。
当帰は補血作用として働くため、咳嗽とは一見無関係に思えますが、『神農本草経』に「咳逆上気を治す」と記載されており、咳を鎮める作用もあるとされています。
配合生薬は痰飲を除く作用のあるもので構成されているため、痰が多い湿咳に該当します。
蘇子降気湯は肺だけでなく腎陽の不足があり、足の冷えなどの腎陽虚症状も伴います。

桑杏湯(ソウキョウトウ)

【組成】沙参・杏仁・桑葉・浙貝母・淡豆豉・梔皮・梨皮
【主治】燥熱傷肺
六因の「燥」と「熱」の邪が合わさって肺に侵入したために生じた咳嗽です。
熱も燥も乾かす性質があるため、乾咳に属します。
燥熱は、夏〜秋の変わり目の頃や暖房をかけた室内の暖かく乾燥した環境のことを指します。
表証を兼ねているので、頭痛や熱感、発熱なども見られます。

沙参麦門冬湯(シャジンバクモンドウトウ)

【組成】沙参・玉竹・麦門冬・桑葉・生白扁豆・天花粉・甘草
【主治】燥熱傷津
燥熱が進行して、肺や胃の津液を損傷した時の「乾咳」に用います。
口やのどの乾燥感、声枯れなど、気道の粘膜が乾き、やや熱感症状がある場合に用います。
麦門冬湯は純粋な肺胃陰虚ですが、沙参麦門冬湯は燥熱による傷津のため熱症状があり、さらに麦門冬湯より一層、陰虚(燥き)が強い状態に適応します。

百合固金湯(ビャクゴウコキントウ)

【組成】生地黄・熟地黄・当帰・芍薬・麦門冬・百合・玄参・貝母・桔梗・甘草
【主治】肺腎陰虚
肺陰虚が慢性化して気道粘膜の萎縮や気道の分泌低下、軽度の炎症があり、気道が刺激を受けやすい状態に陥った時に用います。
気道粘膜だけでなく、全身的にも栄養不良や脱水などの状態になっており、陰虚による熱感もあります。
乾咳の程度は重く、大塚敬節氏は「夜中に喉が乾いてひっつきそうになる人に使ったことがある」と述べており、さらには出血(血痰)が生じる場合もあります。

まとめ

咳嗽の病態と漢方処方について、長々と解説してきました。

こうやってまとめてみても、実際にいらっしゃる患者様は千差万別であり、マニュアル通りの対応では咳嗽が治らないケースもあります。

咳嗽は聞診(咳の音をたよりに診断すること)が大切であり、音の状態から咳を分別することも必要です。

漢方薬の効果判定も短期間でわかることが多いため、長期間の服用をせず可能な限りこまめに状態を確認できるのが理想的です。

咳嗽が慢性化した場合は、肺炎などの病気になっている可能性もあるので、漢方薬だけに頼らずに病院への受診も必要です。

ただ、咳嗽に関してはしっかりと弁証論治を行い、適切な漢方薬を選択することができれば、すぐに改善するケースもありますので、お困りの場合は東洋医学専門の医療機関にご相談ください。