気象病とは
雨や台風など、気候が変動すると体調が悪くなるものを気象病といいます。
天候が変わると気圧や湿度が変わり、耳の中にある内耳のセンサーが過敏になります。
その結果、自律神経が乱れて症状が出るとされています。
以前は気象病が認知されておらず、天候で体調不良を起こしても「気合が足りない」、「根性が足りない」、「気が緩んでいる」などといった精神論で片付けられてきました。
しかし、現在では気象病外来や天気痛外来もできるほどになり、社会にも徐々に認知されるようになってきました。
株式会社ウェザーニューズが調べた「天気痛調査2023」では、次のようになっています。
1)日本人の7割近くに天気痛の自覚あり、女性は半数以上が天気痛持ち
2)天気痛症状の第1位は頭痛、8割以上に頭痛の症状あり
3)天気痛発症の3人に1人は週に2回以上発症、若い世代ほど発生頻度が高め
4)予防策第1位は「天気予報をチェック」、約半数が実践
5)対応方第1位は「薬を飲む」、約7割が実践
6)症状緩和のための1月当たりの費用は全国平均1,843円
7)天気痛症状により、4人に1人は生活に支障あり
8)7割近くが、雨や曇りの日に発症する傾向
9)一番気にしている気象要素は「気圧」、約8割が症状に関係ありと認識
10)台風接近時は天気痛持ちの8割以上が発症
引用元:【天気痛調査2023】/ ウェザーニュース
約7割の方に天気痛の自覚があり、女性の半数以上が天気痛もちという結果が得られました。
また、天気痛の半数以上が我慢できないほどの痛みで、4人に1人は学校や仕事なども行えないほどつらいものとなっています。
*天気痛とは気圧や天気の変化で生じる、頭痛や関節痛、肩こりや腰痛などの痛みのことです
近年は大型台風やゲリラ豪雨など、異常気象が頻発しているので、今後も気象病に苦しむ割合は増えていくのではないかと思われます。
気象病の症状
気象病の症状は多岐にわたるため、人によってさまざまな症状が生じます。
気候の変動の時にだけ症状が出る方と、気象病によってもともとあった病気が悪化する場合とがあります。
気象病の主な症状
□頭痛
□めまい
□立ちくらみ
□むくみ
□喘息
□肩こり
□腰痛
□倦怠感(だるさ)
□関節痛
□耳鳴り、耳のつまる感じ
□吐き気
□ゆううつ感・不安感
など・・・
特に女性の場合は、ホルモンバランスの影響で気象病と同じような症状が出ることもあるので、両方が重なると症状が強く出てしまうこともあります。このような症状に対して、西洋医学では乗り物酔いやめまい薬、吐き気止めのような対症療法のお薬しかなく、病院でも五苓散(ゴレイサン)などの漢方薬が処方されることもあります。
気象病の漢方治療
西洋医学ではまだ、気象病の根本的な治療法はありません。そのため、気象病によるめまいには酔い止め薬、吐き気には吐き気止めの薬、頭痛には鎮痛剤といったように対症療法での治療になります。ですが、頭痛薬を過剰に使いすぎることで薬物乱用頭痛が生じる場合もあるので、適切に使用する必要があります。
一方、漢方では気象病の根本的な原因にアプローチすることができるため、症状の緩和だけでなく予防効果も期待できます。
漢方薬は気象病と相性が良い
漢方には古来から「天人合一(テンジンゴウイツ)」という考えがあります。
これは、「人間は自然界の一部である」ことを表しています。
つまり、人間は自然界という大きなシステムの一部に過ぎず、人間も自然界と同じ法則に従って動いているということです。
なんだかあやしい言葉に聞こえるかもしれませんが、よく考えればしごく当然のことと言えます。
例えば、暑い地域に住んでいる人は、暑邪(熱邪)の影響を受け体に熱を持ちやすかったり、熱により体内の水を失いやすくなります。
反対に、寒い地域に住んでいる人は寒邪の影響を受け、体が冷えによる病気を発症しやすくなります。
このように、本来は自然界の変化に体が順応していけば健康的な日々が過ごせるのですが、近年のように気候の変動が大きいと体が過剰に反応してしまい、気象病のような不具合が発生してしまいます。
そのため、気象病を漢方理論に照らし合わせて、体にどんな影響を及ぼしているのかを特定することができれば、症状を改善することができるのです。
気象病の原因は水毒と気血の乱れ
では、具体的にみてみましょう。
気象病に悩まされている多くの方は天候が悪くなる直前、もしくは天候が悪くなった時に調子をくずします。
これは、天気の悪化による湿度の上昇と気圧の低下が原因です。
この湿が身体に悪さをすると気象病を引き起こします。
水毒による症状
天候不良の一つ目の原因は「湿度の上昇」です。
湿気が高くなれば、空気中に含まれる水分も多くなります。
そのため、呼吸をするたびに湿気を帯びた空気をたくさん吸入することになります。
特に梅雨の時期は湿気だではなく気温も高くなるので、寒い季節に比べて多くの水分を飲んでしまいます。
本来はこの水分が適切に全身に循環することで、体を潤したり全身の機能を高めてくれます。
しかし、過剰な水分が停滞して、身体にたまってしまうことで悪さをしてしまいます。
これを水毒(スイドク)もしくは痰飲(タンイン)と呼びます。
*水毒と痰飲の違いは「日本漢方」と「中医学」の違いにあります。
この水毒はネバっとしてベタベタしているので、容易に身体から取り除けません。
水毒の特徴
・重だるさをともなう
・全身に広がって定着してしまう
(胃腸)下痢・吐き気・食欲低下
(頭部)めまい・頭痛
(手足)むくみ
(肺)咳・喘息
(全身)倦怠感・精神疲労
このように、水毒は全身に分布するため、気象病は多彩な症状を及ぼします。
気圧の低下は気血のめぐりを乱す
天候不良の二つ目の原因は「気圧の低下」です。
気圧が低下すると、身体にかかる圧が下がるため、血管が拡張します。
これにより、血流がゆっくりになり全身に栄養がまわらなくなってしまいます。
これにより、頭がボーっとしてしまったり、身体がだるくなってしまいます。
また、水毒は水による体の不調を引き起こすだけでなく、べったりとしているため気血の巡りをさらに悪化させてしまいます。
これにより、水毒が体のどこかに停滞(偏在)することでその部位に症状が生じます。
多いのは上部(首〜肩〜頭部)に停滞することで、「頭痛・めまい・肩こり・頭がボーッとする」などの症状です。
気象病の漢方治療法
以上のことから漢方薬の治療としては、水毒を改善すること・気血のめぐりを改善することがすなわち気象病の治療になります。
それを前提として、気象病によって生じている症状と個々人の体質を考慮することで、自ずと適切な漢方薬が決まってきます。
気血を促すものに、桂皮(ケイヒ)・香附子(コウブシ)・川芎(センキュウ)などの生薬があります。
湿を除くものに、朮(ジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・沢瀉(タクシャ)・防已(ボウイ)・黄耆(オウギ)などがあります。
代表的な漢方処方
気象病はさまざまな症状を表すため、処方は多岐にわたります。
ここでは、主に頭痛・めまい・関節痛・だるさ(倦怠感)の処方についてご紹介しております。
頭痛の特化した漢方薬治療については、こちらをご参考ください。
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
胃腸機能を高めて、水毒がたまらないようにしてくれます。また、たまってしまった水毒を取り除いてくれるので、気象病によるめまい(ふらつき・回転性)、頭痛の治療薬としてだけでなく予防薬にもなりえます。もともと胃腸が弱く、食が細い虚弱体質の方に向いています。浅田宗伯は『勿語薬室方函口訣』の中で、天候が悪い時に生じる頭痛・嘔吐により食事が取れないような者に、半硫丸(ハンソガン)と一緒に服用することで、効果を発揮すると記しています。
六君子湯(リックンシトウ)
胃腸機能が衰えている方に用います。もともと胃腸が弱い方は食べたものを消化するのに時間がかかり、その過程で水毒を生じてしまいます。気象病により、食欲が低下したり、めまいや弱くて鈍い頭痛が持続するようなタイプに効果的です。
五苓散(ゴレイサン)
病院で処方されたり、市販薬でも目にすることが多い処方で、気象病の頭痛やめまいに第一選択で用いられています。猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、朮(ジュツ)で水毒を除いて、桂皮(ケイヒ)で気血を促します。副作用も起きにくい処方なので、使いやすい反面、どちらかというと対症療法的に用いられます。
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)
茯苓(ブクリョウ)・朮(ジュツ)・桂皮(ケイヒ)・甘草(カンゾウ)の四味からなり、五苓散とよく似た処方構成です。立ちくらみやめまいを改善する作用があり、頭部の気血のめぐりを改善して気象病の頭痛やめまいに応用されています。
真武湯(シンブトウ)
新陳代謝が低下して、冷えやすく生気が乏しい方に用います。そのため、少しの気候の変化で疲れてしまい、寝込みがちになります。この処方は代謝を促進し、体を温めながら気血の巡りを改善してれくます。
沢瀉湯(タクシャトウ)
沢瀉(タクシャ)と朮(ジュツ)の二味からなる極めてシンプルな処方です。たった二味ですが、切れ味が鋭く、水毒による激しいめまいに効果を発揮します。しかし、効果を発揮するには用いる量を適切にしないといけません。
茯苓沢瀉湯(ブクリョウタクシャトウ)
もともと、嘔吐の改善に用いる処方でしたが、苓桂朮甘湯や茯苓甘草湯、沢瀉湯を含んだ処方であり、気象病の頭痛やめまい、吐き気、体のだるさなど応用範囲を広げて使うことができます。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
もともとは婦人薬として、月経や妊娠に関わる諸々の症状を改善するために用いられてきました。ですが、沢瀉(タクシャ)・茯苓(ブクリョウ)・朮(ジュツ)で水毒を除き、当帰(トウキ)・芍薬(シャクヤク)・川芎(センキュウ)で気血を巡らせる働きがあるため、気象病によるむくみや体の痛み、めまい、頭痛など幅広い症状に応用されています。
防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
汗かきの水太りタイプと表現される体質に適応となります。筋肉が乏しいため、水分代謝が悪く、皮膚の下に水を溜め込んでしまい、身体が重だるくなったり、関節痛が生じたりします。このような体質の方に効果的です。
黄耆桂枝五物湯(オウギケイシゴモツトウ)
血痺(ケッピ)と呼ばれる、身体の痺れに用いる処方です。普段からあまり運動をしていないため、筋肉が少なく、気圧の低下により水分代謝が悪くなり痛みや痺れを引き起こしたものに用います。
桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)
桂枝湯(ケイシトウ)に朮(ジュツ)・附子(ブシ)を加えた処方です。防已黄耆湯や黄耆桂枝五物湯のように水太りタイプではなく、筋肉が削げてぐったりとしているタイプの冷え症や体の痛みに用います。
疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
処方の名前の通り、経絡を通して血流を改善する作用があるため、関節痛や痺れに用います。また外からの湿気を追い払い、体内の水毒を除く作用があるため、気象病にも応用されています。とりわけ、下半身の痛みや痺れに効果的です。
香芎湯(コウキュウトウ)
香附子(コウブシ)、川芎(センキュウ)、桂皮(ケイヒ)の気血を整える生薬を含んでいるため、気圧による頭痛に効果的です。しかし、湿に対する処方を含んでいないため、朮(ジュツ)や茯苓(ブクリョウ)などを適宜追加するか、湿の影響が少ない頭痛に用います。
養生で気・血・水を整える
気象病の治療は漢方薬だけでなく、生活面での養生も非常に大切になってきます。
気血の流れを一定に保つこと、水のバランスを整えて水毒を追い出していくことを目指します。
ここでは、漢方の視点で気血を整えて身体の負担を軽減する生活習慣をご紹介します。
①気象病の日記をつける
人の記憶というのは非常にあいまいです。振り返ってみると、なんとなく天気が悪いと調子が悪いなと思っていても、実は月経前でホルモンバランスが影響していたことが原因なこともあります。同じ頭痛の症状があっても、気象病の頭痛とホルモンバランスによる頭痛とでは治療が異なることもあります。
実際に医療機関で治療をしてもらう際にも、記録があると大変参考になります。ノートやメモ帳だと手元にないと記入ができませんが、現在はアプリで簡単に記録をつけることができます。(おすすめアプリ:頭痛ーる)
また、記録をつけていると自分でもいつ調子が悪くなるのかを予測しやすくなります。そのため、予定の調整が事前にできるため人間関係や仕事のトラブルを未然に回避することもできます。
②睡眠のリズムを整える
頭痛持ちの方は、生活リズムが少し変わるだけでも頭痛が起きやすくなります。ちょっとした変化に敏感で、すぐに自律神経が乱れてしまいます。仕事や学校がある日と休日とで起床時間や就寝時間が変わってしまうと、体内時計が乱れてしまいます。その結果、自律神経が乱れてしまい、気血のめぐりも悪くなってしまうことで頭痛やめまいが生じやすくなります。そのため、起床時間と就寝時間は固定して、疲れた時や体調がすぐれないときは早めに就寝するように心掛けてください。
③運動習慣を身につける
気血はスムーズに流れることを良しとします。しかし、過度のストレスや運動不足は気血の流れを悪くしてしまいます。現代は長時間座りっぱなしであったり、家から出なくても買い物や食事の宅配サービスなど便利に物事を進められるようになってきた反面、意識しないとすぐに運動不足になってしまいます。
運動習慣を身につけると、いつでも気血をスムーズに流すことができるようになります。また、筋力がついてくると、血流を促す力も上がるため気象病の予防にもなり得ます。同時にストレスの解消にもなるので、どんな運動でも構いませんので、ぜひ取り組んでください。
ただし、頭痛やめまいなどの気象病の症状が出ているときは、悪化する恐れがあるので運動は控えて、ゆっくり休んでください。
④飲食に気を配る
人の体は60%が水分でできており、その水分は飲食によってまかなわれています。その水分も、きちんと生命活動をするために使われていれば問題ないのですが、過剰な水分は水毒となってしまい、気象病を誘発することになります。そのため、水毒を増やしてしま食べ物は多くとらないように気を付けてください。
水毒を増やす原因
・水分の取り過ぎ
・油物
・甘いもの
・冷たいもの(アイスクリーム、サラダ、刺身など)
・アルコール
(カフェイン???)
水分はたくさん摂った方が良いという説もありますが、漢方の視点では許容量を超えた水分は胃腸で処理することができないため、水毒になってしまうと考えます。
胃腸の処理能力や日々の活動量は個人差があるため、残念ながら一律的に1日の水分量を設定することはできません。
そのため、個々人で最適量を検討する必要があります。
とはいっても、どれくらい水分を飲めば良いかを決めるのは難しいですよね。
どうしてものどが渇いてしまうと、ガブガブと飲んでしまいますが、胃腸が丈夫でないと大量の水を一度に処理することはできません。
ですので、水分量を意識するよりも、ひとくちひとくちゆっくり水を飲むといった飲み方に意識を向けましょう。
飲み方を意識する習慣が身につけば、おのずと自分に合った水分量がわかってきます。
そうすれば当然ですが、その日の気温や体調によって必要な水分量は異なっているので、これだけの水分量をとらなければいけないとか、飲みすぎてはいけないといったことに振り回されなくてすみます。
また、冷たいものや甘いものも胃腸に負担がかかり水毒を助長してしまうため、取りすぎないように注意をしましょう。
カフェインについては、頭痛時には血管を収縮させる働きにより痛みを緩和させてくれます。
そのため使い用によっては効果を得られますが、毎日過剰に摂ってしまうと、効果が得られにくくなったり、反対にカフェインの効果が切れた時に反動で症状が悪化することもあります。
また、市販の鎮痛剤にもカフェインが含まれていることが多いので、コーヒーや紅茶などと一緒にとってしまうと、過量服用になってしまうので、扱いには注意が必要です。
おわりに
気象病はまだ歴史が浅いため、西洋医学では対処法が限られています。
しかし、漢方では古代から自然と人間の関わりを結びつけて考えてきたため、さまざまな治療法が編み出されてきました。
近年では、異常気象も多発しているため、ますます気象病に苦しむ人が増えてくると予想されます。
そのため、早めに日常生活の改善をしつつ、治療を始めることで、症状がひどくなるのを抑えることができます。
当薬局でも気象病の相談を承っております。気象病の頭痛やめまい、だるさなどで日常生活に支障をきたしている方や病院での治療で改善が見られなかった方は、ぜひ一度ご相談ください。
また、遠方のため来局できない方や体調が悪くて来られない方、忙しくて出かけられない方でも安心してご利用いただけるように、ご自宅でのオンラインカウンセリングも行なっております。どうぞお気軽にご利用ください。