気管支喘息の現状

ぜんそくは急に気管支が狭くなり、空気の通りが悪くなることで生じます。「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」といった特徴的な呼吸音がします。この気管支の収縮は、気管支粘膜の慢性的な炎症が存在するために起きてきます。そのため、再発を繰り返す患者はぜんそくの発作が治った後も定期的に予防薬を使用して、発作を予防する必要があります。
喘息の年間死亡者数は、1950年には16,000人程で下が、2015年には1,550人(その内9割ほどが65歳以上)まで減少しています。また、喘息患者数も近年は減少傾向にあり、比較的コントロールしやすい疾患となりつつあります。これは、吸入ステロイド薬をはじめとした治療薬が充実したことが、大きな要因となっています。

参考
気管支喘息(厚生労働省)
平成29年厚生労働省 患者調査(喘息患者推移)
気管支喘息の疫学:現状と近未来

漢方で考える気管支喘息

病院で症状をコントロールできるようになってきたので、以前より漢方薬の出番は少なくなっているように感じます。しかし、患者様の中にはステロイド剤や気管支拡張剤があわず、使用できなかったりコントロールが難しい方もいらっしゃいます。そのような方は漢方薬を使うことで、症状をコントロールしたり、体質改善を行うこともできます。

原因は水毒(痰飲)

気管支喘息は慢性的な炎症により気道がむくみ、空気の通り道を狭めてしまうことが原因となります。漢方では、この気道のむくみに着目します。脚に水がたまればむくみが生じるように、気道粘膜に水がたまってもむくみます。このむくみのことを、漢方では水毒(スイドク)痰飲(タンイン)と呼んだりします。

また、気道に炎症が起きていれば、ちょっとした刺激で簡単に痰が出てきてしまいます。この痰も水毒の一種です。

このように、本来は正常に機能しているはずの水が、水毒という病理に変わり、むくみとなって気道を腫らしたり、痰となって気道を塞ぐことで気管支喘息が発症します。

そこで、治療は水毒の改善になりますが、発作期と寛解期(予防の時期)とで少し治療方法が異なってきます。これからは、発作期と予防期についての治療法についてご説明します。

発作期は水毒を改善

発作期では、まさに気管支が狭まって呼吸が苦しく、ゼーゼーとした呼吸音が出ている状態です。炎症もかなり強いので、ピンポイントに気管支の炎症をとりながら、気管支のむくみに効果的な治療をする必要があります。

麻黄(マオウ)・杏仁(キョウニン)・蘇子(ソシ)などのむくみを改善する生薬や、半夏(ハンゲ)・細辛(サイシン)・茯苓(ブクリョウ)などの気道分泌(痰)を抑える生薬を組み合わせて、発作を抑えていきます。

予防期は胃腸の改善

発作期を過ぎて、状態が安定した時の治療になります。この時期は気道の炎症も落ち着いており、気道のむくみもほぼない状態ですので、治療は必要ないと思われるかもしれません。しかし、喘息持ちの方はちょっとした刺激(気候・花粉・生活習慣など)によって、すぐに気道の炎症が起きてしまいます。そうならないように、漢方薬で予防をすることもできます。

予防の最大の目的は、余分な水毒を作り出さないことです。身体の中で円滑に水分代謝が行われていれば、余分な水毒は生じにくいです。この水分代謝を行っている部位が胃腸になります。近年では、腸内環境が免疫系に関わっているといわれています。そのため、腸内環境が悪いと免疫系も暴走してしまい、アレルギー疾患になるリスクも上がるといわれています。
漢方では、昔から「「脾(胃腸)は生痰の源、肺は貯痰の器」といわれており、胃腸の働きが悪いと痰飲(水毒)を作り出してしまい、その痰飲が肺にたまってしまうことを教えてくれています。肺は気管支や鼻も含んでおり、肺に痰がたまることは気管支喘息を引き起こす原因となってしまいます。

そのため、胃腸を強化して喘息のもととなる痰飲を作らせないことが、予防期の治療となります。

人参(ニンジン)・白朮(ビャクジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・陳皮(チンピ)・半夏(ハンゲ)などの、胃腸の働きを整えて、痰飲(水毒)をためないようにしてくれる生薬を中心に処方を組み立てます。

参考
腸内細菌のバランスの乱れが、喘息を悪化させるメカニズムを解明(筑波大学)

よく用いる漢方薬

小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
喘息の発作期に用いる処方です。麻黄(マオウ)+甘草(カンゾウ)の組み合わせで、気道のむくみを改善します。さらに、麻黄(マオウ)+桂皮(ケイヒ)の組み合わせにより、冷たい空気に過剰反応して生じる喘息にも対応します。冷えによる喘息に対応するため、痰や鼻水はサラサラで透明であることを確認する必要があります。もし、痰が黄色く、喘息の激しさを増す場合には、石膏を加えて、気道の炎症を抑える必要があります。
苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)
喘息の発作期から予防期まで、幅広く用いることができます。小青竜湯の裏の処方と呼ばれ、麻黄(マオウ)剤が使えない方に用います。寒痰(カンタン)と呼ばれる症状に対応し、小青竜湯と同様に、サラサラな透明な痰を含む喘息に用います。麻黄(マオウ)の代わりに杏仁(キョウニン)を含んでいるため、長期間使用することができます。そのため、発作期のみならず予防期にも安心して使うことができます。また、発作期に小青竜湯を用いていた方は、予防期にこの処方に変更することで体への負担も減らすことができます。
麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)
発作期の熱喘に用いる処方です。気道の分泌物(痰)は比較的少なめで、あっても黄色を帯びています。のどの渇きや、顔色のほてりなどの熱状が見られます。麻黄(マオウ)・杏仁(キョウニン)・甘草(カンゾウ)で気道のむくみを改善して、石膏で気道の炎症を取り去り、熱症状も軽減させます。
五虎湯(ゴコトウ)・五虎二陳湯(ゴコニチントウ)
五虎湯は麻杏甘石湯に桑白皮(ソウハクヒ)・細茶(サイチャ)・葱白(ソウハク)・生姜(ショウキョウ)を加えたもので、より気道の炎症や黄色痰を取り去る力が増強されています。
五虎二陳湯は、五虎湯に痰を除く力がある二陳湯(ニチントウ)を加えたものです。この処方は熱痰に用いられ、麻杏甘石湯や五虎湯と違い、多量の黄色の痰を伴う症状に用います。
越婢加半夏湯(エッピカハンゲトウ)
肺脹(ハイチョウ)と呼ばれる、激しい熱喘に用います。その激しさは、「目脱するが如し」と形容される程です。喘息の最も激しいものに用いられ、発作期の改善薬となります。
厚朴麻黄湯(コウボクマオウトウ)
『勿語薬室方函口訣』には「小青竜湯+石膏に似ているが、降気の力はこの処方の方が優れている」と説明されています。黄色の痰があり、厚朴(コウボク)を含むことから、胸〜腹の満(張り)が強く、息苦しいものに用います。
蘇子降気湯(ソシコウキトウ)
透明〜白色の痰を多く含む寒痰に用います。麻黄(マオウ)や杏仁(キョウニン)を含んでいない処方であるため、気管支のむくみには効果が弱いです。そのため、気管支喘息のゼーゼーとした呼吸音はあまりなく、痰が多く咳が止まらないものに用います。
喘四君子湯(ゼンシクンシトウ)
胃腸が弱く、喘息の漢方薬が使えない人に用います。胃腸を元気づけながら、肺に力をつけて喘息を抑えます。そのため、発作期から予防期まで幅広く用いることができます。
神秘湯(シンピトウ)
発作期の喘息に用いることができますが、寒熱に偏りがないため、非常に使い勝手が良い処方です。自律神経系に働く柴胡(サイコ)を含むため、中医書には肝気鬱結(カンキウッケツ)と呼ばれるイライラやゆううつ感などの精神症状をともなう喘息に用いると書かれています。また、柴胡は気を上げる働きがあるため、反って咳や喘を悪化させることもあると指摘している書籍もあります。
しかし、ここでの柴胡の働きは、少陽における熱状を除くために用いていると私は考えます。これより、気道の炎症を抑えて、喘息症状を緩和してくれます。
桂枝加厚朴杏仁湯(ケイシカコウボクキョウニントウ)
桂枝湯(ケイシトウ)に厚朴(コウボク)と杏仁(キョウニン)を加えた処方です。気をおろし、気道のむくみを改善します。身体にも優しく、麻黄剤が使えない人の喘息に用います。ただ、痰を除く作用は強くないため、痰が多い場合は他の処方に切り替える必要があります。
六君子湯(リックンシトウ)
予防期の処方になります。この処方は喘息を抑える作用はありませんが、胃腸機能を高めて痰飲(水毒)を除く作用があります。そのため、喘息症状が完全に治まって、症状が安定している時の再発予防として用いると効果的です。
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)
予防期の処方になります。茯苓(ブクリョウ)・朮(ジュツ)を含み、痰飲(水毒)を除いてくれます。そこに、桂枝(ケイシ)と甘草(カンゾウ)が合わさり、陽気を循環させることで、喘息の体質改善を目指します。
真武湯(シンブトウ)
少陰病(ショウインビョウ)と呼ばれる陽気が著しく不足した状態に用います。身体が弱っているため、冷えが生じて、その結果水分代謝も悪くなり、痰飲(水毒)がたまった状態に適応します。これも、発作期ではなく予防期に用いることができ、咳症状が出てくる場合には、五味子(ゴミシ)・細辛(サイシン)・乾姜(カンキョウ)などの肺を温める生薬を追加します。

おわりに

喘息は6歳までに80%が発症するといわれており、一度治っても30%の人が大人になって再発するといわれています。また、小児期は問題なかったとしても、成人になってから発症する成人発症喘息は成人お喘息の70〜80%にも及ぶといわれています。そのため、幾何し喘息はどの年代であっても、決して他人事とはいえない病気の一つです。

そのため、西洋医学の治療で症状をコントロールすることはもちろん大切ですが、体質改善をして症状を起こさない身体つくりも同時に大切になってきます。漢方薬は治療薬はもとより、体質改善に重きをおくため、西洋治療と併用することで、相乗効果を上げることができると考えています。

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記事の執筆者

三鷹の漢方薬局 Basic Space 薬剤師 今井 啓太