月経困難症・月経痛とは
月経痛とは月経前から月経期間中にかけて生じる、下腹部や腰の痛みのことを言います。
月経困難症は月経痛が強く、月経痛だけでなく月経期間中に吐き気や嘔吐、下痢、疲労感、憂うつ感やイライラなどをともない、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
日本における月経困難症患者は900万人ほどいると言われていますが、そのうち治療にあたっているのはわずか6%で94%は治療を受けていないそうです。
参考:百枝 幹雄日本エンドメトリオーシス 会誌 2013;34:101より作図
月経困難症の原因は?
月経困難症の原因には「機能性月経困難症」と「器質的月経困難症」があります。
機能性月経困難症 / 原発性月経困難症
特に月経痛を引き起こす原因がない場合で、子宮や卵巣に異常はありません
月経困難症の4割以上が該当すると言われています
器質性月経困難症 / 続発性月経困難症
子宮筋腫や子宮内膜症、子宮線筋症など月経困難症の原因となる疾患がある場合です
月経開始後5年以上を経て発症することが多いです
月経を重ねるたびに増悪し、出産後も改善しません
月経痛が強くて日常生活に支障をきたす場合は、まずは産婦人科の受診をオススメします。
続発性月経困難症の場合は、場合によっては薬物療法ではなく手術を行わなければなりません。
原発性月経困難症の場合の原因は、子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンが子宮を過度に収縮させたり、冷えやストレスなどによる血行不良が生じたり、子宮と腟をつなぐ部分が狭くてかたいためスムーズに月経血を送り出せないことが考えられます。
月経痛 / 月経困難症の西洋医学的治療法
月経困難症の治療では、痛みの軽減をする鎮痛剤やホルモン療法などの対症療法にて症状を軽減します。
鎮痛剤
鎮痛剤は痛みの原因となるプロスタグランジンの分泌を抑制することで、子宮の過度の収縮を鎮めて痛みを抑えます。
即効性があるので、対症療法的に用いるのはとても有効です。
ただし、胃腸が弱い人だと胃痛が出る場合があります。
また、鎮痛剤は一般的に解熱作用もあわせもっているため、身体を冷やしてしまいそれが痛みの原因となることもあります。
ホルモン療法
近年では低用量ピルへの理解も深まってきたので、利用しやすくなってきています。
低容量ピルは卵巣の働きを抑えて(排卵を抑制)、子宮内膜の増殖を抑制します。
そのため、月経量を減らして月経痛を改善します。
また、月経痛だけでなくPMSや月経困難症のさまざまな症状の改善も期待できます。
一方で、排卵を抑制するため出産を希望している方は使用ができません。
また、程度は低いですが血栓症のリスクがあったり、吐き気など胃腸の副作用が出て服用できない場合もあります。
月経痛 / 月経困難症の漢方治療
漢方で月経痛は「気・血の流れの不調」もしくは「気・血の量の不足」が原因と考えます。
漢方(中医学)では、子宮における(気血の)流れが障害されることを「不通則痛」と言います。
これは、「通じざれば、すなわち痛む」と読み、流れがスムーズでないと痛みが生じることを表現しています。
一方で、子宮が(気や血の量が不足して)栄養されないと「不栄則痛」と言います。
これは「栄えざれば、すなわち痛む」と読み、身体にとって必要な気・血が不足すると痛みが生じることを意味しています。
お腹をカイロやお風呂などで温めると、月経痛が和らいだ経験がある方もいると思います。
これは、お腹を温めることで子宮周りの血流が促され、新鮮な温かい血が子宮に集まったこと、つまり「気や血の流れが改善したこと」を意味します。
月経期でない時は子宮への気血の流入や流出が少ないため、平穏を保ち痛みが生じません。
しかし、月経期やその前後には子宮への気血の流入や流出が激しいため、急激な気血の変化が生じて月経痛が発生します。
ですので、漢方では気血の流れと量を調節することが大切です。
ですが、ただこ気血の流れの不調や量の不足を闇雲に改善するだけでは適切な改善は見込めません。
どうして気血の異常が生じたのか、原因を適切に分析して治療に当たらなければなりません。
代表的な月経痛の病態についてご紹介します。
血瘀(ケツオ)証
血瘀証とは、血流が滞りやすい体質のことです。
月経痛で一番多いのがこの血瘀証です。
この血瘀は、急に発生するわけではなく、精神的ストレスや冷え、手術や出産、怪我などによって血流障害が生じることでは生じます。
・経血の色が暗黒〜紫色
・月経痛の部位が固定で刺されるような痛み
・経血に塊が生じる
・舌辺が紫で瘀点が生じる
・顔色や皮膚に黒ずみがある
・唇が暗紫色
・顔や皮膚の色素沈着が多い
・あざができやすい など
肝鬱気滞(カンウツキタイ)証
肝鬱気滞の「肝」とは五臓六腑の1つで、自律神経を調整しており、「血」を貯蔵する臓器です。
肝の機能としては、気や血の流れをコントロールすることでホルモンバランスを整えて、月経をスムーズに行うように調整しています。
この肝の機能がうまく行われていない状態を「肝鬱気滞」と言います。
ストレスや緊張などで肝気の巡りが悪化して、月経痛が生じます。
・月経痛は下腹部が張ったような痛み
・月経前の乳房やお腹の張り
・月経周期が不安定(早まったり、遅れたり一定しない)
・PMSでイライラや落ち込みなどの情緒変動が生じやすい
・ため息をつきやすい
・下痢や便秘になりやすい
・ストレスや緊張で症状が悪化しやすい
・ゲップやガスが多い など
寒凝胞宮(カンギョウホウキュウ)証
胞宮とは、子宮のことを指します。
冷え症であったり、寒い空気に長時間さらされることで、寒冷の邪(寒邪)が体内に侵入します。
寒邪には凝滞の性質があり、血に入り込むと血の停滞を引き起こします。
血は全身を巡行しますが、特に子宮は血海(ケッカイ)とも呼ばれるくらい、血の集まる場所です。
そのため、寒邪が流れ込みやすく血の凝滞が生じやすいです。
このように、子宮内に寒邪が停滞することを「寒凝胞宮証」と言います。
・固定した部位に激しい痛み
・押すと痛がる
・温めると痛みが緩和する
・冷やすと悪化する
・痛む部位に触れると冷たく感じる
・舌が青紫色
気血両虚(キケツリョウキョ)証
身体のエネルギー源である「気」、身体に栄養と潤いを送り届け、月経のもとになる「血」が不足した状態を「気血両虚」と言います。
気血両虚証は元来の虚弱体質のため、元気がなく血が少ない場合だけでなく、過労や慢性病が治らなかったりして、発症する場合があります。
気血両虚は「不栄則痛」により、血が子宮を栄養できないことによって、月経痛を生じるケースになります。
・月経後に下腹部がシクシクとした弱い痛みが持続する
・お腹をさすると楽になる
・血の不足のため、出血量は少ない
・下腹部や陰部に空虚感がある
・経血の色も薄い赤色
・貧血になりやすく、疲労感や脱力感が強い
・食欲がない、食事量が少ない
・下痢になりやすい
以上、月経痛の漢方的な分類の一部をご紹介しました。
このように月経痛への対処法は、漢方的な病態分類によって異なっています。
また原因が一つだけに限らず、複数の要因が絡み合っている場合もあるので、個々人の状態を見極めて使わないと十分な効果は得られません。
それゆえ、西洋医学的な治療(鎮痛剤やホルモン療法)とは違い、個々人の体質を見て処方が決まってくるため、漢方薬は体質改善と呼ばれているのです。
月経困難症・月経痛によく用いる漢方薬
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
桂枝茯苓丸は血瘀証に用いる代表処方です。
血瘀証特有の症状(舌が紫色、あざが出来やすい、出血の色が黒っぽい、出血に塊が生じるなど)があれば、桂枝茯苓丸を用います。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
婦人病で使用される代表処方の一つで、血の不足による血行不良及び水分代謝障害に用います。
当帰芍薬散の出典である『金匱要略・婦人雑病』に「婦人の腹中諸疾痛は、当帰芍薬散之を主る」と記載があり、もともと、お腹の痛みに使われていた処方なので、生理痛にも応用が可能です。
しかし、すべての生理痛に適応となるわけではなく、血の不足による症状(めまい、立ちくらみ、髪や爪のパサつき、足がつりやすいなど)と水分代謝の異常(めまい、頭痛、むくみやすいなど)の二つの病態を確認して用いないと、効果が得られません。
加味逍遥散(カミショウヨウサン)
肝鬱気滞の代表処方でストレス性の血流障害に用います。
ストレス性により心身はすり減り、それに伴い血も不足します。
加味逍遥散は自律神経を整えつつ消耗した血を補充します。
なおかつ緊張状態による子宮筋も緩和させることで、生理痛を改善します。
折衝飲(セッショウイン)
桂枝茯苓丸と同様に血瘀による生理痛に用います。
加川玄悦が創生し、桂枝茯苓丸と当帰芍薬散を合わせたような処方です。
桂枝茯苓丸よりも血を巡らせる力は強く、瘀血の強いタイプの方には効果的です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)
寒凝胞宮証の処方で手足末端の冷えが強い人に用います。
もともと冷えによる血行不良が起きやすく、寒い季節や冷房が強い環境でいると、生理痛が悪化しやすくなるタイプに効果的です。
血管の細い手足末端は冷えやすく、冷えた血が子宮に届くことで、痛みを引き起こします。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は末端まで血を巡らせて、温めることで、子宮も温めることができる処方です。
温経湯(ウンケイトウ)
陰陽両虚と呼ばれる、身体の弱りに対して用いる処方です。
同時に「温」経湯と呼ばれるように、体を温める作用もあります。
ただし、身体を温める作用はそれほど強くはないので、冷えが強い場合は他の処方を用いるか併用して用いる必要があります。
身体の消耗により熱が発生し、上半身が火照り唇が乾燥するなどの症状も出ることがあります。
当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)
身体が虚弱な方の生理痛に用います。
元来の虚弱や出産や過労などで正気を消耗すると、血が不足してしまい、子宮を栄養できなくなってしまいます。
当帰建中湯は身体を温めながら全身の機能を向上させ、子宮を栄養していくことで生理痛を改善します。
柴胡疎肝散(サイコソカンサン)
加味逍遥散同様に「肝鬱気滞」と呼ばれる、一種の情緒が不安定で緊張感が強い方に用います。
緊張感が胃にも伝わり、胃の状態が悪いこともあります。
加味逍遥散のような消耗性はなく、比較的体力は充実している必要があります。
補う生薬は入っていないので、身体が弱い方に使い続けると消耗してしまうことになります。
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)
芍薬甘草湯はこむらがえりや脚のつりなどに、よく用いられる処方です。
ですが、子宮筋の緊張を緩める作用もあり生理痛にも効果的です。
効果の発現が早く鎮痛剤同様に即効性があり、なおかつ鎮痛剤のように解熱作用がないので、体温を下げる心配もありません。
ただし、体質改善を目的として用いることはなく、あくまでも頓服的に用いて生理痛を改善させるのが目的です。この処方が効いた場合には、芍薬甘草湯を含む当帰建中湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯、加味逍遥散、柴胡疎肝散などを体質改善薬として用いると効果的です。
おわりに
生理痛は初潮を迎えた10代から、生理が終わる40代〜50代までの長期間に関わる問題になります。
そのため、生理痛が重いと毎月つらい思いをしながら生理を迎えなければいけません。
そうならないためにも、早めに対処して問題を先送りないことが大切です。漢方薬は年齢問わず、10代〜50代まで生理痛や月経困難症でお困りの方に対応することができます。
月経のたびに鎮痛剤が手放せない方や妊娠を希望しており、ホルモン療法に抵抗がある方は漢方薬という選択肢がありますので、ぜひ漢方専門の医療機関にご相談ください。
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この記事の執筆者:三鷹の漢方薬局 Basic Space 今井啓太