アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、悪化と改善を繰り返す炎症性の皮膚疾患です。症状は左右対称に現れ、痒みと湿疹を伴います。また、乾燥症状が強く現れる方もいれば、ジュクジュクとした湿潤傾向にある方など、個々人によって症状の出方が異なります。
アトピー性皮膚炎は決してめずらしい病気ではなく、小学生では約11%程に発症しています。年齢が上がるとともに改善されていき、大学生では8%程となってます。しかし、アトピー性皮膚炎の患者数は年々増えており、2017年には45万人ほどです(1984年は20万人程)。
参考:日本皮膚科学会ガイドライン アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021
参考:平成29年厚生労働省 患者調査(アトピー患者推移)
なぜアトピー性皮膚炎に漢方薬なのか?
皮膚疾患の治療で漢方薬を求める患者様は多く、その中でもアトピー性皮膚炎のご相談が一番多いです。近年の西洋医学の治療では、ステロイド薬が適正に使われるようになったこと、新しいタイプの新薬が認可されたことにより、アトピー性皮膚炎の治療が大きく前進しました。
しかし、それでも漢方薬を使いたいと治療を求めてくる方が多いのは、いくつかの理由が考えられます。
・西洋医学の治療では満足のいく結果が得られない
・副作用が出てしまった
・ステロイド薬に対する不信感
・アトピー性皮膚炎患者の増加
西洋医学が日々進歩しているとはいえ、残念ながらすべての患者様に効果が出るわけではありません。そのため、効果を感じられなかったり、一度良くなってもまたすぐに悪くなってしまってしまい、体質改善を求めて漢方薬を使う方がいるのだと思います。
また、アトピー性皮膚炎の治療に本来は効果的であるはずのステロイド薬に対しても、十分な説明がなされていないために、副作用の面ばかりが強調されて不信感を募らせた結果、漢方薬にたどり着く方もいらっしゃいます。
漢方薬でアトピー性皮膚炎を治せるのか?
アトピー性皮膚炎は慢性的な炎症疾患であり、西洋医学ではステロイドや抗アレルギー薬を用いて、症状を抑えていきます。漢方薬も同様に、炎症をいかにコントロールしていくかが治療のポイントとなります。漢方では、皮膚表面の状態も身体の内面に原因があると考えるため、身体の中からの改善を目指します。ただし、やみくもに炎症を抑えようとしても、効果は得られません。しっかりと患者様の状態を見極めて、適切な漢方薬を用いることができれば改善できるでしょう。
ですが、ステロイド薬を用いている場合は休止したりせずに漢方薬と併用するのが望ましいです。
アトピー性皮膚炎の漢方薬治療
漢方では、皮膚の炎症(赤み)は熱証(ねっしょう)といい、身体に熱がこもったために生じると考えます。そのため、一番最初に考えないといけないのはこの熱証の改善です。熱証が続き慢性化すれば、皮膚の水分も蒸されて乾かされてしまい、皮膚はガサガサになってしまいます。そうすると皮膚のバリア機能が衰えて、ちょっとした刺激にも過敏に反応してしまいます。その結果、痒みがさらに強くなってかき壊してしまい、さらに皮膚のバリア機能がなくなってしまいます。
このように、負のスパイラルに陥らないためにもまずは熱証の治療を優先させます。しかし、それだけでは対処できないこともあるので、状況に応じて他の病態も考慮します。
皮膚のガサガサが強い場合
漢方では血虚(ケッキョ)と呼ばれる状態です。保湿剤と合わせて、血を補い皮膚を潤していきます。
皮膚がジュクジュクと湿潤している場合
皮膚表面の、余分な水を取り除く漢方薬を用います。
このように、アトピー性皮膚炎の治療法の一例をご紹介しました。アトピー性皮膚炎には様々な治療法がありますが、大事なのはどの順番で治療をするかです。基本的には炎症を抑えることを優先しますが、肌を潤した方が良い場合もあるし、同時に治療することもあります。また、皮膚だけでなく全身状態の改善を優先することもあります。順番を間違えてしまうと、反って症状を悪化させてしまうこともあります。適材適所に状態を見極めて、皮膚の状態のみならず全身状態を考慮して処方を決めていく必要があります。
アトピー性皮膚炎に用いる漢方薬
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
熱証に用いる代表的な漢方薬。炎症しずめる力が強く第一選択薬になりやすい処方です。皮膚の赤みが強く、痒みも強い状態に効果的です。炎症が強い場合は石膏(セッコウ)などを加味して用いないと対応できないことがあります。また苦味が強いので、小児に用いる場合は注意が必要です。
温清飲(ウンセイイン)
慢性炎症により、皮膚の水分がなくなってしまい、ガサガサボロボロになった状態に用います。熱証と血虚(血の不足)をあわせもつため、経過時間が長きに渡ってしまい肌が赤黒くくすんでしまっている状態に用います。ただし、むやみに使ってしまうと皮膚を悪化させてしまうこともあるので、注意が必要です。
梔子柏皮湯(シシハクヒトウ)
もともとは、黄疸の治療のために作られた処方です。しかし、熱証を抑える力があるため、皮膚病にも応用されるようになる。黄連解毒湯より炎症が弱い方に用いる。
竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
肝経の湿熱に用いる処方を皮膚に応用したものです。肝経と呼ばれる、陰部や身体の側面を走る経絡上に症状が現れるものに効果的です。陰部湿疹などで、皮膚表面がジュクジュクとした湿と赤味を帯びた熱をまとった状態に用います。
消風散(ショウフウサン)
漢方では、移動性の痒みを伴う症状があるときに「風」の症状によるものだと考えます。「風を消す」という意味から名付けられた消風散は、まさに体表面の風を消して炎症と痒みを鎮める効果があります。アトピー性皮膚炎のように症状の部位が固定的であったり、皮膚の炎症が強い場合は効果を得られないことがあります。
十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
化膿性の皮膚疾患に用いる処方です。日本人の華岡青洲(ハナオカセイシュウ)が作った処方で、日本で使われてきました。消風散と同じように働きますが、ニキビやおできなどの化膿している初期状態に用いる処方です。
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
一貫堂医学の解毒証体質と呼ばれる、一種の特徴を備えたタイプに用います。多数の薬味が含まれているため、切れ味は弱いですが継続して服用することで徐々にアトピー体質を改善へと導く作用があると考えられています。
当帰飲子(トウキインシ)
炎症がなくなり、皮膚の潤いがなくなってしまった状態(血虚)に用います。アトピー性皮膚炎の時期というよりは、だいぶ症状が緩和されて秋から冬にかけての乾燥している時期だけに症状が現れるものに使います。
小建中湯(ショウケンチュウトウ)
アトピー性皮膚炎の治療薬といより、アトピー体質改善薬として用います。皮膚の炎症を抑えるのではなく、炎症を抑えることができない身体の弱りを改善することを目標とします。上記にあげた炎症を抑える治療が功をそうしない場合や、使えないほどの体力や小児の場合はこの処方で効果を発揮することがあります。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
小建中湯同様に、アトピー体質改善薬として用います。エネルギーを生み出す源の胃腸が弱くて、気力体力が著しく衰えてしまい、熱を排除することができず内にこもってしまった状態に用います。この処方が適していれば、アトピー症状のみならず活力がつき全身状態も改善されます。
西洋薬と漢方薬のどちらを優先すべきか?
現代においては、ア西洋薬を用いるのが優先だと考えています。もちろん、漫然と使うのではなく、医師の指導のもと使い方や使用期間を守っていただければ、比較的安全に使うことができます。もし、ステロイド薬だけでは改善が見られない場合や副作用などで使用が困難であれば、漢方薬を単独もしくはステロイドや抗アレルギー薬などと併用するのが良いと考えています。
漢方薬はずっと使い続けなければいけないのか?
繰り返しになりますが、アトピー性皮膚炎の治療で大切なのは炎症をいかに抑えるかです。症状が安定すれば、漢方薬を減らしたり中止することもできます。もしくは、ひどくなった時だけ服用することもできます。ただし、アトピー性皮膚炎は生活習慣の影響を受けやすいので、食事・睡眠・運動・ストレスなどの生活習慣、および皮膚の保湿だけはずっと気にかけていくことが大切です。
おわりに
アトピー性皮膚炎は顔や首など、見た目にも影響を与えてしまうため、精神的なストレスも大きい病気です。このストレスのせいで皮膚をかいてしまい、悪化させてしまうこともあります。アトピー性皮膚炎も慢性化する前に治療を開始すれば、皮膚の炎症をコントロールすることができます。個人的な体験では、小児のアトピーは成人と比べて改善がしやすい傾向にあります。反対に成人の場合は生活習慣の改善も同時に行わないと、一時的に改善しても再発してしまうことがあります。アトピー性皮膚炎に限らず、生活習慣を整えることは全身状態の健康も左右するので、ぜひ生活習慣も合わせて改善を目指しましょう。
当薬局では、アトピー性皮膚炎でお悩みの方もにもご利用いただいております。気になる方は、ぜひ一度お越しくださいませ。
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