疲労倦怠感の現状

仕事の納期間近であったり、学校の試験直前で一時的に無理をして疲れたのであれば、栄養補強をしてしっかりと眠れば回復します。しかし、同じような生活をずっと続けていれば、栄養ドリンクやカフェインをいくら注入しても、付け焼き刃にしかすぎず、根本的な解決にはなりません。

 2022年2月マイボイスコムさんの疲れ・疲労に関するアンケート調査(第4回)によると、慢性的な疲れを感じている方は約6割ほどいるようです。30〜40代の女性に多く、30〜40代では肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方が割合が多い(30%越え)ようです。人口の半数以上は慢性疲労を抱えているのであれば、もはや現代病といっても過言ではなく、個々人の生活習慣の見直しだけでは難しく、根本的に社会システム自体を考えなければいけないのかもしれません。

西洋医学では、疲れは病気としてみなされないため治療の手立てはありません。ですが、その背後にうつや悪性腫瘍などの大きな病気が隠れているかもしれないので、まずは一度医療機関を受診されることをお勧めします。しかし、実際のところ疲労の原因は1/3〜半分程は特定ができないとされているため、西洋医学での対応が難しい場合も少なくありません。
そのため、滋養強壮剤などの一時しのぎではなく、根本的な解決を目指して漢方薬をお求めになられて当薬局に訪れる方も少なくはありません。

倦怠感の漢方薬治療

漢方ではどのように考えるか?

漢方では身体がだるい、疲れやすい、日中眠い、風邪をひきやすいなどの、「気力がない」状態のことを「気が不足している」という意味で、気虚(キキョ)といいます。睡眠不足や栄養不足により、文字通り身体のエネルギーが枯渇してしまった状態のことです。そのため、一般的には疲労倦怠感の治療は「気虚」を改善する漢方薬を用います。しかし、気虚というのはどちらかというと肉体的な疲労が原因となっているものが多く、精神的な疲労に対しては改善が期待できません。

このように一律的に「疲労=倦怠感」と盲目的に決めつけてしまうと、改善が見込めません。漢方的な視点で、倦怠感の病態を把握する必要があります。私が考える倦怠感のタイプは、以下の3つです。

①過労型(肉体疲労)
長時間労働や徹夜続きで、体力が大きく損なわれたタイプ。
②過緊張型(精神疲労)
日々強いプレッシャーを感じて生活しており、心が休まる時がないタイプ。
③運動不足型
とりわけ、疲れるような生活をしておらず、睡眠も取れているのに疲れてしまうタイプ。

例外はありますが、だいたいはこのように分類できます。それぞれのタイプについて、詳しく解説していきます。

過労型(肉体疲労)は気虚

これは先ほどご紹介した、気虚(キキョ)タイプです。一時的な疲れであれば、漢方薬で気虚を改善する必要はなく、ゆっくり休んだり栄養を補給すれば改善することができます。ここでいう気虚は疲れが慢性化して、ちょっとの睡眠や食事では改善が見込めない状態のことをいいます。

気虚の特徴
慢性的な睡眠不足や栄養不足で、身体がぐったりとしている。そのため、必要なエネルギーが十分に補給されないため、疲れがとれない。
・食欲がない
・大便がゆるい
・眠い(特に食後)
・風邪をひきやすい
・食べているのに痩せてくる
・声に力がない(弱々しい)
・生理前後はよりぐったりする
・立ちくらみやめまいを起こしやすい

われわれは、食事からエネルギーを得ています。ですので、気虚とは「胃腸が弱って、食べ物をとれないまたは食べ物からエネルギーを作り出す力が弱い」と言いかえることもできます。つまり、臨床的には胃腸の弱りが現れていないといけません。このような特徴がある時は、気虚の倦怠感として治療を行います。

治療としては、人参(ニンジン)とよばれる胃腸の機能を高める生薬を使ったり、白朮(ビャクジュツ)茯苓(ブクリョウ)陳皮(チンピ)などの消化を助ける生薬を使って、胃腸機能を回復していきます。

過緊張型は気滞

仕事や学業などで、常に高い緊張感にさらされていると、身体の筋肉は硬直します。筋肉が硬直すれば、血流が悪くなり全身に栄養を運べなくなりますし、必要以上に神経にエネルギーを消費してしまいます。その結果、さほど肉体的な作業をしていないのに疲れてしまいます。このように、精神疲労に代表される倦怠感は気滞(キタイ)や肝鬱(カンウツ)と漢方ではよびます。

先ほどの気虚は気が不足した状態でしたが、今回の気滞は「気がめぐらずに滞った状態」のことを指します。エネルギーが部分的にとどまってしまうと、血流も悪くなり、栄養が全身にめぐらなくなります。

気滞の特徴
ストレスによる身体の緊張により、気がめぐらなくなり倦怠感が生じている状態。
・イライラや落ち込み
・肩こりや首こり
・ため息が出やすい
・お腹がはりやすい
・ストレスがたまると疲れやすくなる
・ストレス発散すると元気になる

気滞型は気虚のように弱った胃腸を元気づけるのではなく、めぐらなくなった気や血を流すことが治療となります。そのため、ただゆっくり休めば良いわけではありません。むしろ、動いたり好きなことをする方が改善につながります。例えば、精神的に疲れていても、ちょっと散歩で外に出たら元気になったり、仕事終わりにお酒を飲んだら、スカッとしたという経験をお持ちの方も多いかと思います。動いたり、好きなことをする、お酒を飲むことは気を流す行為となり、停滞していた気が全身に行き届くようになります。

このように日常的な行動でも改善はできますが、時間が取れなかったり、それだでは改善が難しい場合は漢方薬を併用します。気滞に使う生薬には、柴胡(サイコ)、芍薬(シャクヤク)、枳実(キジツ)、香附子(コウブシ)などを用います。身体の緊張をとりながら、気をめぐらしてくれます。

運動不足型は水滞

忙しい日々を送っているわけでも、ストレスが過度にあるわけでもないのに身体が重い、だるいと感じることはありませんか。この場合は倦怠感や疲れというより、身体が重だるいという表現をされる方が多いです。心当たりがないだけに、歳のせいで体力が落ちたことが原因と思い込み、より行動を制限してしまっているかもしれません。しかし、それでは解決しないばかりか、だるさを助長してしまいかねません。

人は過度に動きすぎると、気(エネルギー)を必要以上に失って疲れてしまいます。しかし、身体を動かさないと気が全身にめぐりません。気はめぐることで、全身にエネルギーを送るだけでなく、血や水を全身に送り届けてくれます。血や水は潤いや栄養を届けたり、老廃物を回収して排出へと導いてくれます。そのため、気がめぐらなくなると、老廃物が身体に残ってしまいます。特に女性の場合、「夕方になると脚がパンパンにむくんでしまう」とおっしゃる方が多いです。これは身体を動かす機会少ないために、水がめぐらず重力により下半身に水がたまってしまったことが原因です。

現代では生活が便利になり、仕事のスタイルもオフィスや在宅などで意識しないと身体を動かす機会がありません。なんでもないのに疲れてしまう方は一度、運動や散歩などを生活の中に取り入れてみてください。それでも、解決しない場合は一度、医療機関で検査をしてもらうと良いでしょう。何か大きな病気が隠れているかもしれません。

漢方で改善するには、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、朮(ジュツ)、防已(ボウイ)、黄耆(オウギ)などの、水分のめぐりを促す生薬を用います。

代表的な漢方薬

補中益気湯(ホチュウエッキトウ)

疲労倦怠の代表的な漢方薬。この処方はもともと、戦争時の風邪薬として用いられてきました。当時は栄養不足で体力が低下したことが原因で、気が不足したことで風邪になったと考えそれが功を奏して、多くの人の命を救いました。現在でいうところの、免疫力を調整する作用があったのかもしれません。気虚による肉体疲労にや体重減少にも効果的です。

六君子湯(リックンシトウ)

気虚の処方になります。配合されている処方はすべて、胃腸の働きを促すものばかりです。倦怠感があり、胃もたれや下痢などの胃腸症状が目立つ場合に用います。胃腸症状が強い場合は、藿香(カッコウ)、木香(モッコウ)、香附子(コウブシ)、縮砂(シュクシャ)などの、消化を助ける生薬を追加します。

四君子湯(シクンシトウ)

気虚の基本処方になります。補中益気湯や六君子湯はこの処方を基にしています。人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)の四種類で構成されており、食欲を増して食べ物から栄養を作り出す働きをサポートしてくれます。補中益気湯が重いと感じる方は、この処方の方が適しています。

十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)

気虚に血虚をかねる処方です。過労や病気の後などで、著しく体力と体重が落ちてしまった人に用います。補中益気湯の気を補う作用と血を補う作用を、一段強化した形ととらえると良いかもしれません。ただし、それだけ濃厚な栄養を補うため、胃腸に負担がかかりやすくなります。胃腸が弱い人は量を調整するか補中益気湯や六君子湯などに変更した方が良いでしょう。

小建中湯(ショウケンチュウトウ)

虚労(キョロウ)と呼ばれる、一種の身体の弱りを改善する処方です。身体が筋張っており、身体の弱さゆえの緊張感を身にまとっています。甘くて飲みやすいため、小児の諸々のトラブル(おねしょ、腹痛など)に応用されることが多いです。

茯苓四逆湯(ブクリョウシギャクトウ)

過労のレベルを超えて、生命力の低下まで進んでしまった状態に用います。エネルギーが乏しく常にぐったりしています。内臓機能の低下もあるため、食事をしても消化吸収されずそのまま水様便となります。冷えが強いため、年中温かい飲み物を好んで飲みます。

四逆散(シギャクサン)

気滞タイプの基本処方になります。柴胡(サイコ)・芍薬(シャクヤク)・枳実(キジツ)・甘草(カンゾウ)の四種類の生薬が含まれており、身体の緊張を緩めて、気血をめぐらします。精神的な緊張感も解きほぐされるため、神経質で常にイライラや落ち込みなどがあり疲れてしまう方に効果的です。

逍遥散(ショウヨウサン)・加味逍遥散(カミショウヨウサン)

婦人科の気滞タイプに、よく用いられる処方です。当帰(トウキ)という血に働く生薬が含まれているため、生理不順の改善作用もあります。加味逍遥散はのぼせやほてり症状にも効果があるため、更年期障害のホットフラッシュにも効果が期待できます。

大柴胡湯(ダイサイコトウ)

緊張感が強いため、胃腸の緊張も強くなってしまい、便秘症状が出ている方に用います。大柴胡湯は身体の緊張を解きほぐすだけでなく、胃腸のつまりを取ることで、内臓の気の停滞を促してくれます。

柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)

小柴胡湯(ショウサイコトウ)と桂枝湯(ケイシトウ)を合わせた処方になります。緊張感があるものの、元々の身体の弱りがあるため、緊張による疲れが出やすいタイプに用います。この処方が適応する方は胃腸も弱く、ストレスがかかると胃痛や食欲不振になりやすかったりします。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

水滞タイプに用います。もともとは妊娠の時に用いる処方でしたが、当帰(トウキ)・芍薬(シャクヤク)・川芎(センキュウ)で血流をうながし、沢瀉(タクシャ)・茯苓(ブクリョウ)・朮(ジュツ)で水分代謝を改善してくれるため、むくみをとり身体を軽くしてくれます。同時に、生理不順の改善も期待できます。胃に触ることがあるので、胃腸が弱い人は六君子湯などを合わせて用いると良いでしょう。

防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)

水太りタイプで、皮膚がぷよぷよと水気を含んだ方に用います。普段から運動するのを嫌い、座っている時間が長く特に何もするわけではないのに、だるいだるいという方は筋肉が低下してしまい、水を運ぶ力がなくなってしまっています。ただし、食事はしっかりとっているので、エネルギー不足ではなく運動不足が原因です。この処方は、皮膚の下の水をめぐらして身体を軽くしだるさを軽減します。しかし、運動もしていかない限りは効果が得にくいです。

おわりに

疲労倦怠感について、3つのタイプから解説してきました。もちろん、どれかひとつだけでなく複数の要因がからんでいる場合もありますし、それ以外のケースで倦怠感が出てくる場合もあります。疲労感は客観的に数値化することが難しいため、人と比べることが難しく気付かぬうちに大きな負担となって現れてきます。そのためにも、健康な状態のうちから食事・睡眠・運動・ストレスケアの四本柱を心がけていれば、未然に防ぐことができます。

最近ではエナジードリンクや栄養ドリンクがたくさん出ていますが、一時的に使用する分には問題はないのですが、それに頼り切ってしまうと身体からの疲れのサインを見逃してしまうことになりかねません。

漢方薬は栄養ドリンクと違い、個々人の体質に合わせてオーダーメイドで処方を作成していきます。そのため、慢性的な倦怠感には即効性がないかもしれませんが、ジワジワと内部から改善をしていきます。合わせて、当薬局では個々人のライフスタイルに合わせて生活習慣の改善法にもアドバイスさせていただきます。一時的なしのぎではなく、長い目で身体の健康を考えられている方はぜひ一度漢方薬を試してみてください。

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