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Toggle生理不順とは
生理(月経)とは1ヶ月程度で自発的に起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血のことです。そして、正常な生理周期から外れたものを生理不順と呼びます。
正常な生理周期 ・生理周期は25〜38日の間 ・生理周期の変動が6日以内 ・出血持続日数3〜7日
そのため、生理周期が24日以内だったり39日以上である場合は生理不順となります。また、25〜38日以内に収まっていても、毎回生理周期が26日→38日→28日などとバラついていて、予測ができない場合も生理不順になります。しかし、生理はストレスや疲れなどちょとしたことでも乱れてしまうことはあります。ですので、一度周期が乱れても、連続して続かなければ過剰に心配する必要はありません。
頻発月経:生理周期が24日以内 稀発月経:生理周期が39日以上
無月経:月経がない状態
原発性無月経:18歳になっても生理が始まらない
続発性無月経:月経が3ヶ月以上停止している
月経不順が続くと不妊症の原因になることもあるので、月経不順がある場合はまずは医療機関に行って子宮や卵巣の病気がないか調べてもらうことも必要です。また、最近はアプリでも月経管理ができるので、まずは生理の状態を記録することから始めてみましょう。
生理不順の漢方薬治療
生理不順は子宮筋腫や多嚢胞性卵巣症候群のように、子宮や卵巣に病変があることで生じている場合がありますが、原因のはっきりしないものも少なくはありません。また、ライフスタイルの変化によって、生活習慣の乱れが生理不順に影響を及ぼしているケースもあります。そのため、西洋医学では原因を突き止めることができない場合あります。しかし、漢方は2,000年以上の歴史と経験があり、西洋医学とは違うアプローチで身体の不調を改善します。
漢方では生理不順をタイプ別に考える
漢方では、「気(キ)・血(ケツ)・水(スイ)」の異常を病気として考えます。それぞれの働きを簡単に説明すると、以下のようになります。
気の作用
①身体を温める(体温を一定に保つ)
②身体を動かす
③防御作用(悪いものが身体に侵入するのを防ぐ)
④身体のエネルギー源や身体を作る働き
血の作用
①身体中に潤いと栄養を与える
血流にのって、血が全身に栄養と潤いを運ぶ。(内臓や筋肉などあらゆる場所に送る)
②精神活動を支える
血には心を栄養して、精神を安定させる働きがあります。
水の作用
①血の原料となる
②体液を作る
唾液や鼻水、喉の潤い(粘液)、涙、汗、胃液などの身体中に体液(血のように赤くないもの)
③体温調節
暑い時は汗を出すことで身体の熱を発散し、反対に寒い時は汗を抑えて体温が逃げないように調節します。
この中でとりわけ、生理不順の場合は特に「血」と関連が深いです。血は子宮に栄養を送り届け、生理の調整を行っています。そのため、漢方薬の治療では、血に関する情報(生理周期・生理期間・出血量・出血の色・基礎体温など)がとりわけ重要になってきます。
たとえば、血虚(血が不足した状態)では、身体の血が不足しているため、生理を起こすのに時間がかかり、生理周期が延びやすく(稀発月経)、生理の期間も短めになります。同時に子宮だけでなく全身の血も不足するため、肌や髪などがパサつきやすく立ちくらみやめまいが起きやすくなります。
このように、漢方は生理の状態と全身の状態を総合することで、生理不順の原因を特定することができます。次に生理不順をタイプ別に分けて、病態を解説していきます。
生理周期が早まるタイプ(頻発月経)
生理が月に2回以上あり、周期が7日以上繰り上がるものを漢方では「月経先期」といいます。生理周期が早くなってしまうのは、体力がなく血をとどめておく力が弱っている(漏れ出てしまう)気虚(キキョ)のためか、血の勢いが強くて出血が始まってしまう血熱(ケツネツ)のタイプに該当する場合が多いとされます。
気虚(キキョ) | <生理の特徴> |
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血熱(ケツネツ) | <生理の特徴> |
生理周期が遅れがち(稀発月経)
生理周期が1週間以上遅れ40〜50日周期に延長するものを、漢方では「月経後期」といいます。生理周期が遅れてしまうのは、身体が冷えて血流が悪化したことにより、子宮に十分な血が集まらなくなって生じる血寒(けっかん)タイプか、疲労や術後、またはもともとの体質で血が少ないため、子宮に血を集めることができない血虚(けっきょ)タイプなどがあります。
血寒(ケッカン) | <生理の特徴> |
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血虚(ケッキョ) | <生理の特徴> |
生理周期がバラバラ(月経先後不定期)
生理周期が一定せず、通常の生理より7日以上早くなったり、遅くなったりと毎回乱れるものを漢方では「月経先後不定期」といいます。このような状況になるのは、ホルモンバランスの変動が乱れた気滞(キタイ)タイプ(気の巡りが悪くなり、生理を促すことができなくなる)か、慢性的な身体の疲労やもともとの虚弱体質により生命力がおとろえてしまった腎虚(ジンキョ)タイプとがあります。
気滞(キタイ) | <生理の特徴> |
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腎虚(ジンキョ) | <生理の特徴> |
このように、生理周期の変動によってさまざまなタイプがあることをご紹介しました。しかし、ここで述べたことはあくまでも一般論で、実際の臨床ではもっと複雑であったり、別の原因であることも多々あります。お困りの際は、漢方専門の医療機関にご相談ください。
生理不順に用いる漢方薬
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
血虚により血流が悪くなり、水分が停滞している状態に用います。生理に必要な血を補う、当帰(トウキ)・芍薬(シャクヤク)・川芎(センキュウ)の三本柱の生薬が含まれており、子宮を温めて必要な血を供給してくれます。おまけに、水分代謝が悪く生理前にむくみやすいような状態も改善してくれます。副作用も起きにくく、婦人科でもよく用いられる処方の一つです。
加味逍遥散(カミショウヨウサン)
気滞(キタイ)と呼ばれる、ホルモンバランスの乱れに用います。この処方を用いる方は、生理周期が乱れやすい傾向にあり、それとともに精神状態も不安定な傾向にあります。生理前にイライラしやすく、すぐにカッとなってしまう人、生理前に胸が張って痛いなどのPMS症状を改善する作用があります。
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
瘀血(オケツ)と呼ばれる、一種の血行障害に用います。この処方は月経周期の乱れではなく、出血の異常(出血に塊、出血色が黒ずむ、出血量が異常に増えたり減少したりする)に用います。他にも瘀血の特徴(あざができやすい・傷が治りにくいなど)がないと、効果が得られません。無月経など、強く血流を促したい時に用いることはあります。単独で用いるというより、他の処方と合わせて用いることが多い処方です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)
血寒(ケッカン)と呼ばれる、身体の冷えによる血行障害の状態に用います。手足末端で冷えた血が血流を通して、子宮まで冷やしてしまうことで、生理不順を引き起こすと考えます。冷えの状態があることを確認して使わないと効果はなく、冷えによって症状が悪化して、温めると症状が和らぐ特徴があります。
温経湯(ウンケイトウ)
名前の通り、身体を温める作用があります。温められた血が子宮に行き渡り、生理不順を改善します。しかし、手足は逆にほてりやすく、寒い熱いが入り混じった状態を呈することもあります。また血の不足や水(スイ)の不足による唇の乾燥、肌荒れなどの状態にも対応でき、単に冷えだけに用いる処方ではありません。
八味丸(ハチミガン)
腎虚(ジンキョ)に用います。もともとは排尿障害の治療薬として作られたものですが、転じて老化現象の諸々の症状に応用されています。生理不順に用いる際には、月経時の倦怠感、腰や膝の痛み、加齢などの腎虚症状があるときに用いるとされています。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
気虚(キキョ)と呼ばれる、エネルギーの不足した状態に用います。エネルギー不足になると、体力がなく疲れやすくなるばかりか、血を作り出すこともできず(血虚)、血を運ぶことができないため生理不順になります。この処方は気を補うことで、生理不順を改善するのみならず、全身に活力をもたらしてくれます。
四物湯(シモツトウ)
血虚(ケッキョ)と呼ばれる、血の不足した状態に用います。血が少ないことで生じるめまいや立ちくらみ、肌や髪のパサつきなど、血虚症状を改善する基本処方になります。ただし、この処方を単独で用いることは少なく、他の処方と合わせて効果を発揮することが多いです。
十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)
気血両虚(キケツリョウキョ)と呼ばれる、気虚と血虚が合わさった状態に用います。補中益気湯に似ていますが、身体に活力を与えるだけでなく、身体全体が痩せ衰えて、疲れやめまいなどおとろえてしまった方の栄養を補ってくれます。気と血が補充されることで、生理不順を改善します。
帰脾湯(キヒトウ)
気血両虚に用います。十全大補湯と同じように用いることができますが、この処方は不眠や不安などの精神面のケアをするだけでなく、体力不足による不正出血などにも応用されます。気虚による身体の倦怠感が強く、ちょっとしたことですぐに不安や不眠になりやすく、不正出血がダラダラと続いて、いつまでも止まらないような方に適応となります。
芎帰調血飲第一加減(キュウキチョウケツインダイイチカゲン)
血虚の代表処方である四物湯を含んでおり、これに瘀血を改善する桃仁(トウニン)、牛膝(ゴシツ)、延胡索(エンゴサク)や気滞を改善する香附子(コウブシ)、烏薬(ウヤク)などを配合しており、さまざまなタイプの病状の方に用いることができます。応用範囲が広い反面、的確に病態を把握しないと、効果は期待できません。病態を弁別して、生理不順の原因となっている病態に合わせた処方を併用して用いるのが望ましいです。
おわりに
生理不順に悩んでいる女性は多いのですが、あまり人と比較することがないため、そのまま放置されがちです。しかし、男性と違って女性は毎月の生理状態が現在の身体の健康状態を映し出すバロメーターになります。生理の状態が悪いということは、身体全体の健康状態も乱れているということです。ご自身の生理状態を確認するには生理周期の把握や生理時の体調不良を記録することが大切です。以下の手順を参考にして、一度ご自身の生理状態を見直していただき、もし異常があれば改善していきましょう。
①生理周期の日記をつける
現在は便利なアプリもあるので、スマホに記録するのも良いでしょう。その際に、生理周期だけでなく、生理前・生理中・生理後の体調不良もメモしておきましょう。同じ症状が毎月あるようなら、産婦人科や漢方薬局に出向いた際にお伝えください。
②基礎体温をつけましょう
もし、妊娠を希望している方は基礎体温もつけてみましょう。
③生理周期や生理に異常があれば、まずは産婦人科へ
1度や2度くらいの生理不順であれば、様子を見ても良いかもしれません。ですが、毎月生理不順や生理にまつわるトラブルがある場合は、まず産婦人科で子宮や卵巣に異常がないか調べてもらいましょう。
④漢方薬やピルなどで改善していきましょう
治療が必要な場合は、ピルや漢方薬を処方されることがあります。薬については、医師や薬剤師に説明を聞いた上で治療をしていきましょう。
⑤生活習慣を見直しましょう
生理不順は生活習慣の影響を受けます。食事や睡眠、ストレス、運動などを改善するだけで、症状が軽減する場合は少なくありません。薬を使う場合でも、生活習慣の改善をプラスすることで、より早く症状を改善することができる場合もあります。
もし漢方薬をご希望の場合は、当薬局でも承っております。個々人の状態に合わせた漢方薬のご提案と、場合によっては生活習慣のアドバイスもさせていただきます。ゆっくりと時間をかけて、カウンセリングをさせていただきます。どうぞお気軽にご相談ください。
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この記事の執筆者:三鷹の漢方薬局 Basic Space 今井啓太